戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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 ラストホライズンとかだとニューヤークへの攻撃はキャリフォルニアベース陥落後になっていますが、ジオニックフロントでは陥落前にガウで爆撃しているので、本作ではニューヤークを先に攻略します。


第29話 第2次降下作戦前夜

「明日はこれに乗るのか……」

 

 航空基地制圧後、明日の第2次降下作戦で使用される大気圏内用大型輸送機兼爆撃機『ガウ攻撃空母』が本隊に先んじて降下してきた。

 

「すごい……! これに乗れるんだ!」

 

「本当に飛ぶのかしら……」

 

「オデッサではもう実戦投入されてるらしいから、多分大丈夫……だと思う」

 

 目の前で組み立てられていくガウ攻撃空母……。宇宙で造ったものが本当に地球で飛べるのか不安になるが、メイは大丈夫だと太鼓判を押していた。

 彼女が言うなら本当に大丈夫なのだろう。

 

 メイは僕たちのザクの整備をしている。

 僕たちにも何か出来ることはないかと聞いたが、明日に備えてしっかり休めと叱られた。

 

「ライゼン少尉、僕たちはニューヤークの攻略部隊に従軍するんですよね?」

 

「うん。本隊の到着後に一気に制圧する予定だよ」

 

「連邦にとっても象徴的な都市ですよね。とはいえ、そこまで激しい抵抗は無いでしょうけど……」

 

「えっ……どうしてですか? オルガ曹長」

 

「連邦政府の高官たちはとっくに都市を抜け出してジャブローに避難しているのよ」

 

 ニューヤークは連邦政府の首都だった都市だ。

 しかし、政治家や一部の富裕層はすでにジャブローへ逃げたため、もはや首都としての機能は形骸化している。

 それでも、ジオンがニューヤークを攻撃するのは、ジオンの勝利を世界に印象付けるためでもある。

 

「プロパガンダってことかぁ……」

 

 ブラウンは複雑そうな顔をした。

 

「元とはいえ連邦の首都だった都市を落とすことには意味があるんだろうけど、それならキャリフォルニアベースの攻撃に参加したかったな……」

 

「……そうだね」

 

 戦争で犠牲になるのは軍人や政治家だけじゃない。ニューヤークの街角にも、普通の人たちの暮らしがある。

 そこに攻め込むということが、何を意味するのか──。

 

 そんな僕たちの沈黙を破ったのは、メイだった。

 

「みんな〜! ザクの整備終わったよ!」

 

「お疲れ様、メイ」

 

「予備のF型の調整もやっておいたよ」

 

「ありがとう。仕事増やしちゃってごめんね」

 

「大丈夫、ミガキのおじさんも手伝ってくれたから」

 

「ミガキのおじさん?」

 

「フェンリル隊の整備班班長。すっごくいい人よ!」

 

 メイもフェンリル隊の人たちとは上手くやれてるらしい。

 

「フェンリル隊かぁ……」

 

「どうかしたの? ブラウン。珍しく思い悩んでるけど」

 

「珍しくってどういう意味だよ、メイ。いや……でも、フェンリル隊の戦い方を見て、少し考えてることがあって──」

 

 

 

*****

 

 

 

「これが私のMSなのね」

 

 シャルロッテ・ヘープナー少尉は目を輝かせながら、その整備中のザクを見つめていた。

 目を輝かせながらといっても、それは感動で輝いているのではなく、猛禽類が獲物を見つけた時の輝きだった。

 

「あのですね、ヘープナー少尉。これは海兵隊のザクであって、少尉のザクどころかフェンリル隊のザクですらありませんよ」

 

 フェンリル隊の整備班班長であるミガキは、瞳を怪しく輝かせるヘープナー少尉に釘を刺した。

 

「わかってるわよ。貸してくれたライゼン少尉にはちゃんとお礼を言っておくから」

 

「メイさんにもですよ。このザクをヘープナー少尉のパーソナルデータに適合するよう調整してくれたのは、他でもない彼女なんですから」

 

「あの子が?」

 

「ええ。海兵隊の機体の整備の片手間に仕上げてくれました。ジオニック社の天才少女の噂は聞いてましたが、想像以上でしたよ」

 

 二人のやり取りを、少し離れた位置でル・ローア少尉らが聞いていた。彼らは本日の戦闘では、戦果のほとんどを海兵隊に持って行かれてしまっていた。

 

「海兵隊の少年少女たちは英雄の卵ということか……」

 

「俺たちも負けていられませんね、ル・ローア少尉!」

 

「ロベルト少尉殿、やる気があるのは結構ですが、間違っても無茶な真似はせんでくださいよ。少尉殿は英雄じゃないんですから」

 

「い、今は違うかもしれませんが、俺もいつかは……」

 

 オースティン軍曹に淡々と釘を刺されたニッキ少尉は慌てて頷いた。だが、その表情にはわずかな悔しさが滲んでいる。言われたことは理解しているが、納得しきれてはいない……そんな顔だった。

 

 そんなニッキ少尉の心情を見抜いたル・ローア少尉は、海兵隊の戦い方について自身の見解を述べた。

 

「確かに海兵隊は強い。特にヴァルター・ライゼン少尉は別格だ。だが、それゆえに少尉の強さに頼り切っているようにも思える」

 

「俺も同意見ですな」

 

「えっ……?」

 

 ル・ローア少尉とオースティン軍曹の言葉に、ニッキ少尉は驚きを隠せなかった。

 経験豊富な二人は戦力としての評価と同時に、その偏りがもたらす危うさを測っている。

 個の突出は戦局を動かすが、同時に部隊全体の脆さにも繋がる。そうした現実を、彼らは経験として知っていた。

 

「新米、海兵隊はどうだった? 彼らの戦闘記録は見たんだろう?」

 

 ル・ローア少尉の問いに、ニッキは少し考えてから答えた。

 

「ライゼン少尉が前に出て、ブラウン軍曹とオルガ曹長がフォローする形が多かったと思います。ビッグ・トレーの時も、最終的にはライゼン少尉が一人で仕留めていました」

 

「そうだ。海兵隊の戦果はライゼン少尉の力に依存している」

 

「俺としちゃあ、一人のエースに頼るよりもチームでの戦い方を覚えるべきだと思いますぜ」

 

「私もそう思う」

 

「あ……ゲラート少佐!」

 

 雑談に近かった会話は瞬時に収束し、視線が一斉にゲラート少佐へと向けられる。

 

「おそらく、ライゼン少尉は部下を大切に思うがゆえに、自分が危険な役回りを引き受けているのだろう。その戦い方を否定するつもりは無い。しかし──」

 

 ゲラート少佐は言葉を切り、この場の全員を見回した。沈黙は短いが、意図は明確だった。

 

「私はリスクは分散すべきだと考えている。フェンリル隊には一人一人が戦況を判断し、独立した動きを取れるようになってもらいたいのだ。個に依存せず、連携によって任務を遂行するのが私の理想だ」

 

 英雄に頼る戦いは楽だ。

 だが、それは同時に周囲の者たちの思考を止める戦いでもある。

 

 ゲラート少佐は自分の部下たちを、いずれはMS隊の指揮官とすべく育てるつもりでいた。

 そのためには、死なない程度にミスをさせ、そこから学ばせることが必要だと思っている。

 

「ライゼン少尉には、そのことを言わないんですか?」

 

「難しいんじゃないですかねぇ……」

 

 ニッキ少尉の問いに、オースティン軍曹が難色を示した。

 

「どうしてです?」

 

「あの戦い方で俺たち以上の戦果を上げているからですよ、少尉殿。どれだけ御託を並べようが結果が全て。ライゼン少尉のやり方が間違ってるわけじゃねえ。事実、ジオンじゃあ、ああいう戦い方をする指揮官は多い。少佐が上から目線で説教したところで、あの若さで素直に受け止めるのは難しいでしょう」

 

「……かもしれんな。彼は彼なりに如何に部下の負担を減らすかを考えているはずだ。対して、私は部下には負担に耐えることを強いている。どちらの選択が正しいのかは、誰にもわからん」

 

 ゲラート少佐は苦笑とも諦めともつかない表情で頷いた。

 

「それに、彼らはあくまでガルマ大佐からお借りしているだけで、私の直属の部下ではない。私には彼らの戦い方に意見する権利は──」

 

「ゲラート少佐!」

 

 話題の中心である海兵隊の面々が近づいてきたのは、そんな時だった。

 

 

 

*****

 

 

 

 僕たちはゲラート少佐に会いに格納庫まで足を運んでいた。

 

「ゲラート少佐、フェンリル隊の皆さんも、少々お時間よろしいでしょうか?」

 

「ああ、構わない。何か用か?」

 

 ゲラート少佐は少し意外そうな顔をしたが、すぐにいつもの落ち着いた表情に戻った。

 

「フェンリル隊の皆さんに、チームでの戦い方をご教授していただきたいんです!」

 

「「お願いします!」」

 

 僕たちが揃って頭を下げるのを見て、ゲラート少佐はわずかに目を見開いた。ル・ローア少尉やオースティン軍曹も驚いた顔をしている。

 

 そんなにおかしなことを言っただろうか……。

 

「ふっ……マット、どうやらお前の予想は大外れのようだぞ」

 

「……言わんでください、ル・ローア少尉。どうやら、未来の英雄たちの器は、俺ごときじゃ測りきれねえようです」

 

「……理由を聞かせてもらえるか?」

 

 ゲラート少佐は腕を組んだまま、静かに問い返した。

 

「フェンリル隊の戦闘記録を見て思ったんです。皆さんは結成したばかりにもかかわらず、チームとして全員がフォローしあっていました」

 

「はて……? ロベルト少尉殿にはフォローされた覚えが無いんですが……俺の記憶違いですかねぇ……?」

 

「俺もだ。新米、さては戦闘記録を改竄したな?」

 

「してませんよ!」

 

 オースティン軍曹とル・ローア少尉の軽口でわずかに和んだ空気の中、こちらに気づいたヘープナー少尉が駆け寄ってきた。

 

「ニッキの悪口大会ですか? 私も混ぜてください!」

 

「ちょっ……シャルロッテ! 君も悪ノリしないでくれ!」

 

「あっ、ライゼン少尉! ザクを貸してくれてありがとうございます!」

 

「無視かよ!?」

 

「お礼はメイに言ってあげてください。仕上げてくれたのは彼女ですから」

 

「もちろん! ありがとう! メイ!」

 

「うん! お姉さんも頑張ってね!」

 

「誰か……俺のフォローをしてくれ……」

 

 場に小さな笑いが起こった。

 

「話が逸れてしまいましたが、フェンリル隊では初陣だったニッキ少尉のことも、一人前の戦力として扱っています。それに比べて、海兵隊では前に出る僕を二人がフォローするだけ……。小隊の指揮官として、この戦い方では駄目だと思ったんです」

 

 小隊といえば真っ先に思いつくのは黒い三連星だが、あの戦い方は今の僕たちでは逆立ちしても真似できない。

 こういう言い方は失礼かもしれないが、フェンリル隊の戦い方ならば、僕たちにも可能だと思った。

 

 ゲラート少佐は静かに僕の言葉を聞いていた。表情は変わらないが、その目には何か考えている色があった。

 

「ライゼン少尉。一つ聞かせてくれ」

 

「はい」

 

「君は優秀なパイロットだ。君が今まで通りの戦い方を続ければ、部下を死なせることは無いかもしれない。しかし、私たちの戦い方を覚えれば、君が生き残る確率は上がるが、部下を死なせてしまう可能性が高まることになる。それでもいいのか?」

 

「それは……」

 

「覚悟の上です!」

 

 その問いに答えたのは、僕ではなく、ブラウンだった。

 

「このままライゼン少尉だけに背負わせるのは嫌なんです! ゲラート少佐、僕たちにチームとしての戦い方を教えてください!」

 

「私からもお願いします! いつか、尊敬する人の隣に立てる自分になりたいんです!」

 

 ゲラート少佐の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

 

「覚悟はあるか、ライゼン少尉」

 

「……はい!」

 

 返答は短い。

 だが、その一言で引き受けたものの重さは、誰よりも僕自身が理解していた。

 正解はない。あるのは、選択の後に残る結果だけだ。

 

 

 

 この決断にサイコロがどんな目を出すのかは……今はまだ、誰にもわからなかった。

 

 

 




 一日でガウを組み立てるとか、書いてて頭がおかしくなりそうでしたが、原作では航空基地制圧(3月10日)→ニューヤークをガウで爆撃→キャリフォルニアベース陥落(3月13日)なのでこのくらいのペースで組み立てないと不可能なんですよね。
 恐るべしジオンの技術力……。
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