戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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オルガの階級がわからなかったので、本作では曹長にしています。
下士官服なので軍曹や伍長の可能性もありますが、ソロモン陥落時には中尉のケープを着用しているので、この時は多分曹長かなと思いました。


スワローウルフ作戦編
第16話 月の裏側


 ──宇宙世紀0079年2月7日。

 

『この光景は地球方面軍最初の戦果として後世に記憶されるであろう。我々は地球を直接攻撃する手段を手に入れた』

 

 今、僕の目の前で演説をしているのは突撃機動軍の長であるキシリア・ザビ閣下だ。この日、ジオンは地球侵攻作戦を開始した。

 

『月より放たれる矢は揺るぐことなき継戦の意志の具現となり、大地を穿つこととなる。スペースノイドの理想を阻む者たちに諸君ら自身の手で鉄槌を下すのだ! ジオンに勝利を!!』

 

 ジオン公国は月面基地から地球にむけて、マスドライバーによる攻撃を実施した。3週間後の第1次降下作戦のために連邦軍の対空砲火を無力化し、スムーズに部隊を降下させることが目的だ。

 

 海兵隊は第1次降下作戦に参加することが決まっているのだが……僕とブラウンはルウム戦役での戦果を見込まれて、アサクラ大佐からエリオット・レム技術少佐のもとでMSのトレーナーを務めるよう命じられた。

 

 指揮官用のザクⅡS型の実働テストのために、エースパイロットたちのアグレッサー(仮想敵)として抜擢されたのだ。

 

 最初は光栄に思い、素直に喜んでいたのだが……よくよく考えてみれば、地球侵攻作戦が始まるまで、僕たちに汚れ仕事を回さないように、ゲール中佐たちがアサクラ大佐と交渉して僕たちを海兵隊から引き離してくれたのだと気づいた。

 

 複雑ではあるが、僕たちが駄々をこねてもどうにもならない。海兵隊の立場を少しでも良くするためには、ここで功績を上げるしかない。

 

 幸い、ヨルムンガンドの評価試験が成功したこともあって、僕たちはアサクラ大佐に気に入られていた。同じ技術将校であるレム少佐からも評価されれば、海兵隊により多くの新型機を回してもらえるかもしれない。

 

 僕たちが利用価値を示し続ければ、アサクラ大佐も易々と海兵隊を切り捨てることはできなくなるだろう。

 

 そういったことをブラウンと話し合い、任務に臨んだのだが……現実はそう甘くはなく、僕たちは毎日のようにエースパイロットの乗るS型にボコボコにされていた。その相手は──。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

「ブラウン!?」

 

 ブラウンの機体に三機のS型が迫っていた。黒く塗装された3機のザクが、まるで一つの生き物のように連携して動いている。その動きには一分の隙もなく、完璧な統制が取れていた。

 

 ブラウンのザクは、持っていたマシンガンを撃ち抜かれ、逃げようとして機体を捻るも、脚部にバズーカの模擬弾が命中し、最後に動けなくなったところでヒートホークがコックピットに命中した。

 

『フレデリック・ブラウン軍曹、撃墜判定!』

 

「オルテガ、マッシュ! 今度はあの小僧に『ジェットストリームアタック』を仕掛けるぞ!」

 

「了解! そら、ライゼン! 残るはお前一人だけだぜ!」

 

「せめて一矢報いて見せな!」

 

「くっ……!」

 

 そう、僕たちは月のグラナダであの黒い三連星と戦っていた。本当に、どうしてこうなった。

 

 黒い三連星……ガイア大尉・マッシュ中尉・オルテガ中尉の三人は、ルウム戦役でレビル将軍を捕縛した、ジオン軍が誇るエースパイロットたちだ。

 

 彼らの代名詞である『ジェットストリームアタック』は、3機が一列に並んで波状攻撃を仕掛ける戦法で、ミノフスキー粒子のせいで目視でしか敵機を判別できない戦場において、その威力は絶大だ。

 そして今、僕もその餌食になろうとしている。先程の攻撃で僚機のブラウンはすでにやられてしまった。僕一人でどうしろと言うのか。

 

(──来る!)

 

 ガイア大尉のザクⅡS型がザクマシンガンを構えて接近してくる。通常のザクⅡよりも出力が高く、機動性に優れた指揮官用の機体だ。

 僕もグラナダにきてから愛機のザクⅡをC型から耐核装備を撤去したF型にアップデートしており、運動性が以前よりも向上していたが、それでも彼らの乗るS型とは性能差が歴然としていた。

 ガイア大尉のザクマシンガンを躱した瞬間、大尉の後ろからマッシュ中尉がバズーカを構えて迫ってくる。

 

「ぐぅぅっ……!?」

 

 慌てて機体を捻り、バズーカ砲の射線から逃れる——が、そのさらに後ろからオルテガ中尉がヒートホークを構えて待ち構えていた。

 

「まずい……!」

 

 これが、黒い三連星の真価だ。三人が一つの意思で動いているかのような、完璧な連携。

 僕も一か八かでヒートホークを振るい、オルテガ中尉のヒートホークと激突して鍔迫り合いになる。

 しかし、パワー負けして中尉のヒートホークが僕のザクに命中し、撃墜判定のブザーが鳴り響く。

 

『ヴァルター・ライゼン曹長、撃墜判定。模擬戦、終了!』

 

 オペレーターの声が通信に響く。

 はぁ、と大きく息を吐いた。全身が汗まみれだ。実弾が飛び交わないとはいえ、本物の戦闘と変わらない緊張感だった。

 

 

 

*****

 

 

 

「すみません、ライゼン曹長。僕がもっと粘っていれば……」

 

「気にしないで、ブラウン。僕もカバーに入るのが遅かった」

 

 ブラウンはまだ悔しそうな表情をしている。エースが相手とはいえ、模擬戦で何度も叩きのめされれば落ち込むのも無理はない。それでも、こうして生きて機体から降りられるだけまだマシだ。実戦なら今ごろ僕たちは宇宙の塵になっている。

 

 コックピットから降りて、黒い三連星と向き合う。

 

「負けました……」

 

「惜しかったな、ライゼン! 最後の攻撃はヒヤッとしたぜ!」

 

 オルテガ中尉が僕の肩を叩く。彼は三人の中で最も直情的で、豪快な性格の持ち主だ。がっしりとした体格で、声も大きい。その豪快さは戦闘スタイルにも表れている。

 

「ブラウン、お前もよく粘ったな。俺たちの機体がS型じゃなければ、結果は変わってたかもしれん」

 

「ありがとうございます、ガイア大尉!」

 

 続いて三連星のリーダーであるミゲル・ガイア大尉がブラウンに声をかけた。そして、すぐに隣にいた女性軍人にも目を向ける。

 

「それに比べて……もっと精進しな、嬢ちゃん! あれじゃあ、的を相手にした方がマシってもんだぞ!」

 

「……ご指導ありがとうございます。今後精進いたします」

 

 もう1人の僚機であったオルガ・タルヴィティエ曹長が悔しさを滲ませながら背筋を正して返事をした。真面目で几帳面な性格のようだが、それが裏目に出たのか、今回の模擬戦では僕たちと三連星の戦いについていけず、真っ先に撃墜されてしまった。あまり思いつめないといいんだけど……。

 

「どうだ? これから一杯付き合わねえか? 補習授業としゃれこもうぜ」

 

 僕と同じことを思ったのか、最後の一人であるマッシュ中尉がオルガ曹長に軽い調子で話しかけた。隻眼でありながらあれほどの戦闘ができるのは素直にすごいと思う。

 

 彼女が撃墜されたのは僕たちのカバーがなってないのも大きいだろう。同じ海兵隊の所属である僕とブラウンと違って、彼女とは出会って間もないため、上手く連携が取れなかった。

 

 模擬戦で早々に撃墜されたのは、そこを突かれてしまったからだ。

 ツーマンセルと小隊での戦闘は全く違う。それを痛感させられた模擬戦だった。

 

「お疲れ様。いやあ、さすがは黒い三連星だね。S型の特性がよくわかったよ。早速採取したデータを検証しよう」

 

 エリオット・レム技術少佐が模擬戦を終えた僕たちを労ってくれた。彼はザクⅠの開発からMSに関わっている技術士官で、今の僕たちの上司でもある。

 

「少佐ぁ、コイツらに見込みがあるのは認めますが、本気でやりあうには、ちと物足りねぇですぜ。もっとマシな相手をよこしてもらわねえとろくなデータも取れねえんじゃないですかい?」

 

「そうはいってもなかなか都合がつかないんだよ。君たち3人にかなうメンバーなんてそうそういないんだから。ライゼン君たちを引っ張ってこれただけでも──」

 

「おいっ!! あのザクはもしかして──!」

 

 オルテガ中尉が白いザクⅡを指差した。FS型と呼ばれる、F型のカスタム機だ。純白の装甲、通常のザクよりも洗練されたフォルム。S型と同じく指揮官用の機体のはずだが、一体、誰の機体なのだろうか……。

 

「ああ、ドズル閣下からの援軍だよ。シン・マツナガ中尉は知っているだろう? 君たちと同じくルウムで──」

 

 

 ドゴォン!!

 

 

 レム少佐の言葉を遮るように、オルテガ中尉が壁を殴りつけた。普段は陽気な彼のあまりの剣幕に、全員が驚愕している。

 

「あの野郎~! よくもヌケヌケと……!!」

 

 そう言ってオルテガ中尉は立ち去ってしまった。

 

 シン・マツナガ中尉と言えば「白狼」の異名で呼ばれる、ルウムで戦果を上げたエースパイロットの一人だ。先日のクーデター未遂事件でも活躍したと聞いている。彼と何かあったんだろうか。

 

「おい、オルテガ! ……ったく、ガイア大尉。どうします?」

 

「構わんさ。いつかは挨拶せにゃならんと思ってた相手だ。向こうから来てくれて手間が省けるぜ」

 

 そう言ってマッシュ中尉とガイア大尉もオルテガ中尉の後を追って行った。2人も普段の様子とは違って、かなり殺気立っている。

 

「……あれ、大丈夫なんですか?」

 

 オルガ曹長が心配そうに呟いたが、僕も同感だった。いつも僕たちによくしてくれる3人の豹変ぶりに、ブラウンがレム少佐に理由を尋ねる。

 

「レム少佐、マツナガ中尉と三連星の皆さんの間に何があったんですか?」

 

「あ~……彼らがルウムでレビル将軍を捕虜にしたのは知っているだろう?」

 

 その話は有名だった。今ではジオンで黒い三連星の名を知らない人はいない。

 

「その後、知っての通りレビル将軍は脱走してしまったんだが、それにマツナガ中尉が関わっているらしくてね」

 

「ええっ……!?」

 

「マツナガ中尉がレビル将軍の脱走に関わっているって……どういうことですか!?」

 

 ブラウンが驚いた様子で声を上げた。レビル将軍の脱走は休戦交渉を破談にし、戦争を継続させた原因だ。それにドズル閣下の懐刀であるマツナガ中尉が関与しているなんて……。

 

「詳しいことは私も知らないんだが……マツナガ中尉はあの時の警備責任者の一人だったんだよ。反ザビ家……いわゆるダイクン派の裏切りがあったという事情もあるが……結果として、彼の失態でレビル将軍の脱出を許してしまったんだ」

 

「なるほど、それで三連星の皆さんは……」

 

「そう、自分たちの手柄をフイにされたと憤っているのさ」

 

 複雑な事情があるようだ。三連星の立場になって考えれば理解できる。命がけで捕縛した敵将を味方の不手際で逃してしまった。その怒りは計り知れないものがあるだろう。

 

 先日のクーデター未遂事件はジオン内部でもかなり尾を引いてしまっている。キシリア閣下の親衛隊のヘンリー・ブーン大尉でさえ、反乱関与の嫌疑をかけられ、拘束されてしまったのだ。

 

 海兵隊が事件に巻き込まれなかったのは、不幸中の幸いだったのかもしれない。

 

「……追いかけた方が良いのではありませんか? あの様子では喧嘩では済まされないかもしれません」

 

「……そうだね、君たちもついてきてくれるかい?」

 

「わかりました」

 

 僕たちは黒い三連星の後を追った。

 そこで待ち受けているのはジオンでもトップクラスのエースたち──白狼、そして青い巨星と呼ばれる男たちとの出会いだった。

 

 

 

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