戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第3話 戦争の現実

 僕たちはゲール中佐の指示通り、病院船に警戒しつつ連邦艦隊に攻撃を続行していた。初戦はジオンの優勢で進み、このまま終息するかと思われたが……。

 

「ゲール中佐! 敵がコロニーの方に後退して行きますぜ!」

 

 先行していた海兵隊のザクが、切迫した様子で通信を送ってきた。トルド・ボブロフ軍曹の機体だ。

 

「何だ? 連邦の奴ら、もうギブアップか?」

 

「……いえ、違います! 連邦の奴ら、コロニーを盾にして撃ってきやがる!」

 

「何だと!?」

 

 連邦艦隊はコロニーの陰に隠れながら、なおもこちらへ砲撃を続けている。この状況でジオンが反撃すれば、コロニーに被害が及ぶのは避けられない。

 

「正気かっ……!? コロニーの中には民間人もいるんだぞ!」

 

「腐ってやがる……! 地球のエリート様は、スペースノイドの命なんてゴミ同然としか思ってないってことかい!」

 

 ゲール中佐とシーマ中佐の怒りとも焦燥ともつかない叫びが通信回線を震わせた。誰もが引き金にかけた指を止め、判断を迫られる。だが撃たなければ、こちらが削られていく。

 

「クソ野郎どもがっ……! ゲール中佐! 反撃の許可を!!」

 

 ハウンズマン曹長のザクがバズーカを肩に担ぎ、コロニーを人質にして展開する連邦艦隊へと照準を合わせる。

 

「ま、待て! 撃つな、ハウンズマン!! お前の核を使えば、コロニーもタダじゃ済まない!」

 

「しかし、このままでは──!」

 

 ゲール中佐の制止が飛び、ハウンズマン曹長のザクがわずかに動きを止めた。だが次の瞬間、敵艦の砲口が禍々しい光を帯びる。

 

「う、うわぁぁっ!!」

 

 閃光をまとったメガ粒子砲が海兵隊のザクを一機、正面から射抜いた。機体は内部から裂けるように崩れ、爆炎と破片が四散する。

 

「ま、マーカー!!」

 

「マーカーがやられた!?」

 

「ちくしょうっ……! ゲール中佐! 反撃しなければこちらがやられます!!」

 

 ハウンズマン曹長が切迫した声でゲール中佐の決断を仰いだ。

 

 ゲール中佐が言葉を発する前に、僕は大きな閃光と、鋭い針を刺し込まれたような強い頭痛を覚えて、思わず目を閉じてしまう。これは──。

 

「うわっ! な、何だ!?」

 

 ブラウンのひときわ大きな声が聞こえて、目を開けると、コロニーの外壁が爆発した。そこから空気が流出し、暴力的なまでの白煙となって噴出する。その奔流に混じり、無数の「点」が宇宙へと吸い出されていく。

 

 ……それが、さっきまでそこで生活していた人間であると認識した瞬間、僕は奥歯が鳴るほどの戦慄を覚えた。宇宙服を着ていない、生身の人間だ。

 

「連邦艦隊に向けて、核を使ったのか……!?」

 

「一体、誰が……」

 

 撃ったのは海兵隊ではなく、別の部隊だ。

 連邦はコロニーを盾にして戦っていた。そんなところに核を撃てば、当然コロニーもタダでは済まない。

 

「ゲール中佐! コロニーの中から、人が……!」

 

「っ……落ち着け! ここは戦場だ! 敵がコロニーを盾にしている以上、犠牲は仕方がない!」

 

 そう言って僕たちの動揺を鎮めさせようとするが、ゲール中佐も内心では苦々しく思っているのだろう。

 

 民間人が巻き込まれない戦争なんて存在しない。頭ではわかっていても、実際にこの目で見ると、やはり動揺は隠せない。

 

 モニターには、コロニー外壁から噴き出した空気と瓦礫、そして点のように散っていく人影がいくつも映し出されている。

 

「これが戦場……。僕は、兵士なんだ……」

 

 おそらく、ブラウンも僕と同じことを考えていたのだろう。さっきまでの興奮とはまるで違う、かすれた声が聞こえた。

 

「シーマ隊より各機へ! アタシたちも攻勢に出る!」

 

「シーマ……!?」

 

「他の部隊の奴らは戦ってるんだ! このまま指を咥えて見てるだけじゃ、アタシたちは敵前逃亡になっちまうだろ! 責任はアタシが取る!」

 

 シーマ中佐は海兵隊の艦隊司令として自ら矢面に立つ覚悟を示し、連邦艦隊へ突撃した。その姿に感化され、周囲の海兵隊員たちも覚悟を決める。

 

「……クソッ! 情けねえ! 女にケツを叩かれるまで動けねえなんて……! ゲール隊も前に出るぞ!」

 

「「「了解!」」」

 

 自嘲気味の怒声とともにゲール中佐が攻撃の続行を指示し、ゲール隊のみんなもそれに従う。

 

 ……しかし、僕はコロニーを巻き込むことに迷いを捨てきれずにいた。

 

(……本当に撃たなきゃいけないのか? 僕たちと同じ、スペースノイドが住むコロニーを……僕たちの手で……)

 

 ジオンの目的はスペースノイドの解放だ。いくら、連邦を倒すためとはいえ、コロニーを破壊すれば、僕たちは大義を失ってしまう。

 何より、僕自身が手を汚すことになることを恐れてしまっていた。

 

「ライゼン、ブラウン! お前たちは下がれ! ここから先は俺たちの仕事だ!」

 

 そんな僕の迷いを見抜いたのか、ゲール中佐は僕とブラウンに帰投するよう命令した。

 

 その声は厳しかったが、そこには明らかに訓練生の手を汚させまいとする意志が込められていた。戦力外と判断したのではなく、未来ある兵として守ろうとしてくれているのだと、はっきりと伝わってきた。

 

 ゲール中佐の気遣いに思わず安堵するが──。

 

「──いえ、僕も行かせてください! ゲール中佐!」

 

「ブラウン!?」

 

 僕とは対照的に、ブラウンはここから先の血みどろになるであろう戦闘に志願した。通信越しでも分かるほど、その声は震えていたが、操縦桿を握る手だけは退いていない。

 

「僕もジオンの兵士です! 一緒に戦わせてください!」

 

「コロニーを撃つことになるんだぞ! お前が手を汚す必要は無い!」

 

「それでも、覚悟の上です! このまま、ゲール中佐たちだけに汚れ仕事を押し付けて、自分は罪から目を逸らすなんて真似、したくありません!」

 

「……ブラウン」

 

 ブラウンの言葉を聞いて僕は自分が恥ずかしくなった。

 自分だけが安全な場所に逃げようとしていたという思いが鋭く突き刺さる。同じ訓練生だったはずのブラウンが、やけに大人びて見えた。

 

「僕も……僕も志願します! ゲール中佐!」

 

「ライゼン、お前まで……!」

 

「このまま目を逸らし続けたら、僕は軍人として二度と胸を張ることができなくなります! どうかお願いします!」

 

 声に出した瞬間、自分の中で何かが決定的に変わったのを感じた。震えは消えていない。それでも、その震えごと抱えたまま前に出ると決めたのだ。

 

 数瞬の沈黙ののち、通信回線の向こうで低い吐息が漏れる。

 

「……ったく。ブラウンはともかく、お前はもっと賢い奴だと思ってたんだがな……ライゼン」

 

「申し訳ありません。ですが、ブラウンのおかげで目が覚めました。僕はもう、流されたまま生きるのは嫌なんです」

 

「ライゼン……」

 

「……わかった。お前たちは戦闘機を狙え! サラミスは俺たちでやる! いいな!」

 

「──はい!」

 

 怖かったし、吐き気もした。それでも、モニターから視線を外すことはできなかった。ここから目を背けたら、僕は自分が何をしているのか、理解できないまま戦い続けることになる。それだけは、避けなければならない気がした。

 

 これが、ジオンの──僕たちの所業なんだ。

 

「各機、任務を続行する!」

 

「「「了解!」」」

 

 ゲール中佐の声が短く、しかし強く響いた。深く深呼吸をしながら、操縦桿を握り締める。

 

 コロニーに纏わりつく敵影がモニターに浮かぶ。サラミスの残存艦、それにトリアーエズの編隊。

 

 敵は僕たちがコロニーごと自分たちを撃ってくるとは思っていなかったのか、慌てふためいている。

 

 戦場は待ってくれない。考える時間など与えてはくれない。

 

「……撃つ」

 

 短く呟き、トリガーを引いた。ザクマシンガンの反動が機体越しに伝わる。トリアーエズが火を噴き、そのままコロニーの外壁に激突した。

 

 撃沈されたサラミスもコロニーの至近距離で爆散し、その外壁を次々と裂いていく。

 

 スペースノイドの故郷であるコロニーが破壊されていくが、不思議なことに、心は先ほどとは打って変わって落ち着いていた。あれほど激しかった動悸はいつの間にか静まり、自分の呼吸の音だけが妙にクリアに聞こえた。むしろ、研ぎ澄まされたような感覚すらある。

 

 これが、戦場に適応するということなのだろう。

 

 

 

 それは、始まりに過ぎなかった。

 この日から……僕にとっての戦争は、単なる歴史の一行ではなく、忘れようとしても決して消えない「現実」になったのだから。

 

 

 




ジオンでは毒ガス注入が非難されているのに、核攻撃をした人たちはあまり非難されている描写がないので、本作ではコロニーに核を使ったのは連邦がコロニーを盾にして戦ったからという設定にしています。
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