戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第32話 変化

 宇宙世紀0079年3月13日。

 通信中継局の爆破からほどなくして、キャリフォルニアベース周辺の戦況は目に見えて変化した。

 

 フェンリル隊と海兵隊の働きにより、ジオン第二軍は連邦軍の防衛線を突破。相互通信を断たれた北米の連邦軍は、指揮統制を失い、各個撃破へと追い込まれていった。

 

 

「さて、昨日の戦闘で偶然発見した例の地下道の入り口について意外な事実が明らかになった」

 

 

 ゲラート少佐の言葉とともに、移動司令部の壁に地形図が現れた。

 

「当初の予測と異なり、かなりの規模の地下道と思われたため、航空機による探査を行ったのだが、その結果がこれだ」

 

 どうやら、この通路はキャリフォルニアベースの地下施設にまで通じているらしい。

 もともとは建設重機の搬入用に建設されたもので、地下施設が完成した後はほとんど使われることなく放置されていたようだ。

 

「つまり、この地下道を使ってキャリフォルニアベースに侵入するわけですね」

 

 ル・ローア少尉は淡々とした口調でそう言ったが、若干緊張が滲んでいる。

 地下道という閉鎖空間での戦闘は、機動力に優れるMSにとっても決して有利とは言えない。

 

「するってぇと、ここから敵の本丸に飛び込んで大暴れするってことですかい」

 

「マットの意気込みはありがたいが、我々の任務は少し違う。情報班のデータによれば、この地下通路はキャリフォルニアベース内にある潜水艦ドックに通じているらしい。いや、その能力から言えば、地下潜水艦基地と呼ぶべきかもしれないな」

 

「そんなに大きいんですね……」

 

 思わず漏れた問いだった。

 提示された規模は、単なる基地の付属施設というにはあまりに異様だ。

 

「ドックそのものは6隻の潜水艦が収容可能だが、現在拡張工事も行われており、それが完成すれば10隻の潜水艦を収容できる。拡張工事も9割方完成しているようだ。さらに特筆すべきは、これらのドックの内2隻分が建造施設、4隻分が造修施設であるということだ」

 

「潜水艦の建造が可能なんですか?」

 

 ル・ローア少尉はわずかに眉を寄せ、地図上のドック区画へ視線を落とした。声色は抑えられているが、このドックの価値を彼は正確に見抜いていた。

 

「そういうことだ。士官学校主席の君なら、その意味するところはわかるだろう」

 

「ジオン軍が連邦軍と比較して最も劣勢なのは海洋戦力です。さすがに海洋ばかりはコロニーにはありませんからね」

 

 地球での戦闘を考えると海軍力は必要不可欠だ。もしもここの施設を無傷で手に入れることができれば、ジオン軍の潜水艦建造も可能となる。

 

「そういうことだ。この潜水艦基地を手に入れるだけで、我々はかなり強力な潜水艦部隊を建設し、運営できるはずだ。連邦軍にとっても、ここの施設を失うことはかなりの痛手になるだろう」

 

「ってことは、今回の作戦はかなり厄介だってことですな」

 

「どうしてです? オースティン軍曹」

 

「それはですな、少尉ど……いや、ロベルト少尉。ただ大暴れすれば済むってのものじゃないからでさぁ。施設の破壊なら手当たり次第に破壊していけばいいんで楽ですがね。こういう施設となると無傷で手に入れることが要求される」

 

 オースティン軍曹の言う通り、無傷で手に入れるとなると戦術の幅がかなり狭まる。

 破壊して良いものと悪いものを見極める必要もある。

 

「私の代わりにマットが説明してくれたが、彼の言う通りだ。我々の任務は大局的にはキャリフォルニアベース内に侵入し、地上部隊と呼応して敵軍を混乱させることにある。だが、直接的な作戦は、この連邦軍の地下潜水艦基地を可能な限り無傷で手に入れる。それが我々に与えられた任務だ」

 

「隊長、だとすると我々は何なら破壊しても構わないのでしょうか?」

 

「そうだな……ヘープナー少尉、君自身は何を破壊しても構わないと判断するかね?」

 

「えっ、私ならですか?」

 

 ゲラート少佐は時折、僕たちの見識を試すようなことをする。

 問われたのは単なる知識ではない。限られた情報の中で何を優先し、何を切り捨てるのか……その判断の軸そのものだ。

 車内に短い沈黙が落ちた。誰もが地図と説明を頭の中で組み立て直し、自分ならどう動くかを探っている。

 

 ヘープナー少尉の視線がわずかに揺れた。試されているのは彼女一人ではない。

 この場にいる全員が同じ問いを突きつけられていると思わなければならない。

 

(動力と制御系統……かな)

 

 ドックや船体そのものは可能な限り残すべきだが、敵に即時運用されると厄介な部分……例えばゲートの開閉機構や電力供給の中枢は、一時的に無力化してもいいはずだ。

 

(狙うべきは、奪取後に復旧可能な範囲の施設。すなわち──()()()

 

「最少の労力で最大の効果という点では、()()()の破壊が最も効果的ではないかと思います。発電所を破壊すれば潜水艦基地の電力は断たれます。そうなれば敵軍の混乱が期待できますし、潜水艦部隊の脱出も阻止できると思います」

 

 ヘープナー少尉も僕と同じ結論に至ったらしい。

 

「隊長として、私もヘープナー少尉の判断は妥当なものであると思う」

 

 周囲を見渡すと多くは当然だという顔をしているが、ニッキ少尉とブラウンは予想を外したのか、少し悔しそうな顔をしている。

 前々から思っていたが、この二人は結構似たもの同士かもしれない。実の兄弟みたいに仲が良いし……。

 

「それでは具体的な割り振りだ。基本的に二つのチームに分けられると思う。一つは地下通路を前進し、潜水艦基地の深部へと進む。もう一つは発電所の破壊及び入口付近の確保だ。ここは侵入口であるとともに脱出口でもある。ここの安全を確保しなければ最悪の場合、袋の鼠で我々が敵の捕虜になりかねないからな」

 

 それならば割り振りは簡単だ。今まで通り、海兵隊とフェンリル隊で分かれればいい。

 問題はどちらがどこを担当するかだが……。

 

「潜水艦基地までの地下通路の深部を進む場合、何が起こるかわかりません。無抵抗で進めるかもしれませんが、場所が場所だけに敵からの激しい抵抗を受ける可能性もあります。ならば、1機だけとはいえ、数が多いフェンリル隊が深部へ向かうべきです」

 

 ル・ローア少尉の判断は簡潔だった。

 数の優位はそのまま生存率に直結する。

 

「そうですね。では、発電所の破壊と入口の確保は海兵隊が担当します」

 

「よし、それでは30分後に作戦開始だ」

 

 

 

*****

 

 

 

「ライゼン少尉、発電所の破壊の任務ですが、僕とオルガ曹長に任せてもらえませんか?」

 

 ブラウンの声はいつになく真剣だった。

 軽口を叩く余裕もなく、隣にいるオルガ曹長も、無言のまま頷いていた。

 

「……理由を聞いてもいい?」

 

 僕の問いに、ブラウンは一瞬だけ視線を落とした。

 

「……ライゼン少尉と一緒だと、甘えてしまうと思ったんです。さっきのゲラート少佐の問いかけも、僕には何を破壊すればいいのか、全くわかりませんでした」

 

「私も……昨日の戦闘の時に、地雷原の突破をライゼン少尉に任せようとしてしまいました。少尉だけに危険な役目を押し付けないようにすると、決めたばかりなのに……」

 

 オルガ曹長はそこで言葉を切り、自責の念を押し殺すように、視線を伏せた。

 

「このままじゃ、次も同じになります。少尉が前に出て、私たちは後ろからついていく。そういう戦い方しかできないまま……。だから……今度こそ、私たちに任せてほしいんです」

 

「ライゼン少尉は入口の確保をお願いします。発電所の破壊は必ず、僕とオルガ曹長がやり遂げて見せますから!」

 

 真っ直ぐな言葉だった。

 反論はいくつも思い浮かんだ。任務の重要性、失敗した場合のリスク、そして何より──二人を危険に晒すことへの躊躇。

 だが、それ以上に強く胸に残ったのは二人の目だった。

 

(……だったら、僕も覚悟を決めよう)

 

 小隊長になったことで、僕はサイコロを振ることを怖がり過ぎていたのかもしれない。

 

「わかった、二人に任せるよ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 

 僕たちは……海兵隊は、確実に変わり始めている。

 

 そしてこの作戦は、その変化が本物かどうかを試す戦いになるだろう。

 

 

 

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