戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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 小説版ではフェンリル隊がニューヤーク戦に参加している描写は無いのですが、原作ではミッションこそ無いものの攻撃には参加しているようなので、本作では参加しているものとします。


第30話 ニューヤーク制圧

 宇宙世紀0079年3月11日。

 第2次降下作戦が実行に移され、本隊が続々とこの航空基地へ降下してきた。

 その中には地球方面軍司令官ガルマ・ザビ大佐の姿もあった。

 

「ゲラート・シュマイザー少佐、航空基地制圧の任務、ご苦労だった。諸君ら、精鋭たちの司令官として北米地区攻略を担当することを誇りに思う」

 

「はっ……恐縮であります」

 

「貴官に預けていた海兵隊の者たちはいるか?」

 

「こちらです」

 

 ゲラート少佐に促されて、僕たちは前に出た。ガルマ大佐の視線が僕に向けられる。

 

「小隊長のヴァルター・ライゼン少尉であります」

 

「オルガ・タルヴィティエ曹長です」

 

「フレデリック・ブラウン軍曹です! よろしくお願いします!」

 

「直接顔を合わせるのは初めてになるな。地球方面軍司令官、ガルマ・ザビ大佐だ。君たちのことは姉上から聞いている。よろしく頼む」

 

 ガルマ・ザビ大佐は想像していたよりも随分と柔和な雰囲気だった。

 ザビ家という立場上、もっと冷徹な人物を予想していたのだが、その物腰は柔らかく、部下への目線も丁寧だった。

 

 ギレン総帥やキシリア閣下とは違うタイプだが、纏う空気はやはり上に立つ者のそれだ。

 ドズル閣下も、ガルマ大佐はいずれ自分さえも使いこなす指揮官になると言っているらしい。

 ザビ家の血というのは伊達ではないのかもしれない。

 

「海兵隊には引き続きゲラート少佐の指揮下で働いてもらうことになるが、名目上は私の直属部隊として扱う。君たちの健闘を期待している」

 

「はっ!」

 

「ゲラート少佐、彼らを頼む。代わりと言っては何だが、要望の多かった装甲ホバートラックは、フェンリル隊に配備するよう手配しよう」

 

「ありがとうございます」

 

 装甲ホバートラックとは、ジオンのものではなく、この航空基地で鹵獲されたものだ。

 連邦製だが、センサーや通信能力が高く、欲しがった部隊は幾つもあったらしい。

 ガルマ大佐の口利きがある以上、装甲ホバートラックはフェンリル隊の移動司令部となるだろう。

 

 僕たちへの挨拶を終えると、ガルマ大佐は本隊の指揮に取り掛かった。

 

「技術大尉、ガウ攻撃空母の準備はどうか?」

 

「少々、遅れております。ですが、作戦開始時刻までには必ず……!」

 

「急いでくれ。本日中にニューヤークを攻略する。そうすれば、キャリフォルニアベースもすぐに根をあげるだろう」

 

「はっ!」

 

 やや気負っているように見えるが、その立ち居振る舞いは堂々としている。若さの奥に、指揮官としての確かな資質が垣間見えた。

 

 

 

*****

 

 

 

「これは厄介かもしれんな……」

 

 ゲラート少佐はガウに積み込まれた装甲ホバートラックの内部で、昨日の戦闘分析にかかっていた。

 車内の機材の多くは、ジオンでも使われているアナハイムエレクトロニクス社の製品だった。

 この戦争の勝敗がどうなるかはまだわからないが、連邦が勝っても、ジオンが勝っても、アナハイムエレクトロニクスは残るだろう。

 

(結局のところ、戦争の真の勝者は軍需産業……「死の商人」ということか……)

 

 そう考えると、ふと虚しさを覚えるゲラート少佐だった。

 

「なにが厄介なんですか? 隊長」

 

 隣でシステムの調整をしていたシャルロッテ・ヘープナー少尉が尋ねるまで、彼は口に出していたことに気づかなかった。

 

「あっ、あぁ、これだ。工作隊のザクを撃破した戦車隊だ」

 

「あの迂闊に接近を許してしまった戦車隊ですね?」

 

「迂闊な接近か……」

 

「迂闊ではないでしょうか? ザクの背中の装甲が比較的弱いことは連邦も知っていることです。実際、あのザクは背中を61式戦車に撃たれて撃破されています」

 

 ヘープナー少尉の見方は一概に間違っているとは言えなかった。

 

 工作隊のザクは旧型とはいえMSだ。61式戦車程度で簡単には撃破できるはずがない。

 しかし、ゲラート少佐は工作隊のザクの弾痕に注目していた。致命傷となったのは背中の装甲の貫通孔だが──。

 

(砲弾が同じ箇所に、ほぼ同時に命中している……)

 

 つまり、このザクを仕留めた部隊は、複数の戦車の主砲を同一箇所に集中させるという方法でザクを倒したことになる。

 

 こんなやり方はゲラート少佐も初めてだった。

 

 航空基地はほぼ無傷で占領できたものの、僅かではあるが武装解除に応じずに脱出した部隊があった。

 フェンリル隊と海兵隊だけではそこまでは手が回らなかったのだ。

 そして、捕虜の中に該当する戦車部隊が無い以上、彼らは武装解除に応じなかった部隊の中にいたことになる。

 

 もし、彼らの対MS戦術を他の部隊が使うようになれば──。

 

 

(どうやらこの戦争、長い闘いになりそうだな……)

 

 

 ゲラート少佐はまだ見ぬ強敵の存在に警戒を露わにした。

 

 

 

*****

 

 

 

 ガウ攻撃空母から眺める地球の大地は、宇宙から見下ろすそれとは全く別物だった。

 眼下には草原が広がり、その先に川が光っている。遠くに見える山脈の稜線が、雲と混じり合っている。モニター越しではなく、光学センサー越しとはいえ、これほど広大な景色を目にしたのは初めてだった。

 

(これが地球か……)

 

 スペースノイドである僕には、縁遠い場所だったはずなのに、不思議と懐かしい気がした。

 

『諸君! 我々はこれより、地球連邦政府の象徴たる都市──ニューヤークへの攻撃を開始する!』

 

 通信回線を通じて、ガルマ大佐の声が艦内に響き渡る。

 

『ニューヤーク市長はすでにジオンへの恭順を申し出ているが、連邦は愚かにも民意を無視し、徹底抗戦の構えを見せている。しかし、それは無意味な足掻きに過ぎん! 我々はここに橋頭堡を築き、ジャブロー攻略への足掛かりとする。連邦の喉元に楔を打ち込むのだ! 諸君らの健闘を期待する!』

 

 格納庫のハッチが開き、地上の景色が一気に近くなった。眼下にはニューヤークの市街地が広がっている。

 高層建築が立ち並ぶ巨大都市。かつては地球連邦政府の心臓部だった場所だ。

 しかし今は、その市の中心で対空砲火が飛び交っている。

 

「全機、出撃!」

 

「「「了解!」」」

 

 ゲラート少佐の号令とともに、海兵隊とフェンリル隊のザクがそれぞれのガウから飛び降りる。

 前回はオペレーターを務めていたヘープナー少尉も、今回はザクに搭乗している。

 

 ブルーチームは4機、レッドチームが3機。計7機のザクと、ゲラート少佐の装甲ホバートラックが地上へ降下した。

 着地の瞬間、機体がずしりと揺れる。

 

「各員、無事に降下したな?」

 

 装甲ホバートラックからゲラート少佐の通信が入る。

 

「ブルーチーム、異常無し」

 

「レッドチーム、異常ありません」

 

「では、作戦通りに進む。我々の任務は都市の守備隊の排除だ。ニューヤーク市長の事前の退避命令で民間人の避難はすでに完了している。周囲への損害は気にせずに戦え」

 

「「「了解!」」」

 

 こちらに向かってくる戦車部隊に銃口を向ける。

 7機のザクから放たれた120mm弾が戦車部隊を次々と引き裂き、車体が炎とともに弾け飛んだ。

 

 

 

*****

 

 

 

 戦闘はあまりにも呆気なく終息した。

 

「チームでの戦い方を実践する暇もありませんでしたね……」

 

「ホントにね……。これなら、最初から抵抗なんてしなければよかったのに……」

 

 ブラウンとオルガ曹長の呟きに、誰も反論しなかった。

 ガウ攻撃空母の絨毯爆撃によってニューヤークは壊滅的なダメージを被り、後は残存兵力を掃討するのみとなっている。

 連邦の守備隊がどれほどの抵抗を試みようと、ガウの爆撃とMSの前にはただの的でしかなかった。勝負にすらなっていない。

 

 ただ、街が燃えただけだ。

 

 都市の残骸を前に、言葉にしがたい思いを抱えていた僕たちのもとへ、ガルマ大佐から新たな指令が届いた。

 

「諸君らの活躍によってニューヤークはほぼ制圧した。北米攻略作戦は全体としては順調に進行しているが、問題が無いわけではない。……これだ」

 

 北米大陸の太平洋沿岸地帯に設置された地球連邦軍の軍事基地『キャリフォルニアベース』。

 この北米においてニューヤークと並ぶ大規模拠点だ。

 

 そちらに侵攻していた部隊は、優勢に戦いを進めてはいたものの、敵の粘り強い抵抗に手を焼いているらしい。

 

「キャリフォルニアベースを攻略中の部隊が敵の基地守備隊の抵抗に阻まれて膠着状態に陥っている。ニューヤークの掃討が終わり次第、支援を派遣するつもりだが、先行して諸君らを派遣しようと思う」

 

 こうして、海兵隊とフェンリル隊は休む暇もなく、次の戦地へと向かうことになった。

 勝利の実感は薄く、黒煙の向こうに広がる地平はまだ戦いの終わりを許してはいない。

 

 

 地球での戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

 

 

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