戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第73話 宿敵との対峙

 ──北米上空。

 

「あれだな……」

 

 僕は隊を離れて、ただ1人、グフ・カスタムで夜空を駆けていた。

 足元のドダイYSが重々しいエンジン音を立てて飛行する中、夜の闇に紛れるようにして浮かぶ巨大な影──ガウ攻撃空母の姿を捉える。

 ガウの後部ハッチが開き、ガイドビーコンの光がグフ・カスタムを迎え入れる。

 ゆっくりと格納庫のデッキに着艦し、コックピットハッチを開く。

 

「中尉、ガルマ大佐がお待ちです。すぐにブリッジへ!」

 

「了解!」

 

 つい数時間前、鹵獲ザク部隊討伐の任務を終え、アルマたちの家である『ティルナノーグ』に到着してすぐのこと、ガルマ大佐から突如として緊急の帰還命令が舞い込んだ。

 すでに日は落ちかけていたが、大佐の通信の声はこれまでに聞いたことがないほど緊迫しており、一刻の猶予も許されないことは明白だった。

 そのため、僕はギャレット少佐からドダイYSを借り受け、先行してガルマ大佐の座乗艦であるガウ攻撃空母へと急行したのである。

 

「ガルマ大佐。ヴァルター・ライゼン中尉、ただいま帰還いたしました」

 

「ライゼン、よく戻ってきてくれた。難しい任務を終えたばかりだというのに、呼び寄せてしまって本当にすまない」

 

「いえ、ノイジー・フェアリー隊の協力のおかげで、想定よりも早く終わらせることが出来ました」

 

「報告にあったキリー・ギャレット少佐の部隊か。女性のみの部隊と聞いていたが、精鋭揃いのようだな。彼女たちのことについても詳しく聞きたいところだが……今はそれ以上に深刻な問題がある」

 

 ガルマ大佐はそう言って、痛みを堪えるような複雑な表情で、ガウのブリッジから見える連邦の新型戦艦に視線を向ける。

 

「はっ……。あれが例の『木馬』ですか?」

 

「……ああ、そうだ」

 

 ガルマ大佐は拳を固く握り締め、その忌々しき巨体を凝視していた。

 

「シャア・アズナブル少佐がMIAというのは本当なのでしょうか?」

 

「私も信じられん。シャアが……あの赤い彗星が敗れるなどと……!」

 

 報告によれば、あの新型戦艦はルナツーでの補給後、連邦軍の本拠地である南米──ジャブローへ直接向かう降下進路(コース)をとっていたらしい。

 シャア少佐はそれを阻止すべく、大気圏突入時という極めて時間制限の厳しい条件下の中で、木馬へ奇襲を仕掛けた。

 大気圏突入のタイミングで戦闘を仕掛けるなど、過去に一度も例が無い。ザクといえど、大気圏の摩擦熱には耐えられないからだ。

 しかし、シャア少佐はこれを敢行した。これには連邦も驚愕しただろう。

 結果、シャア少佐の攻撃によって木馬は地球への進入角度を変更せざるを得ず、ジャブローへの降下は阻止された。彼らはジオンの勢力圏内である北米へと引きずり降ろされたのだ。

 シャア少佐の目論見通りに……。

 

 ──しかし、その代償はあまりにも大きかった。

 

 シャア少佐は制限時間内に戦闘を切り上げてコムサイに避難し、そのまま自身もガルマ大佐のいる北米へと降下しようとした。

 だが、連邦のMSは無謀にも戦闘をやめようとはしなかった。制限時間を過ぎても、シャア少佐の乗るコムサイへ執拗に追撃を仕掛けたのだ。

 

 赤い彗星の唯一の誤算──それは連邦のMSが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 シャア少佐のコムサイはこの追撃によって針路の変更を余儀なくされたばかりか、撃墜こそ免れたものの、致命的な損傷を受けた。

 コムサイはそのまま燃え尽きてしまった可能性が高く、奇跡的に大気圏を突破できていたとしても、どこに墜落してしまったのかさえわからない。

 このような状況では生存は絶望的と判断され、シャア少佐はMIAと認定されてしまった。

 

「……シャアが死んだとは思いたくない。しかし、彼は己の身を賭して、あの戦艦をこの北米へ落としてくれたのだ。ならば、私はシャアの友として、そしてザビ家の男として、必ず奴を討ち取らねばならん」

 

 いつものガルマ大佐なら、木馬と新型MSを鹵獲することを考えただろう。

 しかし、士官学校時代からの友人であるシャア少佐を失った怒りと、強大な敵への警戒心が、大佐をいつも以上に過激にさせたようだった。

 

「ライゼン、君にわざわざ来てもらったのは他でもない。シャアを倒した連邦の新型MS、そのデータが圧倒的に不足している。奴らがどれほどの力を持っているのか、我々はこの目で確かめる必要がある」

 

「……威力偵察、ということですか」

 

「そうだ。本格的な攻撃を行う前に、まずは敵の力量を測る。ライゼン、君には木馬へ小規模な強襲を仕掛けてもらいたい。この役目を任せられるのは、エースである君しかいない」

 

「……かしこまりました。やってみます」

 

「すまないな……。本来ならば、私も一緒に出撃したいところだが……」

 

「おやめください。敵はシャア少佐を破った相手です。向こうの戦力がわからないうちに、指揮官が前に出るべきではありません」

 

「フッ……ダロタと同じことを言う。わかっているさ、無理はしない」

 

 ダロタ中尉にソロモンでドズル閣下が撃墜された時のことを話しておいて良かった……。彼が止めてくれなければ、ガルマ大佐は僕の到着を待たずに出撃していたかもしれない。

 近くで控えていたダロタ中尉が疲れた表情で頷くのを見て、ドズル閣下に振り回されていたラコック大佐を思い出した。

 ザビ家の副官というのは僕が思っている以上に大変なのかもしれない。

 

 僕はガルマ大佐に一礼してブリッジを後にした。

 連邦のMS相手に僕がどこまで戦えるかはわからないが、ガルマ大佐を危険に晒すわけにはいかない。

 格納庫に戻り、すぐにグフ・カスタムのコックピットへと滑り込む。

 ドダイYSの推進剤の補給はすでに完了している。ガルマ大佐の期待に応えるためにも、そして何よりシャア少佐を退けたというその「怪物」の正体を突き止めるためにも、のんびりしている時間はなかった。

 

「ヴァルター・ライゼン、グフ・カスタム、出撃します!」

 

 ガウの後部ハッチが開き、眼下に広がる北米の夜闇が視界に飛び込んでくる。ドダイYSに固定されたグフ・カスタムは、強烈な夜風を浴びながら空へと躍り出た。

 

『ライゼンが前に出たら、攻撃をかける! ゲビル戦隊(ドップ)も出撃し、ライゼンを援護しろ!』

 

「「「了解!」」」

 

 ガルマ大佐の号令が響き渡ると同時に、ドップ編隊が一斉に出撃した。

 夜の帳が静かに開き、北米の地平線が赤く白み始める。朝靄の向こう側、木馬の姿がだんだんと明確に僕の網膜に映し出されていった。

 こちらが近づくと、逃げるように高度を下げていく。

 

「各機、展開しろ! 対空砲火を警戒しつつ、木馬の退路を塞ぐ!」

 

 ゲビル戦隊が朝靄を切り裂きながら左右へと翼を広げ、木馬へと襲いかかった。

 直後、巨大な新型戦艦の各所から、無数の対空機関砲の光条が網の目のように噴き出してきた。夜明け前の薄闇を、曳光弾の冷たい光が激しく明滅させる。

 僕は対空弾幕の死角を突いて木馬の左舷後方へと急速に接近した。

 グフ・カスタムの左腕に装備されたガトリングシールドが、凄まじい咆哮を上げて火を噴く。砲口から放たれた実弾の嵐が、新型戦艦の重厚な装甲を激しく叩き、激しい火花と爆煙を飛び散らせた。

 

「さすがに装甲は厚いな……!」

 

『……にMS接近! ………の上からこちらを…………います!』

 

『こ……もMSを……! …………に迎撃…せろ!』

 

 散布されたミノフスキー粒子の隙間を縫って、木馬のブリッジからと思われる焦燥した通信が微かに混線して聞こえてくる。

 

「木馬のハッチが開くぞ!」

 

 ドップのパイロットからの緊迫した報告と同時に、木馬のハッチが大きく開放された。

 暗闇の奥から、日の出とともにトリコロールカラーのMSが現れた。

 白を基調とした装甲に、鮮烈な青と赤。頭部にはV字型のブレードアンテナが、朝日の光を反射してギラリと輝いている。

 これまでの連邦のいかなる兵器とも異なる、圧倒的な威圧感を放つ人型のシルエット。

 背部のスラスターから爆発的な光を放ちながら、その白いMSは大地へと躍り出た。

 

「あれが、連邦のMS……!」

 

 僕はドダイYSを飛び降りて連邦のMSを追った。

 シャア少佐を退けた力がどれほどのものなのか、この目で確かめなければならない。

 

「ゲビル戦隊は引き続き木馬を牽制してください! あの白いヤツは自分が相手をします!」

 

「了解した。武運を祈る!」

 

 重力に引かれるまま、荒野の大地へと音を立てて着地した。土煙の向こう側、日の出の光を背負って佇む白いヤツが、こちらに向けてライフルを構えるのが見える。

 

(……来る!)

 

 銃口から閃光が(はし)る。

 直感で危機を察知すると同時に、グフ・カスタムを横へとスライドさせた。

 コンマ数秒前まで僕の胸部コックピットがあったはずの空間を、大気を引き裂く灼熱の熱線──収束されたメガ粒子砲が掠めていく。

 至近の地面を穿ったビームが、荒野の岩肌を一瞬でドロドロのマグマへと変える。

 

(戦艦の主砲並みのエネルギーが、あの小さな銃身に凝縮されているのか……!)

 

 火力はザクマシンガンやガトリングシールドとは次元が違う。直撃すればグフ・カスタムと言えど、タダでは済まないだろう。

 しかし──。

 

(──射線さえ予測できれば、避けられないことはない!!)

 

 間髪入れずに放たれる2発目、3発目のビーム。

 僕はトリガーが引かれる直前の射線と、脳裏に閃く死の予感を完全に同期させ、ジグザグに鋭いステップを踏んだ。光の速さで迫るビームを、文字通り紙一重の制動で躱しながら、ガトリングシールドの引き金を絞り、凄まじい実弾の咆哮で応戦する。

 白いヤツはに左腕の大型シールドを前面へと構え、その頑強な傘の影に自らの身を完全に隠した。直撃した無数の実弾が火花を散らし、弾かれて荒野へと飛び散る。

 ザクであればシールドごと蜂の巣にするはずのガトリング砲の掃射。しかし、白いヤツはその実弾の弾幕を真っ正面から受け止めている。その圧倒的な防御剛性に、僕は背筋が凍るような戦慄を覚えていた。

 

(何て硬さだ……! 射撃が通じない以上、仕留めるには近接戦闘(ヒートサーベル)しかない!)

 

 カチャリ、と白いヤツがシールドの裏側から再びビームライフルを突き出してくるのが見えた。

 僕はトリガーが引かれるより早く、グフ・カスタムを左へとスライドさせた。

 直後、僕がいた空間の砂塵を蒸発させながら、4発目の熱線が荒野を貫いていく。

 その強烈な熱量の余波でカメラが一瞬ホワイトアウトするが、僕は構わずガトリングシールドをパージし、ヒートサーベルを抜刀した。

 オレンジ色に赤熱した刃を渾身の力で振りかざし、白いヤツが掲げたシールドへと激しく叩きつける。

 凄まじい融解音と金属火花がモニターを真っ赤に染め上げ、ガトリングの嵐さえ防ぎきった強固な盾が、熱線の刃によって斜めに切り裂かれ、荒野へと崩れ落ちていく。

 

『こ、こいつ、違うぞ……! ザクなんかと装甲も、パワーも……!』

 

 混線するノイズを切り裂き、コックピットに響いたのは、焦燥した声だった。その声音は僕と大して年は違わないようにも思える。

 

(グフを知らない……? そんなことあるのか……?)

 

 グフの量産はすでに地球の各地で進んでいる。いくら宇宙軍とはいえ、連邦軍のMSパイロットがその存在を知らないことに、僕は違和感を感じた。

 しかし、考えている暇はない。

 盾を切断された白いヤツは、右手のライフルを躊躇なく投げ捨てると、流れるような野性的挙動で背中から鮮烈なピンク色の光刃を抜き放った。

 

(ビームの剣……!?)

 

 その光を見るだけで、触れればグフ・カスタムの重装甲すら紙のように溶かされることが本能で理解できた。

 僕は操縦桿を限界まで手前に引き、後ろに下がって光の刃を躱す。直撃すればヒートサーベルごと機体を両断されていたであろう破壊力に、冷や汗が背中を伝うが──。

 

「もらった……!」

 

 大振りして完全に体勢が崩れた白いヤツの胴体目掛けて、ヒートロッドを放った。

 射出されたワイヤーが白いヤツの胸部装甲に突き刺さり、磁気吸着によって完全に固定される。

 僕は間髪入れずに高圧電流を流し込んだ。装甲表面を青白く狂おしい電弧が走り、白いヤツをバチバチと激しく焼き焦がす。

 

『う、うわああぁぁっ──!?』

 

 パイロットの絶叫が響いた直後、あれほど圧倒的だった白いヤツの挙動がピタリと止まり、その四肢は完全に機能を停止した。双眸のカメラアイが瞬時に暗転し、赤熱するビームサーベルの光刃がパッと霧散するように消滅する。

 

(勝った……。恐ろしい相手だった、けど……)

 

 確かに性能はジオンのMSよりもはるかに上を行っている。だが、その操縦マニュアルをなぞっただけのような、大振りで無駄の多い戦闘機動──その動きは、お世辞にも熟練の兵のものとは思えなかった。

 この程度の相手に、赤い彗星が負けたとは──。

 

(──殺気っ!?)

 

 勝利を確信したまさにその瞬間、上空から新たなビームの光が迫ってきた。

 咄嗟に回避すると、巻き上がる土煙の向こう側、激しい風圧とともに、上空からもう1機のMSが静かに降り立ってきた。

 外観は白いヤツと驚くほど似ている。細部のシルエットも、あのV字アンテナも同じ。だけど、その纏うオーラがあまりにも異質だった。

 機体色は、夜の闇を溶かし込んだような「黒」、冷たく煌めく「銀」、そして不気味な血の色を思わせる「赤」を基調としている。

 

『ジオンの虎……ヴァルター・ライゼン。あなたは私が倒す。この──「ガンダム」の力で……!』

 

(この声、どこかで──!?)

 

 ガンダムと呼ばれるもう1機のMSがライフルを構えた。銃口から放たれた、大気をも溶かすようなビームを間一髪で回避し、僕は息をつく暇もなく、再びヒートロッドを撃ち出した。

 ワイヤーが黒いガンダムの構えた盾に張り付き、勝利を確信するが──。

 

(なっ……!?)

 

 ガンダムは、躊躇という言葉を一切知らないかのような驚異的な速度で、ワイヤーの絡みついた盾を自ら投げ捨てた。これでは高圧電流を流しても、敵の機体には届かない。

 ヒートロッドを回収しつつ、僕は左腕の3連装35mmガトリング砲のトリガーを叩いた。ガトリングシールドはすでにパージしたが、腕部に固定されたこの火器はまだ生きている。

 しかし、無情な跳弾音とともに、実弾は黒い装甲の表面で激しい火花を散らしながら、容易く弾き飛ばされていった。

 

(機体の装甲も、盾と同じ素材で出来ているのか……!)

 

 実弾兵器が一切通用しないという絶望的な現実。しかし、黒いガンダムは僕の驚愕を置き去りにするほどの圧倒的な速度で肉薄してきた。

 

『ハァァァッ!!』

 

 激しい呼気とともに、盾を捨ててフリーになっていた左手が、背部から鮮烈なピンク色の光刃──ビームサーベルを抜き放ち、一文字に薙ぎ払ってくる。

 僕は条件反射で脚部バーニアを開放し、重力に抗うように機体を後方へと跳ね上げさせた。

 後ろに下がった僕に対し、ガンダムは一切の攻撃の隙間を与えまいと、即座に右手のビームライフルを向けた。

 

(今、撃たれれば終わる……!)

 

 僕は姿勢が完全に復元していない状態のまま、ビームライフル目掛けてヒートロッドを射出した。ワイヤーの先端が、狙い違わずビームライフルへと吸着する。

 電流を流し込むトリガーに指をかけた瞬間、ガンダムは盾の時と全く同じように、躊躇いも無くビームライフルをその場に投げ捨てた。

 そのまま流れるような動作で、背中からもう一本のビームサーベルを抜き放ち、二刀流でこちらに向かってくる。

 僕は射出したヒートロッドを回収しながら瞬時に機体の重心を低く落として体勢を立て直した。

 

 ガンダムの猛攻──左右から時間差なく襲い来る二本の光刃を、紙一重で躱し続ける。

 触れれば融解、掠めれば爆散。モニターをピンク色の熱線の残像が網の目のように埋め尽くす。

 生と死の境界線を綱渡りするような極限の時間の中、ガンダムの放つ張り詰めた殺気のラインが、僕の脳裏にハッキリと浮かび上がってきた。

 

(──捉えたっ!)

 

 激しい連撃の継ぎ目、ガンダムの両腕が大きく開いたまさにその刹那。僕は一歩、相手の懐のさらに奥深くへと踏み込んだ。

 体勢を立て直そうとする黒い胸元目掛け、右腕のヒートサーベルを渾身の力で突き出す。オレンジ色に輝く執念の刃が、真っ直ぐにガンダムのコックピットへと肉薄した。

 

『くぅっ……!!』

 

 短い苦悶の不意突かれ声が響くのとほぼ同時、ガンダムは咄嗟に上体を後ろへと反らした。

 しかし、完全には躱しきれない。限界まで赤熱させたグフ・カスタムのヒートサーベルの先端が、ガンダムの胸部──まさにコックピットの装甲プレートを正確に捉え、強引に切り裂いていった。

 引き裂かれたハッチの奥、こちらを真っ直ぐと睨みつける女性と視線が絡み合う。

 

(あの人は……エアーズ市民軍の、マルセラさん……!?)

 

 かつて、月面都市エアーズで出会った女性──マルセラ・スペンサー。

 

 ジオンを敵視していた彼女が地球連邦軍へと身を投じたことは意外ではなかったが、まさかこんなところで再会するとは思ってもみなかった。

 顔見知りとはいえ、敵として現れた以上、彼女を討つしかない。

 しかし、戦場という極限状態での予期せぬ因縁の邂逅。その事実がもたらした驚愕によって、僕は彼女にトドメを刺すチャンスを逃してしまった。

 

『下がれ! マルセラ!』

 

 鋭い緊迫感を孕んだ男の声が響き渡る。

 上空から放たれた強烈なビームが僕とマルセラさんの間に割って入るように着弾し、大地を激しく爆発させた。

 新たに戦場に降り立ったのは全身が灰色のMS。

 

「なっ……!? 3機目!?」

 

 トリコロールカラーの1機目、マルセラさんが操縦する2機目、そしてこの灰色──。

 ジオンの技術力を完全に凌駕する連邦の新型MSが、3機もいるという事実に、僕は強烈な戦慄を覚えていた。

 

(シャア少佐が負けるわけだ……。こんな奴らを相手にしていたら、命がいくつあっても足りない……!)

 

 胸の奥から湧き上がる圧倒的な恐怖と、それを必死にねじ伏せようとするアドレナリンが混ざり合い、コックピットの中で僕の呼吸が激しく荒くなる。

 

『少佐……!』

 

『……マルセラ、お前はアムロを連れてホワイトベースに戻れ。コイツは俺が相手をする』

 

 切り裂かれたハッチの向こうで、マルセラさんは悔しそうに唇を噛み締めながらも、男の指示に従って機能を停止した白いヤツへと機体を寄せた。

 巨体を抱え、脚部スラスターの鈍い光とともにマルセラさんは後方へと帰投していく。それを追いかけることは、目の前の灰色のガンダムが許してはくれなかった。

 

 

『──さて、グラナダ以来だな。……と言っても、こうして言葉を交わすのは初めてだったか』

 

 

「グラナダ……? ──……まさかっ!?」

 

 

 スピーカーから響く男の低く落ち着いた声を聞いた瞬間、僕の背筋に冷たい戦慄が走り、その声の主を思い出した。

 忘れもしない。軍人になって初めて植え付けられた、苦々しい敗北の記憶──。

 

 

「────……トウヤ、シロナギ……」

 

 

『覚えていてくれて光栄だ。──鋼鉄の虎、ヴァルター・ライゼン』

 

 

 その名が口から零れ落ちた瞬間、僕の魂の奥底から、言葉に出来ない何かが、炎のように湧き上がってくるのを感じた。

 

 

 




 虹霓のシン・マツナガではトウヤはパオロ・カシアスの部下だったので、生きていたら多分、ホワイトベース隊にいたと思ってます。
 原作でもマスドライバーを破壊する作戦を立案したり、戦争を終わらせるヴィジョンを持っていたりとかなり有能だったので、本作ではジーンの独断専行による被害は、トウヤの活躍により最小限に抑えられたと思ってください。※ガンダムが3機いるのはそのため。
 マルセラがホワイトベース隊にいるのは、トウヤが生きているなら彼女も一緒にいると思ったからです。
 原作でもフルアーマーガンナーガンダムに乗っているので、本作ではプロトタイプガンダムのパイロットとして登場させました。カイやハヤトに乗せるよりかは違和感が無いかなと……。
 トウヤはG-3ガンダムです。当然ですが、この時点ではまだマグネット・コーティングはありません。

 主人公が戦犯と呼ばれても仕方がないくらい、ホワイトベース隊が強化されていますが、ジオン側も強化されていますので釣り合いは取れているかなと思ってます。多分……。
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