ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF KIVOTOS   作:かきフライ

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 それは現か、幻か。


3話

 朝のアビドスは、相変わらず暑い。

 暑いのに、どこか冷たい。

 昨日、先生が言った言葉が頭の片隅に引っかかっている。

 ──連邦捜査部は、アビドス廃校対策委員会に全面協力する

 言うだけなら、誰でもできる。問題はその言葉を最後まで背負えるかどうか。

 私は長机に突っ伏した。

 昨日も眠れなかったなぁ。

「今日も昼寝か。ホシノ」

 不意に話しかけられて少し驚く。顔を上げれば、例の大人がそこに立っていた。

「すまない。邪魔をしたか」

「いや~、気にしなくていいよ」

 現状、私はこの大人が信用に値するか測りかねている。

 この部室にいるのは、私だけ。ここを守れるのも私だけ。

 起きない訳には、いかない。

「そうか」先生は地図を眺めながら言う。

 外見から見て恐らく二十歳前半くらいだろう。ただ、それにしては若々しさがない。

 どこか、しおれている。

 服装は常に真っ黒なスーツ。

 ……その姿に()()()の姿を連想することを禁じ得ない。

「……ホシノ。そう気を張り詰めていては、いつか倒れるぞ」先生は地図から視線を外さないままそう言った。

「うへ。バレてた~?」私はわざとおどけたように言葉を紡ぐ。「でも、流石にこの状況じゃおちおち昼寝もできないよ」

 この大人は確かにアビドスのために協力してくれている。物資の供与やヘルメット団討伐は正直とても助かった。

 だけど、カタカタヘルメット団のことを、一度も敵と言ったことは無かった。

「……今日は自由登校と聞いた」先生が話を変えた。

「よく知ってるね~。シロコちゃん辺りに聞いた?」私もそれに乗った。

「いや。セリカからだ」

 意外な回答が返って来た。

「セリカちゃんと話したの?やるねぇ」

「いや。すぐに逃げられた」先生の声が少し声が低くなる。「……ストーカー、と言われた」

 私は思わず吹き出し、声を上げて笑ってしまった。

 そんな私に、先生は抗議するかのような目を向ける。

 この大人も、()()()()をするんだな。

 感情がないんじゃないかと思っていたが、少しだけ印象が変わった。

「はやくセリカちゃんと仲直りしないとね」

「別に喧嘩をしている訳ではない」先生はそんな反論のしかたをした。

 やはり、ズレている。

 大人と子どもの感覚のズレ、ってだけじゃない。

 なんというか、種類が違う。

「セリカの行き先を知らないか。このままでは……不味い」

「うへ……そうだねー」

 それは、仕事に支障が出るからという極めて事務的な意味で言った言葉だったのか。それとも別の意味があったのか。

 そこまでは分からなかった。

「実はさ……」私は頬杖をついて言う。「心当たりは、あるんだけどねぇ」

「そうなのか?」先生がこちらに向き直る。

「うん。教えてあげてもいいよ」私は上体を起こす「()()を飲んでくれたらね」

 丁度良い機会だ。

 この先生を、試してみよう。

 

  ◯

 正午。

 シロコちゃんたちや先生を連れてやって来たのは、アビドス内にあるラーメン屋「柴関ラーメン」。

「ここのラーメン、美味しいんだよね」シロコちゃんが言う。「先生はラーメン好き?」

「……食べたことは、ない」

 驚きの発言が飛び出した。

「えぇ!ラーメン食べたことないんですか!?」

 ノノミちゃんが驚く。

 そりゃそうだ。ラーメンを食べたことない人間がいるなんて、少なくともキヴォトスでは珍しいと思う。キヴォトスの外ではラーメンは珍味なのだろうか。

「ありゃりゃ、それは残念だな~。ここのラーメンを食べちゃったら、もう他のお店じゃ食べられなくなっちゃうねぇ」私はわざとらしく言った。

「そうなのか……」

 真面目な顔、というより無表情でそんな事を言う先生。

 ノノミちゃんとアヤネちゃんが、可笑しくて笑っている。

 私も、笑っていた。

「じゃあ、行こっか」シロコちゃんが先生の右腕を掴む。「……ん?」

「どしたの~、シロコちゃん」

「……いや。何でもない」

 腕を持ち換えて入店していくシロコちゃんに違和感を覚えつつ、私も二人と一緒に暖簾をくぐる。

 その向こうでは可愛らしい制服を身に纏ったセリカちゃんが、笑顔で接客をしていた。

「いらっしゃいませ!柴関ラーメンで……わわっ!?」

 セリカちゃんは私たちに気付くなり、顔を真っ赤にする。

「あの~☆六人なんですけど~!」

「あ、あはは……セリカちゃん、お疲れ……」

「お疲れ」

「み、みんな……どうしてここを……!?」セリカちゃんが先生に目を向ける。「せ、先生……やっぱストーカー!?」

「いや──」

「いや~、先生たちは悪くないよー。セリカちゃんのバイト先といえば、やっぱここしかないじゃん?だから来てみたの」

 私は慌てて一歩前に出て、またズレた事を言いかねない先生の言葉を遮った。

「ホシノ先輩かっ……!!うぅっ……!」

 項垂れるセリカちゃんの後ろから店長の柴大将が現れる。

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

「あ、うう……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」赤面しながらも笑顔を作ってテーブルに案内してくれる。

「はい、先生はこちらへ!私の隣、空いてます!」ノノミちゃんが言い放つ。

「……ん、私の隣も空いてる」シロコちゃんも競うように言った。

 先生は少しの間迷った後、シロコちゃんの隣に座る。

「ふむ……」

 先生にくっつくシロコちゃん。

「む……」

 先生は少し窮屈そうにしている。

「狭すぎ!シロコ先輩、そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ!もっとこっちに寄って!」

「いや、私は平気。ね、先生?」

「何でそこで遠慮するの!?開いてる席沢山あるじゃん!ちゃんと座ってよ!」

「わ、分かった……」シロコちゃんが折れて先生から離れる。

 どうやら、シロコちゃんは余程先生の事を気に入ったらしい。

「セリカちゃん。バイトのユニフォーム、とってもカワイイです☆」

「いやぁー、セリカちゃんってそっち系か。ユニフォームでバイト決めちゃうタイプ?」私はノノミちゃんに乗っかってセリカちゃんを揶揄う。

「ち、ち、ち、違うって!関係ないし!こ、ここは行きつけのお店だったし……」

「ユニフォーム姿のセリカちゃん、写真撮っとけば一儲けできそうだねー。どう?一枚買わない、先生?」

 先生を見れば、首をかしげている。

 あぁ、これ分かってないやつだ。

「……冗談だよ、冗談」私は苦笑する。

「変な副業はやめてください、先輩……」アヤネちゃんが困ったように言った。

 ある程度の常識はある。

 でもそれは後付けされた常識であり、先生自身はそれとは別の場所で生きてきた人だ。

 少し、危ないな。

 二重の意味で、そう思った。

「も、もういいでしょ!ご注文はっ!?」

 セリカちゃんの声が、私の思考を止めた。

 そう。今は楽しい時間。

 私は談笑に意識を向け直す。

「『ご注文はお決まりですか』でしょー?セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなきゃー?」

「あうう……ご、ご注文は、お決まりですか……」

「私は、チャーシュー麺をお願いします!」

「私は塩」

「えっと……私は味噌で……」

「私はねー、特製味噌ラーメン!炙りチャーシュートッピングで!先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しいんだよー!アビドス名物、柴関ラーメン!」

「ああ……」

 そう言いながらメニューを一通り確認する。

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢って貰うつもり?」セリカちゃんが痛いところを突いて来る。

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ☆このカードなら、限度額までまだ余裕がありますし」

「いやいや、またご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生が奢ってくれるはず。だよね、先生?」

 私は()()()()()()()、とテレパシーを送る。

「ああ。代金は俺が払う」先生が、こちらを真っ直ぐ見る。「そう言う()()だ」

 そう。先生と私は、契約を結んだ。

 セリカちゃんの居場所を教える代わりに、全員分の食事代を払うという契約だ。

「俺は……柴関ラーメンを」

「はいはい。トッピングは?」

「む……」

 セリカちゃんの質問に窮したのか、先生が首を傾げながら目をメニューに落とす。

「チャーシューとかおすすめだよ~」思わず助け舟を出す。

「なら、それで頼む」

 何かよく分かっていない様子で注文を終える。

 思いの他、隙の多い大人だ。

 今日だけでも既に印象が二転三転している。

 注文したラーメンを前にしても、先生は相変わらず無表情だった。

 その視線は、ラーメンの器よりも手前、割り箸に向けられている。

「いただきま~す」私は割り箸を割って、持つ。

 それを見た先生が、真似るように箸を割って持つ。

 器用な物で、見様見真似だというのにちゃんと箸を持てている。

「……ん~!美味しい~!」私は勢いよく麺を啜った。

 先生も、少し遅れて同じように口をつけた。

「どう、先生。人生初ラーメンの感想は~」

 私の言葉と共に、みんなの目が先生に向けられる。

 セリカちゃんも見ていた。

「……美味い」息を吐いて、そう言った。

 私はそれを見て、少し安心を覚えた。

 みんなもそうだったと思う。

 

  ◯

 夜。

 俺はシャーレのデスクチェアに身を預けながら今日あったことを思い返していた。

 今日は初めての経験の連続だった。少しの疲労感を感じながらも、何かが満たされていく感覚を覚える。

『楽しそうでしたね。レイヴン』エアがそんな事を言った。

「そうか……?」

『はい。ホシノたちとの距離は確実に近付きました』

 少し思案するように黙った後、また語りかける。

『少しだけ、羨ましかったです』

 正直、自分ではよく分かっていない。

 ただ、ひとつだけ確かな事があった。

「ラーメンは、美味かった」俺はぽつりと言った。「明日も、食いたい」

『はい。今度はククリたちと行くのもいいかもしれませんね』

 確かに、彼女らにとってもいい刺激になるかもしれない。

「……そうだな」

 窓の外を見る。

 アビドスはどの方角だったか。

『今日はもう寝ましょう。レイヴン』

 エアにそう言われて時計を見ると、針は二十三時半を示していた。

 俺は部室の電気を消して仮眠室のベッドに横になる。

『お休みなさい』

 その声を聞いて、俺は目を閉じた。

《強化人間C4-621、休眠モードに移行》

 無機質な声が頭に響く。

 そして、俺の意識は落ちた。

生徒にレイヴンに対する恋情を持たせるか否か

  • 持たせても良い
  • オリキャラには持たせるな
  • オリキャラにも持たせて良い
  • 持たせるべきじゃないと思う
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