戦犯にはなりたくない! 作:蒼天
「トウヤ少佐! 敵MSが近づいてきています!」
ガンタンクのパイロットから切迫した報告が届く。こちらに向かって移動する敵MSの地響きを、ソナーが捉えたのがわかった。
「数はわかるか?」
「……足音の数から察するに、おそらく4機です」
「4機か……少ないな。偵察か?」
灰色のガンダムのコックピットの中で、トウヤ少佐は眉をひそめた。明らかに数が少なすぎる。
(こちらの意図に気づいたか? 思っていたよりも用心深いな、ガルマ……)
トウヤ少佐にとってガルマ・ザビは、幼少期こそ兄ドズルの陰に隠れていた気弱で臆病な子供という印象だった。
しかし、成長するにつれ、彼の印象はザビ家の一族として周囲に侮られぬよう、常に肩肘を張り、背伸びをし続けている御曹司という認識へと変わっていった。
逃げる敵を追いかけるという状況。トウヤ少佐のよく知るガルマ・ザビならば、功名心に駆られて突撃して来ると予想していたが……。
「ガルマを討ち取る千載一遇のチャンスだと思ったんだがな。さすがに考えが甘かったか」
「ですが、向かってきている敵を始末すれば、今度こそガルマ・ザビが出てくるかもしれません」
「マルセラ曹長の言う通りです、トウヤ少佐! ジオンの奴らに目にものを見せてやりましょう!」
マルセラ曹長たちが熱のこもった声でトウヤ少佐に訴えかけてくる。確かに、警戒して撤退する可能性もあるが、全軍で打って出てくる芽もまだ残されていた。
敵に追い詰められている状況だというのに、部下たちの士気は驚くほどに高い。それもそのはず、こちらには接近してきている敵の倍近い戦力があったからだ。
トウヤ少佐とマルセラ曹長のガンダム。さらには、暗闇の中に鎮座する3機の長距離砲撃用ガンタンクと、中距離支援を担う2機のガンキャノン。
ホワイトベースは
ジオンからしてみれば、存在すら感知していなかった連邦のMS部隊が一気に湧いて出てくることになるのだ。混乱は避けられないだろう。
本来ならば、ガルマ・ザビを引きずり出した後、伏兵として配置したホワイトベースと連携し、ジオンの本隊を挟み撃ちにする作戦だったが、向こうが警戒して出てこない以上、ここにいる戦力だけで戦うしかない。
「よし……十分に引き寄せてから、敵部隊を一網打尽にする。今回は投降を呼び掛ける必要は無い。合図とともに一斉砲撃で片を付けるぞ」
「「「了解!」」」
本隊を引きずり出すためにも、これ以上こちらの詳細な情報を敵に与えるわけにはいかない。接近してくる4機のMSは確実に始末する必要がある。
(シン……願わくば、この中にお前がいないことを祈る)
儚い願いであると自覚しながらも、トウヤ少佐は祈らずにはいられなかった。
*****
──あの敗戦以降、ずっと考えていたことがある。
遠方からマスドライバー基地を狙う巨大レールガン。
死兵となってそれを守ろうとする連邦の兵士たち。
ルウムの英雄たちですら、攻めあぐねる程の鉄壁の布陣。
──もしあの時、あの場所に……
夜のシアトルが静かに動き始めた。
4機のMSが瓦礫の影に溶けるように北東へ向けて移動する。
「そろそろ敵の潜伏が予測されているポイントのはずだが……」
「攻撃の気配はありませんね……。まさか、もう移動してしまったのでは……」
マツナガ大尉とオルガ少尉が警戒を露わにしながら慎重に言葉を交わす。
僕たちが進んでいるのは、先ほどノイジー・フェアリー隊が奇襲を受けた北東エリアのさらに奥、旧市街の幹線道路沿いだった。
高濃度で散布されたミノフスキー粒子によってレーダーは完全に沈黙しており、後方のガルマ大佐たちとの通信すら断たれていた。
「ギャリー少尉、ソナーの反応は?」
「……身を潜めているのか、MSの足音等はありません。ですが、微弱ながらモーターの駆動音らしき反応があります。どうも連邦のMSはジオンと比べて静粛性が低いようです。もっとも、正確な位置は不明ですが……」
ギャリー少尉の落ち着いた声が通信越しに返ってくる。彼は元々海洋部隊出身でソナーの扱いには慣れているはずだ。
微弱とはいえ駆動音がそこに留まっているということは逃げたのではなく、獲物が網に引っかかるのを潜んで待っているということだろう。
もちろんダミーという可能性もゼロではない。だが、最初からこちらの注意を引くようなそぶりを見せておきながら、土壇場で尻込みするような真似をトウヤ少佐がするとは思えなかった。
「ギャリー少尉はそのままソナーの監視をお願い。何か動きがあったらすぐに教えてほしい」
「了解です。……ところで、ライゼン中尉。ブラウンを置いてきてよかったんですか?」
ギャリー少尉がふと思い出したように、問いかけてきた。彼の言う通り、今この場にはブラウンはいない。
「……アルマが少し気負っているみたいだったからね。ミアとヘレナが離脱した以上、1人で行動させるのは危険だと思ったんだよ」
現在、ノイジー・フェアリー隊で動けるのはアルマ1人だけだ。ブラウンにはアルマと
もっとも、理由はそれだけではないが……。
(……まだ、あの白いヤツが出てきていない)
おそらく、ニュータイプと思われる白いガンダムのパイロット。根拠は無いが、この先には彼はいないような気がした。
白いヤツが後方に現れても、ブラウンやフェンリル隊がいれば対処できるはず……。アルマが無茶をすることも無いだろう。
──そんなことを考えていた矢先、背筋の凍るような敵意が、暗闇の奥からこちらへと突き刺さった。
「──っ!! マツナガ大尉! 来ます!」
「──各機、散開!!」
マツナガ大尉の号令と同時に、僕たちは操縦桿を力任せに引き倒した。
──ズドォォォンッ!!
地面が大きく揺れ、爆風が機体を激しく揺さぶる。足元の路面が砕け、土塊と瓦礫が雨のように降り注いだ。直撃こそ免れたものの、グフ・カスタムの装甲を衝撃が激しく叩く。
「あの新型MSの砲撃か!?」
「マツナガ大尉、それにしては火力が──!」
僕の言葉が終わらないうちに、2発目、3発目の砲撃が炸裂した。明らかに火力の密度が高すぎる。
グフ・カスタムを蛇行させながら、爆煙を切り裂いて突破口を探す。しかし、角度の違う複数地点から次々と砲弾が降り注ぎ、逃げ場を容赦なく潰されていく。
(間違いない……。複数いる……!)
砲煙をたなびかせながらこちらに砲塔を向ける、3つの機影。
MS規格の上半身。戦車のキャタピラを持つ下半身。両肩に搭載された大口径の主砲。
「3機……! タンクもどきが3機いる!?」
オルガ少尉の絶叫が通信を震わせる。三方向から絶え間なく交差するキャノン砲の重爆音。
瓦礫を砕き、アスファルトを捲り上げる爆風の中、僕たちの機体は逃げ場を失ったネズミのように路地に追い詰められていく。
「怯むな、オルガ! あのキャタピラ付きは接近してしまえば懐はガラ空きだ!」
マツナガ大尉の叫びとともに、白い陸戦高機動型ザクが巨砲の射線をかいくぐるようにして跳躍する。しかし──。
『やらせはしない』
「なっ──!!」
突如として飛来したバズーカ砲の砲弾が、陸戦高機動型ザクの足元の路面を直前で吹き飛ばした。
マツナガ大尉の切り込みを阻んだのは、灰色の装甲を纏うガンダムだった。
「トウヤ……!」
『シン……恩を仇で返すようで悪いが、お前にはここで死んでもらう。恨むなら、好きなだけ恨め』
通信回線越しに叩きつけられたのは、氷のように冷たく、しかしどこか揺らぐようにも聞こえるトウヤ少佐の声だった。
今の彼には、例え親友であろうと、目の前に立ちはだかる敵を容赦なく消し去ろうとする冷徹な決意だけが宿っていた。
「マツナガ大尉……!」
援護に入ろうとしたオルガ少尉の前に、ビームライフルを構えたマルセラさんの黒いガンダムが立ちはだかる。
『あなたの相手は私よ。先ほど、そう言っていたでしょう?』
「どきなさいっ……!!」
オルガ少尉のグフが放ったヒートロッドを、黒いガンダムはステップでかわし、間髪入れずにビームライフルを放つ。
閃光が夜の廃墟を赤く染め上げ、オルガ少尉は身を翻して間一髪でそれをやり過ごすのが精一杯のようだった。
「マツナガ大尉! オルガ少尉! くっ……!」
2人の援護に入りたいが、タンクもどきの砲撃によって完全に分断されてしまった。まずは敵の長距離砲を何とかしなければならない。
「ギャリー少尉、僕たちでタンクもどきを仕留める! ついてきてくれ!」
「了解!」
僕とギャリー少尉のザクⅡ改は途切れることのない砲撃を躱しながら、タンクもどきへの接近を試みた。瓦礫を盾にしながらジグザグに踏み込み、敵の懐へと肉薄する。
(マツナガ大尉たちがガンダムを抑えている間に────っ!?)
──直後、予期しない方向からの砲撃が僕の機体を狙い澄ましたように襲い掛かった。咄嗟に盾を構えると、大きな破裂音とともにガトリングシールドが弾け飛んだ。
あまりの衝撃に機体が大きく横転しかけるも、必死に踏みとどまる。
「中尉、無事ですか!?」
「──大丈夫、だけど……!」
煙を吹き上げるガトリングシールドを切り離しながら、僕とギャリー少尉は崩れ落ちたビルの陰へ飛び込んだ。
(何だ!? 今の攻撃は……)
損傷の確認もそこそこに周囲をサーマルセンサーで確認する。瓦礫と爆煙が視界を埋め尽くす中、2つの熱源が浮かび上がった。
人型のシルエットでありながら、ガンダムとは明らかに異なる重装甲。
下半身は人型だが、上半身はタンクもどきと同じように、両肩に主砲を鎮座させていた。手にはガンダムと似たようなビームライフルも持っている。
「赤い……MS……!?」
「あれも連邦のMSなのか……!? 奴ら、一体どんな魔法を──!?」
敵の戦力がこちらの予想を遥かに上回っていることに、僕の思考も一瞬凍りついた。ミデア1隻でこれほどのMS群を一度に運搬するなど、物理的に不可能なのだ。
あの日以来、ジオンは木馬にこれ以上の物資や兵器が渡らぬよう、包囲網を徹底的に敷き詰めていたはずだった。
包囲をすり抜けて援軍が来ることなどあり得ない。ギャリー少尉の言う通り、魔法を使ったとしか思えなかった。
(これがトウヤ少佐の策か……!? 奴らの目的は、北米からの脱出ではなく、ガルマ大佐の命──!!)
彼らが敢えて長距離砲の存在を誇示し、僕たちを誘き寄せた理由がはっきりした。確かに、これだけの戦力ならば、正面からガルマ大佐の本隊を撃破することも不可能ではない。
「ああ──っ!!」
「──っ!? オルガ少尉っ!?」
声のした方を見ると、オルガ少尉のグフがビームサーベルによってシールドごと左腕を貫かれていた。
溶融した装甲が火花となって飛び散る。グフの左肘から先がシールドもろとも切り裂かれ、灼熱の残骸となって路面へ転がった。
「──オルガ!!」
マツナガ大尉がトウヤ少佐の猛攻を掻い潜り、オルガ少尉とマルセラさんの間に割って入った。
「君は下がれ! これ以上は無茶だ!」
「大尉……! まだ、やれます! 片腕でも、注意を引くくらいは──!」
左腕から黒煙を吹き上げながらも、オルガ少尉はヒートサーベルを握り直し、2機のガンダムと対峙しようとする。
(まずいっ……! 2人を援護したいけど、迂闊に前に出たらこっちがやられる……!)
中距離からの支援を担う赤いMS2機が両翼に展開し、長距離砲撃を担うタンクもどき3機が遠距離から砲塔をこちらへ指向している。
「ライゼン中尉……これでは前には……!」
「わかってる……! でも、僕たちが囮になれば必ず勝機は──!」
ギャリー少尉の切迫した声が耳を刺すが、僕の言葉を遮るように響いたのは、ガンキャノンから放たれたビームの閃光だった。
「うおぉっ!?」
遮蔽物として利用していたはずの厚いコンクリート壁が、太陽の如き熱線によって一瞬で蒸発する。閃光はそのままギャリー少尉のザクⅡ改の頭部へと突き刺さった。
メインカメラを撃ち抜かれたザクⅡ改が火花と黒煙を撒き散らしながら崩れ落ちる。
「──ギャリー少尉!?」
『くたばれ! ジオン!』
敵は待ってはくれなかった。強烈な殺気とともに、赤いMSから放たれたキャノン砲とビームライフルが、僕たちの潜む廃ビルの壁面を容赦なく削り飛ばす。
(……このままじゃ2人ともやられる! 僕が注意を引き付けるしかない!)
僕はシールドを失った左腕を突き出し、崩壊するビルの陰から飛び出すと同時に、3連装35mmガトリング砲を死に物狂いで掃射した。実体弾の嵐が甲高い金属音を響かせ、赤い装甲へと叩きつけられる。
しかし──。
『──無駄だ! このガンキャノンは、装甲だけならガンダムよりも上なんだ! お前らの攻撃なんざ効くものかよ!』
弾丸は赤いMS──ガンキャノンの装甲に弾き飛ばされ、無数の火花となって夜空に散る。連邦のパイロットの嘲笑が通信越しに響いた。
『地球から出ていけ! 宇宙人ども!!』
『MSさえあれば、お前らなんか──』
──ドォォォンッ!!!
勝ち誇る連邦兵の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。
シアトルの夜空を引き裂き、都市の空気を極限まで圧縮したかのような、聞いたこともない巨砲の発射音が響き渡る。
次の瞬間、眩い閃光とともに巨大な質量弾が夜の闇を切り裂いて飛来。嘲笑を浮かべていたガンキャノンの胸部中央へ直撃した。
『な……っ!?』
超大型砲弾の持つ圧倒的な運動エネルギーは、ガンダムをも上回るというルナ・チタニウム合金の重装甲を紙切れのように容易く破砕した。
ガンキャノンの上半身が木っ端微塵に砕け散る。残された下半身が火花を上げながら路面へと力なく崩れ落ちた。
『何だ……!? 何が起きた……!?』
──あの敗戦以降、ずっと考えていたことがある。
──もしあの時、あの場所に……
*****
──残骸と瓦礫が散乱する廃ビルの屋上に、1機の巨大なMSが静かに鎮座していた。
YMS-16M──『ザメル』。
MSというよりはMAに近い、ヒルドルブの流れを汲む長距離支援機。
680mmカノン砲を肩越しに構えたその圧倒的な巨体は夜の闇に溶け込み、さながら鉄の山のように動じることなく佇んでいた。
「キャディラック、着弾は確認出来たか?」
「初弾命中、敵MS撃破!」
「よし……!」
ソンネン少佐は680mm主砲の照準器を覗き込み、遠く瓦礫の煙が揺れる市街地へと焦点を合わせる。
「へっ……一番槍は俺たちがいただきだな! ここからじゃ見えねえが、連邦の奴らが泡食って転がり回る姿が目に浮かぶぜ!」
「少佐、調子に乗らないでいただきたい。それもこれも、ライゼン中尉の戦術が上手くハマったからこそです」
「わかってるさ。それにしても、よく即興でこんな作戦を思いつくもんだな」
「……即興ではありませんよ。彼は過去に、似たような戦場を経験していますから」
キャディラック大尉の脳裏に、ルウム戦役の記憶が静かに蘇る。
観測機とともに艦隊戦の中に飛び込んでいった少年兵たちと、歴史に爪痕を残した大蛇の勇姿を。
ミノフスキー粒子下において、レーダーによる精密な長距離砲撃は事実上不可能と言っていい。
しかし、レーダーが使えずとも、光学照準は依然として正確さを保ち続けている。
地上では雨や霧等によって光が遮られやすいというデメリットはあるものの、レーザー通信ならば高濃度のミノフスキー粒子下でも正確な情報を伝達できる。
つまり、友軍からレーザー通信で観測値を受信することが出来れば、長距離でも精密射撃は可能なのだ。
かつてルウム戦役において、試作艦隊決戦砲ヨルムンガンドが、連邦軍の戦艦を遥か彼方から撃沈してみせたように──。
「──観測値、受信! 座標を表示します!」
「座標修正、次弾装填!」
そして今再び、このシアトルの地で、眠れる大蛇の軌跡が呼び起こされた。
他ならぬ、狼の咆哮によって。
大蛇の戦術と戦狼の砲撃。MSに敗れ去った2つの
「戦争を教えてやる……素人ども!!」
時代に取り残された大砲屋と戦車兵の意地が、歴史の勝者たちに牙を剥いた。
*****
シアトルを震撼させる2発目の重砲撃。ザメルの680mmカノン砲から放たれた実体弾は、放物線を描いて崩落したビル群を跳び越え、ガンタンクの頭上へと正確無比に叩きつけられた。
直撃を受けたガンタンクは断末魔の爆炎とともに、車体ごと粉砕された。
「どこからの砲撃だ!?」
「周囲に新たな敵影無し! おそらく、数km離れた地点からの長距離砲撃と思われます!」
「馬鹿な……! 数km先からの曲射砲撃だと……!?」
ガンダムのコックピットの中で、トウヤ少佐はあまりの非現実的な光景に驚愕の叫びを上げた。
レーダーが完全に沈黙したこの市街地戦において、ビルの死角を飛び越えて正確にガンタンクを撃ち抜くなど、不可能と言っていい。
しかし、一度だけならまだしも、二度続いたならそれは必然と考えなければならない。ジオンは何らかの手段で精密射撃を可能としているのだ。
(レーダーは使えない。ソナーではこちらの正確な座標を把握することは不可能だ。残る手段は光学照準による精密射撃……だが──)
遮蔽物と崩落したビル群が入り組むこの市街地で、数km先の地点にレーザーが届くわけがない。いや、それ以前に敵のMSが後方へレーザーを照射している様子は微塵も無かった。
(ならば、どうやって……──)
「トウヤ少佐!」
マルセラ曹長の切迫した声にハッと我に返ったトウヤ少佐は、白い陸戦高機動型ザクがバズーカ砲を構えてこちらを狙っていることに気づいた。
「くっ……シン!」
マツナガ大尉のバズーカ砲がガンダムの足元を砕き、トウヤの機体は大きく体勢を崩すが、マルセラ曹長の黒いガンダムが庇うように割り込んだ。
「少佐は観測手を探してください! 白狼は私が食い止めます!」
「しかし、お前1人では──」
──ドォォォンッ!!!
3発目の轟音が戦場に響き渡る。
2機目のガンタンクが直撃を受け、爆炎の柱が暗闇に向かって高く噴き上がる。砲塔ごと上半身を吹き飛ばされたガンタンクの残骸が、轟音とともに路面へと崩れ落ちた。
もはや四の五の言っている場合ではない。このままでは遠からず全滅するだろう。
「すまん、マルセラ……任せる!」
トウヤ少佐は錯乱しそうになる思考を必死に抑え込み、モニターを高速で走査した。
UGSの反応は4機のみ。観測手らしきMSの姿は確認できない。
(MSが観測を行っていないのだとすれば…………まさか──!!)
ハッと息を呑んだトウヤ少佐は、メインカメラの視角を極限まで上空へと仰ぎ向けた。
底知れぬ漆黒の夜空。雲の切れ目と薄暗い月明かりの隙間に、かすかなシルエットが浮かび上がっていた。
ジオンの偵察哨戒機──『ルッグン』。
「──貴様かぁぁぁっ!!」
トウヤ少佐の灰色のガンダムが、鬼気迫る動きでハイパーバズーカの砲口を上空へ向け、引き金を絞り込む。
『ヤベ……! バレた!?』
『あと少しだけ持ちこたえてくれ! もう少しで敵の長距離砲を無力化できる……!』
夜空を駆けるルッグンへ向けて、大口径のロケット弾が凄まじい白煙の尾を引いて迫る。
『うおおぉぉぉっ!!』
弾頭が命中する直前、ヒデト・ワシヤ中尉の操縦するルッグンが限界を超えた急旋回を敢行。直撃コースを力任せにねじ折り、間一髪で弾道を回避してみせた。
「なっ──!」
『ルウム戦役の時と比べりゃあ、このくらいぃぃぃっ──!!』
激しいGに耐えながら、オリヴァー・マイ中尉は揺れる照準器を最後の1機となったガンタンクへと固定した。
『観測データ送信……! ソンネン少佐、頼みます!!』
「クソッ……! 砲撃が来るぞ! ガンタンク、射線から退避しろ!!」
──ドォォォンッ!!!
マイ中尉からのレーザー通信を受信したコンマ数秒後。数km後方に陣取るザメルの長大な680mmカノン砲が、4発目の重砲音を咆哮させた。
ガンタンクの操縦士は必死に履帯を逆転させ、足元の瓦礫を撒き散らしながら後退を試みた。
しかし、重厚な車体が応答し、加速を開始するまでのわずかなタイムラグすら、680mmの巨砲から放たれた高速弾にとっては無意味でしかなかった。
「な……ひっ──!?」
放物線を描いて飛来した680mm弾は、回避行動を取ろうとしたガンタンクの頭部コックピット──ガラス張りのキャノピーをパイロットごと破砕した。
「ガンタンクが……全滅……!?」
長距離からの砲撃支援というアドバンテージを瞬く間に奪い去られた連邦軍に、焦燥が津波のように押し寄せる。
『残る砲台は
『──いえ、もう十分です。マイ中尉』
混乱と動揺が支配した一瞬の隙を、
グフ・カスタムがスラスターを鋭く吹かし、倒壊するビルの残影を縫うようにして一気にガンキャノンに詰め寄った。
「ひっ──!? 来るな、来るなぁぁぁっ!!」
ビームライフルから放たれた閃光が夜の市街地を闇雲に薙ぎ払う。だが、恐怖に呑まれた射撃ほど躱しやすいものは無い。
最小限の体さばきでビームをかいくぐり、右腕から射出されたヒートロッドがガンキャノンの胸部装甲に突き刺さる。
「アァァァァ──ッ!!」
高圧電流によって電子機器が次々とショートを起こし、ガンキャノンの巨体が激しいスパークとともに機能不全へと陥った。
ガンキャノンが停止したのを確認すると、黄色いグフ・カスタムがトウヤ少佐の方へ向き直る。
『……僕たちに気を取られて、上空への索敵を怠りましたね。ジオンとて、MSだけで戦争をしているわけじゃありません。同じ兵器を手に入れたからと言って、そう易々と対等になったと思わないことです』
その言葉に、トウヤ少佐は一切反論出来なかった。長距離砲を囮に使い、MSを主攻とした自分とは真逆の戦術。
開戦以来、MSの性能に頼り切った戦術を駆使してきたジオンが、まさかMSを囮に使い、光学照準による長距離砲撃を仕掛けてくるなど、トウヤ少佐は想像すらしていなかったのだ。
(ガルマが従来の兵器とMSの連携を重視していると知っていたにも関わらず、この体たらく……。MSの性能を過信し、視野狭窄に陥っていたのは俺の方だったか……)
コックピットの中で自嘲混じりの呻きを漏らし、トウヤ少佐はギリッと奥歯を噛み締めた。
策と策のぶつかり合い。
軍略の勝敗はジオンに軍配が上がった。
──だが、この戦いの勝敗は別である。
*****
「────……マチルダ、さん?」
ガンダムのコックピットの中で待機状態にあった少年は、何かに導かれるような感覚に身体を震わせた。
「…………行かなくちゃ」
その得体の知れない何かは、少年を戦場へと
まるで、誤った歴史を修正するかのように。
それら全てを灰燼に帰す、悪魔の力。
数多の勇者たちを照らす、白き伝説。
──全ての始まりとなる