戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第65話 ジオンの心臓

「……確かなのだな、ラコック」

 

「はっ! 軌道予測から、このソロモンを目指しているのは間違いないかと」

 

「連邦め……ここに来て艦隊の派遣だと?」

 

 連邦の奇襲というトラブルはあったものの、ミネバ・ザビ殿下の生誕祭は無事にその全行程を終了していた。

 しかし、本国から招かれたデギン公王やキシリア少将をはじめとする賓客たちが、サイド3への帰路に就くよりも早く、地球連邦軍の艦隊がこのソロモンへ向けて侵攻を開始したとの報が飛び込んできたのだ。

 

「如何されるのです。父上がサイド3にお戻りになるのに、グレート・デギンの出向を急がせた方がよいのでは?」

 

 キシリア少将の問いかけに、ドズル中将はしばし険しい表情で思案に耽ったが、やがて頑強な首を左右に振った。

 

「……それが連邦の狙いなのかもな。我々の目を引き付けた上で、親父の帰路をゲリラに襲わせようという魂胆かもしれん。ランバ・ラルやシャアたちが各地でゲリラ討伐をしているとはいえ、油断はできんからな」

 

「グラナダから増援を呼ぶことも可能ですが?」

 

「馬鹿を言え。それを待つ間、奴らを蹴散らしてしまえば同じことよ。このソロモンの中ほど安全な場所は無い。全ての障害を排除した上で、親父にはゆっくりと帰路に就いてもらうさ。ただ──」

 

 ドズル中将はそこで一拍の間を置いた後、巨躯を揺らしてキシリア少将を真っ正面から見据えた。

 

「──海兵隊。あいつらの力は貸してもらいたいと思っている。シンやガトーが手こずるほどの相手だ。念には念を入れたい。姉上には些か借りを作ってしまうことになるが……」

 

「彼らはガルマの部下です。私に許可を取る必要などありますまい」

 

「ガルマに命じて、あいつらをここに派遣させたのは姉上だろう。マレーネの妹の護衛としてな。

姉上が何を企んでいるのかをここで勘繰る気は無いし、俺が言えた義理では無いかもしれんが……あまりあいつらを政治的な厄介ごとに巻き込まないでやってくれ」

 

「ふっ……随分と彼らを気に入ったようで……。先の戦闘の働きをそんなにも評価しておいでか?」

 

「それもある。だが、それ以前に、シンから海兵隊の話は聞いていた。グラナダで世話になったとな……」

 

「ほう……。そういえば、マ・クベの統合整備計画にも当初は難色を示していたにもかかわらず、マツナガ大尉の説得であっさりと意見を翻したとか……。随分と彼を信頼しているようですな」

 

「……()()は『数』だが、()()は『兵站』だと言ってシンを説き伏せたと聞いたのでな。その言葉の通り、統合整備計画の恩恵で補給線が伸び切っていた戦線は安定しつつある。……俺が間違っていたと、認めざるをえまい」

 

 誰よりも頑固な弟が、過ちを素直に認めたことにキシリア少将は目を見開いた。

 ゼナ殿との間に娘を授かり、1人の父親になったことで、心境に大きな変化を迎えたのか──そんな憶測が脳裏をよぎる。

 

(もし、自分も人の親になり、母親という立場になれば……何かが変わるのだろうか……)

 

 過去に見た理想(ダイクン)の親子の姿を思い出したが、キシリア少将はすぐに我に返った。

 一瞬、奇妙な静寂が訪れたことにドズル中将が怪訝な顔をするが、その沈黙をごまかすかのようにキシリア少将が軽口を叩く。

 

「その言葉は、ぜひマ・クベに直接言ってやってほしいものですな」

 

「フン! あ奴に頭を下げるなど、死んでもごめんだ!」

 

 キシリア少将はマスクの下で不敵な笑みを浮かべ、それ以上の追及をすることなく身を翻した。

 その背中を見送りながら、ドズル中将は重々しい溜め息を深く吐き出すのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──宇宙要塞ソロモン近海では、連邦艦隊の迎撃のために、コンスコン少将率いるジオン公国軍の艦隊が次々と出撃を開始していた。

 

「肝心な時に出遅れるとは……!」

 

 アナベル・ガトー大尉は修理中の愛機を見つめながら、悔しさに拳を握り締めた。

 ソロモンがジオンを護る砦になると決まった時から、この海とともにあるとガトー大尉は誓いを立てていた。

 海図を全て頭に叩き込み、岩礁の間を目隠しで飛ぶことも出来る程に、あらゆる脅威への対策を積み重ねてきたという自負が彼にはあった。

 しかし──。

 

「それを、あのような輩に……!」

 

 屈辱だった。

 先の戦闘では無様を晒し、あまつさえ最も助けられたくなかった相手に命を救われた。

 その事実が、彼の誇り高き武人の魂を激しく苛んでいた。

 

「ガトー大尉……」

 

 そんな彼の背中に、カリウスが静かに声を掛けた。

 

「カリウスか……どうした?」

 

「はい。先ほどキシリア閣下から、海兵隊がソロモンの防衛に任に就くとの通達がありました」

 

「何だと……? 海兵隊は地球に帰還するのではなかったのか?」

 

 ガトー大尉の目つきが刃のように鋭くなる。その瞳の奥には、傷ついた猛獣のような、ひりつくほどの自尊心と焦燥が渦巻いていた。

 

「先の戦闘もそうだったが、何故、地球方面軍の所属である海兵隊が出てくるのだ。あの者たちの上官はガルマ大佐であろう。一刻も早く地球に帰還し、ガルマ大佐をお助けせねばならぬ立場のはず……。いくら、キシリア閣下のご命令と言えど、毅然とした態度で断るべきではないのか?」

 

「……ガトー大尉。海兵隊のソロモン防衛への参入は、ドズル閣下から直々にキシリア閣下へ頼み込まれたようです」

 

「なっ……!?」

 

 ガトー大尉は言葉を失い、大きく目を見開いた。

 ソロモンの防衛線に穴をあけたあの連邦の重戦闘機。それを退けた海兵隊の力を、主であるドズル中将が認め、頼りにした。

 姉とはいえ、普段はいがみ合っている、キシリア少将に頭を下げてまで……。

 その事実が、ガトー大尉の胸に更なる衝撃となって突き刺さる。

 

(宇宙攻撃軍の牙城たるこのソロモンを、わざわざ地球方面軍の……それも、海兵隊の手を借りねば守れぬと、ドズル閣下は仰るのか……! そこまで、我らの不甲斐なさを憂慮しておいでというのか……!)

 

 ガトー大尉の胸中に渦巻く、血を吐くような悔恨の念。

 そのひりつくような自尊心の軋みを、カリウスは痛いほど敏感に感じ取っていた。

 

 

 

*****

 

 

 

「ライゼン中尉、この度はソロモンの防衛に力を貸してくださり、ありがとうございます。隊長に代わり、礼を言います」

 

 僕たち海兵隊は、急遽親衛隊とともにソロモンの防衛の任に就くことになった。

 今、僕たちの前で居住まいを正して敬礼しているのは、マツナガ大尉の右腕である親衛隊のマイヤー少尉だった。

 

「お気になさらず、マイヤー少尉。……もしかしてマツナガ大尉は、ずっとザクのコックピットの中なんですか?」

 

「ええ、準待機がかかってから、ずっとあの調子です。敵の奇襲が気になっているようですね」

 

 マツナガ大尉の懸念は痛いほどよくわかった。僕も先ほどから、胸騒ぎがどうしても収まらずにいるのだ。

 

「そりゃあ、別動隊はいるでしょうけど……。よほどの大部隊でもない限り、ソロモンを墜とすなんて不可能ではないでしょうか?」

 

「オルガ少尉。僕が思うに、おそらく、連邦の目的はソロモンの攻略じゃないと思う」

 

 ソロモンに攻めてきている艦隊は明らかに規模が小さい。何か別の狙いがあるとみて間違いないだろう。

 

「攻略じゃないって……まさか、公王陛下やキシリア閣下、あるいはドズル閣下を……?」

 

「そんな……。何て卑怯な奴らなんだ……!」

 

 ブラウンが憤っているが、戦場におけるそれは、むしろ定石とも言える狙いだ。

 ジオン公国の最高権威であるデギン公王と、軍の中枢を担うドズル中将やキシリア少将が一堂に会するこの瞬間こそ、連邦軍にとって戦況を文字通り一撃で覆す最大の好機に他ならない。

 

「……だからこそ、僕たちが盾にならなきゃいけない。あの重戦闘機が再び防衛線の隙間を突いて要塞へ、あるいは公王陛下のグレート・デギンへ特攻を仕掛けてくる可能性は極めて高い。僕たちで、ザビ家とソロモンを守り抜くんだ」

 

「「了解!」」

 

 ガルマ大佐から託された信頼、そしてドズル閣下から受け取った真摯な言葉。それらすべてを胸に抱き、僕たちは愛機のコックピットに向かった。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──地球連邦軍コロンブス級艦内。

 

「ルナツーもどうやら本気のようだな。上も下も考えることは同じというわけだ」

 

 ルナツーから派遣されてきた艦隊を見つめながら、オスカーは静かに呟いた。

 連邦軍上層部もまた、ザビ家の中枢がソロモンに集結しているこの絶対的な好機を、決して逃すつもりは無いのだと確信していた。

 

「確かにかなりまとまった戦力のようだが、これだけで本当にソロモンが墜とせるもんかね?」

 

 ホープ・ギャロウェイ少尉は依然として楽観視できなかった。

 ソロモン要塞を正面から陥落させるには、明らかにこの艦隊戦力だけでは足りていない。

 今の連邦にMSが無い以上、圧倒的にこちらが不利なのは明白だった。

 

「まっ……反対はしねえけどよ。これで作戦が成功して、停戦交渉なんか始まっちまったら、ジャブローで造ってるっていうガンダムは用無しになっちまうな。俺はそいつでザクをぶちのめすのをそれなりに楽しみにしてたんだがなぁ……」

 

 ホープ少尉の気楽な言葉を聞いた瞬間、オスカーの瞳に氷のような冷徹な光が宿り、彼を鋭く射すくめた。

 

「な、何だよ?」

 

 明確な理由がわからず、ホープ少尉は思わず冷や汗をかいて困惑する。

 

「……俺はガンダムなんてごめんだね」

 

 オスカーはホープ少尉から視線を外し、窓から果てしない宇宙(そら)を見つめた。

 

「今の戦局の膠着は、いわば連邦がジオンと同等の軍備を整えるための時間稼ぎだ。このままいけば近いうちに両軍が大規模な決戦を迎えるのは間違いないだろう」

 

 周囲の宇宙(そら)にはジオンの侵攻によって破壊されたコロニーの残骸が漂っている。

 一週間戦争では人類の半数が死に絶えた。MSという悪魔の兵器で殺し合うことを覚えた人類が、これからどんな破滅の未来を辿るのか、オスカーには想像することすら恐ろしかった。

 

「ジオンが開戦に踏み切ったのはザクの有用性で勝てると思ったからだ。MSの存在自体が起きなくてもよかった騒乱を安易に呼び込む。ガンダムは俺たちにとってのプロメテウスの火になるかもしれんのだ」

 

 次の作戦が成功すれば、そんな地獄のような未来を、未然に防ぐことができるかもしれない。

 わずかでも可能性があるのなら、それに己の全てを賭けてみたくもなる。オスカーは冷たい決意を胸に、静かに拳を握りしめた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──地球連邦軍マゼラン級艦内。

 

「……無重力というのは無粋で好かんな。やはり紅茶は重力下で飲むに限る」

 

 戦争が始まってからというもの、いつも決まった時間に飲む紅茶は、無重力空間ゆえに自前のティーセットが使えず、チューブから味気なく啜ることが多くなってしまった。

 しかし、ジオンとの戦争が始まって9か月。長く続いた膠着を打破する絶好の機会が巡ってきた以上、文句は言っていられない。

 

「ソロモンにザビ家の重鎮が3人。彼らを全て討ち取れば、ジオンは大きな打撃を受ける」

 

 ライゼン中尉たちの推測通り、連邦軍艦隊の真の狙いは要塞の完全攻略ではなく、ザビ家の首級にあった。

 妻子を前線に住まわせる愚かな将と、孫の顔を見にのこのこと出張ってきた老いた公王。

 

「その自信が愚かな傲慢であったと理解させねばなるまい。このグリーン・ワイアットの手によってな」

 

 連邦艦隊の指揮官である、グリーン・ワイアット中将は確信していた。

 ザビ家という独裁の首魁さえここで一網打尽にすれば、偽りの大義に惑わされているスペースノイドどもも、必ずや目を覚ます。

 ジオンが「悪」であり、地球連邦こそが「正義」なのだという、この世界の絶対の真理を思い出すだろう。

 

「ジオン艦隊、約20隻、なおも接近中! 我が艦隊の倍近くの戦力です!」

 

「ソロモンのグレート・デギンの動向は?」

 

「停泊中と思われる第二スペースゲートに動きは見られません」

 

「公王め……。首を洗って待っているがよい。レビルの反抗作戦を待つまでもない。我々の手によってこの戦争を終わらせるのだ。全艦、砲雷撃戦、用意!」

 

 無知な民衆を煽動し、己の野心のために戦火を拡大する邪悪の根源を断つ。

 

 

 

「──『アンタレス作戦』を開始する。目標、ソロモン並び正面のジオン艦隊!」

 

 

 

 標的はただ1つ。

 ジオンの心臓(アンタレス)である、ザビ家の首級のみ。

 

 

 




 ワイアットってREBELLIONではバーミンガムのブリッジで、ティーカップ使って紅茶飲んでるんですよね。宇宙空間なのに……。
 あれって、どういう仕組み何でしょうか? 知ってる人がいたら教えてほしいです。
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