戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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V作戦編
第72話 少女が見た凶星


 ──北米大陸某所、『ティルナノーグ』。

 

 そこには、才能ある者を性差的偏見なく、正当に評価するために設立されたとある特殊部隊が存在した。

 ジオン公国の旧態依然とした軍閥主義において、特別な才能を持っているにもかかわらず、女性だからという不条理な理由だけで前線から遠ざけられ、正当な評価を与えられなかった者たち。

 そんな女性兵のみで構成された、キシリア・ザビ少将直属の秘匿部隊の1つ。

 地球方面軍第2地上機動師団第11MS大隊司令部付き特務小隊──コードネーム「ノイジー・フェアリー」。

 日々悪化する戦況を打破すべく、彼女たちは北米の大地で、愛機とともに泥に塗れながら牙を研ぎ続けていた。

 

『フラナガン機関のテストパイロットだった私が、ここに配属されて1週間。ティルナノーグはとても軍の施設とは思えない素敵な場所。まだ完全には打ち解けてないけど、きっと私──』

 

「あら、日記? いい趣味してるわね」

 

 包容力を滲ませる大人の女性の声に、日記を綴っていた少女──アルマ・シュティルナーは驚いて顔を上げた。

 

「キリーさん!」

 

 ノイジー・フェアリー隊の隊長──キリー・ギャレット少佐。

 フラナガン機関で燻っていたアルマの才能を見出し、ノイジー・フェアリー隊に引き抜いてきた女性将校である。

 

「ここには馴染めそう?」

 

「いや~、浮いてる自覚があります……。でも、仲良くしたいです! みんな年も近いし」

 

「なら、簡単ね。もっとみんなのことを知ればいい。あなたにとっても、それは素晴らしい経験になるわ」

 

「……そう、ですね。キリーさんの言う通り、少しずつ頑張ってみます!」

 

 アルマの元気な返事に、ギャレット少佐は満足そうに微笑んだ。

 

「おやすみ、アルマ。あまり遅くならないように」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 ギャレット少佐の足音が静かに遠ざかり、部屋に再び静寂が戻る。

 アルマは小さく息を吐き、机の上に置かれた日記帳をそっと閉じた。

 

「……もっともっと、うまくやれるように頑張らなきゃ!」

 

 

 

 ──もう2度と、捨てられたくないから。

 

 

 

*****

 

 

 

「偵察機がティルナノーグ周辺で所属不明機の機影を捕捉した」

 

 

 ──翌日。

 ノイジー・フェアリー隊の副隊長であるバルバラ・ハハリ中尉の声に、ミーティングルームに集まった隊員たちの間に緊張が走った。

 

「この場所はキャリフォルニアベース防衛の早期警戒の要である。所属不明機が連邦であれば即時排除、友軍であれば警告し、転進を促せ」

 

 彼女たち拠点であるティルナノーグは、その構成上、味方からも秘匿されるべき基地である。

 それゆえに、この基地に近づく者は、誰であろうと排除しなければならない。

 

「あの~、警告に従わない場合はどうしたらいいですか?」

 

 アルマは恐る恐る挙手し、少しだけ上ずった声で質問をした。

 

「実力行使だ」

 

 すぐさま返ってきたバルバラ中尉の冷徹な言葉に、アルマは思わず身体が委縮させてしまうが──。

 

「撃っていいんですね?」

 

 実戦経験の無いアルマとは違い、若くしてすでに実戦を経験しているヘレナ・ヘーゲル曹長は、特段気にした様子は無かった。

 むしろ、当然だという態度でいる。

 

「……ええ。そうならないことを祈るわ」

 

 ギャレット少佐もヘレナの問いに静かに肯定した。

 アルマは初めての実戦の相手が友軍であるかもしれないことに、内心で恐怖心を抱く。

 

「コールサインはこの通りだ」

 

 バルバラ中尉の言葉に、全員が机のモニターに目を向ける。

 

 

 ──フェアリーリーダー:アルマ・シュティルナー少尉。

 

 ──フェアリー2:ミア・ブリンクマン技術少尉。

 

 ──フェアリー3:ヘレナ・ヘーゲル曹長。

 

 

「えっ……! 私がリーダーですか?」

 

 アルマは自分を指さしながら、ギャレット少佐に視線を向けた。しかし、少佐は慈愛に満ちた笑みを崩さない。

 

「私の一存よ。異議は?」

 

「ありません!」

 

「誰でもいいです。やることは変わりませんから」

 

 ギャレット少佐の問いに、ミアもヘレナも反論しなかった。

 実戦経験こそ無いものの、3人の中で最も優秀なパイロットがアルマであることは、これまでの模擬戦の結果から明白だったからだ。

 ギャレット少佐は改めてアルマを見つめる。

 

「では、MS部隊のリーダーはアルマ。やれるわね?」

 

「はい! お任せください!」

 

 恩人であるギャレット少佐に頼りにされていることに、アルマは胸を高鳴らせながら、力強く応じた。

 

 

 

*****

 

 

 

 MSの巨体を完全に隠すのに手頃な丘の斜面に身を潜めながら、ノイジー・フェアリー隊の3機は、じりじりとした静寂の中で所属不明機がセンサーに引っかかるのを待っていた。

 

「初任務か~緊張する~!」

 

「もー落ち着いてください、アルマさん。こっちまで緊張しちゃいます」

 

「そうは言ってもさ~……」

 

「……おい、来たみたいだぞ」

 

 ヘレナの低い警告に、アルマとミアは同時に息を呑んだ。

 斜面の岩陰からそっと頭部カメラを覗かせると、2つの機影が視認できた。

 

「ぁ……」

 

「よかった、味方みたいです。アルマさんと同じ陸戦高機動型ザクと、グフ……いえ、統合整備計画で再設計されたグフ・カスタムですね。でも、あのカラーリング……」

 

「あの機体、まさか……って、おい! 少尉!」

 

『シュティルナー少尉! 何をしている!』

 

 ヘレナとバルバラ中尉が声を上げた時には、すでにアルマは驚きとどこか安堵の混ざった声を漏らしながら、前に飛び出していた。

 

『敵!?』

 

『──! 待て、ブラウン!』

 

 突如として現れたアルマに対し、戦闘態勢に入ろうとした陸戦高機動型ザクを、隣に並ぶ黄色いグフ・カスタムが制止する。

 

「ライゼン! ライゼンだよね!?」

 

『その声は──やっぱり、アルマ?』

 

 フラナガン機関で出会い、孤独だった自分を元気づけてくれた少年と、この北米の大地で奇跡的な再会を果たせたことに、アルマは任務を忘れて、駆け足で近づいて行った。

 

 

 

*****

 

 

 

『シュティルナー少尉!! お前という奴は……! 相手の所属も確認せずに飛び出すなど、一体何を考えている! 友軍だったからよかったものの、敵だったらどうするつもりだったのだ!』

 

「ご、ごめんなさいぃ~!」

 

 どうやらアルマは勝手に飛び出してしまったことを怒られているようだった。

 多分、アルマはニュータイプの直感で僕だと確信したのだと思うが、他の人たちの目にはさぞ軽率極まりないものと映ったのだろう。

 説教を続けるバルバラ中尉を見かねて、キリー・ギャレット少佐の落ち着いた声が割り込んだ。

 

『バルバラ、もうその辺にしときなさい。お説教はこの子たちが帰ってきてからにしましょう。ライゼン中尉、あなたたちはどうしてここに?』

 

「はい、ギャレット少佐。実は──」

 

 僕たちがここに来たのはキャリフォルニアベース付近の物資集積所が、()()()()()()()()()()という報告があったからだった。

 信じがたい内容の話だが、僕たちは過去にこれと全く同じ手口を使う、非常に狡猾な連邦軍の特殊部隊と戦った経験がある。

 ──そう、アリゾナ砂漠でソンネン少佐とともに戦った、友軍に扮して背後から牙を剥く、鹵獲ザク部隊である。

 ジオンのザクを使って騙し討ちを行うような部隊を放置することはできない。それゆえに、奴らと戦闘経験のある僕たちが今回の任務に抜擢された。

 物資集積所の生き残りから情報を収集し、最後に鹵獲ザク部隊が目撃された座標で発見した痕跡を追っていった結果、ここに辿り着いたというわけである。

 

『なるほど……。そちらの事情は理解したわ。私たちが捕捉した所属不明機も、あなたたちが追っている鹵獲ザク部隊の可能性が高いわね。そういうことなら、私たちも捜索に協力するわ』

 

「ありがとうございます、ギャレット少佐。あの『キラー・ハーピー』の異名を持つエースと共闘できるなんて光栄です」

 

『あら、お世辞が上手いのはガルマ大佐の影響かしら? こちらこそ、『鋼鉄の虎』が一緒なら、初陣のこの子たちも安心だと思うわ。アルマのことも知ってるみたいだしね』

 

 僕とギャレット少佐の話を聞いていたアルマは、聞き覚えの無い言葉を復唱し、コックピットの中で小首を傾げた。

 

「鋼鉄の虎……? ミア、ヘレナ……ライゼンってそんなに有名人なの?」

 

「ええっ!? アルマさん、ライゼン中尉とあれだけ親しげに話してたのに、知らないんですか!?」

 

「ヴァルター・ライゼンって言えば、イアン・グレーデンやジャコビアス・ノードと並ぶ北米のトップエースだぞ……。むしろ、何で少尉は知らないんだよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 アルマと同じ隊のミア・ブリンクマン技術少尉とヘレナ・ヘーゲル曹長はそれぞれのコックピットで呆れを通り越したようなため息を吐いている。

 そういえば、アルマには地球のことを話しただけで、僕自身のことはあまり話してなかったかもしれない。

 

「まあ、その辺りのことはおいおい話すとして……まずは、僕たちの任務を終わらせよう。──準備はいい? アルマ」

 

「……うん、大丈夫。ミア、ヘレナ、武器のロック、解除して」

 

「何?」

 

『付近に熱源! 多数!』

 

 通信回線に割り込んできたバルバラ中尉の声とともに、周囲から61式戦車を引き連れた複数のザクが姿を現した。

 

「まさか、あいつらが鹵獲ザク部隊か……!?」

 

「連邦の61式戦車もいます! 間違いありません!」

 

『各機、警戒しろ!』

 

 丘の斜面を滑り降りるようにして、所属不明のザクがその銃口をこちらへと向けてきた。

 その隣には、連邦軍の61式戦車が重々しいキャタピラの音を響かせ、一斉に主砲をこちらへ指向させている。

 識別こそジオン公国軍のそれと全く同じ仕様だが、放たれる殺気と、戦術の組み立て方は完全に地球連邦軍のそれだった。

 

『どうやら、俺たちのことはバレちまってるみてえだなぁ……。少し派手にやり過ぎたか?』

 

 通信回線の混線を突いて飛び込んできたのは、ひどく耳障りな、品性のない連邦兵の男の声だった。

 ジオンの識別信号をまといながら、連邦の61式戦車と完璧な連携を取って陣形を展開していく鹵獲ザクの群れ。

 想像していたよりもはるかに数が多い。戦争犯罪を行う部隊である以上、露見した時のリスクも踏まえて、あまり大規模な編成にはできないはずだが、連邦軍もこの戦況をひっくり返すために、なりふり構わずになっているようだった。

 

『行くぞ、全機突げ──!』

 

 その瞬間、隊長機と思わしきザクⅡに徹甲弾が突き刺さり、上半身が吹っ飛んだ。

 周囲の者たちは僕とブラウンを除いて全員呆気に取られている。

 

「──えっ!? な、何!? どこからの砲撃!?」

 

「大丈夫、味方だ!」

 

 もともと、僕たちがこの開けた丘陵で索敵を行っていたのは、敵の潜伏部隊を誘い出して位置を特定するための囮だったのだ。

 丘陵地帯の彼方、濛々たる硝煙の向こう側から、30cm(サンチ)砲の重低音が地響きとなって遅れて届く。

 

「やるよ、ブラウン!」

 

「了解!」

 

 徹甲弾に貫かれた敵機の爆発と同時に、僕の駆るグフ・カスタムのガトリングシールドが火を噴く。

 凄まじい実弾の嵐が、61式戦車を激しく叩き、激しい火花と爆炎を荒野に散らせた。

 ブラウンもマシンガンで鹵獲ザクを正確に撃ち抜き、1機を瞬時に大破させる。

 

『ミアとヘレナはアルマの後ろについてサポートするように! あなたたちを選んだ私の目に狂いは無いと証明してもらえる?』

 

「キリーさん……了解です! みんな、やるよ! ノイジー・フェアリーの初陣、派手に飾ってあげる!!」

 

 初陣の恐怖を振り払うかのように、アルマの駆る陸戦高機動型ザクが凄まじい加速で敵の部隊へと肉薄していった。

 

『な、何なんだよコイツら──!』

 

 隊長機を瞬時に失い、連携をズタズタに引き裂かれた鹵獲ザクの残党が、半狂乱になってアルマの機体へとマシンガンを乱射する。

 だが、その弾道は彼女のニュータイプとしての知覚に完全に先読みされていた。

 アルマは陸戦高機動型ザクの脚部スラスターを瞬間的に横へと爆発させ、弾幕をステップを踏むような機動でヒラリと回避する。

 すれ違いざま、赤熱するヒートサーベルの一閃が敵機を一文字に切り裂いた。

 鹵獲ザクが激しい爆発とともに四散する。

 

 アルマがヒートサーベルで鹵獲ザクを切り裂き、ミアが背部のガトリング砲で61式戦車を一掃し、ヘレナが狙撃ライフルで2人が取りこぼした敵を撃ち抜く。

 初陣とは思えないその鮮烈な連携に、敵の残存部隊は完全に恐怖に叩き落とされた。

 

「彼女たち……まるで踊っているみたいに暴れ回ってますね」

 

「うん、この様子ならあっちは心配いらなそうかな」

 

 フラナガン機関にいた頃のアルマは、笑顔の裏で自信を失っているようだった。

 けれど、キリー・ギャレット少佐という理解者を得て、信じ合える仲間を見つけた今の彼女の動きには、一切の迷いがない。

 陸戦高機動型ザクの推進力を極限まで引き出し、まるで荒野を舞う妖精のように滑らかに敵陣を攪乱していくアルマ。その背後を、ミアの正確な火力支援と、ヘレナの冷徹な一射が完璧に支えている。

 さらに後方からの援護射撃も有り、瞬く間に鹵獲ザク部隊は一掃され、戦闘は終息した。

 

 

 

*****

 

 

 

『みんな、良くやったわ! お疲れ様!』

 

 通信モニターの向こう側で、ギャレット少佐がどこか誇らしげに、そして安堵の混ざった声音で告げた。

 完全に沈黙した連邦軍の61式戦車と、鹵獲ザクの残骸が転がる中、アルマがコックピットの中で小さく息を吐いた。

 

「ふぅ……終わったんだよね?」

 

「うん。お疲れ様、アルマ」

 

 敵の数が想定よりも多かったが、アルマたちが一緒にいてくれたおかげでスムーズに作戦を完了することができた。

 僕たちだけではもっと苦戦していたかもしれない。

 

「シュティルナー少尉、本当にすごかったですよ。実戦経験が無かったなんて、とても信じられません」

 

「いや~、それほどでも~。あっ、私のことはアルマでいいよ、ブラウン。敬語とかも面倒だし、無礼講でいこうよ」

 

「ありがとうございます、アルマ少尉。敬語については、僕も軍人ですので、お気持ちだけ受け取らせてください」

 

『素晴らしい心構えだ、ブラウン曹長。それに引き換え……シュティルナー少尉! お前も彼を見習って、ライゼン中尉に敬語を使え! 知り合いだか何だか知らんが、相手は上官だぞ! これ以上、我が隊の恥を晒すな!』

 

「ええ~っ! バルバラ中尉、ひどいですよ~!」

 

 バルバラ中尉の容赦ない一喝が回線を震わせ、アルマが情けない声を上げる。

 そのやり取りを聞いていたミアもヘレナも、そして僕たちも、心からの笑顔を交わし合うのだった。

 

 

「随分と楽しそうだなぁ、お前ら。まさかとは思うが、俺たちのことを忘れちゃいねえだろうな?」

 

 

 低い声とともに遠方から地響きが近づいてくる。

 地面そのものを揺るがすような、陸の王者(ヒルドルブ)の駆動音。

 僕たちと同じく、鹵獲ザク部隊との戦闘経験があるという理由で、今回の任務に駆り出されたデメジエール・ソンネン少佐だった。

 

 

「もちろん覚えてますよ、ソンネン少佐。支援射撃、ありがとうございました」

 

「そうかい? 女にチヤホヤされるのに夢中で、すっかり忘れ去られたかと思ったぜ。──なあ、ギャリー少尉?」

 

 ソンネン少佐はヒルドルブに随伴しているザクⅡ改に語り掛けた。

 ザクⅡ改の通信機から返ってきたのは、若さに似合わぬ酷く落ち着いた、どこか達観したような男の声だった。

 

「ソンネン少佐はともかく、自分は忘れられていたとしてもおかしくありませんね。今回の戦闘では何もしていませんから……」

 

「そ、そんなことありませんよ、ギャリー少尉……。少尉がソンネン少佐の護衛に専念してくれたからこそ、僕たちは後ろを気にせずに戦えたんですから……」

 

 ──ギャリー・ロッジ少尉。

 

 オルガ少尉がドズル親衛隊に異動になったため、人員が不足した海兵隊に補充兵として来てくれたMSパイロットだ。

 もともとはインド洋方面軍第203戦略海洋部隊に所属していたが、右目を負傷し、傷病兵として後方に下がっていたところをガルマ大佐が声をかけたらしい。

 ギャリー少尉はシーマ中佐やゲール中佐と同じマハル出身らしく、この海兵隊の空気にも一瞬で馴染むタフな風格が漂っていた。

 

「ハハハ、冗談ですよ、ライゼン中尉。陸に上がったばかりの自分の身を案じてのことだと理解しています。一刻も早く、中尉やブラウンと戦場をともにできるよう、努めさせていただきます」

 

 ギャリー少尉にはオルガ少尉のグフではなく、僕が宇宙(そら)で受領したザクⅡ改を使用してもらっている。

 あのザクⅡ改はもともと戦傷兵で構成された首都防衛大隊の機体であり、隻眼でも問題無く使えるように調整されてある。

 彼が海洋部隊出身とはいえ、地上戦に順応するのもそう時間はかからないはずだ。

 

「俺とヒルドルブには護衛なんざ必要無えって言ったのによ……ん? どうした? 嬢ちゃん」

 

 ソンネン少佐の声につられてふと視線を向けると、ミアのザク・ハーフキャノンがまるで未知の生物に引き寄せられるかのように、ヒルドルブへふらふらと近づいていくのが見えた。

 そして──。

 

 

「──これ、欲しいです!!」

 

 

「「「えっ?」」」

 

 

「うおっ!? 何だぁっ!?」

 

 

 直後、ヒルドルブの30cm(サンチ)砲に、がっしりと抱き着くザク・ハーフキャノンという、戦場の緊張感を一瞬で吹き飛ばすよくわからないシュールな構図が出来上がったのだった。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──数分後。

 

「まさか、ツィマッド社のお嬢さんだったとはな。ヒルドルブの主砲に目をつけるとは、見る目があるじゃねえか」

 

「す、すみませんでした、ソンネン少佐……。私が設計しているMSにピッタリで、つい……」

 

 ミアは顔を真っ赤にしながら、モニター越しに頭を下げていた。

 ヒルドルブの30cm(サンチ)砲に文字通り抱きついた彼女の奇行に、あの気難しいソンネン少佐も完全に毒気を抜かれてしまったようだ。

 むしろ、上層部から不遇の扱いを受けてきた愛機を、最高の技術的価値をもって「欲しい」と全肯定してくれた若い技術者の登場に、少佐の頑なな表情はどこか嬉しそうに緩んでいた。

 

『ウチの子たちがご迷惑をおかけしました、ソンネン少佐』

 

 通信回線からギャレット少佐の苦笑混じりの声が流れると、ソンネン少佐は不敵に笑った。

 

「ハハッ、謝る必要は無えさ。技術屋ってのはそれくらい強欲な方が、良いモノを作れるってもんだ。ミアっつったか? なんなら、ヒルドルブ(こいつ)のデータを特別に取らせてやってもいいぜ?」

 

「本当ですかっ!? ギャレット少佐、ソンネン少佐たちをティルナノーグにご招待してもよろしいでしょうか!」

 

『ウチは秘匿部隊だし、本当はダメなんだけど……これだけお世話になった以上、無碍にはできないわね。特別に許可するわ』

 

「ありがとうございます!」

 

 ミアの弾んだ歓声に、硝煙の立ち込める荒野は、一気に和やかな空気に包まれていく。

 

「よかった~! それじゃあ、私たちの家に案内するね! ライゼン!」

 

「うん、お願いするよ、アルマ」

 

『忘れてないだろうな? シュティルナー少尉。戦闘ではよくやったが、勝手に飛び出した件について、まだ私の話は終わっていないからな』

 

「ひぃっ……!?」

 

「ふふっ……」

 

 こうして、僕たちは近くにあるというノイジー・フェアリー隊の拠点『ティルナノーグ』に向けて移動を開始した。

 その道中──。

 

 

「あーっ! 見てみて、流れ星!」

 

 

 アルマの弾んだ声に促され、僕たちが視線を上空へと向けると、抜けるような北米の青空を切り裂くようにして、ひときわ輝く一筋の光条が、凄まじい速度で大気圏を降下してくるのが視認できた。

 

 

『あの突入コースだと北米に来るわね。HLV? それにしては大きい……』

 

 

 流れ星は地域によっては吉兆とも、凶兆とも言われているらしい。

 北米では見た人間の願いを叶える幸運の星と言われているらしいが……この日、僕たちが見た流星は間違いなく()()だった。

 

 この後、大気圏を突破してきたあの白い光が、「V作戦」と呼ばれる連邦の新型MSを積載した戦艦であることを、僕たちは知らされることになる。

 

 

 

 ──宇宙世紀0079年9月23日。

 

 ジオンに大きな災厄をもたらすことになる白い凶星(あくま)──『ガンダム』が、北米の大地に降り立った。

 

 V作戦の正体を探ろうとしていた、赤い彗星──シャア・アズナブル少佐が、大気圏突入時の戦闘で連邦のMSに()()し、行方不明(MIA)になってしまったという、最悪の凶報とともに……。

 

 

 




 本作では統合整備計画の開始時期が早まっているのため、グフ・カスタムも計画で開発された機体の1つという設定になっております。
 ※グフ・カスタムが正史でも統合整備計画の機体かどうかは諸説あります。
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