戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第12話 歴史の転換点

 砲撃は連邦軍艦隊からはじまった。

 だが、すぐにどちらが先に発砲したのかなど、些細な問題となっていた。

 

 砲火の応酬はそれほど激しいものだった。

 ビーム兵器の応酬は、ヨーツンヘイムの位置からは、二本の電極の間で放電が起きているようにさえ見えた。

 

「始まった……!」

 

 ハッチからジオンと連邦の艦隊が激しい砲撃戦を繰り広げているのが見える。

 ヨルムンガンドがその能力を発揮できるか否か、それは艦隊側からの観測データにかかっている。戦闘が始まったならば、ヨーツンヘイムの側でできることは少なかった。

 

「観測値はまだ届かんのか!」

 

「まだです!!」

 

 ヘンメ大尉の苛立っている声が通信から聞こえているが、無理もないだろう。

 ヨルムンガンドは開戦劈頭に使用しなければ意味がない。これは戦局の帰趨を決すべき兵器であって、戦局の帰趨が決まってから使用する兵器ではないからだ。

 

「ライゼン……。何で観測値が届かないんだ?」

 

「わからない……何かトラブルでもあったのか、それとも──」

 

 

 

 そもそもヨルムンガンドが期待されていないからか。

 

 

 

 敵の注意を引き付けるためにも、観測値は届けられると思っていたけど、どうやら上層部は僕の予想以上にこの兵器に見切りをつけているのかもしれない。

 

「まだですか! 我が艦隊は不可解にも、敵との距離を保ち続けています。接近戦に持ち込まなければ!」

 

「我々をあてにしている証拠よ! でなければ、こんな戦い方なんて!」

 

 自分に言い聞かせるようにキャディラック大尉は言い放つ。だが彼女の言葉を全面的に信じることができなかった。

 

 先ほどから僕たち以外のMSも出撃している様子はない。もし僕の推測通りだとしたら、下手に撃って敵の注意を引いてしまうよりは、このままじっとしていた方が良いのかもしれない。だが──。

 

 

(ヨルムンガンドが1隻も沈められないなら、評価試験は失敗だ。ゲール中佐たちはきっとアイランド・ワトホートを制圧したはず……。もしかしたら、毒ガスも使わされたかもしれない。このまま終わってしまえば残るのは悪評だけ。戦果を上げるいい方法があればいいんだけど──)

 

 

 艦隊は依然として砲撃を継続し、両軍の戦列は大きく動いていない。ムサイ級は陣形を維持したまま被弾を抑え、連邦の艦隊も距離を保ち続けている。決定打は出ておらず、戦場は膠着状態に陥りつつあった。

 

 しかし、数で劣るジオン軍は、戦闘が長期化すればするほど確実に不利へと追い込まれていく。

 

「くっ……! 悠長に構えていたらこのまま海戦が終わっちまうぞ! 状況を判断、直接照準で撃つ!」

 

 ヨルムンガンドに蓄えられたエネルギーが一気に放出される。恐るべき密度を持ったプラズマ砲弾が標的となったマゼラン級戦艦を目指して直進していく。その軌跡は、まるで神話に語られる雷霆のようだった。

 

 しかし──。

 

「くそっ……! 的針と磁場偏差がわからん! どうした! 観測データはまだか!!」

 

 砲弾は外れたが、完全に無駄だったわけではない。

 

 核融合炉を用いる宇宙戦艦は、それ自身が強力な磁場を持っている。高密度で高速なプラズマの砲弾が至近距離を通過した時、巨大な金属の塊である宇宙戦艦は砲弾の磁場による自己誘導により、強力な磁場に巻き込まれる形で戦列から脱落することになった。

 

 外見こそ軍艦の体裁を保っていたが、相当なダメージを受けたことは間違いないようだ。

 

 

「すごい威力だ……! 観測値さえ届けば戦況を有利にできるのに……!」

 

(……でも、戦争の帰趨を決められる兵器ではないよなぁ……)

 

 

 ブラウンはああ言っているが、今のが命中していたとしても、戦局を覆すほどではない。あれが連邦の旗艦であれば別だが、さすがにそれは希望的観測が過ぎるというものだろう。

 

 敵の砲撃を浴び、次々と炎上していくムサイ。

 艦隊決戦から安全な場所で味方がやられているのを、ただ見ているだけなのは身を切られるよりも辛い状況だった。

 

「ちくしょうっ……! ライゼン、僕たちに何かできることはないのかな?」

 

「なくはない、けど……」

 

「ホントか! どうすればいい!?」

 

「ヨーツンヘイムにある観測機を使ってデータを届けるんだ。友軍から観測値が届かない以上、こっちでやるしかない。でも──」

 

 それには第603技術試験隊の協力が不可欠だ。誰かが観測機のパイロットとして戦場に出る必要がある。

 

「なら、誰かに頼めば──」

 

「さすがに武装もない観測機で戦場に飛び込めなんて言えないよ。いくら僕たちのどちらかが護衛につくといっても──」

 

 

 命の危険がある以上、彼らを巻き込むことはできない。

 そう考えていたのだが、僕たちの想いを代弁するかのように、ついにマイ中尉が立ち上がった。

 

 

 彼がワシヤ中尉を伴って観測機で飛び出し、僕たちの乗るザクの目の前を横切って戦場に突っ込んでいく。

 

 まさか……と思い、僕は慌てて二人に声をかけた。

 

「マイ中尉! ワシヤ中尉! どうしたんですか!? いったい何を──!?」

 

 

「ライゼン軍曹、ブラウン伍長! 今から観測データを収集する! どちらか一機、護衛についてくれ!」

 

 

「「ええっ!?」」

 

 

(まさか……本気であの戦場の中に飛び込むつもりなのか!?)

 

 ワシヤ中尉ならともかく、まさかマイ中尉が動くとは思わなかった。学者肌な人だと思っていたが、見かけによらず肝が据わっているらしい。

 

 ──でも、これで僕たちも動くことができる。

 

「ブラウン! 僕が観測機の護衛につく! ここの守りは任せたよ!」

 

「わ、わかった! 気をつけろよ!」

 

 観測機は文字通り観測専用の機体で、装甲も武装も持たない。流れ弾一発で撃墜される。ヨルムンガンドの護衛をブラウンに任せて、観測機の後を追う。

 

「こちら観測機1号! 緊急発進のため、オフサイドを無視する! 撃つなよ!」

 

「同じく、ヴァルター・ライゼン軍曹、観測機の護衛のため、ザクで出撃します!」

 

 僕たちが直進する途中、ヨルムンガンドから2発目の砲弾が放たれた。当然ながら標的には当たらない。しかし、そんなヨルムンガンドを脅威に思ったのか、5機の戦闘機が編隊を組んでこちらへと迫ってくる。

 

(やっぱり、敵を引き寄せてしまったか……! しかも、あれは──!)

 

 セイバーフィッシュ……機関砲しか持たないトリアーエズとは違って、ザクを撃墜できる火力を持つ連邦の最新鋭機。

 連邦の戦闘機の中でもアレだけは油断できないと、ゲール中佐から教わっていた。

 

 僕は舌打ちを鳴らしながらザクマシンガンを構える。ワシヤ中尉も敵機の存在に気付いたようだ。

 

「オリヴァー! 連邦のセイバーフィッシュがこっちに向かってきてるぜ! 帰艦するか!?」

 

「いや、このまま! ギリギリまで観測データを、何としても受信するんだ! このまま直進してくれ!」

 

「マジかよぉぉぉ!! フッ…………ハハハハハ! アハハハハハ! もう笑うしかねぇな! 頼んだぜ、ライゼン!!」

 

「ふふっ……了解! 死んでも恨まないでくださいね!」

 

 ワシヤ中尉につられて思わず笑ってしまった。僕を信じてくれる二人に、内心で感謝しながら、ザクマシンガンを乱射する。バラまいた弾がその内の一機に直撃し、小さな爆発を起こした。

 

「まず一つ……!」

 

 こちらを取り囲もうとした敵の動きを先読みし、射撃を繰り返す。また、一機撃墜した。これで二つ。

 敵は初めて戦うMSの姿に動揺していて動きに精彩を欠いているようだ。しかも先ほど撃墜した機体が隊長機だったのか、目に見えて混乱している。

 

「もらった!!」

 

 その隙を見逃さず、一気に二機の戦闘機を立て続けに撃ち落とす。残るは一機のみ。

 撤退すればいいものを、最後の一機は無謀にもこちらに突っ込んできた。

 ミサイルを撃ち、機銃をバラまきながら僕の方へと向かってくる。

 

 相手のミサイルと機銃掃射を軽々と回避し、戦闘機とのすれ違いざまに蹴りを放つ。AMBACを利用した体勢制御が功を奏した。

 

「吹っ飛べっ!!」

 

 僕の予想外の攻撃は相手の虚を衝けたようだ。セイバーフィッシュはザクの蹴りを回避できず、機体がひしゃげて、くるくると回りながら爆発した。破片が四散し、オレンジ色の火球が宇宙に咲く。

 

「これで五つ……! くそっ……まだ来るのか!?」

 

 レーダーには新たな光点が次々と浮かび上がる。無数のスラスター光が瞬き、敵編隊が波状に押し寄せてくるのが視認できた。こちらの弾数も推進剤も無限ではない。戦場は確実に、こちらを消耗させる形へと傾きつつあった。

 

「これじゃあ取り囲まれちまうぞ!」

 

「しかし、まだ観測データは収集できていない!」

 

 セイバーフィッシュの増援がさらに迫ってきた。ザクマシンガンで弾幕を張り、数機を撃ち落とすが、次から次へと湧いてくる。

 

 敵のミサイルを回避しながら、空になったザクマシンガンの弾薬を給弾しようとした、その時──。

 

 

「接近警報!? 何だよ!?」

 

 

 何かが急速に接近してきているのを観測機のセンサーが感知したらしい。方角からすれば敵ではなく味方。

 

 次の瞬間、圧倒的な数のザクが、まるで潮が押し寄せるように戦場へと突入していった。

 

(後方に隠れていたザクかっ!?)

 

 こちらへ殺到していたセイバーフィッシュは、突入してきたザクによって瞬く間に撃破され、隊形を崩して四散していった。

 

 そして、観測機の真正面に一機のザクが立ちふさがる。赤い機体──通常のザクとは一線を画す鮮烈な塗装。モノアイが規則的に点滅する。光信号だ。

 

 赤い光が明滅し、ワシヤ中尉は震える声でそれを読み上げる。

 

 

 

「コノ場ヲ譲ラレタシ、モビルスーツノ襲撃ハ作戦計画ニノットッタ行動ダ、シャア・アズナブル中尉」

 

 

 

 それだけのメッセージを伝えると、恐るべき加速性能で主力部隊と合流する。

 

 その動きはまるで彗星のように美しく、他のザクとは明らかに次元が違っていた。

 

 突如として出現したMS部隊が、戦線を押し上げようとしていた連邦の艦隊を次々と撃破していく。まるで狼の群れが羊の群れに襲いかかるように、一方的な殺戮が展開されていき、僕たちは上層部が最初からこれを狙っていたことを理解した。

 

 

 

 戦局が逆転する。新しい歴史は確かに作られた。

 ヨルムンガンドではなく、MSの手によって……。

 

 大艦巨砲主義の時代は終わり、MSの時代が始まったのだ。僕たちは、その歴史的瞬間の目撃者となった。

 

 

 




原作では観測機がセイバーフィッシュに襲われるシーンはありませんが、主人公の戦闘を入れたかったので、ここだけGジェネの戦闘イベントを挿入しています。
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