ARMORED CORE Ⅵ FIRES OF KIVOTOS 作:かきフライ
だが、毒でしか救え得ぬものもある。
俺は先生だ。この世界では、そう在るように定められている。
俺は生徒に武器を向けてはならない。害してはならない。
例え、相手が俺を殺そうとしていても。
『レイヴン。私の記憶が正しければ、無理をしないでくださいと言ったはずです』
「ああ」俺は生返事を返す。
『なら、車両で装甲車に体当たりするのは無理の内に入らないと言うのですか?』
「……ACなら」
『この車両はACではありません!』エアが声を荒げる。『エアバッグが作動しなければ、あなたは無事では済んでいませんでした!』
傾き、ひび割れたバックミラーには頭から血を流す男の姿が映っている。
「やむを得ない状況だった」
シートベルトを外し、半壊したドアを押しのける。
『キヴォトスの生徒たちは私たちの常識が通用しないレベルで丈夫です。砲弾を受けても命を落とすことはありませんでした!』
「だが、怪我をする」俺は言った。「死ななくとも、怪我はする」
『それが、嫌だったのですか……?』
「……分からない」
俺は曖昧に返しながら砂上に立った。
『……私はこれ以上言いません。後でククリたちから叱責を受けるでしょうから』
一つ息を吐き、眼前の装甲車の車輪に右手を押し当てる。
《強化人間C4-621、戦闘モード起動》COMの声が響く。
同時に前腕側面から光の刃が伸び、車輪を貫いた。
俺はそのまま片側の車輪を全て溶断し、砲塔上に飛び乗り、砲身を切り落とした。
これが、今の俺にできる最低限の戦闘行為。
生徒ではなく、武器を壊す。
「先生!先生!」ククリが駆け寄ってくる。
見ればシロコとセリカも続いてくる。
「作戦続行。装甲車を──」
撃破すると言い終わる前に、俺の頬に鈍い衝撃が走る。
一瞬、俺の視界から生徒たちの姿が消えた。
逡巡の後、俺は衝撃の正体がククリの拳であることを悟った。
「なァにやってんだこの馬鹿!!」ククリが怒鳴る。「アンタの身になんかあったらどうすんだ!?」
「お前たちが無事なら構わない」
「なっ……今無事でも、アンタがいなくなりゃ全員危険に晒されんだぞ!?」ククリが俺の襟を掴む。「司令塔が無茶してんじゃねぇ!!」
《うへー。流石に今のは擁護できないかな》ホシノが真面目な声音で言う。
《私も同じ気持ちです》ノノミの声が低くなる。
シロコとセリカも俺に抗議の目を向ける。
アヤネとテツも、きっとそうなのだろう。
「……すまなかった」
頭を下げる。
ククリたちの顔は見えない。ただ、息遣いだけが聞こえてくる。
「……顔を上げろよ、先生」ククリが言う。「指示を出してくれ」
そうだ。俺は彼女らに弁舌ではなく、行動を持って示さねばならない。
「残る二両の装甲車を撃破する」
俺はすぐに頭を回転させ、装甲車を撃破するための作戦を練り始めた。
◯
私は表情を変えず、声も出さないように努めた。
それはきっと、私の役目ではないから。
本当に呆れる。
先生は、冷徹に見えてその実かなり熱血系だ。
熱血と言うより、火だろうか。
誰よりも生徒のことを心配し、守り、支える。
そしてその火は伝播する。
私、酒井テツもその火に焼かれた一人だ。
……それは、単純に先生が
何にせよ私たちは皆、支えたいと思うようになった。
自己犠牲という美徳を過剰に持ち合わせた、あの先生のことを。
《テツ。これからアヤネのドローンが火薬を満載したコンテナを装甲車の真上に落とす》
「それを撃ち抜いて誘爆させるってこと?」
《できるか?》
「やれる。でも別角度からもう一人撃ってほしい」私は淡々と返す。
《セリカ。頼めるか?》
《ええ。鬱憤を晴らしてやる!》
救出対象の生徒はとても気の強い猫だった。
これまでの会話から察するに、ツンデレというタイプなのだろう。
《ホシノ、ノノミ、シロコ、ククリはセリカが狙撃ポイントに着くまで装甲車の撹乱を続けろ》
先生が深呼吸したのが分かった。
《作戦開始》
全員が指示通りに行動し始める。
小鳥遊がプーマに接近し、自らの存在をアピールする。そして、十六夜と連携して翻弄する。
砂狼とククリも同様にもう片方のプーマを迂回を挟みながら連れ回す。
初めてにしては、連携プレイがハマっている。
《配置に着いたわ》黒見が言った。
《了解した。全員、装甲車をキルゾーンに誘導しろ》
二両のプーマが誘いに乗って軌道を変える。
私はポケットから徹甲弾を取り出して薬室に直接装填する。この弾は高価だから、大事な場面以外では使いたくない。
キルゾーンに、目標が交差する。同時にコンテナが投下される。完璧な位置、完璧なタイミングで。
引鉄を引く。
先程装填した徹甲弾の弾頭が、吸い込まれるようにコンテナを貫いた。同時に別方向から数発の銃弾が穴を開ける。
爆発、閃光。
それは交差するプーマの砲塔の直ぐ側で起きた。
衝撃波は砂を巻き上げ、その場にある全てを覆い隠してしまった。
◯
砂塵が晴れる。
車両の装甲は抉れ、スクラップと化していた。
乗っていた生徒は──生きている。
そのヘルメットはひび割れ、服と髪が荒れている。
本当に、常識が通用しない。
「砲塔が吹き飛んだぞ!」
「何が起きた……!?」
乗員たちが装甲車から転げ落ちる。
「て、撤退だ!」
リーダーと思しき団員の言葉を聞いたヘルメット団たちは悉く敗走を始める。俺は、その背中を見つめた。
その内の一人が、振り返って言った。
「私らのことは助けなかったくせに……!」
「──……」
胸を、正体不明の痛みが襲う。
「……追撃は不要だ。セリカ、怪我はないか?」
《無事よ、無事!》セリカは投げやり気味にそう言った。
良かった。怪我人は出ていない。
誰も。
「先生は。それ、大丈夫なの?」
ククリにそう言われ、額に手を当てる。
「問題ない。軽傷だ」
《血が出てる》テツが言う。
「見た目ほど深刻ではない」
俺は大破した車両から、奇跡的に無事だった救急箱を引っ張り出す。
「手伝う」シロコが消毒液を手に取る。
少々過剰に包帯を巻かれ、俺は立ち上がった。
「作戦終了……戻って、休め」
周囲に集まる生徒たちに言った。
「戻るって言っても……なぁ?」ククリが振り返る。
あったのは、アヤネが乗ってきた四人乗りのバギー。
「……後部の荷台なら、詰めれば四人は乗れるだろう」俺は目を逸らしながら言った。
その先で、テツが俺を凝視する。その顔はいつものように無表情だが、その輪郭から抗議の意が滲み出ている。
「ヘリがある」テツが言った。
「ここには、ない」俺は返す。
「連邦生徒会には、ある」
「しかし費用が……」
助けを求めて視線を右往左往させるが、誰も俺と視線を合わせようとしない。
「ヘリ乗って帰れんの?やりぃ!」
ククリはこの様子だ。
『レイヴン。ここは、折れる他ありません』
最後の望みのエアも寝返りを打った。
「……分かった。連邦生徒会に帰りのヘリを要請する」俺は渋々そう言った。
もう一度、砂漠を見渡す。
大破した装甲車に砂が吹き付ける。
カタカタヘルメット団はセリカの誘拐に失敗した。これで何度目の失敗かは分からないが……最早アビドスに手を出せるほどの力は残っていないだろう。そんな彼女らを、バックにいる者は手元に置いていくはずはない。
……このままでは、よくないことになる。
「お前たちは先に帰っておけ」俺はアビドス生全員に対して言う。
「……うへ。お気遣いありがと〜」ホシノが言う。「でも、あんまり私の寿命削ることはやめてよ。先生」
オレンジと青の瞳が俺の姿を反射する。
勘付かれた。が、止めようとしていない。
「分かっている」俺は一つ頷いた。
それを見たホシノも頷き、後輩たちを連れてバギーに乗り込む。
「……ククリ、テツ」
走り去るバギーを見送りながら、俺は言った。
「もう少し付き合ってくれ」
「はいよ!」
「了解」
俺たちは砂漠に残った足跡を追い、少し遠くに見える廃墟へと歩を進めた。
◯
「もうちょっとだ!頑張れ!」私はそう叫びながら走り続けていた。
後ろには、私の仲間たち。皆傷付いている。
カタカタヘルメット団もこれでオシマイかな。
私たちは元々不良や退学・停学処分を受けた生徒たちが集まってできた、寄せ集めの木偶集団だ。気の弱そうなヤツから金を巻き上げたり、他の不良たちとドンパチやり合ったりしながら何とか今日生きるための金や物資を確保してきた。
だが、そんな私たちにも転機が訪れた。
──アビドスの生徒を街から追い出せ
何処の誰かは知らない。だが、その大人は私たちに
多額の前金と、新品の武器を携えて。
私たちはその依頼を喜んで引き受けた。汚れ仕事だってことはハナっから分かっていた。だが、依頼料は高額。皆の人生を買い戻せる程に。
そして、もう少しで依頼を完遂できそうというとき、もう一人の大人が現れた。
先生と呼ばれるその黒ずくめの大人はアビドスに手を差し伸べ、逆に私たちを排除するために動き始めた。
世の中理不尽だ。
私たちだって青春を謳歌したかった。真っ当に学校に通って、休日には友達と買い物に出かける……そんな生活を送りたかった。
なのに、少し馴染めなかっただけで。勉強ができなかっただけで、こんな所にまで落ちてきてしまった。
「私たちにも、あんな大人がいれば……」
誰かがポツリと言った。私だったかもしれない。
「ボス。私ら、このままどうなるんだろう……」部下が言う。
きっとこの失敗を知れば、あの大人はトカゲの尻尾のように私たちを切り捨てるだろう。もしかすると、口封じのために殺されてしまうかもしれない。
「大丈夫だ。今までだって、何とかなってただろ?」私は虚勢を張った。
私たちにできる、唯一の自己防衛。
ギャハハと笑うのも、弱い奴を虐げるのも、全ては虚勢だった。こうしないと、正気に戻ってしまうから。
自らの弱さが、露呈してしまうから。
拠点である廃墟の奥から、足音が聞こえる。
「雁首揃えて逃げ帰ってくるとは」あの大人が、失望したように言う。
「アイツら、連携プレイが半端なかった!あんなに強いなんて──」
「言い訳は結構だ」大人は私の言葉を遮る。「やはり、ただの不良に期待したのが間違いだったな」
その後ろから、銃を構えた一団が姿を現す。
ああ。やっぱりこうなった。
弱い奴は、死に方も選べない。誰の言葉だったか。
「始末しろ」大人はそう言うと奥に消えていく。
「ボス……」部下が震えた声で私を呼んだ。
「くっ……!」私は、相手を睨むことしかできなかった。
引鉄に、指が掛かる。
──終わりだ。
私は目を瞑った。
銃声が響く。
……痛みは、なかった。
「…………?」私は、目を開く。
眼前に立っていた一団は、何故か地に伏している。
「ふぅ。ギリギリセーフ、だな」
背後から声がした。
振り返ると、さっき私たちを打ちのめした生徒が立っていた。ボサボサの黒髪をガシガシとかきながら、三白眼を細めて笑っている。
「お前は──」
「おぉっと、待て待て」ボサ髪の生徒は銃を下ろして両手を上げる。
「こちらに交戦の意思はない」
物陰から、黒ずくめの大人が現れる。
先生だった。
「ぬけぬけと!」私は声を荒げる。
部下たちは、どうしていいか分からず困り果てている。
そんな中、先生は私など全く意に介さずズカズカと歩く。その手には、拳銃が握られていた。
先生は倒れている
「人じゃないな。オートマタというものか」先生がごちる。「ククリ。助かった」
「護身用に渡してたんだけど?」
ボサ髪が先生から銃を受け取りながら不服そうに言った。
「お、お前ら何なんだ!何しに来やがった!?」私は声を荒げた。
先生はこちらを振り返る。
「連邦捜査部顧問、レイヴンだ」しゃがんで、こちらと視線を合わせる。「痩せているな。栄養状態が極めて悪い」
本当に、何なんだこの大人は。何がしたいんだ。
「それが何だってんだ!?」
「全員ついてこい。食料を提供する」
「は?」思わず素っ頓狂な声が出る。
私は目の前の大人の正気を疑った。
「あー……ワケ分かんないと思うけど、まぁ、ついてきた方がいいぜ」ボサ髪が言う。「ソイツらのお仲間が続々とやってくるだろうからな」
ボサ髪が言う通り、私たちは此処にいれば消される。
先生について行っても同じかもしれないが、たった二人なら数で押せる。
私は一度、部下の一人一人を見つめた。
皆、酷い顔だった。
「……分かった」
私はその大人の後をついて行く事にした。
生徒にレイヴンに対する恋情を持たせるか否か
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持たせても良い
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オリキャラには持たせるな
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オリキャラにも持たせて良い
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持たせるべきじゃないと思う