戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第77話 悪魔の鼓動

 ──ミデア輸送機。

 

 汗だくになった作業兵たちが休む暇もなく、物資のコンテナをホワイトベースのハンガーへと滑り込ませていた。

 

「搬入作業はまだ終わらないのですか?」

 

「後、3分待ってください!」

 

 マチルダ中尉はモニターの時計に視線を落とし、微かに眉をひそめた。

 

「2分で済ませてください。作業が終了次第、発進準備を!」

 

「リード中尉たちや避難民の収容がまだですが……」

 

「ジオンを追い払うのが先です。ホワイトベースにもそう伝えてください」

 

 マチルダ中尉の毅然とした指示に、作業員は息を呑みながらも素早く搬入作業へと戻っていった。

 

 

 

「こんなところで、ホワイトベースを傷つけられてたまるものか……!」

 

 

 

*****

 

 

 

 陸戦高機動型ザクの脚部スラスターが青白い火花を激しく散らし、荒野の砂塵を巻き上げながら、アムロの目の前へと一気に滑り込んできた。

 迫り来る紫色のザク──アルマに向け、アムロは咄嗟にビームライフルの銃口を滑らせた。

 

「速い……! だけど、させるかっ!」

 

 センサーの警告音が激しく鳴り響く中、アムロはトリガーを絞る。貫通力に長けた高出力のメガ粒子が、砂塵を切り裂いて紫色の影を直撃せんと言わんばかりに放たれた。

 しかし──。

 

『たかが強い武器を持ったくらいで……!』

 

 アルマはまるで未来が見えているかのようにビームを回避すると、アムロのガンダムへ容赦なく肉薄しながら、手に携えたラケーテン・バズのトリガーを引く。

 アムロは間一髪でシールドを滑り込ませて直撃を免れるが、至近距離での爆炎と風圧が機体を激しく揺さぶる。

 

「こ、コイツも……シャアやさっきのグフと同じで、ビームを回避するのか……!」

 

 光速に近い速度で撃ち出されるビーム砲を何故、回避できるのか。明らかに人間の反応速度の限界を超えている。

 こんな真似ができるなんて──。

 

 

 ──あなたはエスパーかもしれない。

 

 

 先ほど聞いたマチルダ中尉の言葉が、走馬灯のようにアムロの脳裏をよぎる。

 

(まさか、本当に実在するのか? 超能力のような特別な力が──!)

 

『やぁぁぁーーーっ!!』

 

 紫のザクが赤熱するヒートサーベルを頭上に振りかざし、強烈な踏み込みで迫り込んでくる。アムロは迎撃すべく、再びビームライフルを滑り込ませるように構えるが──。

 

『やらせるかよっ!』

 

「なっ──!?」

 

 アムロがトリガーに指をかけるより早く、ヘレナの正確無比な狙撃がビームライフルの銃身を撃ち抜いた。

 

『ナイス、ヘレナ!』

 

「くっ……!」

 

 炸裂する高熱の火花。アムロは咄嗟に破壊されたライフルを投棄するも、主兵装を失ったガンダムの胸元へ、アルマのヒートサーベルが袈裟斬りの軌道で迫った。

 アムロは斬撃に対し、左腕のシールドを滑り込ませて強硬に受け止めた。シールドを切り裂く刃の熱で、真っ赤な火花が弾け飛ぶ。

 アムロは焼き切られたシールドを瞬時に手放し、間一髪で後方へと大きく跳び退いた。

 

『ミア、お願い!』

 

『任せてください!』

 

 後ろに下がったアムロに、ミアのザク・ハーフキャノンが120mmガトリング砲で追い打ちをかける。

 シールドを失ったアムロには、それを防ぐ手立ては無かった。

 

「うわああぁぁぁーーっ!!」

 

 弾幕の衝撃がガンダムの装甲を激しく叩き、視界が火煙と削れ散る装甲片で覆い尽くされる。頭を殴りつけられたような衝撃。アラートが甲高く鳴り響くコクピットで、アムロは死線の中で歯を食いしばった。

 

(負けるもんか……負けるもんかっ!! こんなところで、倒れるわけにはいかないんだ……!)

 

『もらった!』

 

 爆煙を切り裂いて躍り出たアルマの陸戦高機動型ザクがヒートサーベルを振りかぶる。

 アムロは右拳を振り上げ、ランドセルから抜き放ったビームサーベルでその一撃を直前で受け止めた。煌めく光刃と赤熱する刃が接触し、超高熱のスパークが激しく散る。

 

『なっ──! 押し負ける……っ!?』

 

「わああぁぁぁーーーっ!!」

 

 アムロの解き放った光刃は、一瞬の鍔迫り合いの果てにアルマのヒートサーベルを赤熱した刀身ごと切断した。溶け落ちる金属の火花と同時に、アルマの機体が一歩後退する。

 格闘性能と火力の圧倒的な格差。しかし、切断された刀身が地面へ落ちるより早く、控えていたミアとヘレナが後衛からの援護射撃を開始した。

 

『アルマさん、下がって!』

 

『この野郎……! とっとと、くたばっちまえ!』

 

 間髪入れずに叩き込まれる実弾の嵐。しかし、胸を焦がす強い想いが、アムロの感覚をさらに鋭敏にさせた。弾幕をものともせずに後退したアルマに追い縋る。

 

『このぉ……!』

 

「やらせるかっ! そこぉっ!!」

 

 アルマは咄嗟にラケーテン・バズの砲身をガンダムへ向けるが、アムロの振り抜いたビームサーベルが弾丸が放たれるよりも一瞬早く、バズーカの砲身ごと陸戦高機動型ザクの右手首を切り裂いた。

 

『なっ……!』

 

『アルマさん……!』

 

 主兵装を失ってしまったアルマの危機に、ヘレナとミアが思わず悲鳴に近い声を上げるが──。

 

『──まだまだぁっ!!』

 

 アルマは間髪入れずに左腕の3連装ミサイル・ポッドをガンダムの頭部に叩き込んだ。

 ルナ・チタニウムの装甲といえど、この至近距離でのミサイルには耐え切れず、ガンダムの頭部右側が激しく砕け散る。

 しかし──。

 

 

「うおおぉぉぉーーっ!!」

 

 

 ──それでも、ガンダムの進撃は止まらなかった。

 

 傷つきながらも、ガンダムは左腕を伸ばして、陸戦高機動型ザクの頭部──動力パイプを掴む。

 

『なっ──!』

 

 アルマは咄嗟に頭部のバルカン砲を発射するが、ガンダムはその抵抗を嘲笑うように、動力パイプを力任せに引きちぎった。

 

 

『うあああぁぁぁ──っ!!』

 

 

 アルマの悲鳴とともに、陸戦高機動型ザクが地面に倒れ込んだ。

 衝撃で強く頭を打ちつけながらもアルマが目を開けると──そこには頭部が半壊し、おびただしいほどの銃痕を刻まれながらも、平然と自身を見下ろすガンダムの姿があった。

 

 

 少年(アムロ)が憧れた最強の英雄(ヒーロー)──それはもはや、少女(アルマ)にとっては、異形に成り果てた醜悪な怪物にしか見えなかった。

 

 

『ぁ……く、ま……』

 

 

 怯える少女を前に、アムロは一切の躊躇なく、トドメのビームサーベルを上段から突き立てるように振りかざした。

 アルマは朦朧とする意識の中で陸戦高機動型ザクの機体を必死に横へ転がし、間一髪で光刃を回避する。

 

「逃がすか!!」

 

『あぅっ……!』

 

 アムロは無様に転がる陸戦高機動型ザクを足で踏みつけた。

 アルマが今度こそ逃げられないと、死を覚悟した、その時──。

 

『アルマ──ッ!!』

 

 悲痛な叫びとともに、ヘレナがガンダムの死角から体当たりを仕掛けた。ガンダムがよろめくほどの強烈な衝撃だったが、アムロは歯を喰いしばってすぐに強引に体勢を立て直す。

 

『ミア! 煙幕を!』

 

『は、はい!』

 

 ギャレット少佐の指示に従い、ミアがスモークディスチャージャーを発射した。一瞬にして周囲の空間が白い煙幕の中に飲み込まれる。

 

「くっ……視界が……!」

 

『今のうちにアルマさんを……!』

 

『アルマ、しっかりしろ! 離脱するぞ!』

 

『ヘレナ……ミア……ごめん……っ』

 

 煙の奥で激しく響くスラスターの噴射音。ノイジー・フェアリー隊はアルマの機体を強引に抱え込み、速やかに戦場からの後退を開始する。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 命を懸けて仲間を守ろうとした彼女たちの姿にどこか自分自身を重ね合わせながらも、アムロは必死に息を整えた。

 白煙が風にさらわれて薄れていく。ホワイトベースの無事を確認しようと、振り返ったその時──。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 アムロはドダイに乗って一直線にホワイトベースに向かっていく、黄色いグフの姿を捉えた。

 

 

 

*****

 

 

 

 ──時を僅かに遡る。

 

 大気を引き裂く甲高いプラズマの炸裂音が、絶え間なく地表を揺らしていた。

 オレンジ色に燃え上がるヒートサーベルと、眩いピンク色の光条を纏うビームサーベル。2つの光刃が交錯するたび、強烈な熱風と火花が散る。

 

『くっ……マシンのスペックはこっちの方が上のはずなんだがな……!』

 

「MSの操縦経験ならこちらが上だ……!」

 

 右手のヒートサーベルでトウヤ少佐の突きを弾き、間髪入れずに蹴りを放つ。

 体勢を崩し、地表へ崩れ落ちる灰色のガンダム。コックピット内で激しく揺さぶられたトウヤは、シートに身体を叩きつけられながら歯を剥き出しにした。

 

『トウヤ少佐!』

 

 トウヤ少佐の危機に、マルセラさんが鋭い叫びとともに割り込んできた。

 対峙していたブラウンを強引に振り払い、黒いガンダムがこちらにビームサーベルを袈裟懸けに振り下ろしてくる。

 僕はヒートサーベルの柄を両手で握り直し、その光刃を斜めに受け流した。火花が激しく飛び散り、グフ・カスタムの装甲を灼熱の熱量が撫でていく。

 

「ブラウン!」

 

「任せてください!」

 

 側面からブラウンの陸戦高機動型ザクが黒いガンダムに突撃する。

 ヒートホークが振り下ろされる直前、マルセラさんはシールドで力任せにそれを弾き返した。

 しかし、ブラウンも引き下がらない。負けじと二度、三度とヒートホークを鋭く叩き込む。激しい摩擦熱とともに、シールドの装甲が削り取られていく甲高い重低音が戦場に響き渡った。

 ブラウンを援護しようとしたその時──僕の脳裏に鋭い光が疾った。

 

『うおおぉぉぉっ!』

 

 立ち上がったトウヤ少佐の灰色のガンダムが、ビームサーベルを構えて肉薄してきた。

 僕は怯むことなく敢えて一歩前へ踏み出し、その懐へと飛び込む。大きく振りかぶられたビームサーベルを持つ右腕を左腕で力任せに押さえ込み、至近距離から右腕のヒートロッドを射出した。

 ワイヤーがガンダムの胸部に突き刺さり、そのまま高圧電流を流し込む。

 

『ぐあぁっ……!!』

 

 凄まじい放電によって灰色のガンダムはブラックアウトし、そのまま僕の目の前で力なく崩れ落ちた。

 

『トウヤ少佐っ!!』

 

 悲痛な叫びとともに、マルセラさんはシールドでブラウンの機体を力任せに突き飛ばすと、僕を追い払うようにビームサーベルを横薙ぎに一閃した。

 間一髪でバックステップを踏み、振り抜かれた光刃の熱風を逃れる。

 マルセラさんは倒れ伏した灰色のガンダムの前へ立ちはだかり、牽制のバルカンを乱射しながら僕たちとの間合いを強引にこじ開けた。

 

『トウヤ少佐はやらせないっ!!』

 

 仲間の危機に身を挺するマルセラさんの鬼気迫る気迫に、僕は一瞬圧倒されて足が止まる。

 

「っ……! ブラウン、深追いするな! 間合いを取れ!」

 

「くっ……了解です!」

 

 ブラウンが体勢を立て直し、僕と並び立つ。睨みあいを続けながらも、僕は現在の状況を分析した。

 別動隊であるノイジー・フェアリー隊からは、まだ作戦成功の報せは無い。おそらく、あの白いガンダムに足止めされているのだろう。

 彼女たちが敗北するとは思いたくないが、最悪の事態は想定しなければならない。

 そして僕のヒートサーベルはもう持たない。これ以上、ビームの剣と打ち合えば砕け散るだろう。時間をかければ、トウヤ少佐のガンダムも戦線に復帰する。ならば──。

 

「──ブラウン、合図したらギャリー少尉と一緒に敵を足止めしつつ、適当なところで後退してくれ。僕は一か八か、木馬を仕留める」

 

「……わかりました。僕が隙を作ります」

 

 僕はコックピットのコンソールを操作し、ドダイYSへ遠隔誘導信号を送った。

 上空から急速降下してくるドダイYSの影が、マルセラさんの視界を掠めた刹那──。

 

「……今だっ!!」

 

 僕が叫ぶと同時に、ブラウンはジャイアント・バズを黒いガンダムの足元へ叩き込んだ。

 地表を爆破し、爆煙と土煙が黒いガンダムの視界を覆い尽くす。その隙を逃さず、僕は足元へ低空滑空してきたドダイYSの背へと飛び乗った。

 

「ライゼン中尉! 無事で帰ってくださいよ!」

 

「中尉、お気をつけて!」

 

 ギャリー少尉のザクⅡ改が戦闘機をマシンガンで牽制しながら、僕の進路を切り開く。

 僕はドダイYSのエンジンを限界まで吹かし、強風を切り裂いて一直線に木馬へと突進した。

 鎮座する白い巨大艦と、それに寄り添うミデアの巨体がみるみる視界に拡大していく。近づくにつれ、木馬の対空砲火が激しく吹き荒れるが、僕は直感で曳光弾の網目を潜り抜けた。

 

(チャンスは一度きり……! 仕留めて見せる!)

 

 ヒートサーベルを構え、吸い寄せられるように木馬の頭──ブリッジへ向けてドダイごと急降下をかけた。

 しかし──。

 

『やらせるかぁぁぁっ────!!』

 

 直後、真下から恐ろしいほどの殺気を感じた。

 そこにいたのは、頭部右側を粉砕され、各所から火花を散らしながらも、鬼神の如き速度で空へと跳躍してくる白いガンダムの姿だった。

 

 

(まさか、アルマたちがやられたのか!? だけど──)

 

 

 ──もう遅い。

 

 

 ガンダムがビームサーベルを一閃させた。光刃が装甲を瞬時に融解させ、真っ二つに切り裂く。

 

 ──しかし、ビームサーベルが切り裂いたのはドダイのみ。

 

 ガンダムの視界からは、グフ・カスタムの姿は消え去っていた。僕が刃が届く直前で、機体を跳躍させていたからだ。

 

 

『どこにっ…………うああぁぁっ──!?』

 

 

 白いガンダムのパイロットは直上から強い衝撃を受け、悲鳴を上げた。

 僕のグフ・カスタムは()()()()()()()()()()()()()────再度跳躍し、木馬のブリッジへと一直線に向かった。

 

 

『────僕を踏み台にした!?』

 

 

「もらった────ぁああっ!?」

 

 

 ヒートサーベルの刃が届く寸前で、横から大きな衝撃が僕を襲った。視界が激しく旋回する。

 側面から強引に割り込んできたのは、木馬の傍にいたはずの輸送機──ミデアだった。

 木馬を守るために、自らの命を顧みず突攻してきたミデアの覚悟。その捨て身の一撃が、僕の決定打を完全に阻んだ。

 

 

『そのまま地面に叩きつけろ────っ!?』

 

 

「──あと少しだったのに……このぉぉっ!!」

 

 

 迫る死線の中、僕はグフ・カスタムの拳を振るい、強引にねじ込まれてきたミデアのブリッジを力任せに叩き潰した。

 

 

 

*****

 

 

 

「────マチルダ、さん…………マチルダさあぁぁんっ!!」

 

 

 ──ミデアが墜落していく。

 

 

 アムロはマチルダ中尉の命が急速に失われていくのを鮮明に感じ取っていた。

 悲しみ、怒り、そして取り返しのつかない喪失感が、凄まじい圧力となって少年の意識を激しく殴りつけてくる。

 

 

「────あぁ…………ああぁぁぁっ!!」

 

 

 叩き落とされたミデアから上がった炎が、北米の荒野を赤々と染める。

 黒煙が立ち上る中、アムロの全神経が狂おしいほどの光となって覚醒していった。

 

 

 

 ──あなたはエスパーかもしれない。

 

 

 

 意識の領域が無限に拡張し、戦場全体に蠢く命の波長、機械の稼働音、さらには空気の対流までもが直感としてアムロの脳内に流れ込んでくる。

 

 

 

 この日、マチルダ・アジャンという犠牲と引き換えに──少年は、悪魔の力(ニュータイプ)を手に入れた。

 

 

 




 原作でも好きだったキャラクターは可能な限り生存させていきたいと思っていますが、マチルダさんは初期から戦死させることが決定していました。
 何故かと言うと、テレビ版よりも覚醒が早い劇場版では、マチルダさんの死をきっかけにアムロのニュータイプ描写が増えていくからです。なので、アムロを早めに覚醒させるにはマチルダさんを早期に退場させるのが手っ取り早いかなと思いました。

 本作はテレビ版準拠ですが、トウヤをきっかけとした戦士としての目覚め+ライゼンやアルマ(ニュータイプ)との戦闘による覚醒の兆し+自身の力不足によるマチルダを護れなかったことへの後悔等により、アムロが原作よりも早くニュータイプに覚醒したと思ってください。

 つまり、もう誰にもアムロを止められません(白目)。
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