戦犯にはなりたくない! 作:蒼天
「コンスコン艦隊、追撃を開始! 連邦艦隊と第3防衛ラインの外側で交戦中!」
ドズル中将から防衛指揮を任されたラコック大佐は、刻一刻と変化する戦況図を静かに見守っていた。
メインモニターの戦況は、大方の予想通りこちらが圧倒的優位に進んでいる。
当然と言えば当然だった。あの程度の規模の急造艦隊に後れを取るコンスコン少将ではない。
しかし──。
「ロブロイ岩礁付近に連邦のセイバーフィッシュ隊です!」
「ツラギ哨戒区からもです! ソロモンに接近する戦闘機部隊多数!」
「正面の艦隊は囮……? 連邦はどこまで本気なのだ。この程度の戦力でソロモンに攻撃など……」
要塞のレーダー網の死角を縫うようにして、複数の暗礁宙域から同時に湧き出してきた戦闘機の群れ。
その不可解な編隊機動の不気味さに、彼の指揮官としての本能が、激しい警告を発し始めていた。
「親衛隊と海兵隊を出せ! 敵をソロモンに近づけさせるな!」
*****
『雑魚に俺たちを止められるかよ! ロックンロールだ!!』
凄まじい速度でソロモンへ向かう重戦闘機──プロトGファイターが、迎撃に出たザクを次々と撃破していく。
『ハハハハ! MSなんかなくとも、こいつで十分いけるぜ!』
『調子のいい奴だ。だが、奴らは見逃してはくれんようだぞ』
『へっ! そうらしいな……。新型のザクに白いザク……テメエらを倒してソロモンを叩く!』
「やらせはしない! 行くぞ、ライゼン!」
「了解!」
マツナガ大尉の高機動型ザクⅡに追従し、僕もザクⅡ改を重戦闘機に向かって一直線に加速する。
他の友軍機も向かっていくが──。
『邪魔すんな、三下がぁっ!!』
メガ粒子砲の閃光が宇宙を裂き、友軍機は反撃の間さえ与えられずに一瞬で撃破されていく。
「一般機は奴に手を出すな! 自分とライゼンに任せればいい!」
「オルガ少尉とブラウンはセイバーフィッシュを抑えてくれ!」
「了解です!」
「ライゼン中尉、マツナガ大尉、気を付けてくださいね!」
激しいミノフスキー粒子散布下のノイズを切り裂き、僕たちはソロモンの明暗を分ける決戦へと、全開のスラスターで突入した。
「連邦にR型と渡り合える機体がいたとはな……。見てることしかできないってのはさすがに酷だな。大尉と一緒に戦える、
「マイヤー少尉……私も同じ気持ちです。もっと、私に力があれば……」
オルガ少尉は操縦桿を握る手にぐっと力を込めた。自分の無力さに胸を焦がしながらも、今はその悔しさを全て、迫りくる連邦の戦闘機群への怒りへと変えるしかなかった。
仲間たちに見送られながら、僕とマツナガ大尉は重戦闘機に追い縋る。
『ぐっ……!』
『しつこいってもんじゃねえぞ、あの野郎……!』
僕とマツナガ大尉のマシンガンが交差する。
鋭い弾道が重戦闘機の堅牢な装甲を掠めて火花を散らすも、決定的な有効打には至らない。
やはり、あのスピードで逃げに徹されては、こちらには手の打ちようが無い。
以前の戦闘のように、相手がこちらを仕留めようと、攻撃してきた瞬間を狙うしかないだろう。
そう覚悟を決めた、その時──後ろを必死に追いかける僕たちの鼻先に向けて、重戦闘機が何かを射出した。
直後、僕とマツナガ大尉のメインモニターが、網膜を刺す圧倒的な白い光に覆いつくされた。
「……しまった! 目潰しか!」
『さすがだぜ、ホープ!』
『やっちまえ、旦那!』
『まずは貴様だ! 新型っ……!』
閃光弾の光の向こう側で、重戦闘機が強烈な制動をかけて反転し、メガ粒子砲の砲口が、視界を奪われた僕のザクⅡ改を冷酷にロックオンする。
白一色に染まったメインモニター。この状態では敵がどこから撃ってくるかは全くわからない。
すなわち、
しかし──今の僕には、視界が塞がれていたにもかかわらず、
「──そこだっ!!」
僕はメインモニターの映像を頼りにすることを完全に放棄し、直感が告げる未来の射線から機体をスライドさせながら、脳裏に直接焼き付いた剥き出しの座標へと、90mmマシンガンを叩き込んだ。
『な、何だとっ……!?』
オスカーは驚愕した。
完全に視界を奪い、絶対の確信を持って放った至近距離からの射撃。
それを、あの新型のザクは弾を放つコンマ数秒前、
そればかりか、目潰しを食らっているはずの状態で、こちらのビーム砲へ的確にカウンターをねじ込んできたのだ。
『旦那! Gアトラスのビーム砲がやられちまったぞ!』
『落ち着け! やられたのは片方だけだ! もう片方が無事なら、まだやれる!』
「くっ……! また仕留め損ねたか……!」
さすがに視界が利かない状態では奴を仕留めることはできなかった。
僕のマシンガンはビーム砲の片側を撃ち抜くことはできたが、もう片方が残っている。
だが、これで敵の攻撃力は半減したはずだ。
しかも、こちらに近づいてくる強大なプレッシャー……これで、状況は大分優位になる。
「連邦め……! 先の戦での借りは返させてもらう!!」
右肩のシールドを欠き、応急処置で無理やり剥き出しの右腕を取り付けた青と緑の高機動型ザクⅡ──アナベル・ガトー大尉が戦域へと猛然と参戦した。
「ガトー大尉!? そんな腕を付け直しただけの機体では……!」
「貴様らこそ、1機相手にいつまで遊んでいるつもりだ! 前回のような手は二度と食わん! この程度の連中など……!」
マツナガ大尉の声を一蹴し、重戦闘機に攻撃を仕掛けるガトー大尉。
その動きは機体が万全では無いとは思わせないほど、苛烈極まりないものだった。
『おいおい、ソロモンのエースまで来ちまったぞ! ヤベェんじゃねえか!?』
『慌てるな! チャンスは必ず──……何? グレート・デギンが?』
次の瞬間、重戦闘機は僕たちとのを戦闘を中断し、ソロモン要塞の第二スペースゲート方向へ向けて、単機で猛烈な突撃を開始した。
(ソロモンに向かっている? たった1機でどうするつもりだ?)
「何? 第二スペースゲートからグレート・デギンが出港しただと!?」
司令部と緊急通信を行っていたマツナガ大尉の緊迫した声が響き、僕たちは敵の真の狙いを完全に理解した。
『おいおいおい! 公王の野郎、俺たちにビビって逃げ出そうってんじゃねえだろうな?』
『理由はわからんが、チャンスだ。こっちはマグネット・コーティングを施しているんだ。この機体の足なら後ろの連中を振り切ることも可能なはずだ』
『へっ! いつまでも足止め食ってるわけにもいかんしな。グレート・デギンまで一気にぶっ飛ばすぜ!!』
『ちょっと待てって、旦那! 俺はまだ心の準備が────ぶわっ!!』
僕たちを一気に引き離すべく、熱核融合炉の全エネルギーを推進力へと変換して急加速を行う重戦闘機。僕たちも慌てて後を追う。
「グレート・デギンを狙うつもりか!?」
「行かせるか!」
『っ……! ついてくるぞ! 先にあいつらをやっちまおうぜ!』
『これ以上、奴らに構っていられるか! とにかく踏み込め!!』
狂気的な超機動と、熱核反応炉の咆哮とともに猛進する重戦闘機。
その絶対的な加速性能の前に、ザクⅡ改と高機動型ザクⅡをもってしても、その距離は徐々に、しかし残酷なほど確実に引き離されていくのだった。
『見えたぜ! 前方に大型艦! あれがグレート・デギン──……何?』
彼らのモニターに見えてきたシルエットは、巨大なグワジン級ではなく、ムサイ級のものだった。
「……!? 『ワルキューレ』が出撃しているだと!?」
──ムサイ級『ワルキューレ』。
宇宙攻撃軍司令、ドズル・ザビ中将の座乗艦として、その名は全軍に広く知られている。
それが出撃しているということは、つまり──。
「まさか……ドズル閣下……なのか……」
『あの悪趣味な
重戦闘機の行く手を遮るように、ワルキューレの艦首甲板には、1機のザクが毅然と仁王立ちしていた。
まるで、グレート・デギンの盾となるように立ちはだかっている。
「小賢しい連邦どもめ! ドズル・ザビの名に懸けて、ここから先は通さん!!」
自らの身分を忘れ、ただ1人の武人、1人の戦士として。
愛する妻と娘の未来、そして父デギンの帰路を護るべく、ドズル中将は専用にカスタムされた愛機を駆り、戦場へと躍り出た。
「よし、獲物を出せい!」
「了解! ジャイアント・ウォーハンマー射出用意!」
ワルキューレから高速射出された大型大鎚をザクの剛腕で受け取り、ドズル中将は迫る重戦闘機へと真っ正面から特攻を仕掛けた。
「シンとガトーを手こずらせるほどの敵……この目で確かめてくれるわ!!」
『──そうか、貴様か……。貴様がルウムを……俺の家族を……!!』
光と炎。
決して相容れぬ2つの執念が、ソロモンの