戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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 ジオニックフロント編は原作ゲームや小説版などの設定をミックスした話になります。


第2次降下作戦編
第26話 新たなる戦い


『我が軍はこれより地球侵攻作戦を開始する。今こそ、地上が安全だと思い込んでいる連邦の愚か者共に、我らジオンの強さを思い知らせてやるのだ!』

 

 ──宇宙世紀0079年3月1日。

 

 ついに、第1次降下作戦が始まった。

 本来なら僕もそちらに従軍する予定だったのだが、何故かはわからないが、僕はいきなり第1次降下部隊から外されて、第2次に従軍することになった。

 

 ついでにこれまでの功績が認められて少尉に昇進し、MS小隊の小隊長にまで任命された。

 正直、まだ実感がない。ついこの前まで訓練生だった僕が、小隊を率いる立場になるなんて……。

 そもそも、この時期に転属になったこともそうだが、僕が昇進したことにも作為的なものを感じる。

 

 表向きの理由は、三連星との模擬戦やレールガン破壊任務での戦果がキシリア閣下の目に留まり、これから地球へ赴くガルマ・ザビ大佐のもとへ優秀なパイロットを送ってやりたいと、閣下がギレン総帥に願い出たため……ということらしい。

 

 ……恐らく、先日のマ・クベ少佐との交渉が原因なのだろう。あの人は一体何を企んでいるのだろうか……。

 

「心配しなくても、ライゼン少尉なら大丈夫ですよ! 僕も精一杯サポートしますから!」

 

「うん……ありがとう、ブラウン」

 

 唯一の救いは、ブラウンも一緒だったことだろうか。ゲール中佐は僕たちの栄転を喜んでくれたが、本音は海兵隊の汚れ仕事に僕たちを巻き込みたくなかったからホッとした、というところだろう。

 

 中佐たちは大丈夫だろうか……。

 

「ライゼン少尉……むしろ、私たちは自分の心配をしなくてはいけないのではないでしょうか」

 

「オルガ曹長……まあ、それはそうなんですが……」

 

 第2次降下作戦の開始は3月11日だが、僕たちが地球に降りるのは3月10日、作戦開始の1日前だ。

 僕たちは本隊が無事に降下するための橋頭堡を確保するために、敵の航空基地を制圧しなければならない。

 

 つまり、第2次降下部隊の先陣を切るということだ。

 

 危険な任務ではあるが、海兵隊らしい仕事だと言えなくもない。

 

「オルガ曹長、志願してくれたのは嬉しいんですけど、本当に僕たちと一緒に来て良かったんですか? マツナガ中尉からも誘いを受けてたんですよね?」

 

 オルガ曹長はマツナガ中尉に憧れている様子だったから、僕たちと来てくれたのは意外だった。

 

「少尉を見て自分の未熟さを痛感しましたから。マツナガ中尉の隣に立てるようになるまで、この海兵隊で勉強させてもらいます」

 

「歓迎します、オルガ曹長! これからは三人で頑張りましょう!」

 

「ちょっと、ブラウン! あたしもいるんですけど〜!」

 

「うわっ!? も、もちろんわかってるよ……メイ」

 

 オルガ曹長だけでなく、民間人であるメイも僕たちのメカニックとして一緒に来てくれることになった。

 まだ14歳の彼女を地球に連れて行くのは心苦しいが、彼女の腕はレム少佐のお墨付きだ。正直、かなり頼もしい。

 

 所属は変わるが、隊の名前はそのまま海兵隊を使わせてもらっている。これからはこの4人が地球方面軍の新生海兵隊だ。

 

「ねえ、ライゼン。先遣隊はあたしたちだけなの?」

 

「いや、ゲラート・シュマイザー少佐が率いる闇夜のフェンリル隊も一緒だよ。僕たちはゲラート少佐の指揮下で戦うことになるみたい」

 

「げらーと少佐?」

 

 ゲラート少佐は開戦前からゲリラ戦を戦い抜いてきた生粋の職業軍人だ。

 同じゲリラ戦のエキスパートであるラル大尉から聞いた話によれば、開戦前はまだ南極条約のようなものは当然存在せず、作戦に失敗して連邦に捕らえられても、捕虜として扱われることはなかったそうだ。

 ジオン軍人としての名誉も守られることなく、単なる犯罪者として処罰されていたという。

 

 ゲラート少佐もラル大尉と同じく、そうした修羅場を幾度も潜り抜けてきた歴戦の戦士なのだとか。

 しかも、ジオンでも数少ない地球での実戦経験を持つ将校だと聞いた。

 

 ブリティッシュ作戦でも僕たちがコロニーを守っている間、地球のニューギニア島で戦っていたらしい。

 

 宇宙からジャブローへ降下するには、ニューギニア上空から大気圏突入を開始する必要がある。

 ニューギニア島の防空基地にはジオンの地球侵攻に備え、宇宙への攻撃も視野に入れた対空ミサイルなどが多数配備されていたそうだ。

 

 もっとも、連邦が想定していたのはHLVによる降下部隊であり、コロニー落としではなかっただろうが……。

 ともかく、ジオンは事前にこの防空基地の情報を掴んでいた。

 

 ゲラート少佐は開戦前から地球へ潜伏し、ブリティッシュ作戦の発動と同時に特殊部隊を率いて防空基地へ奇襲を仕掛けたのだ。

 基地の制圧には成功したものの、その戦闘で負傷し、パイロット生命は絶たれてしまったらしい。

 しかし、その豊富な実戦経験を買われ、キシリア閣下からMSの新戦術を開発する実験特殊部隊の指揮官を任されている。

 

 まさに、今回の作戦の一番槍としては、打ってつけの人物だろう。

 

「へぇ〜、凄い人なんだね。ライゼンとオルガはともかく、ブラウンは大丈夫なの? 足引っ張らない?」

 

「どういう意味だよ、メイ!」

 

「あたしは軍人じゃないけど、機体を見れば実力は大体わかるわよ。この中で一番操縦が荒いのはブラウンじゃない。模擬戦でもしょっちゅうライゼンにフォローしてもらってたし」

 

「うっ……」

 

「メイ、ブラウンの実力は私よりも上よ?」

 

「オルガはライゼンと同じで操縦が丁寧だもの。いくら戦果を上げてても、ブラウンの戦い方が一番危なっかしいわ」

 

「機体のデータだけじゃ見えない部分もあるわよ。ブラウンの戦い方は豪快だけど、それが敵の戦意を挫くこともあるわ」

 

 オルガ曹長にフォローしてもらったブラウンは得意げにメイを見やったが、その表情から察するに、彼女はまだ納得していないようだった。

 

「でもライゼンは機体を酷使せずにブラウン以上の戦果を上げてるじゃない。それってブラウンに無駄な動きが多いってことじゃないの?」

 

「ぐぐぐっ……人が気にしていることを、このお子様は……!」

 

「誰がお子様よ! ブラウンだってまだガキじゃない! ベ〜っ!」

 

「僕はこれでも軍曹だぞ! ガキじゃない!」

 

「はぁ……」

 

 拳を震わせて怒るブラウンと、あっかんべーをするメイ。あまりに子供じみた二人のやり取りに、オルガ曹長も思わずため息をついた。

 

「はいはい、二人ともそこまで。話を戻すけど、闇夜のフェンリル隊も僕たちと同じでまだ結成したばかりの特殊部隊だから、パイロットの練度にそこまで大きな差は無いと思うよ。聞いた話によれば、まだ実戦経験の無い新兵もいるみたいだし……。むしろ、心配なのは指揮官としての経験が浅い僕の方だよ」

 

 僕とゲラート少佐の指揮官としての力量差は比べるべくもない。不安を覚えるなという方が無理だ。

 

「僕はライゼン少尉も負けてないと思います!」

 

「少尉の実力はマツナガ中尉やラル大尉も認めていたじゃないですか。私も信頼しています」

 

「あたしもあたしも!」

 

(みんなの期待が重い……)

 

 理由はどうあれ、指揮官を任された以上、出来る限りのことをするしかない。

 第2次降下部隊が予定通り地球に降りられるかどうかは、先遣隊の働きにかかっている。

 この任務は僕たちが本当に使えるかどうかの試金石でもあるはずだ。

 

 海兵隊の名前を背負っている以上、失敗は許されない。オデッサで戦っているゲール中佐やシーマ中佐たちのためにも、僕たちは目の前の任務に集中するだけだ。

 

 

 

*****

 

 

 

『鷲は舞い降りる!! これはスペースノイドにとって大きな飛躍なのである! ギレン総帥はこのキシリアに命じられた……。もはや我が腕により正義の鉄槌を下すため()()()()を形成すると! 我が第1地上機動師団は、既にして空挺堡を欧州方面に構築し、西方を平らげるべく進軍しつつあり!!』

 

 宇宙世紀0079年3月10日。

 第1次降下部隊はあっという間にオデッサとその周辺の工業地帯を制圧した。地球侵攻作戦は順調に進んでいる。

 

 第2次降下作戦の目標は北米だ。北米の広大な穀倉地帯を手に入れれば、長期戦に必要な食糧問題は解決する。

 

 グラナダを出発した僕たちはHLVで地球へ降下しようとしていた。

 現在、月から地球にかけての宙域は宇宙攻撃軍が守りを固めてくれている。おかげで僕たちは何事も無く地球周回軌道に入ることができた。

 

 連邦軍は影も形も無く、まるで嵐の前の静けさのようだった。

 

 HLVが大気圏に突入した瞬間、轟音とともに機体が激しく震え出す。やがて無重力だったザクのコックピットにも急激に重力が感じられ、身体がシートに押し付けられた。モニターには、HLVの降下位置……地球上空の現在地が表示されている。

 

(これが、地球の重力か……)

 

 胸の奥に鈍い圧迫感が広がる。これからは、この息苦しさの中で戦い続けなければならない。

 

 雲の層を割り、HLVがさらに降下する。視界の先に広がる地表は、逃げ場のない戦いの舞台だ。

 

 ──重力戦線。

 

 その言葉の意味を噛み締めていると、これまで以上に強烈なGが身体を押し潰した。やがてHLVの降下が緩やかになり、機体の振動も次第に収まっていく。

 モニターにはHLVの内部映像と外部映像が並んで映し出されていたが、格納庫ハッチが開いた瞬間、その境界は消えた。

 

 視界いっぱいに、地球の大地が広がる。

 機体を外に出して上を見ると、今度は無限に続く大空があった。

 

 一瞬、見惚れてしまったが、次の瞬間、雲の裂け目から一筋の流星が降りてくるのが見えた。フェンリル隊のHLVだ。

 

「全員、体調に問題は無い?」

 

「はい、問題ありません!」

 

「私も大丈夫です」

 

「それじゃあ、フェンリル隊と合流しよう。メイ、留守は任せたよ」

 

「うん! 気をつけてね、ライゼン! オルガとブラウンも、無茶しちゃダメよ!」

 

「ええ、まかせて」

 

「言われなくても、機体は大事に扱うよ」

 

「もう! そんなことより、ちゃんと無事に帰ってくること! わかった?!」

 

「う、うん。……ありがとう、メイ。行ってくるよ」

 

「いってらっしゃい!」

 

 僕たちはHLVをメイたち整備班に任せて、合流ポイントに移動した。

 

 

 

 神話の狼の名を冠する部隊との邂逅……そして、重力戦線の幕開け。

 人類発祥の地である地球で、新たなる戦いが始まろうとしていた。

 

 

 

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