戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第67話 猛将

「おやめください、閣下!!」

 

 宇宙要塞ソロモンの総司令部にて、副官のラコック大佐は通信モニターの向こうの主君へ、張り裂けんばかりの声で必死に呼びかけていた。

 

「なんということだ……! ワルキューレの乗員までその気になりおって……!」

 

 本来ならば指揮官の暴挙を全力で止めるべき立場の者たちが、ドズル中将に感化され、一体となって狂気の戦場へと突き進んでいる。

 ラコック大佐は激しい胃の痛みに耐えるように頭を抱えた。

 

『案ずるな、ラコックよ。折角造った装備だ。ここで試しておくのも悪くない』

 

 そう言って、ラコック大佐の悲痛な制止の声を豪快に笑い飛ばし、ドズル中将は単機でさらなる加速を敢行していく。

 

『かかってこい! 連邦の新型!』

 

「閣下っ!!」

 

 もし、宇宙攻撃軍の司令官であるドズル中将の身に何かあれば、辛うじて優勢を維持しているこの戦争のパワーバランスは、一気に崩壊する。

 あまりの恐ろしさに最悪の事態が脳裏をよぎるが、こうなってはもう、誰にもジオン随一の猛将を止めることはできなかった。

 

(こんなことになるならば、連邦艦隊の迎撃にヨルムンガンドを投入するべきだった……! そうすれば、カスペン戦闘大隊をソロモンの防衛に回すことも出来たものを……!)

 

 ドズル中将は「この程度の艦隊に大蛇(切り札)を晒す必要は無い」と言っていたが、戦力を出し惜しみをした挙句、最高指揮官の首を獲られるなど、断じてあってはならない。

 

「くそっ……! 頼んだぞ、白狼。閣下を無事に連れて帰ってきてくれ……」

 

 こうなってはラコック大佐にできることは何もない。

 マツナガ大尉たちにドズル中将とソロモンの命運を託すほかなかった。

 

 

 

*****

 

 

 

 ドズル中将の駆る、全身に金色のエングレービングを施している、両肩がスパイクアーマーのザクⅡ。

 それが、質量兵器の塊であるジャイアント・ウォーハンマーを構えながら、重戦闘機──プロトGファイターに向かって猛進する。

 

 近づいてくるドズル中将に対して、プロトGファイターは実体弾の連装キャノン砲を発射した。

 しかし、飛来した実体弾の全てが、ジャイアント・ウォーハンマーの肉厚な鉄塊によって、弾かれて霧散した。

 

『何だありゃあ! 連装キャノン砲(フィフティーンキャリバー)を弾きやがった!』

 

「うおぉぉぉぉーーっ!!」

 

 ドズル中将がジャイアント・ウォーハンマーをプロトGファイター目掛けて振り下ろすが、間一髪で回避する。

 すれ違いざまに大きく姿勢を崩しながらも、プロトGファイターはグレート・デギンへの特攻コースを強引に中断。

 反転し、ドズル中将のザクⅡへと機首を真正面へと向き直した。

 

『コーマック、ホープ、アイツを殺るぞ! アレに乗っているのはドズル・ザビだ!』

 

『マジかよ!? こういうのをカモネギって言うんだろ!』

 

『まったく、ソロモンの親分自ら、グレート・デギンの盾になるってのかよ!』

 

 ワルキューレのメガ粒子砲を回避しながら、プロトGファイターは熱核融合炉の出力を限界まで引き上げ、ドズル専用ザクへと突進した。

 しかし、ようやく追いついたガトー大尉とマツナガ大尉によって、進撃を阻まれる。

 

「閣下、お下がりください! ここは自分にお任せを!」

 

「ガトー大尉の言う通りです! その機体と装備では無理だ!」

 

「シンにガトーか! 遅いぞ、貴様らも手伝え!」

 

 ドズル閣下は二人の制止を一蹴し、なおも戦闘を続けようとする。

 その後からFZ型ザクで滑り込んだ僕も、緊迫した声をコックピットに響かせた。

 

「ドズル閣下! 下がってください! そこは危険です!」

 

「何を言うか、ライゼン! 貴様らが手こずる──!」

 

「そうではありません! ()()()()()()()!」

 

「何っ……!?」

 

 一見なにも無いように見えるが、僕には宇宙空間の闇を反射している「鏡」と、その後ろに隠れてドズル閣下を狙う敵の姿を捉えていた。

 僕は確信とともに、その何もないはずの宇宙に向けて、90mmマシンガンを叩き込んだ。

 弾丸が不自然な空間を引き裂いた瞬間、隠れていた連邦の量産型戦闘ポッド「ボール」が、粉砕された鏡の破片とともに激しい火球となって爆散した。

 

『なっ……! 何故、バレた!』

 

『仕方がない、カムフラージュ解除だ! ボール隊、突撃! 目標(ドズル・ザビ)を包囲、殲滅する!』

 

「鏡に隠れて近づいてきていたのか。小癪な真似を……!」

 

 暗黒の空間が次々と剥がれるようにして、多数のボールが姿を現す。

 これほどの伏兵を用意していたということは、やはり、公王陛下の乗るグレート・デギンが、第二スペースゲートに停泊していたことは、連邦にバレていたのだろう。

 

「おのれ、伏兵とは卑怯な……!」

 

「閣下!」

 

 ガトー大尉とマツナガ大尉がドズル閣下を護ろうとするが、プロトGファイターによって阻まれる。

 ボール部隊は僕が相手をするしかない。

 

「ドズル閣下! 僕の後ろに──!」

 

「……雑魚どもが!!」

 

 ドズル閣下は僕の言葉を無視し、ジャイアント・ウォーハンマーを構えてボールの包囲網へと自ら突撃を仕掛けた。

 

「閣下──っ!!」

 

「邪! 魔! を! するなあぁぁぁーーっ!!」

 

 包囲を狭めていたボールの群れに対して、超重量のジャイアント・ウォーハンマーが振るわれた。

 一撃のもとに、密集していた3機のボールが装甲ごとひしゃげ、連鎖的に爆散する。

 ただの一振りでボールの防壁を紙切れのように引き裂いたドズル閣下のザクは、爆炎を背負いながら、なおもその巨躯を戦場へと押し進めていく。

 

「ドズル閣下……何という豪放さ……!」

 

 ガトー大尉は深く感銘を受けている様子だったが、僕の気はちっとも休まらなかった。

 

(ガルマ大佐も前に出たがる人だっただけど、この人はそれ以上だな……)

 

 ドズル閣下が放つ圧倒的な威圧感。あまりの恐怖にボール部隊が浮足立つ。

 これこそが、ジオン公国の将兵の誰もが心酔し、連邦が最も恐れる猛将の姿だった。

 しかし、この魔神のごときプレッシャーをものともしない狂気が、この戦場には存在した。

 

『隙を見せたな、ドズル・ザビ!!』

 

 再び宇宙を激震させる凄まじい推進音とともに、死角から飛び出してきたプロトGファイターが、ボールを粉砕した直後のドズル閣下へと、その牙を剥いた。

 

『パワーにビビるこたぁねえ! 俺たちにとっちゃ鈍くさい、ただの的だぜ!』

 

「させん!」

 

 ガトー大尉が強引にその射線へと割って入り、マシンガンで牽制の弾幕を張る。

 しかし、超反応でそれをかわしたプロトGファイターのメガ粒子砲が至近距離で閃光を放ち、ガトーの持つマシンガンを無慈悲に木っ端微塵へと破壊した。

 

「チィッ……!」

 

 至近距離まで肉薄してきたプロトGファイターを、ドズル閣下は体勢を立て直してジャイアント・ウォーハンマーで迎え撃つが、それすらも超絶的なレスポンスの急制動によって紙一重で躱されてしまう。

 

「おのれ……!」

 

「ガトー大尉! 閣下を連れて後退を! このままではこちらが不利だ!」

 

「シン、貴様……!」

 

「お聞き分けを、閣下! 咎なら後でいくらでも受けます!」

 

 プロトGファイターのメガ粒子砲がドズル閣下の目の前を通り過ぎる。マツナガ大尉がマシンガンで牽制したおかげで辛うじて回避できているが、ボール部隊の相手をしながらではいずれはやられてしまうだろう。

 

「ぬうぅ……!」

 

「閣下、よく聞いてください。ひとまず付近の演習用の岩礁まで後退し、体勢を立て直すのです。自分とライゼンが注意を引き付けつつ敵を誘い込みます。挟撃するのに適したポイントはガトー大尉がご存じのはずです」

 

「……!」

 

 マツナガ大尉はガトー大尉がこのソロモンの海を誰よりも把握していることを知っていた。

 それゆえに、この窮地を脱する戦術を彼に委ねたのだ。

 

「無論、閣下にも手伝っていただきます。我々の手で、奴を仕留めるのです」

 

 マツナガ大尉はドズル閣下を安全圏へと下がらせることを諦めたようだった。

 開き直ってドズル閣下を戦力として計算し、あの厄介極まりない重戦闘機を、確実に仕留める方向へ切り替えたらしい。

 

「……フン。了解したぞ、シン。よし、ガトーよ、案内しろ! ライゼン、シン! この場は一旦、任せたぞ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 ドズル閣下とガトー大尉のザクが、急速に後退を開始する。

 

『ここまで来て、逃がすかよ! ドズル・ザビ!』

 

 プロトGファイターが追いかけようとするが、すぐさまマツナガ大尉が牽制し、足止めする。

 

「閣下を巻き込むのは不本意だが、仕方あるまい。ライゼンは残るボール部隊の処理を頼む!」

 

「はい!」

 

 マツナガ大尉の白い高機動型ザクⅡが、プロトGファイターを挑発するように肉薄し、2つの火線が、激しい火花を散らしながら演習用岩礁宙域へと流れ込んでいく。

 一方、僕は残存するボール部隊の包囲を力ずくで切り崩しにかかっていた。

 

(……それにしても、なんて冷たい殺気だ)

 

 あの重戦闘機から発せられるプレッシャーは、目の前のボールたちの比ではなかった。

 まるで、宇宙の底から湧き上がる怨念が、僕の脳の裏側を冷たい針で突き刺し続けているかのようだった。

 

「こいつらを片付けて、マツナガ大尉たちを追いかけないと……!」

 

 僕はザクⅡ改の推進力を爆発させ、包囲を縮めようとしていたボールの群れへ突撃した。

 急激な機動でキャノン砲の射線をかわし、至近距離から90mmマシンガンを叩き込む。

 装甲の薄いボールは一瞬で火球と化し、その爆煙を切り裂きながら、僕は残る2機をヒートホークの一閃でまとめて両断した。

 ボール部隊の残党が壊滅していく中、メインモニターの端では、マツナガ大尉の白い高機動型ザクⅡとプロトGファイターが、激しい火花を散らしながら演習用岩礁宙域の暗闇へと吸い込まれていくのが見えた。

 

 

 

*****

 

 

 

「閣下……準備はよろしいですか?」

 

 岩礁の死角に滑り込んだガトー大尉は、あらかじめこの宙域に隠匿していたバズーカ砲を装備し、ドズル中将に問いかけた。

 

「ああ、いつでも行ける。奇襲というのが、ちと気に入らんがな」

 

「敵の隙をつくにはこの方法が適当と考えます。後は奴が下手を打ちさえしなければ……」

 

 ガトー大尉の懸念を耳にして、ドズル中将はコックピットの中で静かに、しかし獰猛に笑った。

 

「フン……シンの奴め。敵を誘い込むなどと何の冗談だ。本来のあいつのやり方はそんな生ぬるいものではない。敵を執拗に狩場に()()()()。それが俺の見込んだ狼の戦法だ」

 

 罠に嵌めるための誘引などではない。圧倒的な威圧感と冷徹な操縦技術をもって、獲物を逃げ場の無い絶対の死地へと力尽くで追い詰める苛烈な追撃戦。

 それこそが、ドズル中将の認めたシン・マツナガという狼の本質だった。

 

「ガトー、あいつはな、お前のように大義や理想を声高に叫ぶ男ではない。だが、一度守ると決めたものは必ず守り通す男だ。そして、それを理不尽に奪おうとする者には決して容赦はせん。見かけによらず、獰猛な奴なんだ。俺以上にな」

 

(ドズル閣下が、ここまで仰るとは……)

 

 ドズル中将の信頼を一身に受けるマツナガ大尉への、言葉にできない複雑な対抗心。

 生真面目なガトー大尉にとって、過去の凶状を持ちながら閣下の個人的な温情によって親衛隊長にまで成り上がったマツナガ大尉の存在は、決して褒められたものではなかった。

 しかし、その根底にある戦士としての資質については、認めざるを得なかった。

 

 ガトー大尉は暗闇の向こうを見据えた。

 先の戦闘で後れを取った自らの不甲斐なさに対する怒り。その全てを燃料に変え、ガトー大尉は雑念を捨て、精神を鋭く研ぎ澄ました。

 

 

 

*****

 

 

 

『くそっ……! あの野郎、まだ余力を残してやがるのかよ!』

 

 マツナガ大尉のマシンガンを躱しながら、ホープ少尉が恐怖を押し殺すようにぼやいた。

 

『厄介な場所に入っちまった。一旦、離脱して……!』

 

 岩礁が多い宙域に入り込んでしまったことに、危機感を抱いたコーマック中尉が、離脱を試みるが──。

 

『奴め、まさか──』

 

「もらったぞ!」

 

 オスカーがマツナガ大尉の狙いを看破するが、その時にはすでに岩礁の影から滑り出たガトー大尉のR型が、至近距離からバズーカを放っていた。

 狙いはプロトGファイターではなかった。どれほど精密に狙おうとも、あの重戦闘機の異常な機動力の前では容易く回避されることは目に見えている。

 真の標的は──重戦闘機の逃走ルート上に位置する、()()()()()だった。

 激しい爆鳴とともにバズーカ弾が岩塊を粉砕し、鋭利に引き裂かれた無数の岩礁の欠片が散弾となって、プロトGファイターへと降り注いだ。

 

 

『っ──! うおぉぉぉーーっ!!』

 

 

 目の前に迫る岩塊を避けるため、コーマック中尉が機体を直上させる。

 しかし、それこそがガトー大尉の狙いだった。

 

「今です、閣下!!」

 

 岩塊を避けた先に待ち構えていたのは、ドズル中将のザクだった。

 コーマック中尉たちの眼前に、巨大な大鎚が振り下ろされる。

 

 

「墜ちろぉぉぉーーっ!!」

 

 

 退路を完全に断たれた、回避不能の一撃。

 視界を埋め尽くす鋼鉄の巨人の姿に、絶対的な死の予感が駆け巡る中、操縦桿を握るコーマック中尉は──。

 

 

『ぬあぁぁぁぁーーっ!!』

 

 

 ──あえて()()し、大鎚を振り下ろさんとするドズル中将のザクに向かって、真っ向から肉弾特攻を仕掛けた。

 

 

 大鎚が振り下ろされるよりも早く、凄まじい衝撃とともに、プロトGファイターの機首が、ドズル中将のザクに突き刺さる。

 大鎚を振り下ろすドズル中将の力技に対し、コーマック中尉が咄嗟に見せた、死中に活を求める狂気的な正面突破。

 機首を激しくひしゃげさせながらも、プロトGファイターはザクの重厚な装甲にその身を深くめり込ませていた。

 

『ぐっ……コーマックの旦那、無茶しやがる……!』

 

 激しい衝突のGからいち早く立ち直ったホープ少尉が顔を上げると、目と鼻の先の距離に、プロトGファイターを剛腕でがっしりとしがみつかせたドズル中将専用ザクの、不気味に発光するモノアイが迫っていた。

 

「ふっ……ふははははっ!! 思い切りのいい奴だ、連邦のパイロット!」

 

 大出力を誇る重戦闘機の直撃を力ずくで抑え込みながら、ドズル中将の咆哮のような哄笑が通信回線に響く。

 

『何をしている、コーマック! 早く振り落とせ! コーマック、返事をしろ!』

 

 オスカーの必死の呼びかけに、コーマック中尉は何も答えない。

 機首部分を構成するGシュライクのパイロットであったコーマック中尉は、フルスロットルでの正面衝突の際、最も激しい衝撃をダイレクトに受け、完全に意識を失ってしまっていた。

 

「危険です、閣下! 離脱してください!」

 

「フフ……そう言うなよ、シン。捕まえた魚を、簡単に逃がしてたまるかよ!」

 

 ドズル中将は捕らえたプロトGファイター目掛けてヒートホークを振り下ろした。

 真っ赤に熱せられた刃が装甲を焼き裂く強烈な一撃を受け、ホープ少尉はその圧倒的な質量の恐怖に脳を支配される。

 

『呑まれるな、ホープ! 今は奴を仕留める千載一遇の好機だ!』

 

 オスカーの執念に満ちた怒号に、ホープ少尉は我に返り、火器管制トリガーを壊れんばかりに握り締めた。

 連装キャノン砲の銃口が、ゼロ距離でドズル中将のザクへと向けられる。

 

 

『ふざけてんじゃねえぞ! この■■■野郎!!』

 

 

『家族の仇だ────地獄に落ちろ、ドズル・ザビ!!』

 

 

「ぬうっ……!!」

 

 

 至近距離からの砲撃を連続で直撃させられたドズル中将のザクは、いかに強固な重装甲といえども耐えきれず、無惨に破壊されながらプロトGファイターから強引に引き剥がされた。

 そして──。

 

 

「「閣下──っ!!」」

 

 

 マツナガ大尉とガトー大尉の絶叫の狭間で、ソロモンの司令官──ジオン随一の猛将を乗せたザクは、あまりにもあっけなく、激しい白光とともに爆散した。

 

 

 

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