戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第64話 力の使い方

「また攻撃というのは本当か!!」

 

 式典を抜け出して要塞の中枢たる指揮所へと足を踏み入れたドズル・ザビ中将は、副官であるラコック大佐に鋭い声で戦況の確認を求めた。

 

「はっ! 哨戒中の部隊並びに、無人のセンシング機器などに被害が出ております」

 

「ネズミどもめ……チョロチョロと……! そのような攻撃、ソロモンには無いに等しいわ!」

 

 ドズル中将はモニターを睨みつけながら、巨岩のような拳を激しく握り締めた。

 

「シンとガトーが出ているのだな?」

 

「はっ! それと、閣下。海兵隊が出撃許可を求めているのですが……」

 

「何? あの小僧どもが……?」

 

 ドズル中将は一瞬だけ驚いたように目を細め、次の瞬間、フッと不敵な笑みを漏らした。

 

「よかろう。ガルマの懐刀の力、見せてもらおうではないか」

 

「はっ、直ちに出撃許可を!」

 

 

 

*****

 

 

 

「出撃許可が下りた! 行くよ、みんな!」

 

「「了解!」」

 

 背部スラスターが凄まじい咆哮を上げ、僕のザクⅡ改は宇宙へと躍り出た。続いてブラウン、オルガ少尉のF2型が追従する。

 

「マツナガ大尉はすでに出撃されているようですね……」

 

「ガトー大尉たちも先行しているようです。僕たちも遅れてはいられませんね。すぐに合流しましょう!」

 

「敵がどこから仕掛けてくるかわからない。警戒を怠らないで」

 

「「了解!」」

 

 メインモニターの視線の先で、無数の光条と爆炎がチカチカと不気味に明滅し始めた。戦闘が始まったようだ。

 僕たちも急がなければ──。

 

『…っ……! ……に……るだと……?』

 

『は、…い……! …トー…尉!!』

 

 その時、通信回線に激しい電波ノイズに混じって飛び込んできたのは、先行していた第302哨戒中隊の焦燥した声だった。

 

 

(何だ? 何が起こっている?)

 

 

 あのガトー大尉が戦場にいる以上、そう簡単に窮地に陥る事態になることはあり得ないはずだ。

 ……そのはずなのに、僕の直感は先ほどからずっとけたたましく警告の鐘を鳴らし続けていた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──時を少し遡る。

 

「雑魚どもが……手間ばかりをかけさせる」

 

 アナベル・ガトー大尉は執拗に向かってくる連邦軍のセイバーフィッシュを次々と撃ち落としながら、忌々しげに舌打ちを漏らしていた。

 だが、その不快感は単に敵の手数が多いというだけのものではなかった。

 ガトーほどの武人ともなれば、戦場の空気の微細な変化を察知できる。今回の襲撃はこれまでの単なる嫌がらせやゲリラ戦の類とは、明らかに毛色が違っていた。

 

「敵の根城さえわかれば、すぐにでも一網打尽にしてくれるものを──……何っ!?」

 

 突如、機体の直上から強烈な二筋の閃光が降り注いだ。

 網膜が捉えるより早く、卓越した本能で操縦桿を捻り、機体を強引に反転させて熱線を回避する。

 

「奴らか……! 性懲りもなく!」

 

 網膜を焼く閃光の向こう側──暗闇を切り裂いて再び姿を現したのは、例の3機の連邦軍新型戦闘機だった。

 

『いきなりババを引いたってか! ソロモンのエース様のお出ましかよ!』

 

『かえって好都合だ。例の手を使うぞ。2人ともやれるな?』

 

『マジかよ! 戦闘中にぶっつけ本番だぜ!?』

 

(……! 何だ? 奴ら、何を企んでいる……!?)

 

 ガトー大尉の戦術眼が、不気味に機動する3つの光点が仕掛けようとしている、未知の策略を警戒していた。

 

「どのような小細工を弄するつもりかは知らんが、その隙を与えねばいいだけのこと……!」

 

 ガトー大尉が高機動型ザクの推進力を爆発させ、新型機の一角へと肉薄しようとした。

 しかし、それを阻むように、周囲のセイバーフィッシュ群が捨て身の対空支援砲火で立ちはだかる。

 その隙に3機の新型機は狡猾に岩礁デブリの影へと身を隠してしまった。

 

「くっ……! 岩礁に隠れるだと……?」

 

『レーザーサーチャー同調! Vファイターモード、ボルトイン!』

 

 暗礁の影から飛び出した3つの機影が吸い込まれるように接近し、完全に一つへと重なり合っていく。

 

 機首を構成するGシュライク。機体上部へとドッキングするGイグニス。そして機体下部を受け持つGアトラス。

 熱核融合炉を持つ3機の戦闘機が結合し、重戦闘機『プロトGファイター』の真の姿が宇宙に顕現した。

 

 分離状態では多少性能の上がった戦闘機に過ぎなかった歪な鳥たちは、合体という狂気のシステムを経て、ザクを遥かに凌駕する圧倒的な大火力と超機動の兵器へと変貌を遂げた。

 

「は、速い……! ガトー大尉!」

 

「……!!」

 

 その瞬間、高機動型ザクⅡの追従限界を遥かに上回る速度で飛来したプロトGファイターのビーム砲が、ガトー大尉の機体を無慈悲に貫いた。

 

「ガトー大尉!!」

 

 カリウスの絶叫が戦場に響き渡る。

 最悪の事態を想像しかけるが、ガトー大尉はかろうじて直撃を回避することができたようだった。

 しかし──。

 

「──抜かった……!」

 

 激しい閃光の中から抉り出されたガトー大尉の高機動型ザクⅡは、右肩のシールドごと、右腕が完全に消失していた。

 ソロモンの守護者として名を馳せた彼が、ここまで手酷いダメージを負ったことは過去に一度もない。

 ひとまず、ガトー大尉が無事だったことにカリウスは安堵するが、連邦の猛攻はそれを許さなかった。

 

『これがVファイターモード……! Gイグニスの時とはパワーが段違いだぜ!』

 

『これなら相手が高機動型ザクⅡ(06R)だろうが何だろうが……!』

 

『火器管制はこちらでやる! 貴様らで操縦と索敵をやってみせろ!』

 

 ソロモンの海を猛烈なスピードで駆けるプロトGファイター。

 鋭角かつ爆発的な軌道を描きながら、ソロモンの守備隊に迫る。

 

「戦闘機風情が……!」

 

「ソロモンには近づけさせん!」

 

 周囲のザクが一斉にマシンガンを連射する。放たれた実弾の弾幕が、突撃する巨大な機影を包み込もうとした。

 しかし、プロトGファイターはその弾幕を嘲笑うかのように、信じがたい軌道で宙を滑った。

 

「なっ……!?」

 

 トリガーを引いていたザクのパイロットが、驚愕に目を見開く。その隙をついて、マシンガンを構えたままのザクⅡの胴体をビーム砲が正面から撃ち抜いた。

 超高出力の熱線の前では、MSの装甲など存在しないも同然だった。光に貫かれたザクは一瞬にして爆散する。

 

「な、何だアレは!? うわぁぁぁーっ!!」

 

「は、速すぎる……! こちらの攻撃が当たらない! た、隊長ぉぉぉっ!!」

 

 高速の機体から放たれる実体弾の連装キャノン砲やロケット・ランチャーの飽和攻撃が、周囲の友軍を瞬く間に蹂躙していく。

 宇宙(そら)では無敵を誇っていたMSが、たった1機の重戦闘機によって完全に駆逐されていった。

 

「ば、バカな……!」

 

 ジオン軍でも屈指の練度を誇る宇宙攻撃軍。ドズル中将の指揮のもと、数々の戦線を戦い抜いてきた勇士たちが、ガトー大尉の目の前で一瞬にしてその命を散らしていく。

 悪夢のような光景に呆然とする中、プロトGファイターが再びガトー大尉に迫ってくる。

 

『トドメを刺してやるぜ! ソロモンのエース!』

 

「くっ……!」

 

 カリウスがこちらに近づけまいとマシンガンで必死に応戦するが、高速で接近するプロトGファイターには当たらない。

 

「っ……! ぬおおおぉぉぉーーっ!!」

 

「……! 大尉! ガトー大尉! ヒートホークのみでは無茶です!」

 

 右腕とともにマシンガンを失ったガトー大尉のザクが、ヒートホークを片手にプロトGファイターに突っ込んでいく。

 カリウスは止めようとするが、プロトGファイターに目を奪われた隙を突いて、周囲のセイバーフィッシュが一気に攻勢を仕掛けてくる。

 

「くそっ……! 大尉!」

 

『奴が1人で突っ込んでくるぞ!』

 

『へっ……! バカが! 返り討ちにしてやるぜ!』

 

「舐めるなっ!!」

 

 1機で特攻を仕掛けてきたガトー大尉目掛けて、プロトGファイターのビーム砲が火を吹く。

 ガトー大尉は至近距離で放たれる灼熱の火線をスレスレで潜り抜けながら、一気に接近する。

 

『なっ……今のを避けただと!?』

 

『回避しろ! コーマック!!』

 

「斬るっ!!」

 

 凄まじい相対速度で交錯する一瞬、ガトー大尉の放ったヒートホークは、プロトGファイターの翼の先端部分を切り裂いた。

 

『……! マジかよ!?』

 

『ただの悪足掻きだ! 十分に引き付けろ! 今度こそ仕留めるぞ!』

 

「もう一度……!」

 

 2つの機体が弧を描きながら反転し、再び激突する。

 

「差し違えてでも、貴様を討つ!!」

 

『テメェはここで消えやがれっ!!』

 

 交錯する瞬間、索敵を担当していたホープ少尉が新たな敵の接近をキャッチし、声を上げた。

 

『……! 回避だ! コーマックの旦那!』

 

「何っ!?」

 

 別方向からの鋭い実弾の狙撃にプロトGファイターは直前で軌道を変え、ガトー大尉の捨て身の攻撃は空振りに終わる。

 そちらを見やると、白色に塗装された高機動型ザクⅡが急速に接近してくるのがわかった。

 

「マツナガめ……余計な事を……!」

 

『あの白いツノ付き……ルウムでレールガンを潰した奴じゃねえのか!?』

 

 マツナガ大尉のザクがマシンガンでプロトGファイターに攻撃を仕掛ける。

 プロトGファイターは超機動でそれを回避し、即座にビーム砲で反撃した。

 

『くそっ……! こいつも手練かよ!』

 

「想像以上に……!」

 

 紙一重でビームを回避しながら、マツナガ大尉は表情を強張らせた。

 強敵であることは覚悟していたが、戦闘機としての加速力が桁違いだ。これではどれだけ撃っても、マシンガンでは捉えきれない。

 

『噂の白狼か……! ドズル・ザビの片腕、ここでもぎ取ってやる!』

 

「くっ……!」

 

 自分1人では手に余る。

 しかし、通常のザクではこの重戦闘機には歯が立たない。

 同じR型を駆るガトー大尉はすでに満身創痍。

 

(せめてラル大尉のような、背中を任せられるパイロットがここにいてくれたら……!)

 

 マツナガ大尉の焦りを見透かしてか、プロトGファイターは猛スピードで突っ込んでくる。

 ガトー大尉のように、一か八かで特攻を仕掛けるしかないのかと逡巡していると、さらに別方向からプロトGファイターに攻撃を仕掛ける者が現れた。

 

『チッ……! また増援かよ!』

 

 プロトGファイターは咄嗟に推進方向を変えて攻撃を回避する。

 その射線の先には、ソロモンに1機しか存在しない最新鋭機の姿があった。

 

『あのザク……! 民間船を守ってた奴か!』

 

「FZ型……! ライゼン!」

 

 

 

*****

 

 

 

「速い……! 連邦の新型か?」

 

「貨客船を襲ってきた奴に似てるわね……。でも、パワーが段違いだわ!」

 

(あの戦闘機……あれがプレッシャーの正体か)

 

 ようやく戦場に到着することができたが、どうやら、戦況はかなり逼迫しているらしい。

 周囲に漂う友軍機の残骸が、それを無言で物語っていた。

 

「僕はマツナガ大尉の援護をする。ブラウンとオルガ少尉はガトー大尉たちの方を頼む」

 

「「了解!」」

 

『チッ……! 先に奴を仕留めるぞ!』

 

「ライゼン、気をつけろ!」

 

 マツナガ大尉の警告とともに、連装キャノン砲が猛烈な勢いでこちらに向けて放たれた。

 

 

(──見える。この砲撃も、()()()()()()()……)

 

 

 迫りくる実体弾を最小限の動きで回避する。

 直後、時間差で強烈なメガ粒子砲の熱線が飛んでくるが、それすらも()()()()()()()()()()()()()()、ザクⅡ改のスラスターを真横へと一瞬だけ噴射して完璧に回避してみせた。

 

 絶対の自信を持って放った、時間差で迫る光条。並みのパイロットなら貫かれていたであろう一撃を、来るのがわかっていたかのように回避されたことに、オスカーたちは驚愕する。

 

『何だ、あのザクは!?』

 

『あれもエースなのかよ!?』

 

『怯むな! もう一度だ!』

 

「やらせん!」

 

 マツナガ大尉の高機動型ザクⅡが、再び僕を狙おうとした重戦闘機に攻撃を仕掛ける。

 

『チィッ……! 邪魔すんじゃねえ!』

 

 マツナガ大尉の猛攻に敵の焦燥を感じ取った僕は、その隙をついて敵が通るであろうコースに向けてマシンガンを発射した。

 高速で移動する重戦闘機の巨大な主翼を、僕の放った弾丸が確実に掠め、火花を散らせた。

 

『っ──! 当てられただと!?』

 

『コーマック、タダのまぐれ当たりだ! プロトGファイターの運動性を信じろ! この速度ならそうそう当たることは無い!』

 

 重戦闘機は急激な上昇へと転じた。まるで慣性を無視したかのように鋭角に折れ曲がり、マツナガ大尉のさらなる追撃を強引に振り切る。

 あのスピードで逃げられてはマシンガンは当たらない。

 チャンスがあるとすれば、相手がこちらを仕留めようと直線的に向かってくる、攻撃の瞬間しかない。

 

 

(さっきの射撃は失敗だった。思い出せ、あの時の感覚を──)

 

 

 まるで、宇宙(そら)の全てを見通すかのような全能感。

 あのフラナガン機関で得た感覚を再現できれば、敵がどれほど常識外れの速度で動こうが、関係は無い。

 

 

『コーマック、そのまま突っ込め! メガ粒子砲のチャージ完了だ!』

 

『了解! 行くぜっ!!』

 

「──避けろ、ライゼン!」

 

 

 目の前の敵ではなく、未来の敵の姿を視認する。

 その座標は、◾️◾️が示してくれる。

 

 

「──見えた」

 

 

 ビーム砲が放たれる、まさにコンマ数秒前。

 僕の機体はすでにその射線から完全に逸れていた。

 至近距離を掠めていく巨大な熱線。その眩い光に照らされながら、僕は引き金を引いた。

 

 

『なっ──!』

 

 

 放たれた実弾の連射が重戦闘機の装甲を激しく抉り取る。

 火花を散らしながら姿勢を崩した重戦闘機は、その圧倒的な速度ゆえに、自らの慣性を制御しきれず無様に宇宙を滑った。

 

 

「──……浅かったか」

 

 

 手応えはあったが、90mm弾は敵の堅牢な装甲を完全には貫通しきれていなかった。あの機動性で、かつMS並みの装甲を保持しているとなれば、やはり一筋縄ではいかないようだ。

 

 

『おい、どうするよ! さすがにこれ以上はきついぜ!』

 

『……潮時だな。このまま戦域を離脱だ。上にその気があるのなら、まだチャンスは残っている』

 

『くそっ……!』

 

 

 重戦闘機は激しい白煙を吹き出しながら、そのまま暗礁宙域の奥へと後退していった。

 

 

「……退いてくれたか。助かった、ライゼン」

 

「いえ、来るのが遅れて申し訳ありません」

 

「謝らないでくれ。本来ならば、君は──」

 

「──くそっ!!」

 

 その時、通信回線からガトー大尉の呪詛を吐くような、悔しそうな声が響いた。

 

「何たる不覚! あのようなゲテモノに後れを取るとは……!」

 

「ガトー大尉。あなたたちがいてくれて助かりました。親衛隊だけではどうなっていたか……」

 

「勝手に首を突っ込んでおきながら、抜け抜けと……! 次はこうはいかんぞ!」

 

 マツナガ大尉が静かにフォローを入れるが、誇りを傷つけられたガトー大尉の怒りは全く収まる気配が無い。

 もしかしたら、この2人は本質的な部分で水と油なのかもしれない。

 ガトー大尉は吐き捨てるように通信を切ると、そのままソロモンへと帰還していった。

 

「次……か。こんな戦いを、いつまで……」

 

 マツナガ大尉は遠く煌めく青い地球を見つめながら、静かに呟いた。

 その言葉は、僕の心にも深く、暗い影を落としていった。

 

 

 




 連邦の機体は基本的に量産機よりも試作機(プロトタイプ)の方が性能が上なので、プロトGファイターはサポートメカとしての側面が強い本家Gファイターよりも、戦闘面では高性能だと思っています。
 その上、3人乗り+マグネット・コーティングで強化もされているため、本作では一年戦争における最強の戦闘機と仮定しております。
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