戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第44話 神話の狼たち

 ソンネン少佐が着任してからというもの、戦車部隊は精力的に訓練に励んでいる。

 戦車部隊も当初は戸惑いも多かったようだが、日を追うごとに動きは洗練されていった。ピルケースを手放したソンネン少佐もまた、かつての輝きを取り戻しつつある。

 

 そして、1か月が過ぎた頃、ガルマ大佐の要望で再び、戦車部隊がMSを相手に模擬戦をすることになった。

 

 海兵隊も仮想敵(アグレッサー)として彼らの訓練に協力していたが、今回の模擬戦の相手は僕たちとは別の部隊だった。

 

「ゲラート少佐、今日は模擬戦をお受けしてくださって、ありがとうございます」

 

「礼には及ばんよ、ライゼン中尉。我々もここ最近は手持ち無沙汰だったからな」

 

 相手は闇夜のフェンリル隊──僕の知る限りでは北米最高のチームだ。

 

「それにしても……模擬戦は4対4で問題ないのか? 侮るわけではないが、戦車がMSと戦う際は数の優位が不可欠なはずだが……」

 

「いい勝負ができますよ」

 

 即答した僕に、ゲラート少佐は片眉を上げた。

 

「……ずいぶんと自信があるのだな。何か隠し玉があるのか?」

 

「はい。少なくとも、フェンリル隊の圧勝という形にはならないと思います」

 

「ほう……それは楽しみだ。最近は戦場に慣れてきたのか、ウチの若いのが少し慢心気味でな。鼻っ柱をへし折ってくれると助かる」

 

 穏やかな口調とは裏腹に、ゲラート少佐には明確な意図があるようだった。

 

 戦場は慣れてきた頃が一番危ない。緊張感や注意力が薄れたタイミングで、油断からミスや事故・トラブルが起こりやすいからだ。

 だからこそ、ここで一度叩き直す必要があるとゲラート少佐は考えているらしい。

 

 今回の模擬戦はガルマ大佐も見ている。もし、情けない姿を晒してしまえば、慢心など吹き飛んでしまうだろう。

 お偉方の前で惨敗するようではフェンリル隊の評価も下がってしまうが、部下のことを第一に考えるゲラート少佐はそんなことは気にも留めなかった。

 

 少佐の器の大きさに改めて尊敬の念を抱きつつ、無線でガルマ大佐に呼びかけた。

 

「ガルマ大佐。両隊共に配置につきました」

 

『うむ。では、さっそく始めてくれ』

 

 

 

*****

 

 

 

「勝利条件は相手の陣地の制圧か。セオリー通りなら攻撃と防御にチームを分けるべきだが……」

 

 ル・ローア少尉は戦場全体を見渡した。視線は冷静で、感情の揺らぎはほとんど見えない。

 そんな張り詰めた空気を破るように、フェンリル隊の新米たちが競い合うように一歩踏み出す。躊躇はなく、むしろ待ちかねていたかのような勢いだった。

 

「ル・ローア少尉! 自分は攻撃チームに志願します!」

 

「抜け駆けは許さないわよ、ニッキ! 私も志願します!」

 

「……やれやれ、相変わらず元気のいいヒヨッコたちだ」

 

 ニッキ少尉とヘープナー少尉の勢いに、オースティン軍曹は思わず肩をすくめた。前に出たがる若手たちの気概を否定する気はないが、同時にその危うさも理解しているのだろう。

 

「元気があるのは結構だが、戦車がMSを倒すには待ち伏せをするしかない。そのことはわかっているんだろうな?」

 

「もちろんです」

 

 つまり、待ち伏せを受ける攻撃チームの方が危険が大きいということだ。

 普段ならば、こういう役目は経験豊富なル・ローア少尉かオースティン軍曹が担うことが多い。

 しかし、今回は模擬戦。若い2人にチャンスを与えるのも悪くないとル・ローア少尉は判断した。

 

「いいだろう。やって見せろ」

 

「「ありがとうございます!」」

 

 成功すればそれでよし。仮に失敗しても、そこから得られる教訓は大きい。

 そう見込んでの采配だった。

 

 

 

 合図とともに模擬戦が始まる。

 

 

 

「勢い勇んで志願したものの、戦車相手じゃ勝ってもあまり自慢にはならないよな……」

 

「あら、随分と余裕じゃない。油断して足を引っ張らないでよね」

 

「わかってるよ、シャルロッテ。やるからには本気で勝ちに行くさ」

 

 ニッキ少尉とヘープナー少尉の2機は、センサーを注視しながら慎重に前進していた。

 

「ニッキ、センサーに反応があるわ」

 

「金属反応か……。数は?」

 

「複数。地面の下ね……伏せていると見て間違いないわ」

 

 マゼラアタックは通常の戦車と比べて、砲塔の位置が高い。

 それゆえに、待ち伏せをする場合は車体を塹壕に隠すことが多かった。

 

(待ち伏せだ)

 

 ニッキ少尉はすぐに結論を出した。

 戦車がMSを倒すには待ち伏せしかない、とル・ローア少尉は言った。まさに今がその状況だ。

 

「先手を取ろう。シャルロッテ、俺が上から攻撃するから援護してくれ」

 

「わかったわ」

 

「3……2……1……今だ!!」

 

 ニッキ少尉のザクがバーニアを吹かして高く飛び上がる。

 砲戦では高地を制した側が勝つ。今までの経験からニッキ少尉はそのことを学んでいた。

 金属反応があった地点に、上空からマシンガンを向ける。

 

 

 ──しかし、塹壕の中にあったのは戦車を模しただけの、タダの鉄屑だった。

 

 

「な……っ!? デコイ!?」

 

「──! ニッキ、退がりなさい!」

 

 ──人は成功体験からは容易に離れられない。

 

 かつて地雷原を跳躍し、連邦の戦車部隊を翻弄したあの戦いの記憶が、ニッキ少尉の脳裏に深く焼き付いてしまっていた。

 

 それゆえの軽率な判断、安直な跳躍。

 

 そんなミスを犯した彼を嘲笑うかのように、突如姿を現した3両のマゼラアタックが、ニッキ少尉のザクが着地した瞬間を狙って集中砲火を浴びせる。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 立て続けにペイント弾が着弾し、モニターが赤く染まった。

 

『ニッキ・ロベルト少尉機、撃墜判定!』

 

「嘘だろっ……!?」

 

 呆然とした声が無線に流れる。ニッキ少尉の機体は動きを止め、その場に膝をついた。

 

「よくもやってくれたわね!」

 

 ヘープナー少尉が即座に反応し、マシンガンを構えてマゼラアタック隊へ向ける。

 しかし次の瞬間、白い煙が一気に広がった。

 

「煙幕!?」

 

 スモークディスチャージャーだ。視界が白く塗り潰され、光学センサーが阻害される。

 

「センサーをサーマルに切り替え!」

 

 フェンリル隊のザクには様々なセンサー類が搭載されている。

 戦車部隊がこのような小細工をしてくることは、ヘープナー少尉にとって想定の範囲内だった。

 慣れた動作で熱源探知に切り替えると、煙の向こうから接近してくる反応が浮かび上がった。

 

「そこっ……!!」

 

 迷わずマシンガンを向け、引き金を引いた。

 ペイント弾が命中したのは間違いない。

 しかし──。

 

「……え?」

 

 煙が薄れた先に現れたのは、ペイント弾を浴びた砲塔の無い車体──マゼラベースだった。

 その瞬間、罠にかかった彼女を見下ろすかのように、頭上から影が差す。

 

「上……!?」

 

 気づいた時には遅かった。

 分離したマゼラトップが上空から砲撃を浴びせ、至近距離でヘープナー少尉のコックピットに直撃した。

 

「きゃっ……!!」

 

『シャルロッテ・ヘープナー少尉機、撃墜判定!』

 

 オペレーターの声が無情にも戦場に響き渡る。

 

「そ、そんな……」

 

 マゼラアタックが砲塔部分(マゼラトップ)車両部分(マゼラベース)に分離できることはヘープナー少尉も知ってはいた。

 しかし、マゼラトップの飛行可能時間はわずか五分。加えて飛行時の命中精度は著しく低く、実際の運用では通常の戦車と同様の扱いがなされるのが常である。

 それゆえに、戦車部隊がこのような奇策を用いてくることを、彼女は想定していなかった。

 

「嘘でしょ……」

 

 2機のMSがたった3両の戦車に倒されたという事実に、ヘープナー少尉は先ほどのニッキ少尉と同じく、呆然とするほかなかった。

 

 

 ──兵は詭道なり。

 

 

 かつて胸に刻んだはずの言葉が、慢心していた2人に重くのしかかった。

 

 

 

*****

 

 

 

 ニッキ少尉とヘープナー少尉がやられてしまったことは、防御チームにもすぐに伝わった。

 

「ヒヨッコどもはやられちまったようですな……」

 

「最近は調子に乗っていたからな。あの2人にはいい薬だろう」

 

 オースティン軍曹の呟きに、ル・ローア少尉は静かに頷いた。

 2人が撃墜されたことに動揺した様子はない。むしろ、予想通りの展開とでも言いたげだ。

 

「あいつらに油断があったとはいえ、まさか戦車でザクを倒すとはな……。さすがはガルマ大佐直属の部隊といったところか」

 

「どうします?」

 

「このままここで縮こまっているわけにもいくまい。ここは──」

 

「──少尉!」

 

 次の瞬間、長距離からの砲撃が一直線に飛来し、2機は反射的に機体を跳ねさせた。

 直後、つい先ほどまで2人が立っていた地点に、ペイント弾が着弾する。

 

「マット、散開しろ! 同じ場所に留まるな!」

 

「了解!」

 

 ル・ローア少尉とオースティン軍曹はすぐに次の行動に移った。低姿勢で滑るように移動し、地形の起伏を利用して砲線から外れる。

 無駄な動きは一切なく、すべてが生き残るための最適解だった。

 

「まさか、戦車が向こうから攻めてくるとは……!」

 

「よほど腕に自信があるようですなぁ!」

 

 ル・ローア少尉はセンサーを走査しながら、素早く頭を動かした。

 射撃の方角、弾道の角度、着弾の間隔──そこから逆算すれば、おおよその位置は絞れる。

 

「この地形だと待ち伏せに適した場所はこの地点だ。有効射程距離まで接近するぞ」

 

「了解!」

 

 2機は一斉に飛び出した。

 

「センサーに機影確認。あれか……!」

 

 丘の稜線の向こうから、巨大な輪郭が姿を現す。

 全長を目にした瞬間、オースティン軍曹が思わず声を上げた。

 

「でけぇ……! ありゃあ新型か? 主砲の口径もマゼラアタックとは比べものになりませんぜ!」

 

「あの機体、まさか……!」

 

 

 MSほどもある戦車。戦艦並みの主砲。

 YMT-05試作MT(モビルタンク)、ヒルドルブ。

 

 

 

『来たな……戦争を教えてやる』

 

 

 

 神話において「戦の狼」の名を冠する巨大戦車が、2人(フェンリル)の前に立ち塞がった。

 

 

 

 

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