戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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 オルガの年齢は17,18歳くらいをイメージしてます。虹霓ではオーレリアがオルガを呼び捨て+タメ口で話しているので、彼女と年齢は近いんじゃないかなと思いました。


第27話 闇夜のフェンリル隊

「闇夜のフェンリル隊のゲラート・シュマイザー少佐だ。よろしく頼む」

 

「海兵隊のヴァルター・ライゼン少尉です。これより、ゲラート少佐の指揮下に入ります」

 

 ゲラート少佐はラル大尉を彷彿とさせるような軍人だった。負傷してMSパイロットを引退したと聞いているが、全くそうは見えない。

 

「これで全員揃ったな。作戦の骨子はすでに知っていると思うが、もう一度だけ私の口から説明する」

 

 僕たちは闇夜のフェンリル隊と最後のブリーフィングを行った。

 ここで結果を出せなければ、僕たち海兵隊に地球方面軍での居場所はない。気を引き締めていかなければ……。

 

「我々は敵航空基地付近に降下した。我々の任務は本隊より先行して北米地区攻略の橋頭堡となる航空基地を制圧することだ。基地を制圧・確保した後に本隊のHLVもここに降下する。そのため、可能な限り無傷で基地を手に入れなければならない」

 

 実戦経験のあるル・ローア少尉とジオン国防軍時代からの古参軍人であるマット・オースティン軍曹は当然だという表情でゲラート少佐の話を聞いている。

 反面、ニッキ・ロベルト少尉とシャルロッテ・ヘープナー少尉は感心した様子だった。こちらの二人は士官学校を卒業したばかりらしく、実戦も今回の作戦が初めてらしい。

 ちなみにブラウンとオルガ曹長は後者の表情だった。実戦経験があると言っても僕たちも軍人になってそんなに時が経っているわけではない。

 

「情報の分析結果から、司令部の位置はわかっている。作戦の成否を握るのはスピードだ。迅速に基地司令部を制圧することが重要になる。……司令部さえ陥落すれば、敵もすぐに降伏するだろう」

 

 少し言い淀んだのは、ゲラート少佐も最後まで抵抗をやめない敵が最も恐ろしいということを理解しているからだろう。そんな相手がいた場合、今回の任務の難易度はさらに跳ね上がる。

 

「ゲラート隊長! 航空基地だとすると航空戦力があると思うのですが、それはどうしますか?」

 

 質問したのはニッキ・ロベルト少尉だった。

 

「事前の情報では多数のミデア輸送機が展開しているらしい。最も望ましいのは積荷ごとミデア輸送機を確保することだが……今回の我々の任務は基地の制圧であって輸送機の確保ではない。無傷で手に入れようとして逃げられるくらいなら破壊する方が無難だろう。だが、周囲への損壊は最小限にとどめろ。滑走路は我々も使用する。あまり復旧に手間を取るのは望ましくないからな」

 

「はい、わかりました!」

 

「脅威になるとすれば連邦の61式戦車だろう。相手が戦車だからと言って油断はするな。ザクとて集中砲火を受ければタダでは済まない」

 

「そんな……」

 

 実戦経験の無いロベルト少尉は青ざめているが、僕たちも戦車との戦闘経験はシミュレーターでしかない。至近距離や背後からの砲撃には気をつける必要があるだろう。

 

「なぁに、心配いりませんや、ロベルト少尉殿。俺たちのケツにしっかりついてくればあっという間ですよ」

 

 オースティン軍曹が歯を見せて笑い、わざと気楽な調子で言った。だが、その声音の奥には、数多の実戦を潜り抜けてきた者特有の余裕が滲んでいる。

 

「マット、新米を甘やかすのはどうかと思うぞ?」

 

「まあ、そうですが。ヒヨッコをビビらせたところで、一人前になるもんでもないでしょうよ」

 

 ル・ローア少尉が軽く釘を刺すが、この場で最古参の軍人であるオースティン軍曹は肩をすくめるだけだった。

 

「無駄話はそこまでだ。次にMSの装備だが──」

 

 その後はお互いの戦力と装備を確認し、滞りなくブリーフィングは終了した。

 

 

 

*****

 

 

 

「ライゼン少尉! ブラウン軍曹から聞いたんだけど、海兵隊のHLVに予備のザクがあるって本当!?」

 

「あ、はい。僕が先日まで使っていたF型ですけど……」

 

 ブリーフィング後、僕はシャルロッテ・ヘープナー少尉に詰め寄られていた。

 彼女はブリーフィング中、ずっと不貞腐れていたのだが、どうもフェンリル隊では彼女のザクだけ用意が間に合わなかったそうなのだ。

 

 フェンリル隊のHLVには4機のザクがあったが、そのうちの1機は同伴している工兵部隊のものらしく、ヘープナー少尉は今回の作戦では出撃できないらしい。

 それ故に諦めていたはずなのだが……ウチに余っているザクがあると知った途端、彼女の未練が再燃してしまったようだ。

 

「出撃できるなら何でもいいわ! その機体、私に貸して!」

 

「えぇ……」

 

 あまりの勢いに、思わず言葉が詰まる。ヘープナー少尉の瞳は真剣そのもので、冗談や思いつきで言っている様子は微塵もない。

 出撃できないことがどれほど彼女にとって耐え難いか、その一言だけで十分に伝わってきた。

 

 しかし、予備の機体を貸すにしても、MSはパイロットの動きに迅速に反応するよう内部コンピューターに操縦者の癖を学習する機能が備わっている。

 僕とブラウンもそうだったが、新米パイロットの場合は、訓練学校や士官学校のシミュレーターで蓄積されたデータが、そのままザクのコンピューターに反映されるのだ。

 ベテランパイロットには大きな影響はないが、士官学校を出たばかりのヘープナー少尉にとっては重要な機能であることは間違いない。

 

 どうやって断るべきだろうか……と、考えながら横目で元凶であるブラウンの方を見ると、彼はオルガ曹長と一緒に他のフェンリル隊のメンバーと楽しげに談笑していた。

 

「へえ……ヒヨッコかと思ったら、ブリティッシュ作戦やルウム戦役にも参加してたのかよ。この軍曹さんは……」

 

「オルガ曹長も実戦を経験済みなのか……。しかも、黒い三連星のアグレッサーとはな。新米、海兵隊の面々は年齢こそお前より下だが、パイロットとしては大分先輩のようだぞ?」

 

「言わないでくださいよ……ル・ローア少尉。ブラウン軍曹、オルガ曹長、先輩風吹かせて悪かったな」

 

「アハハ! 気にしないでください、ロベルト少尉。よく驚かれますから」

 

「私も実戦に出たのは一回きりですから。ロベルト少尉と似たようなものですよ」

 

「俺のことはニッキでいいよ。君たちの足を引っ張ってしまうかもしれないけど、よろしくな」

 

 

 何かもう仲良くなってる……。

 そのコミュ力を僕にも分けてほしい。

 

 

「ライゼン少尉!!」

 

「は、はい!」

 

「人が大事な話をしているときに、よそ見をするとはどういうことなんですか!?」

 

「あっ……すみません……!」

 

 ヘープナー少尉の怒声に思わず背筋が伸びる。どうやら怒らせてしまったようだ。

 

「そこまでにしておけ、ヘープナー少尉。もうじき作戦開始時刻だ。海兵隊のHLVまでザクを取りに行くような暇はない」

 

 僕が困っていると、ゲラート少佐がヘープナー少尉を制するように口を挟んだ。

 低く抑えた声だったが、思わず萎縮してしまいそうな威圧感を感じる。

 

 これで何とか収ま──

 

「何故ですか!? 戦力は少しでも多い方がいいはずです! やっぱり、私が女なのがいけないんですか!?」

 

 ──らなかった。

 

 ゲラート少佐の圧を前にして、ここまで食って掛かれるなんて、ヘープナー少尉は随分と肝が据わっているらしい。彼女を女性と甘く見るのは危険かもしれない。

 

「いや……いけないも何も、君は女性だろう?」

 

 ゲラート少佐はヘープナー少尉が何に対して怒っているのかを把握できていない様子で、やや間の抜けた返答をしてしまった。

 

「女性だから……女だからニッキのザクは間に合っても、私のザクは間に合わなかったんですか!?」

 

「シャルロッテ……今はそんな事……!」

 

 どうやら、ヘープナー少尉の怒声が向こうにも届いてしまったらしく、気がつけばロベルト少尉や他のみんなも僕たちの会話に注目していた。

 

「女性か男性かなどということは無関係だ。そもそも、我々『闇夜のフェンリル隊』のトップは誰だ?」

 

「……キシリア・ザビ閣下です」

 

「そうだろう。連邦はどうか知らないが、我がジオン軍に性差別は無いのだ。工場はフル稼働だが、それでもMSの生産は追いついていないのが実情だ。足りないのは君のMSではない。闇夜のフェンリル隊のMSであり、ジオンのMSなのだ」

 

「ですが、海兵隊には──!」

 

「それは彼らが実力で勝ち取った評価だ。彼らを見ろ。ライゼン少尉やブラウン軍曹は少年兵。オルガ曹長に至っては君と同じ女性だ。実戦経験のない君が、戦場で手柄を立てた彼らと、同じ待遇を求めるのは、それこそ不公平というものだろう」

 

 ゲラート少佐の真剣な説明を理解してもらえたのか、ヘープナー少尉はようやく事態を納得した。

 普通の部隊なら、口答えをした部下を指揮官が怒鳴りつけて、それで話は終わりだろう。しかし、ゲラート少佐はそういった対応は取らないようだ。

 

 頭ごなしにオペレーターを命じるのではなく、部下の人格を尊重した上で説得する。

 そうして命令の意図を理解させ、納得を引き出し、不満が残らないように気を配る。

 

 それがゲラート少佐の方針らしい。

 

「……わかりました。パイロットとして参加できないのは残念ですが、オペレーターの任務の重要性も理解しているつもりです。与えられた任務に最善を尽くします」

 

「わかってくれたか。君のザクが遅れていることを喜ぶわけではないが、オペレーターとしての経験が無駄ではないことは私が保証する。後方のオペレーターの考えが理解できれば、パイロットとしてより有効な判断ができるわけだからな」

 

「……隊長、本当にそうお考えですか?」

 

「これから実戦という人間に私が嘘を言う理由があるのかね?」

 

「いえ……でしたら隊長からもニッキに、ニッキ・ロベルト少尉に言ってやってください!!」

 

「はぁっ!? 俺……?」

 

 ロベルト少尉はいきなり話の矛先が自分に向いたことに戸惑っている。

 一体、彼とヘープナー少尉の間に何があったのだろうか……。

 

 

「……私が彼に、何というのだね?」

 

 

 ゲラート少佐は眉間に皺を寄せ、静かにヘープナー少尉の次の言葉を待った。

 

 

 

 

 

「──ザクが遅れたのは、パイロットとしての腕の良し悪しは関係無いって!!」

 

 

 

 

 

 ……結局、原因は二人の痴話喧嘩だったらしい。

 指揮官というのは大変だなぁ……と、思い知った出来事だった。

 

 

 

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