戦犯にはなりたくない!   作:蒼天

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第8話 ブリティッシュ作戦

 ――宇宙世紀0079年1月8日。

 

「……ついに来たようだね。連邦の本命が」

 

 シーマ中佐の声が、妙に落ち着いて聞こえた。落ち着いているというより、腹を括った声だ。通信越しでも、その静けさが伝わってくる。嵐の前の静寂のような、研ぎ澄まされた緊張感。

 

 マクファティ・ティアンム中将率いる連邦宇宙軍第四艦隊。

 マゼラン級、サラミス級、そしてそれらを守るように散開する戦闘機隊――トリアーエズの群れ。

 

 これまでも連邦の攻撃はあったが、ここまでの規模ではなかった。寄せ集めとは違う、本物の連邦艦隊。シーマ中佐の言う通り、ここが決戦なのだろう。

 

 連邦の艦隊と対峙するのはキリング・J・ダニガン中将率いるコロニー護衛艦隊。僕たち海兵隊もその中にいた。聞いた話によれば、僕たちのような訓練学校を卒業したばかりの兵士もこの戦場のどこかにいるらしい。まさに総力戦だ。

 

「各機、攻撃開始!! 獲物はよりどりみどりだ!! 好きなだけ食い散らかしちまいな!!」

 

「「「了解!」」」

 

 シーマ中佐の機体を中心に、海兵隊のMSが一斉に前に出る。スラスターの噴射光が、無数の光の矢となって飛び出した。

 

 両軍の距離が一気に詰まり、光の雨が降り注ぐ。

 メガ粒子砲、実弾、ミサイル。互いの意志が、殺意という形で可視化され、暗黒の宇宙空間を彩っていく。

 

「トリアーエズが、来るぞ!!」

 

 海兵隊員の叫びと同時に、無数の戦闘機がこちらへ雪崩れ込んできた。蜂の巣を突いたような、圧倒的な数だった。

 

「ライゼン、ブラウン、アタシに続け!!」

 

「「はい!」」

 

 加速、減速、急旋回――ザクの機体が悲鳴を上げるのを、操縦桿越しに感じながら、僕とブラウンは必死にシーマ中佐の背中を追った。

 

 機関砲の弾が空間を引き裂く中、シーマ中佐がザクマシンガンを連射しながら突貫する。彼女の機体は、まるで踊るように敵弾を回避していく。MSの操縦技術はゲール中佐よりも上かもしれない。

 

「連邦をコロニーに近づけさせるな!!」

 

「「「了解!!」」」

 

「シーマ中佐につづけぇっ!」

 

 僕はザクマシンガンを構え、照準を引き絞る。

 

(感傷は無い。この一撃で、戦争を終わらせる!)

 

 マシンガンの反動が腕を打ち、直後に一機が爆ぜた。爆光が視界を白く染め、すぐに闇へと溶けた。

 

「くそっ……数が多すぎる!」

 

 ブラウンの声が焦りを帯びる。無理もない。トリアーエズの編隊は、まるで意思を持った群体のように動き、こちらの死角へと回り込もうとしていた。一機を撃墜すれば、すぐに別の機が同じ位置に入る。隙間を埋めるように、次々と戦闘機が押し寄せてくる。終わりがない。

 

「ブラウン、下がったらダメだ! 動きを止めたら囲まれる!」

 

「わ、分かってる……!」

 

 前方で宇宙突撃艇パブリクの群れがミサイルを発射する。狙いはコロニーだ。

 

「ミサイルが来るよ! 撃ち落とせ!!」

 

「「了解!」」

 

 コロニーに向かっていくミサイル目掛けて、海兵隊や周囲の友軍が一斉にマシンガンを撃つ。120mm弾が次々とミサイルに命中し――その瞬間、脳裏に強い光が走った。

 

「――!? ブラウン、ミサイルから距離を取れ!」

 

「えっ!?」

 

 瞬時に危険を察知して体が動いた。スラスターを吹かし、ブラウンのザクとともに後ろへ跳ぶ。直後、巨大な閃光が空間を焼き、ミサイルの近くにいた友軍のザクが跡形もなく消えた。

 

 撃ち落とされたミサイルが次々と大きな閃光となって爆ぜる。それをきっかけに、連鎖的に爆発が起き、全てのミサイルが巨大な光の花になって散った。

 

「核ミサイルか……!?」

 

「み、味方が……たくさん、巻き込まれて……!」

 

「ハッ……! 向こうもなりふり構っちゃいられないってことかい!! ライゼン、ブラウン! 気を取られるんじゃない! 前を見な!!」

 

 核ミサイルは通常のミサイルとは違って、起爆装置である信管さえ破壊できれば核爆発は発生しない。しかし、飛んで来るミサイルの信管をピンポイントで破壊することなど、出来るはずもない。

 

 生き残るためには距離を取らなければならないのだが……。

 

「命を惜しむな! コロニーが地球に落ちれば、我らスペースノイドの悲願は達成される! ジーク・ジオン!!」

 

「「「ジーク・ジオン!!」」」

 

 その唱和は、恐怖を塗り潰すための呪文のようだった。

 

 周りの部隊は自ら進んでコロニーの盾となり、核の炎に焼かれていく。

 僕のような新米には存在しない、その崇高な精神は尊敬に値するが、しかし……。

 

「チッ……! バカどもが! ライゼン、ブラウン! お前たちは自己犠牲なんて考えるな! 可能な限り距離を取ってミサイルを撃ち落とせ!」

 

「「はい!」」

 

 シーマ中佐の怒声が飛ぶ。叱咤ではない。生き残るための命令だ。

 

 しかし、連邦も必死だ。パブリクのパイロットたちも、地球を守るために命がけでコロニーに近づこうとしている。この動きを阻止するためには……。

 

「あのマゼランをやる! 頭さえ潰せば、連邦も瓦解するはずだ! お前たちも援護しな!」

 

「「了解!」」

 

 シーマ中佐がザクマシンガンからバズーカに持ち替える。僕たちのザクが装備しているものとは違う、核弾頭を搭載したバズーカだ。

 

 中佐のザクが、迷いなくマゼラン級へと突っ込んだ。阻止すべく大量のトリアーエズが向かってくるが、僕とブラウンで撃ち落としていく。一機、二機、三機——照準、射撃、撃墜。リズムを作って繰り返し、シーマ中佐の道を切り開く。

 

「ジーク・ジオン!! あばよ!!」

 

 シーマ中佐の声と同時に僕とブラウンは退避する。その瞬間、宇宙が白く塗り潰された。

 

 

 

*****

 

 

 

 ――戦闘開始から数時間後。

 連邦宇宙軍第四艦隊旗艦マゼラン級艦内。

 

「ダメです! ジオンの人型兵器に阻まれ、アイランド・イフィッシュに近づけません!」

 

「パブリク隊、全滅! 核ミサイル、全て撃ち落とされました!!」

 

「バカな……!」

 

 艦橋に緊張が走る。報告を受けた連邦士官たちの顔色が一斉に変わった。オペレーターの声が次第に切迫していく。モニターに映る味方の光点が一つ、また一つと消えていった。

 

「MSとやらがここまでとは……!? 戦闘機で押し切れないのか!」

 

「無理です! 宇宙空間での機動性が戦闘機の比じゃありません! 最新鋭機のセイバーフィッシュからは辛うじて撃墜報告が上がっていますが、トリアーエズでは全く歯が立ちません! 次々と墜とされています!」

 

 ミノフスキー粒子によってレーダーは機能せず、肉眼が捉えるのは、宇宙を自在に踊り、戦艦の火線を嘲笑う人型の化け物の残像のみ。数世紀にわたり築き上げた大艦巨砲主義の歴史が、MSによって無残に瓦解していく音が聞こえるようだった。

 

 マクファティ・ティアンム中将は、唇を引き結んだ。年季の入った軍人の顔に、焦燥の色が浮かび、拳は指揮官席の肘掛けを強く握りしめている。

 

「コロニーに近づくことすらままならんとは――」

 

 その瞬間、強い閃光とともに艦橋が大きく揺れた。

 

「じ、ジオンの核攻撃です! 左翼のサラミス級、マゼラン級が多数轟沈! リーザス大佐とも連絡が取れません!」

 

「艦隊の損耗率、70%を超えました! これ以上は戦線を維持できません!」

 

 オペレーターの声が裏返り、悲鳴のような叫びが次々と艦橋に響き渡る。

 

 ティアンム中将は、艦橋正面のスクリーンを睨みつけた。そこに映るのは、ゆっくりと、しかし確実に地球へ向かって落下を続ける巨大な影――アイランド・イフィッシュ。もう、止める術はない。

 

「やむを得ん……後退する!」

 

 これ以上は犬死だ。MSが完全にこちらの想定を上回っていた。ミノフスキー粒子下において、ここまで効力を発揮するとは……。

 情報分析が甘すぎた。MSの脅威を過小評価した代償が、この大敗北だ。

 

 撤退命令が各艦に伝達され、残存艦艇が散り散りになりながら戦場を離脱していく。艦橋の誰もが、連邦の敗北を悟った。だが、誰も声に出さない。ただ、重い沈黙だけが支配していた。

 

 

 

*****

 

 

 

「あのサラミスで最後だ! 一撃離脱で行くよ、ブラウン!」

 

「ああ!」

 

 僕とブラウンは即座にスラスター出力を落とし、急制動からの反転。慣性に身を任せるように機体を滑らせ、艦橋の真上から敵の死角を突いてバズーカを叩きこんだ。二つの弾頭がサラミス級に突き刺さり、遅れて爆ぜた。

 

「やった……!」

 

「ふふっ……! やるじゃないか、二人とも! もう坊やとは呼べないねぇ」

 

「いえ、シーマ中佐たちが囮になってくれたおかげです」

 

 爆炎がサラミスを内部から引き裂き、艦体が崩壊するように砕けていく。敵の艦隊はあのサラミスと同じく、もうボロボロだ。抵抗が激しかったせいでコロニーは多少のダメージを負ったが、ここまで来たら確実に地球に落ちる。

 

「付近の敵部隊は片付いたようだね。コロニーはどうだ!?」

 

「アイランド・イフィッシュ、落下軌道投入成功!」

 

 その報告が、通信網を駆け抜けた瞬間、海兵隊のあちこちから歓声が上がった。敵はもういない。あとはコロニーが落ちていくのを見届けるだけだ。

 

「やったな、ライゼン!」

 

「うん。……あとは、ジャブローに落ちてさえくれれば……戦争は終わる」

 

 地球の人たちが憎いわけじゃない。それでも、この地獄から解放されるために、僕たちは多くの人たちの死を願った。

 

 

 

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