戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第2話 戦争

『スペースノイドの真の自立を勝ち取るため、我々ジオン公国は、地球連邦政府に対し、宣戦を布告する!!』

 

 ついにジオン公国は地球連邦政府に宣戦布告した。

 後に『一年戦争』と呼ばれる、宇宙世紀史上最も凄惨にして血塗られた戦争。

 その火蓋が、切って落とされた。

 

 ジオン公国軍は宣戦布告とほぼ同時にサイド1、サイド2、サイド4への侵攻を開始。

 海兵隊はサイド2への攻撃部隊として編成され、僕とブラウンは開戦と同時に、学生兵のまま実戦へと投入されることになった。

 

 格納庫に並ぶ緑色に塗装されたザクⅡ。肩のスパイクが鈍く光り、無機質なモノアイが待機状態で沈黙している。しかし──。

 

「肩を黄色に塗られているなんて嫌だなぁ……」

 

「そう? 専用機みたいでカッコいいと思うけど」

 

 僕とブラウンのザクⅡは両肩が黄色く塗装されていた。戦場では何があるかわからない。僕たちを見失わないようにという、ゲール中佐の配慮だ。

 ブラウンには未熟者の烙印に見えているようだが、実戦経験ゼロの僕たちにとって、これは命綱でもあった。

 

「すぐ、出撃だ。急げよ!」

 

「「はい!」」

 

 ゲール中佐の声に従って、コックピットに乗り込んだ。ザクの操縦桿を握りしめ、ハッチから見える宇宙空間に飛び出す。

 

「ヴァルター・ライゼン、ザク、出撃します!」

 

 いつもは広く、無限大に感じる宇宙空間が、少し息苦しく感じた。これが実戦のプレッシャーというものだろうか。

 

「遅れずについて来いよ!」

 

「「はっ!」」

 

 僕とブラウンはゲール中佐に続いた。他の海兵隊員も次々と出撃している。

 

「MAUゲール隊より各隊へ。肩の黄色いザクは訓練生だ。しっかりカバーしてやってくれ」

 

「「「了解!」」」

 

「ゲールの足を引っ張るんじゃないよ、坊やたち!」

 

「「はい!」」

 

 通信越しに飛び交う先輩たちやシーマ中佐の声が、奇妙な安心感を与えてくれた。息苦しさが無くなった気がする。これならいつも通りの動きができそうだ。

 モニターに映る暗い宇宙の向こう、サイド2のコロニー群がゆっくりと回転している。

 

「敵影確認! 連邦のサラミス級巡洋艦だ!」

 

「来たな……。ハウンズマン、トルド、マーカーは敵の側面をつけ! 訓練生は俺の後ろだ! 焦って前に飛び出すなよ!」

 

「「「了解!」」」

 

 ゲール中佐のザクが前に出る。その背中は、不思議なほど大きく、頼もしく見えた。

 

 次の瞬間、モニターに光点が走った。仮想のビームではなく、本物だ。連邦軍の対空砲火が、宇宙に無数の軌跡を描く。

 

「う、撃ってきた!」

 

「ビビるなよ、お前ら! ミノフスキー粒子が散布された戦場ならレーダーは使えねぇ! 足さえ止めなけりゃあ、連邦の砲撃は当たらねぇんだ!」

 

「「はい!」」

 

 実弾の嵐を縫うように、ゲール中佐のザクが加速する。僕とブラウンは必死にスラスター出力を調整し、その背中を追った。敵のサラミスが視界に入る。

 

「1隻だけならアレを使うまでもねえ。散開して取り付くぞ! 懐に入っちまえば、こっちのもんだ!」

 

 僕たちが四方から接近すると、サラミスの砲塔は目を回したかのように慌てふためいた。巨大な巡洋艦の砲塔は、機動力で勝る僕たちのザクを追いきれず虚空を彷徨っている。これなら僕たちには当てられないだろう。

 

「攻撃開始!」

 

 中佐の号令とともにマシンガンを撃つ。120mm口径の弾丸が連続して発射され、機体が細かく震動する。四方から浴びせられた弾丸は装甲を穿ち、火花と破片を撒き散らした。

 僕たちに蜂の巣にされたサラミスはあっという間に撃沈した。爆散するサラミスの残骸が、白い破片となって宇宙に散る。

 

(……沈んだ)

 

 シミュレーターでは何度も見てきた光景だ。だが、これは訓練映像ではない。今しがた、僕たちは本物の艦を、本物の人間ごと撃沈したのだ。

 

「や、やった……! やったぞ……!」

 

 ブラウンの声が、少し裏返って通信に流れた。興奮と恐怖が入り混じった声色だった。共同の戦果とはいえ、サラミス1隻を自分の手で撃破したのだ。

 

「気を抜くな! 敵はまだいる!」

 

 ゲール中佐の怒声が飛び、僕たちははっとして前を見た。連邦軍の戦闘機──トリアーエズがこちらに向かってきているのがわかる。

 

「迎撃するぞ!」

 

 ゲール中佐に続いて、僕もザクマシンガンを戦闘機に向けて乱射する。バラまいた弾がそのうちの一機に直撃し、小さな爆発を起こした。

 

「まず一つ……!」

 

 こちらにまっすぐ突っ込んできた敵の単調な動きを先読みし、射撃を繰り返す。また、一機撃墜した。これで二つ。

 敵は初めて相対するモビルスーツに動揺しているのか、動きに精彩を欠いている。冷静に狙いを定めれば当てられる。

 

「あ、当たれ! 当たれ! 何で当たらないんだ……!」

 

 通信回線にブラウンの悲鳴に近い焦燥が混じる。ブラウンのザクのマシンガンが断続的に火を噴き、曳光弾が虚空に赤い軌跡を描いては消えていく。

 

 トリアーエズのパイロットは練度が高いのか、ザクのマシンガンを回避して彼のザクに接近する。ブラウンを仕留めるべく、一直線の攻撃軌道に入っていることを予測した僕は、ポイントに照準を合わせ、短くトリガーを引いた。

 

 照準の中心を貫くように放たれた弾丸は、敵機の機体中央を貫いたのが見えた。

 命中した初弾がトリアーエズを粉砕し、ブラウンの前で爆散した。

 

「落ち着いて、ブラウン。トリアーエズの火力なら後ろから撃たれでもしない限り、ザクがやられることはないよ」

 

「あ、ありがとう。やっぱり、ライゼンはすごいな」

 

 訓練学校での成績は僕が上だったが、僕とブラウンの実力差に、そこまで開きがあるとは思えない。普段の実力が出せれば、ブラウンもこのくらいできるはずなのだが……。

 

「よくやった、ライゼン。さすがは優等生だな。功を焦るなよ、ブラウン。生き残ることを第一に考えろ。動きを止めずに撃つことができているだけで、お前は十分優秀だ。向こうも必死なんだからな」

 

「は、はい!」

 

 その一言で、ブラウンの動きが少しだけ良くなった。

 僕を褒めつつも、ブラウンへのフォローも忘れない。ゲール中佐を見ていると僕よりもはるかに視野が広いのがわかる。良い指揮官とは彼のことを言うのだろう。成績が悪かったブラウンを罵倒するだけで、良いところを褒めて伸ばそうとしない訓練学校の教官とは大違いだ。

 

「やった! 墜としたぞ!」

 

「よくやった、ブラウン! その調子だ!」

 

 ブラウンの声が弾んでいる。ゲール中佐のおかげで緊張も取れてきたようだ。

 

 その時、センサーに新たな反応が走った。暗い宇宙の向こうから、複数の艦影が隊列を組んで接近してくる。識別信号──連邦軍、サラミス級巡洋艦。しかも1隻ではない。

 

「新たな敵影! サラミス級、複数……3、いや4隻!」

 

 思わず息を飲んだ。先ほどの一隻とは比べものにならない戦力だ。各艦が砲塔をこちらへ向けるのが見えた。

 

「落ち着け! こっちにも切り札はある!」

 

 ゲール中佐が武装をマシンガンからバズーカに持ち替えた。

 通常の装備ではない。肩に担がれたそれは、一撃で戦艦をも消し飛ばすほどの威力を持つ──核弾頭。

 

「各機、距離を取れ! 一撃で仕留める!」

 

 ゲール中佐のザクが突貫し、巨大なバズーカを構える。照準が、新たに現れたサラミス艦隊の中心へと向けられた。

 

 

 次の瞬間──宇宙空間に、大きな閃光が生まれた。

 

 

 遅れて襲ってくる衝撃波が、ザクの機体を大きく揺らす。

 やがて光が収まった時、そこにあったはずのサラミス艦隊は原形を留めないほどに吹き飛ばされ、無数の破片となって宇宙空間に散っている。

 

「……すごい! 見たか、ライゼン! ゲール中佐が一撃でサラミスを吹っ飛ばしたぞ!」

 

「うん……これが、核兵器か……」

 

 旧世紀においても、数えられるくらいしか使われなかった禁断の力。

 

 周囲をよく見れば、他の戦域でも同様の光が明滅しているのがわかった。おそらく別の部隊でも核を使用しているのだろう。その事実に寒気が走るが、兵力で劣るジオンが連邦に勝つためには、使えるものは全て使うしかない。

 

「お前ら、大丈夫か?」

 

「はい! すごかったです、ゲール中佐!」

 

「すごいのは俺じゃねえぞ、ブラウン。核さえ持ってりゃ誰にでもできる」

 

 ブラウンは興奮を隠しきれない様子だったが、ゲール中佐は淡々としていた。

 

 核の光は恐ろしかったが、手の震えはもうない。僕も戦場の空気に慣れてきたのかもしれない。これなら生き残れそうだ……と考えていたら、後方のコロニーからいくつもの小型艇が飛び出してきているのが見えた。あれは──。

 

「あっ……敵!」

 

「バカ野郎! よく見ろ!」

 

 ブラウンのザクが小型艇に銃口を向けた瞬間、ゲール中佐が前に出て制止した。

 小型艇をよく観察すると赤十字マークがついているのがわかる。病院船のマークだ。

 

「病院船には手を出すなよ! そのまま素通りさせろ!」

 

 ゲール中佐の声は、先ほどまでの戦闘指揮とは明らかに違っていた。怒鳴りつけるようでいて、強い決意を帯びている。戦場にあっても越えてはならない一線がある。そのことを、僕たちに叩き込むような声音だった。

 

「い、いいんですか? 敵なのに……」

 

「いいんだよ。俺たちは軍人だ。無抵抗の人間を撃つなんてことは軍人のすることじゃねえ。各機、病院船は無視して艦隊のみを狙え! ただし、油断するんじゃねえぞ! 連邦が病院船に偽装して撃ってくる可能性もあるからな!」

 

「「「了解!」」」

 

 赤十字の船がゆっくりと視界を横切っていく。

 

 戦争にもルールがあり、戦時国際法に違反すれば、それは戦争犯罪だ。

 しかし……この時の僕は、まだ「戦争」というものがどんなものなのか、全く理解できていなかった。いや、僕だけじゃない。ゲール中佐やシーマ中佐、海兵隊のみんなも、戦争の本質、その恐ろしさを真の意味では理解できていなかったと思う。

 

 敵も味方も生き残るため、勝つためには手段を選ばない。戦争とは、正しさだけでは測り切れない現実を突きつけてくるということを……この時の僕たちは、そのことを何一つ理解できていなかったのだ。

 

 

 

 宇宙世紀0079年1月3日。

 それは戦争の始まりであると同時に、僕たち海兵隊にとって、悪夢の始まりでもあった。

 

 

 

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