戦犯にはなりたくない! 作:蒼天
「──ギャレット少佐、キャリフォルニアベースでの交渉はどうでしたか?」
帰還してきたばかりのギャレット少佐に、バルバラ中尉が早速問いかけた。
再会の挨拶もそこそこに、僕たちもそちらに目を向ける。木馬討伐のために、キャリフォルニアベースは一体どれだけの戦力を出してくれるのか……。まさか、第603技術試験隊のザメル1機だけということはないだろう。
「結果は上々よ。キャリフォルニアベース防衛の任に就いていた闇夜のフェンリル隊が協力してくれることになったわ」
闇夜のフェンリル隊──参戦。
この報告は彼らの実力を知る者たちにとっては、とてつもなく頼もしい朗報だった。
「フェンリル隊……! ゲラート少佐たちが来てくれるんですね!」
「あいつらか……なら、背中は任せられるな」
ブラウンとソンネン少佐が頼もしそうな笑みを浮かべる。格納庫の熱気が高まる中、アルマが僕にこそっと話しかけてきた。
「ねえ、ライゼン。闇夜のフェンリル隊って、有名な部隊なの?」
「ノイジー・フェアリー隊と同じキシリア少将麾下の特殊部隊だよ。ゲリラ戦のエキスパートで、僕の知る限りでは北米最高のチームかな」
アルマの問いかけに小さく頷く。正直、フェンリル隊は今回の任務で一番来てほしかった部隊だった。ゲラート少佐がいてくれるなら、僕も後ろを気にせずに戦える。
「第2次降下作戦の時から一緒に戦っていて、すごく頼りになる人たちだよ。僕に指揮官としてのイロハを教えてくれたのもゲラート少佐なんだ」
「へぇ~、そういえば鹵獲ザク部隊の指揮官を倒した時の作戦もライゼンが考えたんだっけ? ……私も、ゲラート少佐に教わればライゼンみたいなリーダーになれるかな?」
無邪気にそう尋ねてくるアルマの顔には、どこか痛々しさが滲んでいた。いつもの明るさは影を潜め、ガンダムに敗北し、死の淵を覗き込んだ記憶が重く澱んでいる。
明るく振る舞ってはいるものの、やはり彼女の心についた傷はまだ癒えていないようだ。
「アルマ……もしかして昨日の戦いのこと、まだ引きずってる?」
「……やっぱり、ライゼンには隠せないね。私、リーダーとしてみんなを守らなきゃいけなかったのに、逆にみんなに迷惑かけちゃった……。私がガンダムに負けなければ、任務に失敗することもなかったのに……。このままじゃ、私……」
俯いて声を詰まらせるアルマの姿に、僕は少し考えてから、胸の中にある確信を正直な言葉にして返した。
「強さだけがリーダーの条件じゃないよ。僕がゲラート少佐に教えてもらったことで一番大事なのは、チームで戦うことだったから」
「……チームで戦うこと?」
アルマはゆっくりと顔を上げ、大きな瞳を揺らしながら僕の顔をじっと見つめ返してくる。その瞳の奥には、ガンダムの圧倒的な暴力に対する恐怖と、背負いきれない責務に押し潰されそうな葛藤が混ざり合っていた。
「強いリーダーに依存するんじゃなくて、チーム全員で強くなるって考え方かな。リーダーの役目は仲間を守ることだけじゃない。仲間を信じて、頼ることも大切な仕事だよ」
「でも……弱いリーダーじゃ生き残れないよ。私はライゼンみたいに強くないし、頭も良いわけじゃない。もし、私のせいで、またみんなに迷惑をかけちゃったら……」
震える声でそう漏らすアルマの小さな手は、自分の膝の上で強く固く握りしめられていた。自分を責め、完璧であろうとするあまりに身を削ろうとする彼女の痛々しさに、胸が鋭く締め付けられる。
こういう時、ゲール中佐だったら──。
「……アルマ、サイコロを振る前から出る目を怖がってたら、何も始まらない。どうせこの世は
「えっ……いってん、ちろく?」
聞き慣れない言葉に、アルマが呆気にとられたようにパチパチと目を瞬かせる。
「サイコロって、どの目が出るか振ってみるまでわからないけれど、1の目の裏には必ず6の目がある。前回の戦いでは、アルマは裏目を引いちゃったかもしれない。けれど、みんなのおかげで、こうして生きて帰ることができた。生きている限り、サイコロは何度だって振り続けることができるんだよ」
「……ガンダムには負けちゃったけど、みんな生きてるからオッケーってこと?」
「そう、そういうこと。だから、最後まで諦めずにサイコロを振り続けようよ。そうすれば、いつかは最高の目を引き当てることもできる。……僕がそうだったからね」
ルウム戦役で僕たちが最高の目を引くことが出来たのは、最後まで諦めなかったからだった。あの頃から、ゲール中佐の言葉には何度も救われている。
アルマは自分の小さな手を見つめ、それからギュッと拳を握りしめた。
「……そうだよね。ありがとう、ライゼン。もう少しだけ頑張れそうな気がしてきた」
アルマの瞳から澱んでいた恐怖が消え、いつもの前向きで力強い輝きが完全に舞い戻ってきた。
ふと視線を正面に戻すと、僕たちのやり取りを静かに見守っていたギャレット少佐と目が合った。彼女の優しげな瞳は、アルマを救ってくれたことに対する深い感謝と安堵を物語っているように見えた。
「ギャレット少佐、キャリフォルニアベースからの援軍は闇夜のフェンリル隊だけなのでしょうか?」
バルバラ中尉が不安そうに尋ねた。確かに、木馬相手に3倍以上の戦力を揃えたとはいえ、あのガンダムと正面から戦うには、まだ不安要素が大きすぎる。
叶うなら、もう少し戦力が欲しいところだ。
「決まっているのはフェンリル隊だけね。その他はまだ選定中よ。……もっとも、ソロモンからも援軍が送られてくるという話だから、上層部ももう十分だと考えているのかもしれないわね」
「ソロモン……
「ええ。シャア少佐が敗北したことで、宇宙攻撃軍は面子を潰された形になった。だからこそ、その汚名を雪ぐためにも、ドズル閣下はご自身が最も信頼するエースに、ガルマ大佐を補佐させることにしたみたい。多分、もうニューヤークに到着しているはずよ」
(ドズル閣下が
*****
「──まさか、君たちが来てくれるとは思わなかったよ。頼もしい援軍に感謝すべきか、ドズル兄さんの過保護さを嘆くべきか、判断に困るところだな」
ガルマ大佐は目の前に立つ2人の男女に向かって、親しみと歓迎の込められた晴れやかな笑みを向けた。
「今回の件につきましては、ドズル閣下のご意向というよりは、自分自身の私情によるものがほとんどです。敵の指揮官が彼であると知った以上、自分にはソロモンで座して待つということは出来ませんでした」
「私も同じです。まだライゼン中尉にも、ガルマ大佐にも、ご恩返しができていませんでしたから……。どうか、私にもお手伝いさせてください」
「フフ、相変わらず義理堅いな、君たちは……。今回は素直に喜んでおくとしよう」
ガルマ大佐は満足そうに深く頷き、その瞳に強い信頼の光を宿させた。
「シン・マツナガ大尉、オルガ・タルヴィティエ少尉。君たちドズル親衛隊の力、大いに当てにさせてもらう」
「「はっ!」」
敬礼を解いたマツナガ大尉は、再び敵として立ちはだかる親友に思いを馳せる。
(トウヤ……俺はあの時、君の手を振り払ってしまった。ドズル閣下をザビ家の呪縛から救うためには、君の言う通り、俺は閣下の側から離れなければならなかった。もし、まだ俺に、君の手を取る資格があるのなら……)
──許されるなら、もう一度彼と話がしたい。
表向きは木馬の討伐のためであったが、彼の本当の目的は、親友を生かして捕らえ、救い出すことだった。
この狂った戦争を終わらせるためにも、トウヤ・シロナギを死なせるわけにはいかない。だからこそ、マツナガ大尉はこの任務に志願したのだ。
ジオンの過ちを糺し、大切な人々を救うために──ソロモンの白狼は確固たる決意とともに、重力の底に降り立った。
ドズル親衛隊──参戦。
*****
「トウヤ少佐、どうかしましたか?」
「いや、何でもない……。マルセラ、アムロのガンダムはどうだ?」
ホワイトベースの格納庫。補給作業に追われる雑音の中で、トウヤ・シロナギ少佐はどこか遠くを見つめていた視線を戻し、傍らに立つマルセラ・スペンサー曹長に静かに問いかけた。
「完全に修復するにはやはりまだ時間がかかるようです。一応、出撃自体は出来なくはないようですが……レイ大尉はこの状態のガンダムを実戦へ投入することに対して、かなり難色を示しています」
「そうか……」
ガンダムが万全ではないことを建前としているが、父親として我が子をこれ以上凄惨な戦場の渦中へ追いやりたくないというのが、テム・レイ技術大尉の本音なのだろう。
私情が含まれているとはいえ、技術士官としての彼の専門的な見解を無視するわけにもいかない。
しかし、北米から脱出するためにはアムロの力が必要になると、トウヤ少佐は確信していた。
「次の戦闘ではアムロはホワイトベースの防衛に専念させよう。前線の押し込みは俺たちで引き受ける。レイ大尉にも、それで納得してもらうしかないな」
「はい。幸い、マチルダ隊のおかげで、サイド7で破壊されたコア・ファイターの補充が出来ました。これで──ガンキャノン3機、ガンタンク4機を、
元々、このホワイトベースにはガンダムの他にも2種類のMS──ガンキャノンとガンタンクが搭載されていた。
しかし、サイド7におけるジオン軍の奇襲と凄惨な戦闘の中で、コックピットとしての役割も兼ねる変形脱出機能付き小型戦闘機「コア・ファイター」の大半が破壊されてしまっていたのだ。
その致命的な欠損ゆえに、これまでガンダム以外のMSを運用できないという極めて綱渡りな戦闘を強いられ続けていた。
だが、決死の覚悟で補給物資を運んでくれたマチルダ隊がコア・ファイターの補充機と予備パーツを届けてくれたおかげで、ようやく艦内に眠っていた全てのMSを実戦投入できる態勢が整った。
ガンダム3機、ガンキャノン3機、ガンタンク4機。
ホワイトベースと合計10機のMS。それが、連邦軍の切り札──V作戦の全貌だった。
トウヤ少佐は整備デッキの最上階から見下ろし、並び立つMSに力強い眼差しを向ける。
「リュウと民間人からの志願兵はアムロと一緒にホワイトベースの防衛に回す。パイロット候補生は俺たちと一緒に前線だ。そのように配置を伝えてくれ」
「よろしいのですか? カイ・シデンやハヤト・コバヤシの成績は、ジョブ・ジョンたちよりもはるかに上ですが……」
「ハヤトはともかく、カイの奴は酷使しすぎるとへそを曲げかねないからな。あいつの扱いは慎重にやるさ」
「……トウヤ少佐は、あの少年たちのことをよく見ておられますね」
マルセラ曹長が柔らかく口元を緩めると、トウヤ少佐はどこか自嘲気味に息を吐き出した。
「本当なら、あんな子供たちに銃を持たせること自体が異常なんだ。……だからこそ、正規の軍人である俺たちが突破口を開く。幸い、ジオンにはガンキャノンとガンタンクのデータは無いはずだ。防衛ラインに穴をあけ、一気に太平洋へ抜けるぞ」
「了解です」
自分を信じてついてくる部下たちと、ホワイトベースの仲間たち。背負うものの重さを踏みしめ、トウヤ少佐は決戦の火蓋が切られるのを静かに待った。
*****
「ギャレット少佐、キャリフォルニアベースから送られてくる最後の部隊の選定が終わったとのことですが……」
闇夜のフェンリル隊とともに派遣されてくる、最後の部隊の詳細を聞くために、僕たちはミーティングルームに集まった。
だが、援軍が来るという朗報にも関わらず、ギャレット少佐の表情は、どこか険しく晴れないものだった。
「ええ、キシリア閣下直属の特殊部隊『局地戦戦技研究特別小隊』が援軍として送られてくるみたいね」
「局地戦戦技研究特別小隊……? 初めて聞く部隊ですね……」
「私もよ。こんな部隊、あったかしら……?」
ギャレット少佐は端末に送られてきた暗号電文を凝視しながら、不思議そうに頭を悩ませていた。バルバラ中尉も首をかしげている。
(キャリフォルニアベースの防衛隊長だったギャレット少佐が知らない部隊……?)
僕の胸の奥で、急激に嫌な予感のざわめきが広がっていった。
部隊名から察するに、局地戦におけるMSの戦術を研究する部隊のようだが……。
「詳細はわからないけれど、この部隊には新型MSのドムが配備されているみたいだから、実力は確か……だと信じたいわね」
「えっ……ドムですか? まだキャリフォルニアベースでも生産体制が整ってないはずなのに……」
ミアが驚きの声を上げる。つまり、その『局地戦戦技研究特別小隊』に配備されたドムは、本国からわざわざ地球へ輸送されてきた先行量産機であることを意味していた。
嫌な胸騒ぎを抑えながら、共有された資料に目を通す。
(局地戦戦技研究特別小隊……──通称、『マッチモニード』……? 確か、北米に古くから伝わる怪物の名前だっけ……?)
──これで全ての役者が揃った。
海兵隊、ノイジー・フェアリー隊、第603技術試験隊、闇夜のフェンリル隊、ドズル親衛隊、マッチモニード、そして──ホワイトベース隊。
ジオンが誇る精鋭部隊と、連邦の切り札であるV作戦。
あらゆる思惑と宿命が交錯する中、シアトルでの決戦の時が刻一刻と迫っていた。
【悲報】ジオンの大戦犯・ジーンの戦果、まさかのコア・ファイターのみ。
……というわけで、フルスペックのホワイトベース隊と戦うことになりました。正規の艦長であるパオロの死因もムサイの攻撃によるものなので、本作のジーンは本当に余計なことしかしてないですね(笑)。
闇夜のフェンリル隊はホワイトベース隊とは戦わないものの、原作ゲーム版では参戦しているので、本作でも参戦です。
また、シャアがいないので、宇宙攻撃軍からドズル親衛隊が援軍として送られてきました。トウヤがいる以上、マツナガを参戦させないわけにはいかないと思い、登場させました。別れたばかりですが、オルガも再登場です。
本作ではオーストラリア(コロ落ち)の話はできないと思ったので、マッチモニードを参戦させました。キャリフォルニアベースが陥落する前は北米にいるはずなので、登場させても設定に矛盾は無いかなと思ってます。ヴィッシュ・ドナヒュー曰く装備は一流とのことなので、少し早いですがドムで参戦です。これでガンダムも恐くないですね。
みんな生き残れるといいなぁ……(遠い目)。