戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第69話 恩讐を照らす光

『民間人の皆さんはシェルターへ移動してください。これは安全を確実にするための処置であり……』

 

 非常用の赤い回転灯が不気味に明滅する要塞内部。

 機械的なアナウンスが冷たく響き渡る中、オスカー・シクリッドはGアトラスから脱出した後、事前に用意していたジオンのノーマルスーツに身を包み、敵地であるソロモンの通路を堂々と歩いていた。

 

「……まったく、爆発が収まったと思ったら今度は何なのかしらね」

 

「ホント、慰問団も楽じゃないわ」

 

 前方から要塞には不釣り合いな、少女たちの疲弊した声が聞こえてきた。

 どうやら、シェルターに移動する音楽学校の生徒たちらしい。

 

「サイド3に帰ったら──」

 

「通してくれ」

 

 オスカーはバイザーの奥の瞳を冷酷に尖らせたまま、低く乱暴な声で彼女たちの会話を遮った。

 避難する一般市民を気遣う素振りなど微塵も見せず、密集した少女たちの集団の間を、躊躇なく正面から強引に押し通る。

 

「きゃっ……!」

 

 乱暴な接触によって避難の列が乱れ、何人かの少女がよろめく。

 非戦闘員への配慮を完全に放棄したジオン兵の後ろ姿に向けて、少女たちの鋭い非難の視線が一斉に突き刺さる。

 

「もうっ……ああいうガサツな兵隊は嫌いよ!」

 

 背後から響く非難の声を聞き流しながら、オスカーは歩幅を緩めずに進み続けた。

 

 要塞内部への侵入は成功した。

 後は混乱に乗じて、このソロモンの『心臓』へと至るルートを見つけ出すだけ……。

 

 

 オスカーは冷たい殺意を胸に、薄暗い要塞の迷宮を直進する。

 その手には、一区画を丸々吹き飛ばせる威力を持つ、爆弾入りのケースが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

「────…………」

 

 

 

 

 

 

 

「オーレリア、どうしたの? ……ねえ、ちょっと! どこに行くの!? オーレリア!!」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 同じ頃、マツナガ大尉とオルガ少尉は、逃走したオスカーの足跡を追っていた。

 

「あの男が向かったのはおそらく動力炉だろう。要塞の心臓部以外に、ソロモンに大きな損害を与えられる場所は存在しない。今、ラコック大佐が動力炉の守りを固めてくれている。私たちは、その周囲の警戒を──」

 

「あの、マツナガ大尉。実は……ライゼン中尉が、敵の狙いは動力炉ではなく、ゼナ様とミネバ様かもしれないと言っていたのですが……」

 

「っ──!? 何だと……!!」

 

 並走するオルガ少尉の言葉に、マツナガ大尉は息を呑んだ。

 戦場で感じ取っていた、あの常軌を逸した怨念の矛先。それが要塞の動力炉ではなく、ドズル閣下が何よりも愛した家族に向けられているのだとしたら──。

 

「何故、ライゼンはゼナ様たちが狙いだと……?」

 

「……勘だと言っていました。根拠は無いと思います。……ですが、こういう時の中尉の勘は、過去に一度も外れたことがありません」

 

「っ……」

 

 マツナガ大尉も、キシリア少将が注目しているというニュータイプの存在については、噂程度には耳にしていた。

 ドズル中将は信じていないようだったが、ライゼンがニュータイプだとすれば、あの異常な反応速度、未来を予知したかのような挙動にも説明がつく。

 

(マレーネ様の妹君も、幼い頃から異様に勘が鋭かったと聞く。もし、ライゼンが本物だとすれば──)

 

 自分やガトー大尉が捉えることができなかったあの重戦闘機を相手に、2度も一矢報いて見せたライゼンの実力。それがニュータイプの力によるものだとすれば、マツナガ大尉もオルガ少尉の言葉を一笑に付すことは出来なかった。

 

「……わかった。オルガ、君は後宮に行って、ゼナ様とミネバ様の無事を確認してきてほしい。私も動力炉の状況を確認した後、すぐにそちらへ行く」

 

「了解しました!」

 

 マツナガ大尉とオルガ少尉は二手に分かれた。

 後宮へと続く長い通路を、オルガ少尉は焦燥感を募らせながら突き進む。

 

(正規のルートだと時間がかかる……。マレーネ様から教えてもらった裏道を──えっ!!)

 

「──きゃっ!?」

 

 薄暗い裏道の十字路に滑り込もうとした瞬間、前方から来た人影と激しくぶつかってしまう。

 

「──オーレリア!?」

 

「お、オルガ……?」

 

 そこにいたのは、シェルターに避難しているはずの、オーレリアだった。

 

「オーレリア、民間人のあなたがどうしてここに!? 避難勧告が出ているはずよ!? 今すぐ──」

 

「ごめんなさい、オルガ。でも、さっき避難の途中で、すれ違ったの……。私の知ってる人が……連邦の人が、ここにいるかもしれないの!」

 

「何ですって!?」

 

 オーレリアの言葉に衝撃が走った。

 この状況で連邦の人と言われたら、あの重戦闘機のパイロットしかいない。

 オルガはしばし逡巡した後、決断した。

 

「わかったわ……一緒に来て、オーレリア」

 

「オルガ……ありがとう!」

 

 2人は薄暗い隔壁の合間を縫うようにして、後宮へと足早に駆け出した。

 進みながらオーレリアは、離れ離れになってしまっていた家族のことを思う。

 

(……きっとオスカーおじ様も、心をあの宇宙(そら)に囚われたままなんだわ)

 

 止めなければならない。

 彼の、最後の家族として──。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──ソロモン後宮、ゼナ・ザビの私室。

 

 本来ならば、要塞の最深部に位置するこの場所は厳重に守られており、連邦軍が入り込む隙などないはずだった。

 しかし、ドズル中将が行方不明になった混乱と、警備の兵が動力炉周辺に大きく割かれてしまったことで、致命的な隙ができてしまった。

 

「ドズル・ザビ中将夫人、ゼナ・ザビだな。あんたらの命をもらいに来た」

 

 ジオン兵に扮した男──オスカー・シクリッドは、その瞳に底知れない冷酷な光を宿してゼナに銃を突きつけた。

 ゼナは一切動揺を見せず、オスカーから目を逸らさなかった。

 

「動じないのはさすがと言うべきか。こちらも礼節を尽くすべきなのかもな」

 

 オスカーもザビ家を憎んではいるものの、彼女(ゼナ)と生まれたばかりの赤子(ミネバ)には罪が無いことは理解していた。

 それゆえに、冥土の土産として、何も知らないまま殺すことはせず、自分がここに来た理由くらいは話すことにした。

 

「……俺は戦争を終わらせたくてソロモンへ来た。だがデギンやキシリアを討つことも出来ず……要塞に大した損害を与えることも出来ず、このザマだ」

 

 オスカーとて、叶うならば何の罪も無い彼女たちではなく、この戦争の元凶を断ちたかった。

 しかし、それが叶わなかった以上、もはやこうするしかない。

 神様というのはどこまでも残酷なものだと、心底思い知った。

 

「……結果、辿り着いたのがアンタたち親子の目の前。せめて恨みを晴らして死ねってことらしい」

 

「……あなたの、恨み?」

 

 この時、ゼナが初めて口を開いた。

 その声には恐怖ではなく、どこか哀切に満ちた響きがあった。

 

「……そうだ。ルウムでは女子供を問わず、何人も死んだ。俺の家族も含めてな」

 

 ゼナとて理解していた。この戦争で多くの罪無き命が失われたことを……。

 夫であるドズルが、それを実行した張本人であることも、全て……。

 

「その時の指揮官、ドズル・ザビはここへ来る途中、始末してきた。次はアンタたちの番というわけさ」

 

「っ……」

 

 ゼナの瞳が初めて揺らいだ。

 ドズルの妻となった以上、いつか、そのような時が来るかもしれないと、覚悟はしていたが、動揺を隠すことはできなかった。

 

「本当は気づいているのだろう? アンタたちの幸福が何をぶちまけた上に成り立っているのかを……。俺にはそれがはっきりと視える。世の流れは変えられなくとも、命の帳尻くらいは合わせてやらないとな」

 

 オスカーはそう言って、爆弾の入ったケースを置いた。

 そして、起爆スイッチをゼナの前に突きつける。

 

「こいつを押せば、このフロアくらいは丸々吹き飛ばせる。俺と心中するのも屈辱の内というわけさ……。娘はどこだ?」

 

 ゼナは額に汗をにじませながら、慎重に言葉を選んだ。

 

「……せめてあの子を、ミネバのことを見逃してはいただけないのですか?」

 

「できない相談だな。アンタを仕留めてから探したっていいんだぞ?」

 

 今この場で起爆スイッチを押しても仕留められるだろうが、姿が見えない以上、奇跡的に生還される恐れがある。それに──。

 

(せめてもの情けだ。最期の時くらいは、親子一緒に迎えさせてやる)

 

 それがオスカーなりの、彼女たちへの罪滅ぼしだった。

 

 ──その時、部屋の奥から赤子の泣き声が聞こえてくる。

 

「……そこか」

 

「っ……! あの子に手を出すことは許しません! 私を撃てばことは済む──あっ!」

 

 奥に通じる扉の前に決死の覚悟で立ちふさがったゼナを、オスカーは容赦なく押しのけ、扉を開ける。

 そこには赤子を抱く1人の少女の姿が──。

 

 

「誰だっ……──!!」

 

 

 オスカーはその少女の顔を見た瞬間、全身の血が凍りつくような感覚に襲われた。

 記憶の底にある愛しい面影。ルウムの戦火の中で、帰らぬ人となったはずの姪の姿が、目の前にあった。

 

 

「オーレリア……? お前、何で……──っ!!」

 

 

「ミネバ様を連れて逃げなさい! オーレリア!!」

 

 

 オルガ少尉が隙を突いてオスカーに対して決死のタックルを仕掛けた。

 あまりの衝撃に完全に硬直していたオスカーは、その衝撃で手元の起爆スイッチを手放してしまう。

 虚空を舞い、床に転がった起爆スイッチを、オルガ少尉はすかさず拾い上げる。

 

「そいつを渡せ!」

 

「お断りよ!」

 

 スイッチを奪い返そうとオルガ少尉へ銃口を向けるオスカーに、オルガ少尉もまた、銃を突きつける。

 

「やめて! おじ様! オルガ!」

 

 オスカーはオーレリアの悲痛な叫び声で、辛うじて狂気から我に返った。

 オルガ少尉もまた、銃を握る指先をわずかに震わせる。

 

「──何故おまえがここにいる! ジュリアやイルマは一緒じゃないのか!?」

 

 死んだと思っていたオーレリアが生きていた。

 ならば妻と娘も、奇跡的に生き延びているのかもしれない。

 濁った瞳に一縷の渇望を宿し、オスカーは叫ぶように問いかけた。

 しかし、オーレリアは涙を浮かべながら、首を横に振った。

 

「……コロニーが裂けた時、私だけが偶然生き残って……。助けてくれたジオンの人を頼るしかなかったの。おじ様が無事だったかどうかだって、確かめようが無かったから……」

 

「ルウムをあんなふうにした奴らなんだぞ……!」

 

 オスカーは震える手でオルガ少尉への銃口を維持したまま、その背後にいるゼナを激しい憎悪の目で見据えた。

 

「こいつらのせいで……みんなっ!!」

 

「……そうだけど」

 

 オーレリアはルウムで暮らしていた日々を思い出した。

 

 早くに両親を亡くした自分を、実の娘のように温かく迎えてくれたおじ様。

 オーレリアがヴァイオリンを弾くたび、いつも嬉しそうに微笑んでくれた優しいおば様。

 しばらくして、その2人の間に生まれた、天使のように愛らしかった従妹。

 

 その全てが、今も自分の中で鮮明に輝いている。

 あの幸せな日常が、理不尽に奪われてしまったことを思うと、瞳から涙が溢れ出てくる。

 

「そうかもしれないけど……!」

 

 その瞬間、大きな爆発が部屋全体を揺るがした。

 

「っ……Gアトラスが爆発したのか?」

 

 オーレリアは泣きながら、オルガ少尉とゼナの前に自ら盾となるように飛び出した。

 

「もうやめておじ様! ゼナ様やオルガが何をしたって言うの!?」

 

「俺たちの故郷を潰したのが、ジオンだろうがっ!! そこをどけっ!! オーレリアッ!! ──ぐぉっ!」

 

 その瞬間、背後から音もなく滑り込んできた男がオスカーに襲い掛かった。

 拳銃を弾き飛ばされ、顔面に強烈な打撃を見舞われたオスカーは、床へと激しく殴り倒される。

 

「すまない、遅くなった!」

 

「大尉!」

 

「マツナガ様!!」

 

 オスカーを制圧したのは、白いノーマルスーツを着た男──シン・マツナガだった。

 オスカーは血の混じった唾を吐き出し、マツナガ大尉を激しく睨みつけた。

 

「マツナガ……だと? そうか貴様、マツナガ家の……! 開戦に反対して干された家の人間が、ソロモンの番犬とはなんの冗談だ……!」

 

「おじ様! マツナガ様は私を助けてくれた人なの! 戦争を好きでやっている人なんかじゃないのよ!」

 

 オーレリアはミネバを抱きしめたまま、泣きながらオスカーの前に膝を突いた。

 そんなオーレリアを見て、マツナガ大尉も静かにオスカーに語りかけた。

 

「……ザビ家のやり方が間違っていることくらい、わかっている」

 

 ジオン軍人にあるまじき言葉を吐くマツナガ大尉に、オスカーだけでなく、周囲の者たちも思わず目を見開いた。

 

「そんなに言うなら俺が戦争を終わらせてやる。停戦に導いて見せればいいのだろう」

 

「……寝言を抜かすな! 貴様1人で何が出来る!?」

 

 オスカーは大言を吐くマツナガ大尉にくってかかる。

 彼とて悩んだ末に出た結論が、今回の無謀な作戦だったのだ。

 

「今の膠着状態がいつまでも続くと思うなよ! 連邦はMSの開発にとっくに成功しているんだ! 軍備の再建が済めば、ジオンとの間で今度こそ大規模な殲滅戦が始まる! MSを使って最終戦争がな!!」

 

 そうなる前にソロモンに集まったザビ家を討ち、ジオンの戦意を削がねばならなかった。

 それを防ぐための時間は、もう残されていない。これが最後のチャンスだったのだ。

 

「……元凶を断たなければ、戦争の早期終結など出来るわけがない。死んだ者たちに報いることなど出来はしないんだ。だが現実はご覧の通りだ。もう潮時なのかもな……」

 

 オスカーは力を失ったかのように項垂れる。

 失敗してしまった以上、どうせ待っているのは銃殺か捕虜かのどちらか1つ。そんな辱めを受けるくらいなら──。

 

「ここで殺してくれ。家族のところに行きたい」

 

 マツナガ大尉は腰のホルスターから銃を取り出し、オスカーに向ける。

 

「マツナガ様……!」

 

 オーレリアの悲痛な制止の声が響くが、彼は躊躇わずに引き金を引いた。

 

 ──パァン!!

 

 乾いた銃声が室内に鳴り響く。

 しかし、放たれた銃弾はオスカーの背後の床へと深くめり込んだ。

 自分が生かされたことに気づき、オスカーは大きく目を見開いた。

 

「貴様の命は俺が預かる。今度は俺個人のために働いてもらう」

 

 硝煙の立ち込める中、マツナガ大尉は静かに銃口を下げた。

 

「いい機会だ。俺のしてきたことへの落とし前をつける。マツナガ家の人間の贖罪としてな」

 

 この日、ソロモンの白狼はザビ家を妄信することをやめた。

 ただ1人の意志ある男として、この狂った戦争を終わらせるために戦うことを、この薄暗い後宮で静かに決意したのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

「失礼いたします!」

 

「……何の騒ぎですか?」

 

 ゼナは後宮の外に自ら進み出て、駆けつけてきた兵士たちを出迎えた。

 

「はっ! 現在、要塞内に潜入した連邦兵を追跡中であります! 念のためをと思い、こちらに伺った次第ですが、そのご様子だと……」

 

「そうですね、この辺りは静かなものです。おかげで今日はミネバもぐっすり。先ほどの揺れにも目を覚さないくらいにね」

 

 ゼナの何一つ乱れのない、穏やかな気品ある表情に、兵士たちは安堵した。

 

「それは何よりであります。失礼いたしました。よし、他を当たるぞ!」

 

 ゼナに毅然と敬礼し、兵士たちは足早に去って行った。

 

「申し訳ありません。ゼナ様まで巻き込む状況になってしまうとは……」

 

 兵士たちへの対応を終え、扉を閉めたゼナに、室内の影に身を隠していたマツナガ大尉が重々しい足取りで話しかけた。

 

「良いのです。私にも手伝わせてください。この不幸な戦争を止められると言うのなら……」

 

「ゼナ様……」

 

 先ほどまで実の娘ともども命を狙われていたという極限の状況であったにもかかわらず、その相手を匿うことに協力してくれたゼナに、マツナガ大尉は深く感銘を受けた。

 彼女もまた、ザビ家を憎む復讐者と直接対峙したことで、公国が犯したあまりにも重すぎる罪を悟り、1人の母親として心境の決定的な変化を覚えたのかもしれなかった。

 

「オルガもよくやってくれた。おかげでゼナ様とミネバ様をお守りすることが出来た。感謝する」

 

「いえ、お礼ならオーレリアに言ってあげてください。彼女がいなければ、あの人を止めることは出来ませんでした」

 

「……そうだな」

 

 彼女の方を見ると、オーレリアは部屋の隅で俯いているオスカーに話しかけていた。

 

「おじ様……。私、おじ様だけでも生きていてくれて……」

 

 オスカーはオーレリアの華奢な肩へと、静かに手を乗せた。

 

「……お互い様だな」

 

 オスカーもオーレリアが生きていてくれたことに心の底から救われていた。

 彼女という光が無ければ、自分は止まることが出来なかっただろう。

 

「オーレリア」

 

 マツナガ大尉がオーレリアの前に進み出て静かにその名を呼んだ。

 

「よくゼナ様とミネバ様を守ってくれた。ありがとう」

 

「……はいっ!」

 

 オーレリアは瞳に溢れる涙を拭いながら、これまでの苦難を全て洗い流すような、満面の笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 同じ頃、ソロモンの宙域では、全軍を挙げてドズル中将の捜索が行われていた。

 

「ライゼン中尉、そちらはどうですか?」

 

「こっちもまだ見つからない。ブラウン、もう少し捜索範囲を広げてみよう」

 

「……わかりました。くそっ……!」

 

 ライゼンとブラウンも周囲の敵を掃討した後、捜索に加わっていたが、未だドズル中将を見つけることが出来ずにいた。

 

(漂流者の捜索は時間との勝負だ。ソロモンで何が起きているのかは気になるけど、今はマツナガ大尉たちを信じて、ドズル閣下の捜索を優先するしか──……ん?)

 

 周囲を見渡していると、奇妙な機体のシルエットを捉えた。

 ザクⅠ……マシンガンはおろか、ヒートホークすら所持していない、訓練用の機体。

 本来なら前線に出るはずのない訓練機が、何か明確な確信があるかのように、迷いなく漆黒の宇宙を一直線に加速していく。

 ドズル中将の捜索に、1機でも多くのMSを駆り出す必要があることは理解しているが──。

 

 

(いくら周囲に敵影が見えないとはいえ、不用心過ぎる。一体、誰が乗っているんだ?)

 

 

 

*****

 

 

 

 一方、宇宙を漂流していたドズル中将も、闇の向こうから真っ直ぐにこちらに向かってくる、そのザクⅠの存在に気づいた。

 

「シン……いや、ゼナなのか……?」

 

 冷たい宇宙に取り残され、酸素が失われてゆく感覚の中で、己に近づいてくる暖かな光に、ドズル中将は思わず、要塞内に残してきたはずの最愛の妻の名前を呼んでしまった。

 

 間もなくして、ザクⅠのコックピットが開き、パイロットがこちらに近づいてきた。

 バイザー越しに、その人物の顔立ちが露わになる。

 

 

 

「そうか……お前か……」

 

 

 

 ザビ家への忠誠の証として、親に政争の道具にされてしまった少女。

 そんな過去をものともせず、いつも自分に明るく微笑みかけてくれる、もう1つの光。

 

 

 

「────……マレーネ」

 

 

 

 マレーネ・カーンは、長い間、宇宙の闇に放り出されていたドズル中将の大きな身体を強く、深く抱きしめた。

 

 

 

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