戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第74話 戦士として

 ──あの日の彼の背中は、今もまだ目に焼き付いている。

 

 ──レールガンを破壊し、勝利した僕たちに待っていた結末。

 

 ──それが全て、僕たちが捕らえた将校の策略だったと知った時の驚愕。

 

 ──あの時、捕虜として連れていかれた彼は、間違いなくあの戦いの勝者だった。

 

 

『まさかあの時の少年兵が、今やジオンのエースとはな……』

 

 

 あの絶望的な敗北感の元凶が、敵として、僕の目の前にいる。

 連邦軍のMSに乗って……。

 

 

「こんなところで会えるとは思っていませんでした……」

 

『俺もだ。連邦に戻る前に、シンから話は聞いた。俺を助けるために手を貸してくれたらしいな。こんな時に何だが、一応、礼を言っておく』

 

「今、ものすごく後悔しているところなので、もう一度、捕虜になってくれると助かるのですが……」

 

『ハハハ! それは出来ないな。俺にも軍人としての責務がある』

 

 僕は改めて禍々しく輝くヒートサーベルを構え直した。

 恐怖などとうに消し飛んでいた。かつて、僕を見向きもしなかった『強敵』を前に、アドレナリンが身体中を駆け巡る。

 

「マツナガ大尉には謝らなければならなくなりますね……」

 

 彼が命を賭して救った親友を、今ここで、僕が討ち取ることになるかもしれないのだから。

 

『戦場でのことだ。シンならわかってくれるさ。──もっとも、アイツに謝るのは俺の方だけどな』

 

 一瞬の静寂の後、灰色のガンダムが、流れるような滑らかな挙動でビームライフルをこちらへ向ける。

 その銃口が発光した刹那、僕は機体を横へと蹴り出した。コンマ数秒後、先ほどまで僕がいた空間を、ビームが空気ごと蒸発させながら通過していった。

 

『やはり避けるか……! まるで未来でも見えているかのような機動だな!』

 

 確かに、今の僕はこれまでにないくらい視界がクリアになっていた。

 フラナガン機関で自分の力を自覚し、ソロモンの戦闘で研ぎ澄まされた僕のニュータイプとしての知覚が、灰色のガンダムが引き金を引くコンマ数秒前の殺気を完璧に捉えている。

 僕は地を蹴った。ヒートサーベルを縦に構えながら、一直線にガンダムへと踏み込む。

 灰色のガンダムが軽やかに後ろへと跳んだ。ヒートサーベルの軌跡が空を裂く。

 

『悪いが、グフの土俵で戦うつもりはない!』

 

 トウヤ少佐の鋭い声音と同時に、灰色のガンダムはバックステップしながら、ビームライフルを放つ。それを回避するために素早く距離を取った。

 格闘戦に優れた機体であるグフの間合いから、最も被害が少なく、かつ確実に僕を仕留められるアウトレンジからの狙撃を選択し続けている。

 

(──さすがだ。さっきの2人とは違って、安易に踏み込んできてはくれない)

 

 素人のような挙動だった白いヤツや、ガンダムの力を過信して近接戦闘を挑んできたマルセラさんとは格が違う。一筋縄ではいかないか……と息を呑んだその時、ガルマ大佐から通信が飛び込んできた。

 

 

『ライゼン! もう十分にデータは取れた! 無理をせずに帰還しろ!』

 

 

 その声を聞いた瞬間、トウヤ少佐への執着で熱くなっていた僕の脳が、急速に冷えていくのを感じた。戦士として強敵に挑まんとする本能が、軍人としての冷徹な理性によって一気に引き戻される。

 目的はあくまでデータの採取だ。これ以上は無意味な戦闘でしかない。

 

「ガルマ大佐……。了解、帰還します!」

 

『悪いが、そう簡単に逃がすわけにはいかないな……!』

 

 トウヤ少佐の冷徹な声と同時に、灰色のガンダムがビームライフルをこちらに向ける。

 次弾の引き金に指をかける刹那、僕は左腕の3連装35mmガトリング砲のトリガーを限界まで引き絞った。

 狙うはガンダム本体の堅牢な装甲ではない。その手に握られたビームライフルそのものだ。どれだけ本体が硬かろうと、武器まで無敵のはずがない。

 その証拠に、トウヤ少佐は即座にライフルの銃口を下げ、咄嗟に盾で身を護る防御姿勢を取った。金属弾の激しい跳弾音とともに火花が盾の表面で爆ぜる。

 ガンダムが盾を掲げて視界を遮られた、まさにそのコンマ数秒の死角。僕はその隙を逃さずに、後方へと大きく跳んだ。

 左腕のガトリング砲を撃ち続けたまま、僕はグフ・カスタムの右腕を、パージしたあのガトリングシールドへと向けた。

 

「来い……!」

 

 右腕から鋭く射出されたヒートロッドが、ガトリングシールドに吸着する。ワイヤーを高速で巻き取り、失われていた重火器が吸い寄せられるように戻ってきた。

 空中で受け止め、即座にガトリングシールドを左腕に再装着する。その瞬間、弾幕が止んだ一瞬の隙をついて、トウヤ少佐のガンダムは盾を下げ、容赦のないビームライフルを撃ち放った。

 僕はグフ・カスタムのスラスターを爆発させ、空中に向かって力強く飛び上がってそれを回避した。僕の足元を通り過ぎ、遥か彼方の夜空へと消えていくピンク色の熱線。

 トウヤ少佐は僕がこのまま重力に従って落ちてくる、着地の瞬間に狙いを定めた。網にかかろうとしている獲物を仕留めるように。

 しかし──。

 

『何っ……!?』

 

 僕は右腕を()()に向け、ヒートロッドを射出した。放たれたワイヤーが激しい火花を散らしながら、()()()()()()()()()()()()Y()S()()()()()()

 そのままドダイにぶら下がり、上空を大きく円を描いて旋回しながら、左腕のガトリングシールドを地表のガンダム目掛けて撃ち放った。

 トウヤ少佐は咄嗟に盾を頭上に掲げ、激しい火花に身を包まれながら、空を見上げる防御姿勢を取る。

 僕はそのままガウに向かって飛ぶドダイに引っ張られていき、灰色の機体は、視界の奥へとみるみる小さくなっていった。

 激しい風の音の向こう、盾の隙間からこちらを見上げるガンダムの視線を感じながら、僕は右腕のワイヤーを引き絞り、ドダイの背へと強引に機体を這い上がらせた。

 

「次は必ず……」

 

 ドダイに機体を固定し、胸の高鳴りを残したまま、ガルマ大佐の待つガウへとその翼を向けた。

 

 

 

*****

 

 

 

「……ったく、シャアといい、アイツといい、ジオンのエースはバケモノばっかだな……」

 

 トウヤ少佐は小さくなっていくグフ・カスタムの影を見つめながら、フゥと深く息を吐き出して愚痴をこぼした。

 ライゼンやシャア少佐からしてみれば、そっちの機体の方がバケモノだろうと顰蹙(ひんしゅく)を買ってしまいそうな言い草だったが、地球連邦軍はまだMSという兵器を完成させたばかりなのだ。

 教育型コンピュータのサポートがあるとはいえ、ガンダムの性能に、パイロットたちの戦術や操縦技術が全く追い付いていなかった。

 スペックで劣るはずのザクやグフで、ガンダムと互角以上に渡り合ってみせた「赤い彗星」や「鋼鉄の虎」。彼らのようなエースは、トウヤ少佐の目から見れば、正真正銘のバケモノでしかなかった。

 

『トウヤ少佐! ご無事ですか!?』

 

 通信に飛び込んできたのは、ホワイトベースの()()──ブライト・ノア少尉の声だった。

 元は士官候補生だったが、赤い彗星の襲撃により正規軍人が大勢失われたため、トウヤ少佐の現場判断で彼を急遽少尉へと野戦任官させ、ホワイトベースの副長に据えたという経緯がある。

 ジオンの急襲を辛うじて撃退することが出来たとはいえ、いまやホワイトベースの乗組員の大部分は、まともな軍事訓練すら受けていない非正規兵の集まりだった。

 

「ああ、こっちは問題無い。ホワイトベースの方は大丈夫だったか? ブライト」

 

『はい、こちらに攻撃を仕掛けていたドップ編隊は撤退しました。アムロとマルセラ曹長も無事です。ですが……先ほどの戦闘で、一部の避難民たちから不満の声が上がっております』

 

「頭の痛い問題だな……。避難民を抱えたままじゃ限界も近い、か……。わかった、俺もすぐに帰還する」

 

 灰色のガンダムのツインアイが不気味に明滅し、自分を待つホワイトベースへと向かって静かに歩みを進め始めた。

 

 

 

*****

 

 

 

「トウヤ・シロナギ……。まさか彼がいたとはな……」

 

 ガウ攻撃空母に帰還した僕が先ほどの戦闘データと、ガンダムについての報告を終えると、ガルマ大佐は難しい表情をした。

 

「ご存じでしたか」

 

「ああ、私自身はあまり交流は無かったが、シンと兄弟のように仲が良かったのを覚えている。ドズル兄さんも、彼には一目置いていたからな」

 

 ガルマ大佐はそう言うと、全身が灰色に染め上げられたガンダムの静止画に視線を固定した。

 

「それにしても、連邦は何というMSを作ったのだ……! あらゆる面で我が軍のMSを圧倒しているではないか……!」

 

 実弾による攻撃を受け付けない堅牢な装甲。小型化したビーム兵器の携行。

 それは、これまで国力で勝る連邦相手に、MSで戦いを優位に進めてきたジオン公国軍にとって、前提条件そのものを根底から覆されかねない絶体絶命の危機だった。

 

「ガルマ大佐、作戦を根本から見直す必要があります。監視の目を残して、一度基地に帰還すべきかと……」

 

 ダロタ中尉が沈痛な面持ちで進言する。それに続くように、僕も一歩前に出て言葉を重ねた。

 

「自分もダロタ中尉に賛同します。あの木馬を仕留めるには、相応の戦力が必要です」

 

「……そうだな。これほどの強敵を前に、小出しの兵力で挑むのは愚策だ。戦力の再編にも時間がかかる以上、基地に戻って作戦を練り直さねばならんか……」

 

 ガルマ大佐は深く息を吐き出し、ダロタ中尉の進言を受け入れた。

 その柔軟な決断に、ブリッジ内に漂っていた重苦しい緊張感がわずかに和らぐ。

 

「ダロタ、各部隊へ通達。本隊はこれよりニューヤークへと一時後退する。それから、今回ライゼンが持ち帰ったガンダムとの交戦データは、本国とグラナダへ送れ。……ライゼン、今日はよくやってくれた。この後はゆっくり休んでくれ。いずれ来る木馬との決戦には君たち海兵隊の力が必要になる。頼んだぞ」

 

「はっ!」

 

 ガウ攻撃空母の巨大な翼が、ニューヤークへ向けてゆっくりと進路を変えていく。

 窓外に広がる北米の朝日を見つめながら、僕は次の戦いで必ず木馬を、そしてあのガンダムを討ち果たすことを、1人の戦士として静かに心に誓った。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──アムロ・レイにとって、ガンダムは自分の命を救ってくれたヒーローだった。

 

 

 

 サイド7で防空壕代わりのシェルターから飛び出したアムロの目に飛び込んできたのは、コロニーの中で破壊の限りを尽くすジオン公国軍のザクⅡだった。

 逃げ惑う人々、爆風で歪む隔壁、そして巨体が動くたびに響く重々しい駆動音。初めて見るMSの圧倒的な力の前に、1人の少年でしかなかったアムロはただ立ち尽くすしかなかった。

 自分もここで死ぬかもしれない──そう確信したその時、トウヤ少佐の乗る灰色のガンダムが現れ、圧倒的な強さでジオンのザクを打ち砕いた。

 あんなに恐ろしかったザクをはるかに凌駕する驚異的な性能。機械好きの少年だったアムロの心は、死の恐怖と未知のテクノロジーへの純粋な感動がないまぜになった激しい感情に突き動かされた。

 

 だからこそ、ジオンの襲撃によって正規の軍人たちが大勢亡くなり、生き残った民間人の中から志願兵を募ることになった時、アムロは真っ先に立候補した。

 もちろんアムロにも恐怖心はあった。しかし、命を救ってもらったにも関わらず、トウヤ少佐に不平不満ばかりを言い募る避難民たちを見て、こんな人たちとは一緒になりたくないという感情が、恐怖を上回った。

 そして何より、自分もトウヤ少佐のように、ガンダムで家族や友人を守りたいという想いも大きかった。

 

 父親であるテム・レイ大尉は当然、自分の息子が戦場に出ることに強い難色を示した。

 しかし、シミュレーターによるパイロットの適応能力テスト。そこでアムロは、操縦マニュアルを読み解いただけの段階であるにもかかわらず、予備のパイロット候補だった者たちを上回るほどの優秀なスコアを叩き出したのだ。

 レイ大尉も軍属である以上、アムロと同年代の少年少女たちが生き残るために銃を取っている状況で、私情を挟むことは許されなかった。

 父親として息子にできることは、ただ一つ。せめて少しでも生還率が上がるよう、自分が開発した最高性能の機体──ガンダムを託すしかなかったのだ。

 

 こうして、アムロはガンダム2号機のパイロットに選ばれた。

 

 しかし、現実は漫画のようには上手くいかなかった。

 初めての実戦ではシャアにいいようにしてやられた。大気圏突入時の戦闘では頭に血が上り、制限時間内にホワイトベースに帰還できず、テストすらまだだった大気圏突入用装備に辛うじて命を救われるという、乗組員たちの肝を冷やす失態まで演じた。

 そして、今日の戦闘──。

 

「ねえ、アムロ。もうガンダムに乗るなんてやめなさいよ。次は本当に死んじゃうわよ?」

 

 幼馴染のフラウ・ボゥが心配そうに顔を覗き込んでくる。

 アムロは、心底余計なお世話だと思った。

 大気圏で機体が燃え尽きそうになった時も、今日の戦いで、目の前が真っ暗になった瞬間も、アムロはいつだって死の深淵を覗き込んでいたのだ。

 死ぬかもしれないなんてことは、言われなくても分かっていた。

 

「戦いはトウヤさんたちに任せておけばいいじゃない。いくらお父さんが軍属だからって、アムロが無茶する必要なんてないわ」

 

「うるさいなぁ……。ほっといてくれよ」

 

「アムロ、待ちなさいよ! アムロ!」

 

 立ち去ろうとするアムロに対して、フラウはなおも一歩踏み込み、必死に言葉を重ねる。感情を昂ぶらせる幼馴染の言葉が、アムロの耳の奥で不快な耳鳴りのように響く。

 そんな時、背後から、今最も聞きたくなかった人の声が響いた。

 

「どうした、喧嘩か?」

 

「あっ! トウヤさん!」

 

 フラウが弾かれたように声を上げ、パッとそちらを振り返る。アムロは身体を硬直させたまま、すぐには振り返ることができなかった。

 自分が最も憧れ、そして今は最も合わせる顔のない『本物のヒーロー』が、すぐ後ろに立っていた。

 

「トウヤさん、アムロをガンダムから降ろしてあげることってできないんですか?」

 

 フラウはアムロを思うあまり、縋るような声をトウヤ少佐へとぶつけた。

 しかし、その優しさが、今の暗闇にいるアムロの心を激しく逆撫でする。

 

「フラウ! 余計なことを言わないでくれ──!」

 

 アムロは激情に駆られて振り返り、幼馴染の言葉を遮るように大声を張り上げた。

 一番憧れているトウヤ少佐の前で、まるで戦えないお荷物のように哀れみの目を向けられること。それが、今の自分の無力さを実感しているアムロにとって、何よりも耐え難いことだった。

 

「喧嘩の原因はそれか……。少なくとも、俺はアムロが自分からやめたいと言うまでは、ガンダムのパイロットから降ろすつもりはない」

 

 アムロはその言葉に安堵するが、フラウは引き下がらなかった。

 

「どうしてですか? 今日だって、もしトウヤさんたちが守ってくれなかったら……」

 

「そういった声があるのは知っているが、アムロがやられたのは指揮官である俺の責任だ。俺がちゃんとグフについての情報を共有していれば、アムロが負けることは無かっただろうさ」

 

 トウヤ少佐はアムロの敗因を己の過失だと思っていた。

 少なくとも、グフの情報が無ければ、自分もアムロのようにやられていただろうと、自己分析している。

 

「アムロは良くやってくれている。だからフラウ、お前もアムロを信じてやってくれ。男ってのは好きな女の子を護りたいがためにカッコつけたがるもんなんだよ。なあ、アムロ?」

 

「えっ……。そんな……!」

 

「ち、違いますよっ……!」

 

 思いもよらないトウヤ少佐の言葉に、フラウはパッと顔を赤らめて視線を泳がせた。アムロも耳まで真っ赤にしながら必死になって否定する。

 さっきまでのピリついた空気はどこへやら、通路には年相応の少年少女の初々しい動揺だけが残された。

 

「ハハハ! まあ、悩み事があったらいつでも言ってくれ。恋愛相談でもなんでもな」

 

 トウヤ少佐は快活に笑い、2人の肩をぽんと軽く叩いて、そのまま通路の奥へと去って行った。

 ジオンの脅威、難民の不満。過酷を極めるホワイトベースの航路にあって、彼が引き受けた指揮官としての重圧は並大抵のものではないはずだった。

 それでもこうして少年少女たちの心に寄り添い、戦うための理由を静かに支えようとする。その頼もしい背中を見つめながら、フラウは静かにため息を溢した。

 

「トウヤさん、素敵よねぇ……。マルセラさんが首ったけになる理由もわかる気がするわ」

 

 ぽつりと漏らされたその呟きに、アムロは小さく肩を震わせ、去りゆく軍靴の音の余韻をじっと聴いていた。

 

「フラウ、もういいだろ? 僕は行くよ」

 

「あら、ヤキモチ?」

 

「……そんなんじゃないって言ってるだろ」

 

 早足で歩き出すアムロの後ろ姿を、フラウは今度は引き止めることなく、ただ優しい眼差しで見つめていた。

 しかし、自室の扉が閉まり、アムロに完全な孤独が訪れた瞬間──。

 

 

 ──ゴンッ!!!

 

 

 アムロは、部屋の堅い隔壁に拳を強く叩きつけた。

 鈍い金属音が室内に響き、拳に鋭い痛みが走る。だが、その痛みさえも、今の彼にとっては己の存在を確かめるための刺激でしかなかった。

 

 トウヤ少佐は「自分の責任だ」と言ってくれた。フラウの前で、自分のちっぽけなプライドを守ってくれた。その優しさは痛いほど嬉しかった。

 

 

 ──だからこそ、許せなかった。

 

 

 赤い彗星や鋼鉄の虎に子供扱いされ、結局はトウヤ少佐に庇われ、お情けで生き延びさせてもらっただけの、惨めな自分自身が……。

 

「うっ……うぅぅっ……!」

 

 溢れ落ちる悔し涙を拭うこともせず、アムロはじっと己の拳を見つめた。

 それは単なるジオンへの敵意ではない。目の前にそびえ立つ、トウヤ・シロナギという男の背中を超えたいという、渇望。

 

 

 

「僕は…………あの人に、勝ちたい────!!」

 

 

 

 ──この日、少年の中に眠る、戦士としての才能が、獰猛な産声を上げた。

 

 

 




 この頃、原作ではアムロは周囲からガンダムに乗ることを強要されて精神的に潰されそうになってましたが、本作ではトウヤと比べられて期待外れのような視線を浴びせられているため、アムロの負けず嫌いな一面が強く表に出ております。
 また、アムロにとって、トウヤが原作におけるランバ・ラルのような立ち位置になっており、アムロの戦士としての本能が、原作よりも早く目覚めてしまいました。
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