戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第22話 虹霓の白狼

 「攻撃開始!」

 

 ラル大尉の合図とともに、マツナガ中尉は突貫する。その動きは月面での模擬戦以上に激しく、まるで白い狼が獲物を追い詰めるかのようだった。

 

 ブラウンは黒い三連星、オルガ曹長は僕とラル大尉の援護に回る。僕たちがマツナガ中尉の進路を切り開くために突撃すれば、その背中を狙おうとする、岩礁に設置された砲台を破壊するのが彼らの役目だ。

 

「ブラウン軍曹、私たちは彼らの背中を守りましょう!」

 

「了解です、オルガ曹長!」

 

 ブラウンに指示をするオルガ曹長の声には緊張が混じっていたが、その奥には確かな覚悟も感じられた。

 黒い三連星やラル大尉のような歴戦の兵たちに囲まれながらも、彼女はもう僕たちと同じ戦場に立つ一人の兵士だった。

 

 ここから先は誰もが自分の役目を果たすしかない。

 

 ルウムの宙域に、再び無数の閃光が走る。

 ザクマシンガンの曳光、サラミスのメガ粒子砲の残光、ミサイルの尾……それらがデブリの海に反射して、戦場の輪郭を曖昧にしていた。

 

「連邦の野郎共、邪魔だぜ!」

 

 オルテガ中尉のS型が豪快にザクマシンガンを乱射しながら突進する。その後ろからマッシュ中尉が冷静に狙いを定めて射撃し、ガイア大尉が全体の指揮を執りながら敵艦隊の動きを封じている。

 

「さすがだな、黒い三連星。あの連携は儂らには真似できん」

 

 ラル大尉も感心したように呟きながら、ザクⅠで敵陣に切り込んでいく。

 旧式機でありながら、その動きは新型のS型と遜色ない。いや、むしろ無駄のない洗練された動きは黒い三連星以上かもしれない。

 

(黒い三連星とラル大尉が敵艦隊の注意を惹きつけてくれている。その隙に、僕がマツナガ中尉の道を切り開く!)

 

 レールガンへの進路を塞ぐセイバーフィッシュ目掛けて、ザクマシンガンを短く刻む。戦闘機が回避するために散開し、その隙を突いてマツナガ中尉のR型が加速する。

 敵はマツナガ中尉を先ほどのように取り囲もうとするが──。

 

「やらせない!」

 

 デブリの影から滑るように出てくるセイバーフィッシュを直感で察知し、マツナガ中尉を狙う戦闘機を迎撃した。

 120mm弾が命中して、一機が翼をもがれて爆散し、もう一機が炎上しながら大きくスピンする。

 

「マツナガ中尉、今です!」

 

「ああ! 感謝する!」

 

 戦闘機が次々と向かってくる中、僕がこじ開けた道をマツナガ中尉が強行突破し、バズーカを構えてレールガンに迫る。

 

「砲身さえ潰せば──!」

 

 マツナガ中尉が放った280mm弾頭はレールガンの砲身に直撃した。鈍い閃光とともに金属が悲鳴のような音を上げて歪み、長大な砲身の一部が爆ぜるように裂けた。

 

「やった……!」

 

 これでレールガンは使えない。

 マツナガ中尉はトドメを刺すことなく、そのままザクを降り、レールガンの内部へと侵入していった。

 

(会いに行ったんだ。トウヤ少佐に……)

 

 この決断が正しかったのかはわからない。

 それでも、敵同士になってしまった2人が再び笑い合える未来が残されていることを願って、僕は賽を投げたのだ。

 

 あとはサイコロの目が、少しでも良い方へ転ぶことを祈るしかなかった。

 

 

 

*****

 

 

 

『……砲撃シークエンスは非常停止中。システムに深刻な物理的損傷が見られます』

 

「まったく、壊れてくれて運が良いのか、悪いのか……」

 

 フォン・ブラウン市への砲撃を止めるためにシャトルで乗り込んだが、レールガンはジオンの攻撃で完全に壊れてしまった。

 彼は戦火の中を突っ切った努力が無駄に終わったことを悟った。

 

「これじゃ俺1人が馬鹿みたいじゃないか。自分が作ったレールガンに振り回されて……」

 

「振り回されたのは僕も一緒さ」

 

 トウヤ・シロナギが声のした方を振り向くと、そこには銃を構えたシン・マツナガがいた。幼い頃、ともに狼になろうと誓った──親友。

 

「やりづらいものだな、トウヤ。敵に君がいると知りながら戦うのは……」

 

「シン……」

 

 シンはエアーズで彼と再会した時から、こうなることを予感していた。叶うなら、戦場では会いたくなかった。

 

 しかし、撃たなければならない。彼が……トウヤ・シロナギが、敵である以上。

 

「……すごいよ、お前。あの守りを突破するなんて、並のパイロットじゃできないぜ。このレールガンをぶっ壊しちまうような働きをするくせに、俺のことを見つけてのこのこやってくる。……俺の知っているシン・マツナガらしいよ」

 

 まるで思い出話をするかのようなトウヤの態度に、シンは警戒心をあらわにする。彼の思惑が読めない。一体何を考えているのか……。

 

「懐かしいな。サイド3の悪ガキどもが大人の真似事でジオンだ、連邦だ……ダイクン派だ、ザビ派だとくだらん喧嘩ばかりしていた。その中でドズルの暴れっぷりに振り回されていたお前を思い出すよ」

 

「何が、言いたい」

 

「シン、真面目に聞いてくれ。この戦争を終わらせるために俺と組まないか?」

 

 トウヤはシンに手を差し出した。その目は真剣だった。冗談を言っているようには思えない。

 

「何も連邦に寝返ろと言っている訳じゃない。お前はドズルの……ザビ家から離れるべきだ。奴らの手先になって戦うような人間じゃないだろう。本当のお前は……」

 

「な……何をわかったようなことを……!」

 

「わかるんだよ! お前は音楽や芸術が好きなだけのただのボンボンだ! しがらみに囚われて人殺しをするような人間じゃないはずだ! 俺は、お前までそんな風には──」

 

「──すまん、トウヤ」

 

 シンは銃を突きつけたまま、トウヤの言葉を遮った。

 すでに覚悟は決まっていた。もう、昔のようには戻れない……戻るつもりもない。

 

「僕はもう決めたんだ。守るべき人たちのために、狼になるって……」

 

 

 ──ザビ家を護る狼に。

 

 

 ──気高さと恐怖を併せ持つ、『虹霓の白狼』に。

 

 

 たとえ、その先にあるのが親友との決別であったとしても、シン・マツナガは生涯を懸けて、その誓いを守り抜く。

 

「……シン」

 

「投降してくれ、トウヤ。できるなら、君を撃ちたくはない」

 

 シンの言葉は冷たいはずなのに、どこか暖かかった。敵同士になってしまったというのに、まだトウヤの身を案じている。

 やはり、シンがまだ甘さを捨てきれていないのだということが、長い付き合いであるトウヤには理解できた。

 

「わかった、投降する。……だが、条件がある」

 

 トウヤはゆっくりと両手を上げたまま、背を向けた。

 頑固な弟分の手を汚させないためにも、連邦軍の兵士として、最低限の責任は果たさなければならない。

 

 

 

*****

 

 

 

「あれを撃つなとは、どういうことだ! ライゼン!」

 

 オルテガ中尉の怒号が飛ぶ。

 その疑問はもっともだが、今レールガンを破壊すれば、マツナガ中尉も巻き込まれてしまう。

 

「あの中にマツナガ中尉がいるんです! あと少しだけ、待ってください!」

 

「はぁっ?! 何であの野郎があそこにいるんだよ!」

 

「理由はあとで説明します! だから、今は──」

 

 

 オルテガ中尉たちを抑えていた、その瞬間、レールガンが大きな光とともに爆発した。突然の出来事に、僕たちも驚きを隠せなかった。

 

 

「なっ……!?」

 

「何だぁっ?! 俺たちは何もしてねえぞ!」

 

 そう、僕たちは何もしていない。マツナガ中尉が砲身を潰したとはいえ、撃沈してしまうようなダメージではなかったはずだ。

 

(まさか……自爆したのか?! マツナガ中尉は──)

 

「……フン、英雄気取りも極まれりだな」

 

 一瞬、最悪の事態を想像してしまったが、ガイア大尉の皮肉と同時に、閃光の中からマツナガ中尉の白いザクが飛び出してくるのが確認できた。

 

(……よかった、無事だった)

 

 どうやら、サイコロの目は悪い方には転ばなかったらしい。

 レールガンを失ったことで、連邦軍も撤退を開始した。僕たちの勝利だ。

 

「全機、帰投せよ。作戦は成功だ」

 

 ラル大尉の指示で僕たちは母艦へと戻る。

 

「マツナガ中尉、怪我はありませんか?」

 

 通信で尋ねると、少しの間を置いてマツナガ中尉が答えた。

 

「ああ、問題ない。心配をかけたな、ライゼン」

 

 その声は、ひどく疲労しているように感じた。しかし、どこか安堵したような、そんな響きだった。

 

「マツナガ中尉、その、トウヤ少佐は──」

 

「……すまない。その話は、帰艦してから説明する」

 

 マツナガ中尉の返事は簡潔だった。何かを抱え込んでいるような、そんな雰囲気が伝わってくる。

 

 しかし、嫌な感じはしない。きっと、大丈夫だろう。

 

 

 

*****

 

 

 

 ムサイに帰還すると、メイが駆け寄ってきた。

 

「みんな無事!? ライゼン、怪我はない!?」

 

「うん、僕たちは大丈夫だよ。メイこそ、大丈夫だった?」

 

「うん、あたしは大丈夫。でも、マスドライバーは破壊されちゃったみたい……」

 

「何だって!?」

 

(マスドライバーが、破壊された? いったいどうして……)

 

 予想外の結末に目を丸くしていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

 

 

「そうか……マルセラたちはやり遂げてくれたか」

 

 

 

 声のした方向を振り向くと、両手を上げた連邦兵……トウヤ少佐とともに、マツナガ中尉がザクのコックピットから出てきた。

 

「トウヤ……君は一体、何をしたんだ?」

 

「そう難しい話じゃない。あのレールガンは、最初から本命じゃなかったってことさ」

 

 その言葉で、僕たちはトウヤ少佐が中立であるエアーズ市にいた理由が理解できた。

 彼があそこにいたのは、マスドライバー基地制圧のための志願兵を募るためだったのだ。

 

 エアーズ市は中立を表明した月面都市だが、志願兵という形であれば連邦軍の兵士として扱われる。したがって、南極条約にも抵触しない。

 

 マルセラ・スペンサーさんのようにジオンへ強い敵意を抱くエアーズ市民軍の中から志願兵を募り、僕たちがレールガンへ引き寄せられている隙にマスドライバー基地を制圧する。そういう作戦だったのだろう。

 

 連邦軍の部隊を月に潜ませることは難しくとも、月面都市から志願兵を募れば、ジオンに察知されることなく、マスドライバー基地に近づくことができる。

 

「君は最初から囮だったということか……。だから、レールガンを自爆させることが条件だったとはいえ、あっさりと僕に投降したんだな……」

 

「あのレールガンはもともと使い捨ての急造品だ。無くなったところで惜しくはない」

 

 機密保持とレールガンの再利用を防ぐための自爆だと思っていたが、最初から本命は別だったのだ。だから、トウヤ少佐は大した抵抗もせずに投降した。

 

 マツナガ中尉の言う通り、僕たちは完全に出し抜かれてしまった。

 

 あの時、トウヤ少佐の意図に気づくことができたのは、エアーズ市で彼に会った僕とマツナガ中尉の2人だけ。

 

 僕たちが、トウヤ少佐があそこにいた意味をもっと深く考えていれば、この作戦を見抜けたはずなのに……。

 

 あまりの出来事に呆然としていると、レム少佐が駆け寄って来た。

 

「マツナガ中尉、その連邦兵は──」

 

「……レム少佐、彼に抵抗の意思はありません。南極条約に則った扱いをお願いします」

 

「あ、ああ……了解した」

 

 トウヤ少佐が連れられて行く。

 

 

 

 ──その後ろ姿から、僕は目を逸らすことができなかった。

 

 

 

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