本小説シリーズには好ましくない内容が含まれているかもしれません。
・みみのこの設定について、独自の解釈が含まれます。
・本小説シリーズには一部の読者が冒涜、下劣、不快と考える語句や表現が含まれている場合があるかもしれません。
普段交わす挨拶と同じぐらい軽い感じに、金持ってる?と”ニンゲン”に聞かれる。そんな言葉に関心を持たず、無視を決め込むとすかさず腹部に重い衝撃が響き、身体が宙を舞う。放り出された身体はビニールと段ボールを組み合わせて作られた簡易的な住処に勢い良くぶつかった。どうやら蹴りを入れられたらしい。
街中の廃材置き場をしらみつぶしに訪れ、ニンゲンにとっては小さい身体で頑張って野宿先の河川敷にある橋下に運んで集めた素材で作った、段ボールベット付きの住処。そんな、ここらでは比較的豪華な住処が今の衝突によってぐしゃぐしゃになってしまった。ああ、せっかく丹精込めて作った住処が台無しになってしまった、と痛む身体そっちのけで凹んだ。
「答えろよ、耳カス。その”長い耳”でも聞こえなかったのかぁ?」
蹴りを入れてきたニンゲンは、ここのコミュニティにいる僕たちから金銭を巻き上げによく来るニンゲンだ。僕たちは普段、合法かどうかも分からない日雇いの仕事、例えば日給千五百円の現場系の作業だったり、ダフ屋みたいなことなどをしてお金を手に入れ、なんとか日々食いつないでいる。だが、一ヶ月くらい前の事だっただろうか。このコミュニティにニンゲンがやってきて金銭を要求してきた。最初はみんな反発していたのだが、ニンゲンに力でねじ伏せられてからは、みんな黙って日雇いで稼いだお金を差し渡している。ニンゲンと僕らみみのこでは体格や力の差がありすぎて抵抗ができないのだ。
痛む身体をなんとか起こし、ニンゲンと目を合わせないようにする。ニンゲンの前では力で対抗することはおろか、睨み付けることすら意味をなさないのだ。
「ふざけんな!こっちはここ最近ずっとゴミ箱にある食べ物しか食べてないんだよ!!」
このコミュニティにいる───たしかミナミって名前だったみみのこ───が痺れを切らしたのか、声を荒げる。赤い瞳、黒髪のツインテールに白いリボンという可愛らしい見た目のわりに、荒い反抗的な態度だ。以前、彼女は他のコミュニティとトラブルを起こしており、その際に相手コミュニティの耳を一網打尽にしたのだとか。それを考慮すると、このコミュニティ内ではかなり強いみみのこだ。
そんな彼女の言う通り、このニンゲンにお金を差し出しているせいでまともに食べ物を購入することができていない。なので一部の耳は街中のゴミ袋を漁り、廃棄されたであろう食品を食べて空腹を凌いでいた。確か、一昨日仲間の耳が居酒屋の裏にあったゴミ箱から取ってきたというポリ袋に入った刺身を食べてお腹を壊していたっけな。翌日のあいつの悶絶した顔は少し面白かった。
周りのみんなは臆病で思考が0か100しかないような知能の耳なので、ニンゲンに全額渡しているようだが、自分はそんな馬鹿正直に全額を差し出す必要はないとわかっているので自分はニンゲンに稼いだ金額の半分ほどを渡している。正直者が馬鹿を見る、というのはこういう事なのだろう。とはいえ、収入が半額減ると流石に毎日食べ物が購入できるわけではなく、ただでさえ今まで一日一食生活だったにもかかわらず、何日か食事なしで過ごす日もできてしまった。
そうだ!そうだ!と周りからも野次が飛んでくる。先日、このニンゲンに力でねじ伏せられたというのに、まぁよくも懲りずに反抗ができるなぁと思いつつ、一ヶ月もまともな食生活が送れていないのだ、不満も爆発するか、と思う自分もいた。だが、自分だったら絶対にそんな無意味なことはしないだろう。
「そんなん知るかよ。まぁ、お前ら耳カスにはそれぐらいの食事がお似合いってことで…しょっ!」
そうニンゲンが言い終わるのと同時に、ミナミの顔に蹴りが入る。さっきの自分と同じように、いや、それ以上に勢い良く宙に放り出され、河川敷にかかっている橋の支柱に打ち付けられる。ゴッ、という重く鈍い音が橋桁の下で響く。橋はコンクリートで出来ている為か、その音は冷たく、強く響いた。普段、雨風をこのコンクリートで支えられている橋の下で凌いでいて、とてもありがたいと思っていたのだが、今回ばかりはこの支柱の素材がコンクリートであったこと嘆いた。支柱に衝突した身体はそのまま地面に叩きつけられ、彼女の身体は動く気配を見せない。うめき声が聞こえるので意識はあるようだ。倒れている彼女の白いリボンが赤く染まっていき、顔が真っ赤に染まっていく。それを見た周りは一気に静まり返えり、みんな啞然とした顔で固まる。なんて酷いことを…!と言わんばかりにニンゲンを睨む。年は二十前後ぐらいで、サイドを剃った短い金髪や似合わないサングラス。僕たちには付き得ない筋肉質な身体。いかにもヤンキーの代名詞みたいな見た目をしている。起き上がらないミナミを見たニンゲンは呆れたように頭を掻いて「やれやれ」と言った。
「お前ら耳共はそんなんじゃ死なねぇだろ。」
確かに、僕らみみのこはニンゲンにとって致命的な損傷でも死ぬことはない。怪我をしてもニンゲンの二倍程度の速度で治癒できる。だが、死ぬことはないだけでニンゲンと同様に痛覚は感じるため、治るまで相当な苦痛を伴う。過去に自分は仕事中の事故で右足を骨折したことがあるのだが、相当痛かった上に、自然治癒に二ヶ月かかった。その期間、まともに働くことができず、お金が手に入らないので苦労した。きちんとした治療を受けられればもっと早く治療したかもしれないが、みみのこは基本ニンゲンの医療は受けられない。法律でそう決まっている。まぁ、そもそもできたところで医療費を払う程のお金なんて用意できないのだが。
そんなみみのこでも、"一応死ぬ方法"は存在する。
ニンゲンがミナミの方に近づき、左手で前髪をつかみ上げ、倒れたミナミを持ち上げる。ミナミはそれに足掻きながら小さく擦れた声で何かを言っているようだが、頭を強くぶつけたからか呂律が回っておらず、何を言っているかよくわからない。そんなミナミを無視し、空いた右手で頭から生えている長い耳に手を伸ばす。そして両耳を手に手繰り寄せて掴み、思い切りその耳を引き抜いた。ブチッという音が橋桁の下に響く。また、冷たく、強く響く。その光景に思わず息を吞んでしまう。長い耳がなくなったミナミの身体はまるで、機械からコンセントが抜けたように力が抜け落ち、目の中から光が消える。微かに聞こえていた彼女の怯えた息遣いも聞こえなくなった。そう、今この瞬間をもって彼女は死んだのだ。
ニンゲンが抜いた耳を川に投げ捨て、抜け殻になったミナミを離す。生き物は落下するとき、本能的に受け身を取るが、死体に生存本能などないので受け身など取らず崩れ落ちていく。その様子は見ていてとても不気味に感じた。
「お前らみみのこは両耳をもいだら簡単に死ぬ、けど───」
それからしばらく静寂が続き、ミナミの身体に変化が起きる。長い耳がなくなった頭からまたゆっくりと耳が生えてくる。ミナミの瞳孔に光が戻っていき、心肺蘇生機を当てられたときみたいに身体が震え、窒息から解放されたときのように呼吸が戻る。はっ…はっ、とその様はまるで悪夢から目覚めたときのように見えた。
「暫くすればまた耳が生えてきて、生き返る」
そう、僕たちみみのこは、頭に生えている長い耳を抜かれると死ぬ。だが、暫くするとまた耳が生えてきて生き返る。そういう生き物なのだ。
なんで耳をもぐと死んで、また生き返るのか、そもそもなんで耳が抜けるのか、それはよくわかっておらず、みみのこ学会員や生物学者の頭を常に抱えさせているらしい。巷では元は同じホモサピエンスだったが、進化の過程でニンゲンとは違った進化をし、外敵に対する防衛戦略に重きを置いた進化をしたから。とか言われているが、正直そんなこと当事者であるみみのこからしたらどうでもいいことだ。
一見ニンゲンからしたら、死んでも生き返るって便利じゃん!!と思うかもしれないが、みみのこからしたらたまったもんじゃない。ニンゲンには知る由もないかもしれないが、死ぬというのはとても怖い。だが、一番怖いのは生き返ったとき、とても形容しがたい不快感に襲われることだ。死んでる間、なにがあったかなんて意識がないから知る由もないのだが、死んでいる間にとても怖い目にあってきたかのような感覚───なのだろうか?とにかく、みみのこが一番恐れていることは耳を抜かれることであり、みみのこは耳を抜かれることを避けて生きているのだ。
その光景をニンゲンはニヤニヤとしながら眺め、きしょい生き物だなぁと呟く。
「どうしてそんな…そんな酷いことがことができるんだ」
と傍にいた耳が震える声で人間に問いかける。その声は細く、小さく、まるで怒りの感情を押し殺したような声だった。
ニンゲンはその問いに呆れたようにため息をつき、目を細めて答える。
「なんでお前らみみのこが人間様から虐げられているか理解しているだろ?命の尊さだよ。俺ら人間の命は一つしかないから尊い、それ故に尊重される。だが、お前らみみのこは違う。何度でも生き返ることができる。その命に尊さなんて微塵もないんだ。そんな命、大切にしたって仕方ないだろ?それに三十年前お前らがしたことを人間社会は許さないだろ?」
みみのこという生き物は、歴史的にニンゲンの下ではあったが三十年前まではニンゲンと共存ができていたそうだ。だが、三十年前の事件がきっかけで日本社会でのみみのこの扱いは百八十度変わってしまった。その事件で世論はみみのこを排除・駆除する方向性になったが、みみのこは実質死なないため、日本政府はみみのこから法的な権利を剝奪する社会的排除方針をとった。十年前の事件は一耳のみみのこが起こした事件であって、僕らには関係がないことだが、世間はみみのこの存在自体を許さないらしい。
「はぁ…なんか当たり前のこと言いすぎて冷めたわ。帰る。あぁ、そうだ。俺に反抗した罰で来週は倍の金額よこせ。じゃ」
ニンゲンはそう言って僕らのコミュニティから去っていった。ニンゲンが去った橋桁の下では、まだ静寂が流れており、ニンゲンに問いかけたみみのこのすすり泣く音だけが響いていた。一体彼は今、何を思っているのだろうか。自分には知る由もなかった。
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「ミナミ、暫くは動けなさそうだ」
ニンゲンのせいで崩壊したダンボール製住処をガムテープで修繕している最中にそう声をかけて来たのはこのコミュニティのリーダー的存在であるカズマだった。黒目で黒髪の短い髪型に長袖の白いワイシャツを着ており、いかにも清潔そうな見た目をしているみみのこだ。このコミュニティでは明確にリーダーは決められてないのだが、彼の耳の良さと、カリスマ性でコミュニティからリーダー的な扱いを受けているのだ。そして、さっきニンゲンに問いを投げかけたみみのこでもある。手を止めて話をしたいところだが、夜が近くなっていているので、修繕作業をしながら、受け答えをする。
「そっか、あれだけの怪我なんだし、仕方ないか」
あのレベルの怪我が治るのに一体どれぐらいかかるのだろうか。きっと自分が右足を折った時よりも長い時間が必要なはずだ。カズマは悲しそうな顔で「止血とかできる限りの処置はしたけど、多分治るのに一年はかかると思う」と呟いた。その長い期間に驚き、作業の手を止める。
「…その間、ミナミはどうするって?」
「…頭をやったからか、まだ会話の受け答えができてないんだ。だから、まだ」
カズマの目が細まり、自分から目を逸らしながら、とても悔しそうな顔をして拳を握りしめていた。まさか、そのレベルの怪我だったとは。そのレベルの怪我なら一年かかってもおかしくはないない。ニンゲンだったら再起不能になるレベルの怪我だから。だがその場合、身体が治癒する間に相当苦しむことになるだろう。自分で身体が動かせないとなると、仕事も受けられず食べ物が買えないし、それ以前に自分で食べ物を口にできない。みみのこは死なない。だから空腹で死ぬことはないが、空腹の感覚はニンゲンと同様存在する。つまり、このままだとミナミは身体が治癒するまで飢餓の苦しみを味わうことになる。点滴を打つとか、食べ物を誰かが食べさせれるのなら話は別だが、お金がないような今の環境でそれが実現できるとは到底思えない。それはカズマも理解していることだろう。
「俺らは…苦しむ仲間を指を加えて眺めることしかできないのか」
そのカズマの問いかけは震えており、自身の無力さを嘆いているようだった。
カズマは正義感が強いみみのこだ。昔からこの世界の不平等さとか、理不尽さをなくそうという思想を持っていた。自分は彼のそういった思想が嫌いで、彼を今までなんとなく避けていた節がある。
「いや、これに関してはミナミの自業自得だ」
生き物は自身の身の丈にあった生き方をするべきだと自分は思っていて、例えば牛や豚なんかの家畜はニンゲンに飼いならされ屠殺される運命にある。その家畜はその運命に抗う術を持っていないので、塀の中でその運命を待ちながら生きることを享受している。ニンゲンだって、社会の中である程度の自由は保証されてはいるが、真に自由ではなく、あくまでも社会的構造という塀の中で囚われ、その中の身の丈にあった運命を受け入れて生きている。だから
「僕らみみのこはニンゲンの下で酷い扱いを受けながらも、その運命を受け入れて生きて行かなきゃいけないんだ。だけどミナミはその身の丈から外れて、反抗した。だからさらに苦しむことになった。そういうことでしょ」
そう言うとカズマは、そらした目を戻し、怖い顔でこっちを睨み付ける。
「ふざけんな!ミナミは正しいことをしたはずだ!なのに、こんな目に合うなんて!」
そう言いながら、自分の服の襟を掴んだ。
「このコミュニティにとって正しいことをしたとて、世間…いや、ニンゲンから見ればむしろ間違ってることなんだ。あの事件以来、僕らみみのこはニンゲンにとって悪として見られるようになった。どんなに理不尽でも僕らは自分たちが悪であることを認めて、その上で生きていくしかない。お前もそれは理解しているだろう?」
例え、僕たちがあの事件に関わっていなくても、ニンゲンの総意という大きな力の前では、そのことは意味をなさない。
「そんなの理解らない!」
じゃあ、と僕は怒るカズマの言葉を遮って言った。
「じゃあ何でさっき、自分が正しいと思っていたことをしなかった?お前は自分の身の丈を理解していたからこそ、あのときニンゲンに反抗しなかった。でなければ今頃ミナミと同じ目にあっていた」
カズマの思想自体は大変ご立派だとは思うが、こいつはその思想を掲げているだけで、それ以上は何もしない。いや、できないのだ。それが彼の身の丈であるにも関わらず、変わらずにその思想を掲げて続ける。僕は彼のそういった思想と態度が気に食わなかった。理想なんて、掲げるだけ無駄だというのに。
その言葉にカズマは自分の目の前で何も言えず、暫く立ち尽くした。掴んでいた襟の手からは力が抜け、掴んでいた手は元の位置にぷらんっと戻って至った。それから一分ぐらいの静寂の後、彼の喉から搾り出た言葉は
「じゃあ、俺たちはいつまでこの運命を受け入れ続ければいいんだよ。いつまで苦しめばいいんだよ。それに意味は、あるの?」
彼の黒目から大粒の涙が流れ落ち、地面に落ちていく。
僕たちみみのこは死ぬことはない、だから、この運命がいつまで続いて、いつ終わるかなんて分からない。でも、僕たちに世の中を変える力も抗う術もない。だから、どれだけ苦しくてもその運命を受け入れ続けて、生きていくしかないと思う。多分だけどそれに
「意味なんてない。そういうものなんだと思う」
そう言って、僕たちはその場で立ち尽くしていた。
そうだ、この物語は、そういうものなんだ。
どうも御機嫌好う。片羽 エオルです。
え!?タイトルがみみのこFCなのにFCが出てきてないじぁないか!?
すみません、もう少しお待ちを。
出てきますので。(多分次回も出てこない)
なんというか、可哀想ですね、みみのこ。
まぁただ、事件以前にこの世界のみみのこは軽犯罪とか、悪ガキみたいなことを沢山してきている節があるので元から人間には嫌われてはいました。
それから更に嫌われているのが今の現状って感じでしょうか?
そんな中、現実主義な主人公なんですが、私はこういう性格があまり好きではありません。
不定期に更新していくのでよろしく~