戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第42話 遠吠えは烈日に染まった

 第67物資集積所ではコムサイの降下に備え、ザクⅠが歩哨として配備されていた。

 歩哨にMSが立てられているのは、近頃アリゾナ砂漠一帯で物資集積所を襲撃する連邦部隊の存在が確認されているためである。

 

 待機中のザクⅠはコムサイの到着を待っていたが、やがて友軍のザクⅡが接近してくるのに気づいた。

 

「よぉう! コムサイは見えたかい?」

 

 歩哨はコムサイの存在を把握しているザクⅡに違和感を覚えたが、友軍間での情報漏れは珍しくもないため、深くは気に留めなかった。

 

「ん? まだだ。そろそろこの辺を通るはずだが……」

 

「北西から進入するらしいぞ。ところで、ザクマシンガン(こいつ)の120mm、あるか?」

 

「詳しいな、あっちか? 弾薬は主計課に聞いてくれ。おっ! もう見えるぞ!」

 

 降下してくるコムサイの機影を捉えようと、わずかに姿勢を前へ乗り出す。この時、歩哨の意識は完全に空へ向いていた。

 

 

 

「クックックッ……。主計課さんは、連邦軍にも弾を分けてくれるかなぁ?」

 

 

 

 言われるがままに北西を向いた歩哨に向けて、ザクⅡのパイロット──地球連邦軍フェデリコ・ツァリアーノ中佐は、マシンガンの銃口を向けた。

 

 

 

 

*****

 

 

 

 ──アリゾナ砂漠上空。

 

 僕は輸送機の格納庫に収納されたプロトタイプグフのコックピットの中にいた。

 今回の任務では、ブラウンは輸送機の操縦、オルガ少尉はオペレーターを担当している。

 

(できればブラウンたちのザクも持ってきたかったけど……)

 

 試作兵器を搭載して帰還する都合上、輸送機に積める重量はMS1機に限られるため、格納庫にあるのは僕の機体だけだった。

 

 連邦の部隊が潜んでいる可能性があるとはいえ、プロトタイプグフがある以上、61式戦車程度ならば問題は無いだろうと判断された。

 確かに、第67物資集積所には歩哨としてザクⅠが配備されている。試作兵器もあることを考慮すれば、十分に撃退できるだろう。

 

 しかし、僕は言いようのない不安を感じていた。まるで欧州戦線の時のように、嫌な悪寒が脳裏を駆け巡っている。

 

「オルガ少尉、そろそろ見えた?」

 

「はい、見えました。第67物資集積所です。あれ……?」

 

「どうしたの? もしかして敵が……!」

 

「あ、いえ……友軍です。友軍のザクⅡが2機、集積所に近づいています」

 

「友軍……? 集積所のMSはザクⅠが1機のはずだよね?」

 

「そう聞いていますが……」

 

「試作兵器の存在を聞きつけた友軍が興味本位で見に来たのかもしれませんね……って、ええっ!?」

 

 輸送機を操縦していたブラウンの声が、途中で大きく跳ね上がった。

 

「どうした、ブラウン!?」

 

「ゆ、友軍のザクⅡが……集積所のザクⅠに攻撃を開始しました!」

 

「何だって!?」

 

 思わず声が裏返る。

 友軍機同士が互いに銃口を向けるなど、本来ならあり得ないはずの光景だった。

 

「あっ! 新たに4機のザクⅡと2両の61式戦車が出現! 連携して集積所に攻撃を仕掛けています!」

 

「なっ……!」

 

 オルガ少尉の新たな報告に、僕は自身の嫌な予感が的中したことを確信した。

 

「くっ……ザクⅡは鹵獲機か! 識別は?!」

 

「ありません!」

 

「連邦の奴ら……なんて卑怯なっ……! こんなの、戦争犯罪じゃないですか!?」

 

 ザクⅡにはどこにも地球連邦軍の識別が無い。

 ブラウンが言うように、これがないと標識の偽装と言う戦争犯罪になる。

 もっとも、歴史を紐解けば旧世紀の世界大戦においても(戦争犯罪なのは承知の上で)各国とも行っていた行為ではある。

 

「オルガ少尉、第603技術試験隊のコムサイは?」

 

「第67物資集積所からの通信によると、コムサイは敵の攻撃を受け、10km先の地点に不時着したと……」

 

「わかった! できるだけ戦場に近付いてくれ! 僕がグフで出る!」

 

「1人では危険です! 相手はザクが6機もいるんですよ!?」

 

「味方を見捨てるわけにはいかない! それに、このままだと試作兵器が連邦に奪われてしまう!」

 

「っ……わかりました! 気を付けてください、中尉!」

 

「ありがとう! 僕が降りた後はコムサイの方に向かってくれ!」

 

 輸送機のハッチが開くと、砂漠の熱気が機体を包んだ。眩しい日光が照りつけ、白い砂地が視界を焼く。

 

「ヴァルター・ライゼン……プロトタイプグフ、出撃するっ!!」

 

 開いたハッチから飛び出し、プロトタイプグフが砂漠の空に舞った。

 機体を地表に降下させ、第67物資集積所へと向かうと、こちらに気づいたザクⅡが、一斉に銃口を向けてきた。

 

(勝手知ったるザクが相手とはいえ、これが連邦との初めてのMS同士の戦闘……。MSの操縦ならこちらが一日の長があるはずだ。やってみせる!)

 

 敵のザクから銃弾が放たれようとした、その瞬間──1機のザクが、遠くから放たれた徹甲弾によって貫かれ、四散した。

 

「──! ヒルドルブの砲撃か!」

 

 10km先の地点から命中させる技量は、ソンネン少佐の腕が錆びついていないことの証だった。

 

 さらにもう一撃、遠方より徹甲弾が飛来してくる。

 

 状況を把握した敵機がそれぞれ傾斜地へと退避を図る。

 しかし、全ての敵機が状況を即座に対応できたわけではない。

 

『ペンター、伏せろっ!』

 

 警告はわずかに遅れた。出遅れた一機に、二発目の徹甲弾が直撃する。

 しかし、弾着はわずかに上へ逸れ、致命打には至らなかった。射撃プログラムの調整がまだ不完全なのかもしれない。

 

 理由はどうあれ、敵の注意が逸れている。今が好機だ。

 

「もらったっ!!」

 

 徹甲弾を受けて倒れ込んだザクへ、間髪入れずマシンガンで追撃を浴びせる。120mm弾が装甲に叩き込まれ、機体は内部から弾け飛んだ。

 

 これで残りは4機。

 

『落ち着け! 動いていれば10km先からの攻撃など当たりはせん! 散開しろ!』

 

 敵の指揮官はかなり優秀のようだ。即座に的確な指揮を飛ばし、部下たちの動揺を鎮めた。

 ヒルドルブからの援護があるとはいえ、4対1。

 だが、やるしかない。

 

『絶対に止まるな! 動いていれば大丈夫だ! まずはあの黄色いのを始末するぞ!』

 

 プロトタイプグフ目掛けて、4機のザクから一斉にマシンガンが放たれるが──。

 

「走りながらの射撃がそうそう当たるものか!」

 

 弾道は乱れ、照準は甘い。敵はヒルドルブからの砲撃を恐れている。

 そう判断した瞬間、恐怖よりも確信が勝った。

 

 右手に握っていたザクマシンガンを放り捨て、即座にヒートホークへと持ち替える。

 左手のシールドを前面に構え、降り注ぐ銃弾を受け流しながら、最も近い敵機へ一直線に踏み込んだ。

 

『な、何っ!?』

 

 至近距離へ踏み込んだ瞬間、相手の照準は完全に追従を失っていた。

 砂塵を巻き上げながら急加速した機体は、もはや射撃戦の間合いではない。

 振り上げられたヒートホークの軌跡が、敵機の装甲へと叩きつけられた。

 切り裂かれたザクは火花を散らしながら砂漠に沈む。

 

 これで残りは3機。

 

 次のザクに向かおうとした瞬間、左後方に殺気を感じた。

 反射的に機体をひねって回避に入りつつ、振り返りざま左腕の機関砲を発射した。

 

 こちらを狙っていた61式戦車は直撃を受け、爆炎とともに四散した。

 

『もらったぁっ!!』

 

「くっ……!」

 

 敵パイロットの歓声が無線越しに弾けた。

 僕が戦車に気を取られた隙を狙って、ザクの銃口がこちらを捉える。

 放たれた120mm弾を何とかシールドで防ぐも、ザクは僕を仕留めようと、さらに追い打ちをかけてくる。

 しかし──。

 

『足を止めるな、ジャクソン!!』

 

 隊長機から鋭い怒声が割り込むが、一足遅かった。

 

 ヒルドルブから放たれた焼夷榴弾がザクの目前で炸裂した。

 爆炎が一気に広がり、空間そのものを遮る火炎幕となって視界を塗り潰す。ザクの機体はその中に飲み込まれた。

 

『うわぁぁぁっ!! 機外1200℃です! 隊長ぉっ!!』

 

 パイロットの悲鳴が無線に響く。温度計の数値を叫ぶ声は、恐怖で裏返っていた。

 

『ジャクソン! ただのナパームだ! 止まるんじゃない!』

 

 指揮官の怒鳴り声が飛ぶが、判断は一瞬遅れていた。

 炎上し、足を止めたその機体に、間を置かず徹甲弾が撃ち込まれる。

 衝撃が内部で炸裂し、ザクは耐えきれず爆散した。

 

『ジャクソーンッ!!』

 

「隙だらけだっ!」

 

 部下に気を取られた隊長機に、間髪入れず機関砲を叩き込んだ。

 

『ぐあぁっ!?』

 

 銃口が火を噴き、連続する衝撃が敵機の装甲を削り取っていく。回避行動に移る暇も与えないまま、弾幕が機体各所に突き刺さった。

 隊長機は体勢を崩し、砂漠に倒れた。

 

『うおぉぉっ!!』

 

 最後のザクが背後からヒートホークで斬りかかってきた。

 振り向きざまに蹴りを叩き込み、ザクを転倒させる。間髪入れずコックピット目掛けてヒートホークを振り下ろした。

 

『がっ──!』

 

 刃越しにパイロットの絶命を感じ取る。

 

 これでザクは全滅。

 あとは61式戦車のみ。

 

 敵機が落としたザクマシンガンを拾い上げ、残る最後の1両となった61式戦車へ照準を定め、引き金を引いた。

 120mm弾が一直線に走り、車体前面に突き刺さる。装甲が捲れ上がり、次の瞬間、内部から爆炎が噴き出した。

 

 

(終わった……──っ!)

 

 

 終息したと判断した刹那、背筋を刺すような殺気が走った。

 振り返ると、仕留めたと思った隊長機が立ち上がり、こちらにヒートホークを振り下ろそうとしていた。

 

(まだ動けたのか?!)

 

 機関砲は取り回しはいいが、ザクマシンガンよりも威力は低い。

 実戦で使用するのは初めてということもあり、そのことを失念していた。

 

「くっ……しまっ……!!」

 

 即座に回避へ移ろうとしたが、足元の敵機の残骸に引っかかり、機体はバランスを崩して転倒してしまった。

 

 

(まずい──!!)

 

 

『惜しかったなぁっ!!』

 

 

 勝利を確信した嘲笑が無線越しに響く。

 しかし、振り下ろされる刃が、こちらに届くことは無かった。

 

 放たれた徹甲弾が隊長機を背後から貫く。

 鈍い衝撃とともに装甲が内側から弾け、振り上げられていたヒートホークが力を失って落下する。

 巨体はそのまま前のめりに崩れ、砂煙を巻き上げながら沈黙した。

 

 

(助かった……)

 

 

 僕はゆっくりと立ち上がり、煙の向こうを見据えた。

 乾いた風が吹き抜け、戦場に残った熱と煙を少しずつ押し流していく。

 やがて視界が開け、その向こうに輪郭が浮かび上がった。

 

 

 

 ──そこには、強烈な陽光を浴びながらこちらに向かってくる、陸の王者(ヒルドルブ)の姿があった。

 

 

 

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