戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第33話 地下潜水艦基地制圧

 地下への入口に到着した。地下道は思っていたよりもずっと広いようだ。

 建設重機の搬入用に掘られただけあって、ザクでも普通に通れる高さがある。

 

「ニッキ、あなたは前の作戦で活躍したのだから、前衛は私に任せなさいよね」

 

「いや、シャルロッテ。そういうことはどちらが確実にできるかで決めるべきだ。ここは場数を踏んでいる俺が……」

 

 二人がいつもの痴話喧嘩を始めようとするが、ル・ローア少尉が釘を刺した。

 

「どっちも半人前のパイロットなんだ。コインか何かで決めろ。それとニッキ、昨日の功績は評価してやるが、調子に乗って無茶な真似だけはするなよ」

 

「わ、わかってますよ、ル・ローア少尉。信用無いなぁ……」

 

「ロベルト少尉、信用なんてものは努力して作っていくもんですぜ。それからお嬢さんは……」

 

「オースティン軍曹、今度お嬢さんなんて呼んだら、後ろから撃つわよ」

 

「えーと、シャルロッテ・ヘープナー少尉殿は……」

 

「殿は余計です!」

 

「……ライゼン少尉、こっちのおっかないのも海兵隊で面倒見てくれませんかね? 後ろで銃口が光っていると思ったら、安心して戦えませんや」

 

「えぇ……」

 

 僕が何かを言う前に、ヘープナー少尉は異様な迫力を帯びた声音でオースティン軍曹に宣告した。

 

「残念だわ、オースティン軍曹。私に背中を見せた時があなたの最期よ」

 

「シャルロッテ・ヘープナー少尉ほどのお方に背中を守ってもらえて光栄でございやす!」

 

「まぁ、本当? 嬉しいわ、おじさん!」

 

(……案外、ヘープナー少尉は海兵隊に向いているかもしれない)

 

 ゲール中佐たちと似た雰囲気を持つオースティン軍曹をここまでやり込めるなら、将来的にはシーマ中佐のような女傑へと成長しても不思議ではない。

 

「ライゼン少尉、今何か失礼なことを考えなかった?」

 

「イイエ、トンデモゴザイマセン……」

 

 ……何はともあれ、重要な任務を前にしても、フェンリル隊は平常運転のようだ。

 緊張していた僕たちも、その空気に当てられて知らずのうちにほぐされてしまった。

 

「それじゃあ、行ってきます、ライゼン少尉」

 

「発電所は私とブラウンに任せてください」

 

「ああ、頼んだよ。二人とも」

 

「ライゼン少尉、入口の確保は任せるぞ」

 

「了解です、ル・ローア少尉。フェンリル隊の皆さんも、お気をつけて」

 

 みんなが地下通路の奥へと消えていくのを見送り、僕は一人、入口付近に機体を構えた。

 

 僕の役目は、この入口を守り続けることだ。

 地味といえば地味な任務だが、ここが塞がれれば全員が地下に閉じ込められる。フェンリル隊もブラウンたちも、帰る場所を失う。それだけは絶対に防がなければならない。

 

「彼らが心配か? ライゼン少尉」

 

 装甲ホバートラックの中から、ゲラート少佐が通信を入れてきた。

 

「……はい。二人に任せると言ったのは僕です。でも、いざとなると……やっぱり、何かあったらと思ってしまって」

 

「それは指揮官として当然の感覚だ。部下を危険に晒すことへの躊躇が無くなった時こそ、指揮官として終わりだと私は思っている」

 

 ゲラート少佐の声は穏やかだった。責めているわけでも、慰めているわけでもない。ただ事実を述べているだけだ。

 

「ライゼン少尉、今だからからこそ言えるが……私は君が羨ましいと思う」

 

「羨ましい……ですか?」

 

「ああ。君はいざとなれば、MSに乗って仲間たちのもとへ駆けつけることができる。だが、私にはそれができん。君はフェンリル隊の戦いを評価してくれたが……私にはこのやり方しかできないというだけのことなのだ」

 

 ゲラート少佐の言葉には、自嘲とも諦念ともつかない静けさがあった。少佐は日常生活に支障はないが、強いGを受けると視覚障害に陥ると聞いている。

 やはり、パイロットに未練があるのだろうか……。

 

「……少佐は、またMSに乗りたいですか?」

 

 口に出してから、少し不躾な問いだったかと思った。だが、ゲラート少佐は少しの間を置いて、静かに答えた。

 

「……仲間が危険な場所へ向かう時に、ここで待つしかできないというのは、やはり堪える」

 

 パイロット生命を絶たれた男の、偽らざる本音。それを初めて聞いた気がした。

 

「ライゼン少尉、君は私が失ってしまった力を持っている。だからこそ、その力があるうちに、部下を信頼し導く力を養ってほしい。それらを手に入れることができれば、君は私以上の指揮官になれる」

 

「……はい!」

 

 短く答えたその声には、先ほどまでの迷いはなかった。

 

 

 

*****

 

 

 

「ブラウン、発電所は入口に比較的近いとはいえ、無茶はするなよ。お互い頑張ろうぜ!」

 

「はい。ありがとうございます、ニッキ少尉」

 

「オルガ曹長、ブラウン軍曹に負けちゃダメよ!」

 

「わかってますよ、ヘープナー少尉。私だって女だと甘く見られるのはごめんですから」

 

 フェンリル隊と分かれ、ブラウンとオルガ曹長は発電所へと向かう。

 

「オルガ曹長、前方に61式戦車がいます」

 

「見えてるわ。数は……2両か」

 

 まだこちらに気づいている様子はない。奇襲して一人一両ずつ仕留めれば容易く突破できるだろう……と、オルガ曹長は判断した。

 

「合図で同時に行くわよ。私が左、ブラウンは右を」

 

「了解」

 

 合図と同時に踏み込んだ。

 二機は一気に間合いを詰め、マシンガンを放つ。

 反撃する余裕も無く、61式戦車は爆散した。

 

「このまま押し切る。発電所まで一気に行くわよ」

 

 二機は残骸を踏み越え、さらに奥へと進んだ。

 地下通路はなだらかな下り坂を終えると、やがて不自然なほど整えられた平坦部へと続いていた。その脇には、巨大な発電施設が据えられている。下りの途中にこのような空間が設けられているのは、明らかにこの設備を収めるためのものだろう。

 

 そして彼らの前に現れたのは、ザクすら通過できるほどの巨大な扉だった。

 

「発電機はこの先ね。すぐに終わらせ──」

 

「オルガ曹長!!」

 

「──……っ!!」

 

 オルガ曹長のザクに衝撃が走るが、右方からの砲撃だったのが幸いし、肩のシールドで受け止めることができた。視線を向けると、複数の61式戦車が砲塔をこちらへと向けていた。

 

「僕が戦車を引き受けます! オルガ曹長は発電機を!!」

 

「わかったわ!」

 

 ブラウンが戦車部隊の前に踊り出た。

 次の瞬間、マシンガンの連射が通路に響き渡る。

 敵の注意を引きつけるためにわざと派手に撃つ。即座に反応が返ってきた。

 戦車の主砲が火を噴き、通路の壁が削られる。続いて機銃がブラウン機を追い、火花が散る。

 

「……来い!!」

 

 ブラウンは機体を揺らしながら踏みとどまり、あえて後退しない。敵の照準を完全に自分へ引き寄せる。

 

 オルガ曹長の機体が発電所に向かってマシンガンを構える。

 

 扉の突破自体は難しくない。だが、扉に向かえば、戦車部隊はブラウンを無視してこちらを狙ってくるだろう。

 

(扉越しに射撃を行い、発電機を破壊する!)

 

 オルガ曹長は瞬時に判断して扉越しにマシンガンを撃ち込んだ。

 その瞬間、ただでさえ薄暗い地下通路の照明は、さらに薄暗い赤い非常照明に切り替わった。

 

 

 

*****

 

 

 

「予想外に早かったな……」

 

 照明が落ちた瞬間、エイガー少尉は周囲の混乱とは対照的に、瞬時に状況を把握した。

 

「うろたえるな! 電源回路切り替え、基地からの電源を遮断、これより本艦は基地の支援を離れ独自に行動する!」

 

 潜水艦の艦長は発令所でマイクを握り、艦内に放送する。

 

「艦長……」

 

「安心してくれ、エイガー少尉。貴官をヨーロッパに無事に送り届けるのが私の任務だ」

 

 電源が切れる原因にはいろいろあるが、そのどれにしても敵襲抜きには考えられない。

 

「くそっ……俺たちも戦うことができれば……」

 

「仕方がないさ。これも命令だ。貴官には貴官の戦場が待っているということだろう」

 

 エイガー少尉は対MS戦術を編み出した実績により、連邦軍のMS開発に欠かせない人材とみなされていた。そのため、彼はジャブロー司令部より、キャリフォルニアベースからの脱出が命じられていたのだ。

 

「こうなれば一刻も早く脱出しなければ……」

 

「脱出したいのはやまやまだが、発電所が破壊されたとなると、耐水ゲートが開かない。予備電源はあるが、発電容量が違う。耐水ゲートの開放までかなりの時間を覚悟しないと……。それまでに、敵が来ないといいが……」

 

「ゲートさえ開けば脱出できるんだな? だったら艦長、魚雷で耐水ゲートを爆破しよう」

 

「無茶だ、エイガー少尉。潜水艦ドックの中で魚雷を爆発させればこの潜水艦も無事ではすまない」

 

「それくらい簡単に対処できる。爆発力を調整すればいいだけだろう。俺は砲術の専門家だ。魚雷だろうが何だろうが、どの火薬がどんな特性か、俺の頭に全部入ってるさ」

 

 自信に満ちた言い切りだった。

 艦長はその目を見て、大きく息を吐き出す。

 

「……やってみるか。そうだな、どうせ敵に占領されて武装解除となれば自爆させる潜水艦だ。少尉、調整の時間はどれだけかかる?」

 

「ゲートの爆破に魚雷二本として、標準的な弾頭なら、10分か」

 

「なら5分で頼む」

 

「5分か。面白い、やってやるさ」

 

 エイガー少尉が魚雷の改造に取り掛かる間、潜水艦は静かに動き出していた。

 機関部は既に出航準備を完了しており、同時に耐水ゲート爆破の衝撃を和らげるべく、艦はドック内で可能な限り後退していた。

 

「エイガー少尉、あとどれくらいだ?」

 

「もうすぐ終わる、どうしてだ?」

 

「潜水艦基地の司令官が降伏した。我々に武装解除をするように命じている」

 

「そんな奴は地獄に行けと言ってやれ!! よし、終わった!」

 

 

 

*****

 

 

 

「隊長、潜水艦基地司令官は降伏しました」

 

「全員ご苦労、困難な任務にも関わらず良くやってくれた。君たちの隊長であることを誇りに思う」

 

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥に張りつめていたものがほどけた。肩に力が入っていたことに、今さら気づく。

 入口を守り続けるあいだ、最悪の展開ばかりが頭をよぎっていた。誰かが戻ってこない可能性、任せた判断が誤りだった可能性。その一つ一つが、じわじわと心を削っていたのだ。

 

(……よかった)

 

 安堵が遅れて押し寄せ、ゆっくりと息を吐いた。

 

「ライゼン少尉」

 

「はい」

 

「今日の部下の働きはどうだった?」

 

 ゲラート少佐の問いに、少し考えてから答えた。

 

「……やっぱり、頼もしいなと思いました」

 

 ゲラート少佐も口元をわずかに緩めた。

 

「そうだな。私もそう思う」

 

 

 

 ゲラート少佐は、装甲ホバートラックの中で一人でいることを感謝した。

 作戦の成功……その実感が込み上げ、思わず涙が滲んだからだ。戦争はまだ続く。指揮官が涙を見せるには、今はまだ早すぎる。

 

「た、隊長! あの潜水艦!」

 

 ニッキ少尉の緊張した声にゲラート少佐は我に返る。

 

「どうした?」

 

「隊長、潜水艦の一隻が武装解除に応じようとしません! おかしな行動に出ようとしています!」

 

「おかしな行動だと? ヘープナー少尉、耐水ゲートはどうなってる?」

 

「ゲートは閉じたまま──」

 

「──な、何!!」

 

「どうした、ル・ローア少尉!」

 

「雷撃です! 奴ら魚雷でゲートを爆破するつもりです!」

 

 ゲラート少佐のモニターにその光景は転送された。

 潜水艦ドックの中で、二本の魚雷が一直線に耐水ゲートへと向かっていく。

 一瞬の閃光の後、視界が回復した時には、ゲートはすでに吹き飛ばされ、潜水艦はドックから脱出しようとしていた。

 

「げ、ゲートが……!」

 

「そんな……!」

 

 ニッキ少尉とヘープナー少尉が愕然とする中、オースティン軍曹は素早くマシンガンを構え、潜水艦を捉える。

 

「ダメだ! マット、撃つな!」

 

 ゲラート少佐は鋭い声でオースティン軍曹を制止した。

 

「なっ……! どうして撃っちゃならんのですか、少佐! せっかくのチャンスを──!」

 

「我々の任務を考えろ、軍曹! あのドックは耐水ゲートを破壊された。我々はそれを修理せねばならない。もしもここであの潜水艦をマシンガンで撃破すれば、このドックは耐水ゲートが壊されたばかりか、潜水艦のスクラップが占拠し続けることになるのだ」

 

 そうなれば基地施設の中の大切なドックが一つ使用不能になってしまう。

 今のジオンにとって、潜水艦と施設なら、施設の方がはるかに重要だった。

 

「了解しました。くそっ、運のいい連中だ!」

 

 オースティン軍曹は吐き捨てるように言いながら、マシンガンを下ろした。

 

「潜水艦は逃がしてしまったが、よくやった。……基地攻略部隊より通信が入っている。地上施設、地下中枢部の制圧に成功したようだ。別エリアのドックも制圧に成功したようだな」

 

「別エリアのドックというと、確か……『マルコシアス隊』でしたか」

 

「有名なんですか?」

 

「知らないの? ニッキ。ライゼン少尉たちみたいに、訓練学校を卒業したばかりの若者を集めたエリート部隊よ」

 

「そんな部隊があるのか……」

 

「海兵隊といい、近頃のガキどもはえらく優秀ですなぁ……」

 

 

 

 宇宙世紀0079年3月13日。

 ジオン第二軍の総攻撃によってキャリフォルニアベースは陥落。

 北米大陸における連邦軍の主要拠点は、わずか数日でジオンの手に落ちた。

 

 

 

*****

 

 

 

「私も軍歴は長いつもりだったが、こんな破天荒な真似をしたのは初めてだ」

 

「今だから言えるが、俺も魚雷なんぞ生まれて初めて触った」

 

「いやはや、エイガー少尉、アンタもとんだ食わせ者だ」

 

 無事に脱出できたことを喜び合う二人のもとに、エイガー少尉の部下であるサカキ軍曹がやってきた。手には何やら写真のようなものを持っている。

 

「何だ、サカキ軍曹、その写真は?」

 

「脱出の瞬間、俺たちを狙ったザクがいたでしょう。司令塔の監視モニターがその姿を記録していたんですよ」

 

「──! こいつ、あの時の……!」

 

 

 

 エイガー少尉はその写真をじっと見つめた。

 マシンガンを構え、自分たちを狙っている(フェンリル)のマークを付けたザクの姿を……。

 

 

 

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