戦犯にはなりたくない! 作:蒼天
『前方の空域に熱源反応。連邦軍サラミス級を複数確認。MS隊、出撃してください』
ムサイから出撃し、ラル大尉とマツナガ中尉の後に続く。後ろにはオルガ曹長もついてきている。やや動きがぎこちない。やはり、初めての実戦で緊張しているようだ。
声をかけるべきか迷っていたら、後ろから黒い三連星とブラウンが近づいてきた。
「姉ちゃん、戦場でフラフラ飛んでると死んじまうぜ」
「あの大物は俺たちがいただく」
「お前らは雑魚の掃除でもしているんだな」
マツナガ中尉への敵意は消えてはいないが、それでもこんなに頼もしい味方は他にはいない。
「大物を喰う権利は自分たち全員にある。あなたたちに譲るつもりはない」
「フン、俺たちと張り合おうってのか?」
マツナガ中尉とガイア大尉が睨み合う中、僕はブラウンに声をかけた。
「ブラウン、そっちは大丈夫?」
「はい、三連星の皆さんも良くしてくれますから」
「ガハハ! ブラウンのことは俺たちに任せときな!」
「ライゼン、お前は自分が手柄を挙げることだけを考えとけ。あの狼野郎に負けんじゃねえぞ!」
「オルテガ中尉、マッシュ中尉、ありがとうございます。ブラウンのこと、よろしくお願いします」
マツナガ中尉やラル大尉に敵意を向けているせいで誤解してしまいそうになるが、三連星の皆さんは基本的に面倒見が良くていい人たちだ。
レビル将軍の件が無ければ、ここまで話は拗れなかったはず……。ブラウンのことは彼らに任せておけば大丈夫だろう。
「無駄口はそこまでだ。友軍の砲撃が始まるぞ。全機、射線から退避!」
会話を止めて、ラル大尉の指示に従う。
散開して目の前のサラミス級3隻に攻撃を仕掛ける。
一番槍はやはり、R型に乗るマツナガ中尉だった。
「月面の時より早い……!」
サラミスが前に出たマツナガ中尉に一斉に砲撃を仕掛けるが、当たらない。マツナガ中尉のR型はそのまま前方のサラミス級を撃破した。
早くも1隻撃沈。僕も負けていられない。
「坊主、儂に合わせろ!」
「はい!」
敵がマツナガ中尉に気を取られた隙を突き、僕とラル大尉はもう1隻のサラミス級へ接近した。そして至近距離からザクマシンガンを叩き込み、2隻目を撃沈する。
「……まったく、ランバ・ラルといい、狼野郎といい、やることが癪なんだよ!」
負けじと黒い三連星もジェットストリームアタックを仕掛けた。先頭のガイア大尉がバズーカを叩き込み、続いてマッシュ中尉がザクマシンガンを浴びせる。そして最後にオルテガ中尉がブリッジをヒートホークで一刀両断し、決定打を与えた。
流れるような波状攻撃によって、最後の1隻が瞬く間に撃沈された。
あまりの速さで敵が全滅してしまったことに、オルガ曹長はただ驚愕するしかなかった。
「すごい……。この人たちを相手にしたら、どんな敵だって……」
「そうですね、敵じゃなくて本当に良かったです」
「いや、あなたもよ……」
「えっ?」
「何でもないわ。私も負けたままで終わるつもりはないから!」
「あ、はい」
「わかりますよ、オルガ曹長! 僕も同じ気持ちですから! 一緒に頑張りましょう!」
よくわからないが、オルガ曹長とブラウンが共感している。いつの間に仲良くなったんだろう……。
そんなことを考えていたら、今度はセイバーフィッシュが編隊を組んで突っ込んできた。
『うっとおしい奴らめ、戦闘機でザクに勝てるものか!』
別の部隊のザクがマシンガンで戦闘機部隊を追い払う。戦闘機は攻撃されると、即座に反転して逃走した。
その作為的な動きに強い悪寒を感じた僕は、隊を離れて、ザクを突出させた。
『逃がすか!』
「待って! 深追いしないでください!」
岩礁の砲台からの砲撃が見えて、咄嗟に追撃しようとしたザクの背後に回る。
「ぐぅっ……!」
「ら、ライゼン曹長!」
シールドで受けたため、ダメージは無いが、衝撃までは殺せない。機体に揺らされながらも、ザクマシンガンで砲台を破壊した。
心配してくれたブラウンに大丈夫だとハンドサインを送り、庇ったザクに向き直る。
『──す、すまない! 助かった! アンタは、確か模擬戦に出てた……』
「海兵隊のヴァルター・ライゼン曹長です。思った以上にデブリが多いので、気を付けてください」
『ああ、ありがとう! 戻ったら一杯、奢らせてくれ!』
短い通信だったが、戦場ではそれだけで十分だった。互いに生きて帰るという、再会の約束をして、隊列に復帰した。
しかし、味方を助けるためとはいえ、無断で離れてしまったことは、ラル大尉に咎められた。
「坊主、英雄にでもなったつもりか? 自分勝手な行動は、お前だけでなく、味方さえも殺すことになるぞ!」
ラル大尉の声は決して怒鳴り声ではなかったが、その一言には戦場を生き抜いてきた者だけが持つ重みがあった。許可を得る時間が無かったとはいえ、下手をすれば僕は死んでいただろう。みんなに迷惑をかけてしまうところだった。
「……申し訳ございません。以後、気をつけます」
「ふん……だが、よくやった。戻ったら、儂からも一杯奢ってやる」
「……ありがとうございます。もっとも、僕は未成年なので、お酒は飲めませんけど……」
「ふっ……そうだったな。時代が変わったものだ。坊やみたいなのがパイロットとはな……」
ラル大尉は小さく呟いた後、すぐに周囲の味方部隊にも警告をした。
「敵の準備は周到だ! 周囲の警戒は怠るな!」
「……ここがサイド5、ルウム戦役の戦場……。なんてデブリの数なの……」
この中で唯一、ルウム戦役に参加していなかったオルガ曹長が、声を震わせながら呟いた。
このあたりにデブリが多いのは1か月前のルウム戦役の結果だ。多数のコロニーを巻き込んでの艦隊戦、僕もその場にいた。
破壊された艦艇やMSの残骸、そしてコロニーの外壁。無数のデブリが宇宙空間を漂っている。あの戦いの残骸を利用して連邦軍は罠を張っているのだ。
「俺たちはあの戦いで連邦の司令官を捕虜にしたんだ。誰かさんのせいでフイになっちまったがな」
ガイア大尉が嫌味を飛ばすが、マツナガ中尉は黙したまま何も語らない。
「フン、だんまりか……。まあいい、連邦の死にぞこない共を始末するぞ!」
「「了解!」」
「儂らも続くぞ。正面はあいつらに任せておけばいい。艦隊の侵攻ルートを切り開く」
ラル大尉の号令と同時に、ザクのスラスターが一斉に火を噴いた。デブリの海を縫うように機体を滑らせながら、僕たちは艦隊の進路を遮る敵機へ向かっていく。
……マツナガ中尉はずっと無言のままだ。しかし、僕は彼が何を考えているのか想像がついた。
きっと、エアーズ市で再会した、あの人のことを考えているのだろう。
「──トウヤ、君が連邦軍の兵士なら……やはりこの戦場にいるのか……」
*****
同時刻、連邦軍サラミス級艦内。
「ええい、ジオンが近づいているではないか! マスドライバーはまだ破壊できんのか?!」
ジャマイカン・ダニンガン大尉が、苛立ちを抑えきれずに艦内で怒鳴り散らすのを見て、パオロ・カシアス中佐は頭が痛くなった。
マスドライバー目掛けて砲撃を続けている巨大レールガン……『サントメ・プリンシペ』目掛けて、ジオンが攻撃を仕掛けてきている。
月面から地球を狙うマスドライバーを、何としても破壊しなければならない。
そのためのレールガン、そのためのスワローウルフ作戦だったのだが、作戦の要となるレールガンはジャブロー司令部の意向によって、当初の作戦とは異なる形で運用されていた。
本来ならば月のレジスタンスと連携して施設を制圧する手筈だったのだ。
しかし、ジャブロー司令部から急遽送り込まれてきたジャマイカン大尉が指揮権を掌握してしまったせいで、作戦はただ闇雲に砲撃を繰り返すだけになってしまった。
月で暮らしているのはジオンだけではないというのに……。
「コントロール艦、聞こえているか! 今すぐ砲撃を中止しろ!」
「トウヤ少佐!」
この作戦の発案者であるトウヤ・シロナギ少佐が、シャトルからサラミスに呼びかけていた。
「砲撃が激しすぎて地上部隊がマスドライバーに近づけないでいる! 繰り返す、砲撃を中止しろ!」
「月のレジスタンスなど当てにできるものか! 構うな、このまま砲撃を──!」
「馬鹿野郎! このままだとジオンに押し込まれるぞ!」
無意味な砲撃を続けようとするジャマイカン大尉を一喝し、トウヤ少佐はパオロ中佐に献策する。
「パオロ中佐、デブリに隠れつつ部隊を後退させましょう。我々が健在であればジオンの注意を月から逸らすことが──」
──その瞬間、ジオンからの砲撃がサントメ・プリンシペを掠めた。
ムサイのメガ粒子砲──敵はもうすぐそこまで来ている。
「サントメ・プリンシペ被弾! 敵の攻撃により照準にズレが生じております! 修正のためのコマンドを送っておりますが、上手く受信できていないようです! 停止信号も受信できておりません!」
パオロ中佐の顔が一気に青ざめる。もしレールガンの照準が中立の月面都市に向かってしまえば、どうなってしまうかは想像に難くない。
「現在の照準範囲はどうなっている!?」
「今、モニターに表示します」
モニターに映し出された照準範囲を確認する。場所は──。
「フォン・ブラウン市が範囲内だと……!」
アポロ11号が降り立った場所に建設された最古にして最大の月面都市『フォン・ブラウン』。
そこは他の月面都市と共に中立の立場を表明している場所だった。そんな場所に砲撃を行えば、多くの一般市民が犠牲になってしまう。
「再度停止信号を送信。……やはり受信できていません!」
「パオロ中佐! 自分が直接手動で停止させてみます!」
「トウヤ少佐、危険だ! 君が行かずとも、最悪自爆させれば──」
「艦長! 高速で接近する機影を確認! MSです!」
「こんな時に……!」
*****
「見つけたぜ、串焼きの化け物」
ガイア大尉が敵の巨大レールガンを視界に捉えた。
連結された複数のコロンブス級の船体に、異様に長い砲身が取り付けられている。
その姿はまるで、ガイア大尉の言う通り巨大な串焼きのようだった。
周囲はサラミスやセイバーフィッシュが護衛している。
「ちっ……! さすがに守りは堅いな」
黒い三連星も攻めあぐねている様子だが、無理もないだろう。あの弾幕の中を突っ切るのは不可能だ。
「マツナガ中尉、ここは──、中尉? どうされたのですか?」
マツナガ中尉の視線の先を見ると非武装のシャトルがセイバーフィッシュに守られながらレールガンへ向かっている。
あれは、一体──。
『トウヤ…佐! …こは我々に……せを! ……ってください!』
敵機の通信が聞こえてきた。この会話は……それに今、トウヤって──。
直後、マツナガ中尉がシャトルを追って加速した。まさか……あのシャトルには──。
「野郎、抜け駆けするつもりか!」
1人で突出したマツナガ中尉を見て、オルテガ中尉が怒りを見せるが、いくらマツナガ中尉でも無茶だ。R型とはいえ一人でレールガンまで取り付けるわけがない。
案の定、すぐにセイバーフィッシュに囲まれた。
『レールガンにジオンを近づけさせるな! このルウムで死んだ奴らの弔い合戦だ!』
『ルナツーでの訓練を思い出せ! MSが何だってんだ!』
「邪魔をするな……!」
敵の士気は恐ろしく高い。それに、MSを全く恐れていない。
機関砲とミサイルの雨が、マツナガ中尉のR型へと降り注ぐ。
マツナガ中尉は回避運動を続けながら射撃を繰り返すが、連邦のセイバーフィッシュは戦いなれているらしく、複数機で連携してR型を翻弄していた。
「世話を焼かすな、バカタレ! 踏み込み過ぎだ!」
「俺たちが突破できないのをお前一人で抜けるものかよ!」
「マツナガ中尉、援護します!」
オルテガ中尉とマッシュ中尉、そして僕がザクマシンガンで援護すると、セイバーフィッシュも蜘蛛の子を散らすように散開していく。2人が一緒に援護してくれたおかげで、マツナガ中尉は危機を脱することができた。
「マツナガ、ここは儂らが艦隊に揺さぶりをかける。足の速い貴様がレールガンに取りつくんだ」
「ラル大尉、しかし……」
「ぐずぐずするな! 現状でのベストの作戦だ。一番槍は貸しにしといてやる。次の砲撃が始まる前にあのデカブツを叩き潰すぞ!」
ラル大尉とガイア大尉たちがマツナガ中尉の道を切り開くために援護すると言っている。
さすがにベテランなだけあって、普段はいがみ合っていても、戦場では私情を切り捨てて行動している。素直に尊敬できる人たちだ。
……やはりあのシャトルにはトウヤ少佐が乗っているのだろう。彼は別れる際に月から離れろと言っていた。
マツナガ中尉を殺したくはない、とも……。
つまり、彼もこの戦場にいるのだ。
「行ってください、マツナガ中尉。あのシャトルにはトウヤ少佐が乗っているんでしょう? どうか、後悔の無いように」
僕もマツナガ中尉の背中を押した。
本来ならば止めるべきなのかもしれない。だけど……僕は彼を送り出さなければならないと直感的に思った。そうするべきだと、頭の中に響く声が言っている気がした。
「……了解。援護を頼みます!」
「フン、最初からそう言えばいいんだよ」
「全機、用意はいいな? 連邦をもう一度ルウムからたたき出すぞ!」
──攻撃開始!