戦犯にはなりたくない! 作:蒼天
「物資の搬入、急げ! ジオンは待っちゃくれないぞ!」
「ガンダムの予備パーツを最優先でホワイトベースのハンガーへ! ジオンの警戒網を破った以上、敵の増援が来るまで時間が無いぞ!」
ミデアのハッチが開き、次々と補給物資がホワイトベースへ運び込まれていく。
「テム・レイ大尉、ご無事で何よりです」
「よく来てくれた、マチルダ中尉。地獄に仏とはまさにこのことだ」
補給部隊の指揮官であるマチルダ・アジャン中尉がテム・レイ大尉の前に立った。
戦闘を終え、ガンダムから降りたアムロは、父の前に立つマチルダ中尉のその凛とした美しさに、思わず視線が吸い寄せられた。マチルダ中尉がその視線に気づく。
「……彼が2号機のパイロットですか?」
「ん? ああ、そうだ。私の息子でね……。アムロ、どうした?」
アムロは弾かれたように我に返り、耳まで真っ赤にしながら慌てて視線を泳がせた。
「あっ……いえ、ガンダムの整備を手伝おうかと……」
「今のお前はパイロットだろう。整備は私たちに任せて、休んでおけ。いつまたジオンの襲撃があるかわからんのだからな」
「と、父さん……でも……」
「ただでさえお前はオーバーワーク気味なんだ。休める時にしっかり休め。……本来なら、お前は戦場に出るような年齢では無いんだ」
アムロは父親を仕事人間だと思っていたが、その言葉には親として息子の身を案じる確かな温かさがあった。もっとも、マチルダ中尉と話がしたかったアムロにとっては、その親心は有難迷惑であったのだが……。
そんな少年の微笑ましい葛藤を察したのか、マチルダ中尉がさらに一歩歩み寄り、包容力に満ちた柔らかな眼差しを向けた。
「お父様の言う通りよ、アムロ君。休むのもパイロットの仕事の内なのだから」
「は、はい……! マチルダ中尉、僕たちを助けに来てくれてありがとうございました!」
「お礼を言うのはこちらの方だわ。あなたが戦ってくれなければ、私たちもやられていた。ありがとう。あなたはエスパーかもしれない」
「そ、そんな……」
あまりにも突飛なことを言われ、アムロは思わず声を裏返らせた。
エスパー。超能力者。不可解な単語に戸惑いながらも、アムロの胸は熱くなっていった。
「頑張ってね」
一瞬の香りを残して、マチルダ中尉は物資搬入作業へと戻っていった。
アムロにとって、それは初めて知った大人の女性の香りだった。
*****
僕のグフ・カスタム、ギャリー少尉のザクⅡ改、そしてブラウンの陸戦高機動型ザクが、ドダイYSに跨がり、荒野の空を駆けていた。
「もうすぐ目標地点だ。みんな、準備はいい?」
「いつでも行けます!」
ブラウンの威勢のいい声が響く。だが、その直後に続いたギャリー少尉の声には冷静な懸念が混ざっていた。
「自分もです。ただ……ライゼン中尉。こんなことを言うのは何ですが、自分たちだけでは戦力不足ではないのでしょうか?」
「気持ちはわかりま──……わかるけど、僕たちの役目はあくまで囮だ。ガンダムを引き付けるだけでいい。木馬への攻撃は別動隊が担当する」
僕は無意識に出かけた敬語を呑み込み、改めて作戦を説明した。
「今回の作戦の第一目標は木馬だ。木馬の防衛力はMSに依存していて、本体の火力は並みの戦艦には及ばない。ましてや今は補給の真っ最中……ガンダムさえ引き離してしまえば、制圧は容易のはずだ」
「あの化け物相手に足止めですか……。マハルにいる妹に遺書を書いておくべきでしたかね?」
「大丈夫ですよ、ギャリー少尉。ライゼン中尉について行けば必ず生きて帰れます!」
「……ブラウンの言うことはともかく、妹さんを悲しませないよう、僕も全力を尽くします。ギャリー少尉、着任早々、危険な任務で申し訳ありませんが、僕を信じてください」
「ハハハ! また敬語が出ちまってますよ、ライゼン中尉。……最年長だというのに弱気を見せてしまって申し訳ありません。俺も気張らせていただきます。兄貴として、妹に情けない姿を見せるわけにはいきませんからね」
「……ありがとうございます、ギャリー少尉」
ドダイのエンジンが重低音を響かせながら高度を落としたことで、眼下には補給作業に追われるホワイトベースとミデアの巨体がはっきりと視認でき始めていた。
「ギャリー少尉は空中から援護を! ブラウンと僕でガンダムを引き付ける!」
「「了解!」」
僕とブラウンが地上に降り立つ。地響きを立ててグフ・カスタムと陸戦高機動型ザクの脚部が砂塵を巻き上げた。向こうもこちらに気づいたのか、ガンダムが木馬から飛び出してくる。
白、黒、灰色……1機だけでも恐怖の象徴である化け物が、3機揃って僕たちの眼前に立ち塞がった。
『マルセラ、アムロ! 敵は鋼鉄の虎だ。油断するなよ!』
『『了解!』』
トウヤ少佐の号令とともに、灰色のガンダムが先陣を切って地を蹴った。
それに続くように黒と白のガンダムが左右に展開し、三位一体の陣形を描いてこちらへ肉薄してくる。
上空のギャリー少尉がドダイからザクⅡ改のマシンガンを掃射し、敵陣へ牽制の弾幕を降らせた。だが、ガンダムは盾を掲げて実弾を物ともせず、ビームライフルで反撃した。
閃光が虚空を切り裂き、頭上を通過する圧倒的な熱量が肌を刺す。
「ギャリー少尉!」
「上空からなら自分の腕でもビームを回避することは可能です! 中尉は目の前の敵に集中を──うぉっ!」
見上げると、雲を突いて飛来した2機の戦闘機が、猛烈な旋回性能でギャリー少尉に喰らいついた。
『トウヤ少佐! コイツは俺たちに任せてください! やれるな、ハヤト!』
『了解です、リュウさん! 任せてよ!』
『ハヤト、リュウ、無茶はするなよ!』
(ガンダム以外にも戦力があったのか……!? いや、もしかしたらミデアが運んできたのかもしれない)
空中からの援護は塞がれた。ガトリングシールドの銃口を上空へ向ける余裕など微塵もない。
目の前では、トウヤ少佐のガンダムを筆頭に、3機のMSが牙を剥いて間合いを詰めてきていた。
ガンダムたちが一斉にビームライフルの銃口をこちらに向ける。
「散開するぞ、ブラウン! 回避に専念しろ!」
「了解!」
警告のアラームが耳を刺すような高音でコックピット内に鳴り響く。僕とブラウンは左右へ弾かれたように跳んだ。
直前まで僕たちが立っていた足場が、3条の極太の熱線によって一瞬で蒸発する。
1発でも掠めれば即死。戦艦の主砲並みの火力が、至近距離から同時に掃射されているのだ。
『前回の轍は踏むなよ。むやみに接近しようとはせず、距離を保ちながら確実に仕留めるんだ!』
『『了解!』』
トウヤ少佐の冷徹な指揮が、首を真綿で締めるようにじっくりと僕たちを追い詰めていく。
僕たちがガンダムを倒すためには接近戦に持ち込むしかない。だが、僕たちの任務は彼らを倒すことじゃない。この状況はむしろ好都合と言えた。
「ブラウン、このまま後退しながら敵を木馬から引き剥がす! 直線的な動きはせず、蛇行しながら移動すればビーム兵器はそうそう当たらない!」
「了解!」
ブラウンの応答を確認し、僕はグフ・カスタムの脚部スラスターを後方へと傾斜させた。ガトリングシールドで牽制しながら、ジグザグの軌道を描いて後退を開始する。
空間を切り裂く実体弾とピンク色の熱線。死と背中合わせの回避行動を繰り返していると、トウヤ少佐のガンダムが足を止めた。
『攻めてこないだと……? アイツら、まさか──!』
灰色のガンダムのメインカメラが、後方の木馬が鎮座する方角へと向けられる。
(気づかれたか──!)
トウヤ少佐が後方に意識を割いた、まさにそのコンマ数秒。僕はガトリングシールドをパージして、弾幕が薄まった隙を突いた。
切り離された重厚なシールドが地面に落ちるのと同時に、軽量化したグフ・カスタムが爆発的な加速を見せ、一気に灰色のガンダムに肉薄した。
『トウヤさん──!』
白いガンダムが僕の接近にいち早く反応し、ビームライフルを放つ。直感的に死の気配を感じ取り、僕はグフの右足スラスターだけを瞬間噴射させて機体を斜め前方へ滑らせた。
装甲をかすめる閃光。熱線が大気を焼き、コックピット内の警報がけたたましく悲鳴を上げる。
だが、止まらない。僕はヒートサーベルを強引に振り下ろし、トウヤ少佐が咄嗟に掲げたシールドを力任せに切り裂いた。
「逃がさない!」
『コイツ──!』
トウヤ少佐が僕に銃口を向けるが、返す刀でビームライフルを切り裂いた。
切り裂かれたビームライフルが青白いプラズマの火花を放つ。手元で爆発したビームライフルの残骸を、トウヤ少佐は瞬時に投げ捨てる。
「これで──!」
『やらせない──!』
追撃の一撃を打ち込もうとした刹那、マルセラさんが力づくで割り込んできた。
至近距離で激突するビームサーベルとヒートサーベル。ビームを形成する力場と赤熱した実体刃が接触し、眩いプラズマの火花が大気を弾いた。
トウヤ少佐の危機を救うため死線へ割り込んできたマルセラさんの機体から、凄まじい圧力が伝わってくる。
(くっ……! このままじゃ、ヒートサーベルが持たない……!)
出力の格差を悟った僕は力勝負を即座に破棄し、その気迫に気圧されるように、後ろに下がった。
『逃がすか!』
「中尉──!」
立場が逆転し、牙を剥いて追撃へ転じようとするマルセラさんに対し、今度はブラウンがジャイアント・バズで力強く割り込んだ。
着弾した360mm弾頭が2人の隙間で炸裂し、凄まじい爆風と土煙が黒いガンダムの視界と追撃ラインを強引に遮る。
「助かった、ブラウン!」
「いつまでも助けてもらってばかりじゃいられませんからね!」
視界を埋め尽くす爆煙の向こう側で、ガンダムのツインアイが怪しく明滅するのが見えた。
煙が風に流される中、僕はヒートサーベルを構え直し、ガンダムを睨み返す。
『……アムロ! ここは俺とマルセラで抑える! お前はホワイトベースに戻れ!』
『トウヤさん! でも……!』
『いいから行け! お前が俺たちの帰る場所を護るんだ!』
『……了解!』
トウヤ少佐の悲痛とも言える叫びが、通信のノイズを突き抜けて響く。ビームライフルとシールドを失いながらも、彼は冷静に戦況を判断し、無傷の白いガンダムを木馬へと向かわせた。
「行かせるかっ!」
僕とブラウンが背を向けた白いヤツへと銃口を向けたその瞬間──黒と灰色のガンダムが、まるで肉の壁のように僕たちの射撃線を強硬に遮りにかかった。
灰色のガンダムが左腕のガトリング砲の射線へ強引に割り込み、自らの体を防壁として弾丸を受け止める。
黒いガンダムはシールドを鋭く突き出し、ブラウンの放ったジャイアント・バズを正面から防ぎきった。
装甲に跳ね返る実体弾の群れと、シールド越しに炸裂する360mm弾頭の爆炎。衝撃に巨体を激しく揺らしながらも、2機は頑として射線を譲らない。
その堅牢な防壁の隙間から、白いガンダムが背部のスラスターを激しく爆発させ、一直線にホワイトベースの方向へと急上昇していくのが見えた。
「ギャリー少尉! あの白いヤツを止められるか!?」
「了解……と言いたいところですが、コイツらがしつこくて……!」
ギャリー少尉のザクⅡ改は2機の戦闘機の執拗なドッグファイトに晒され、援護射撃を行える状況ではなかった。
小型な機体と驚異的な機動性が、ザクⅡ改を完全に拘束している。
(あの戦闘機……ソロモンで戦った
ギャリー少尉が空中戦に不慣れというのもあるかもしれないが、戦闘機ですらMS相手に互角に渡り合えることに、改めて連邦のV作戦に戦慄を覚えた。
『アムロを追わせはしない……! あなたたちは、私が止める!』
マルセラさんの声とともに、黒いガンダムがビームサーベルを構え直し、恐ろしい踏み込みでこちらへ滑り込んできた。
『以前の借りは返させてもらうぞ、ライゼン!』
トウヤ少佐の灰色のガンダムもまた、ビームサーベルを抜き放ち、僕の前に立ちはだかる。
黒と灰、2機のガンダムから放たれる強大なプレッシャー。白いガンダムを追うためにも、まずはこの眼前に立ち塞がる2人を、力ずくで叩き伏せるしかない。
「やるよ、ブラウン!」
「はい!」
僕たちは迫り来る2つの殺気を受け止めるべく、足場を強く蹴りつけた。
*****
白いガンダムのパイロット──アムロ・レイは急ぎホワイトベースの元へと駆け戻った。
足止めとして残してきたトウヤ少佐とマルセラ曹長、ホワイトベースにいるアムロの父親や幼馴染のフラウ、そして──自分たちを助けに来てくれたマチルダ中尉。
彼らの安否を憂うあまり、抑えきれない胸騒ぎがアムロの思考を激しく揺さぶっていた。
モニターにミデアとホワイトベースの艦影が映る。今のところ、特に異変は見られない。
しかし──。
「良かった、ホワイトベースは無事────うわぁっ!! な、何だ!?」
死角から受けた凄まじい衝撃に思わずガンダムが膝をつく。すぐさま立ち上がり、メインカメラを向けると、白と紫で統一されたカラーリングのザクが3機、こちらに近づいてきているのがわかった。
『おい……! 直撃したはずなのに、アイツまだピンピンしてるぞ!』
『あの装甲……もしかして、ルナ・チタニウム? そうだとすれば、私やヘレナさんの火力では歯が立たないかもしれません……』
『なら、私の出番だね! 2人とも、ビームには気を付けて! 軽く触れただけでもヤバいから!』
海兵隊と同じく、木馬を仕留めるべく派遣されたもう1つの部隊──ノイジー・フェアリー隊が、アムロの前に立ちはだかる。
『フォーメーションは初陣の時と同じよ! ミアとヘレナはアルマの後ろについてサポートしなさい! あの白いヤツを抜いて、一気に木馬を叩く!』
『『『了解!』』』
「やらせるかっ……! ホワイトベースには近づけさせない!」
──後に『悪魔』と呼ばれることになる少年と、『魔女』と呼ばれることになる少女たち。
──本来ならば交わることのなかった2つの運命が、北米の大地で激突した。
ガルマがライゼンからノイジー・フェアリー隊の実力について報告を受けたことで、アルマたちも木馬討伐任務に駆り出されました。
アムロVSノイジー・フェアリー隊の戦闘シーンもまとめて書き切りたかったのですが、長くなってしまったので分割します。