戦犯にはなりたくない! 作:蒼天
天秤はジオン側へと大きく傾いた。
焦燥するトウヤ少佐の元へ、マツナガ大尉たちと対峙していたマルセラ曹長の黒いガンダムが後退して戻ってくる。
「トウヤ少佐!」
「……すまん、マルセラ。完全にしてやられた。俺のミスだ」
「……まだ、負けたわけではありません」
マルセラ曹長の言う通り、まだ戦えないわけではないが、支援砲撃を担っていたガンタンクとガンキャノンは全滅した。
仮に目の前の敵を倒すことが出来たとしても、本来の目的であるガルマ・ザビを討つことは、もはや不可能と言っていい。
こうなってしまった以上、残された手段は1つ。ホワイトベースまで後退し、一か八かの強行突破を図るしかない。
しかし──。
『残るはお前たちだけだ、トウヤ。武装を解除し、投降しろ。木馬のクルーも悪いようにはしないと約束する』
トウヤ少佐の親友であり、今は敵同士となってしまったシン・マツナガ大尉の降伏勧告がオープン回線で重々しく響き渡る。
(……最優先すべきはV作戦の機密保持。投降なんざできるわけがない。何とかしてこの場から逃げ出さなければならないが──)
背後ではヴァルター・ライゼン中尉が隙のない構えで退路を塞いでいる。こちらが投降を拒否すれば、すぐさま襲い掛かってくるだろう。
まさに前門の虎、後門の狼。ジオンが誇る2人のエースの猛攻を搔い潜り、この場から逃げ切ることは極めて困難と言わざるを得なかった。
(ホワイトベースにも作戦が失敗したことを伝えなければ……。せめて、マルセラだけでも脱出できればいいんだが……)
自分を置いて逃げろと言ったところで、マルセラ曹長が首を縦に振るはずがないことはトウヤ少佐も理解していた。かといって部下を置いて自分だけが逃げるわけにもいかない。
ガンキャノンのパイロットも生きてはいるだろうが、機体が動かない以上、抱えて逃げるような余裕は無い。救出は不可能と言っていいだろう。
諦念と焦燥が渦巻く中、ノイズ混じりの秘匿回線がトウヤ少佐の耳に届いた。
『と、トウヤ少佐……』
途切れ途切れの通信音とともに聞こえてきたのは、先ほど680mmカノン砲を受けて沈黙したガンタンクの操縦士──ジョブ・ジョンの弱々しい声だった。
「──ジョブ・ジョン! 無事だったのか!?」
『は、はい……自分は何とか……。ですが、砲手だった軍曹は……』
トウヤ少佐は咄嗟に後方の爆煙へ視線を走らせた。
ガンタンクは複座式のMS。直撃を受けた1機目と2機目は上半身が完全に吹き飛んでいたが、最後の3機目は頭部コックピット周辺こそ破壊されているものの、コア・ファイターを内包する胴体部分は辛うじて原形を保っていた。
「ジョブ、俺たちが注意を引き付ける。お前はホワイトベースに帰還しろ」
『は、はい……。でも、少佐たちは……』
「心配するな。俺たちはこっちで何とかする。お前の仕事はホワイトベースに戻って、ブライトたちに今の状況を伝えることだ。いいな?」
『……了解、です』
トウヤ少佐は秘匿通信を終えると、すぐさまオープン回線へと切り替えた。そして、幼馴染であるマツナガ大尉へと視線を向ける。
「──シン。悪いが、俺の返答は変わらない。ザビ家の手先となって戦う今のお前とは、相容れることはできん!」
『トウヤ……!』
*****
(やっぱり、そうか……)
トウヤ少佐の返答を半ば予想していた僕は静かに溜息を溢した。マツナガ大尉は諦めずに説得しているが、その言葉がトウヤ少佐の心を揺らすことは無いだろう。
「ギャリー少尉、機体の損傷はどう?」
「申し訳ありません、中尉。操縦には問題ありませんが、メインカメラをやられました。これ以上の戦闘は難しそうです……」
ギャリー少尉のザクⅡ改は先ほどの戦闘で頭部をビームに貫かれたせいで、火花と黒煙を吐き続けている。ザメルの支援が後少しでも遅ければ僕も危なかった。
(何らかの策があるとは思っていたけど、まさかここまで戦力を隠し持っていたなんて……)
僕はすぐ近くに転がる
パイロットも命に別条はないはずだ。だが、このまま放置しておけば電子系が復旧し、再び僕たちの背後を脅かす脅威となりかねない。
「ギャリー少尉はこの赤いMSを鹵獲してほしい。パイロットも捕虜にして連れ帰ってくれ」
「了解です。お気をつけて」
ギャリー少尉の機体はメインカメラを失っていて、これ以上の戦闘は無理だ。
ガンダムほどの性能は無いようだが、あの機体も携行用ビーム兵器を運用できる以上、貴重な研究材料になるはずだった。
曳航されていく
「──! あれは……!」
僕は反射的に左腕の3連装35mmガトリング砲を、起き上がろうとするタンクもどきへと向けた。
しかし──。
『──させない!!』
次の瞬間、マルセラ曹長の黒いガンダムから放たれたビームライフルの閃光が、僕の左腕を掠めた。咄嗟に機体を横へ蹴り出し、直撃だけは免れるが、熱線の余波が35mmガトリング砲の砲身を僅かに溶融させる。
「ちぃっ……!」
「ライゼン!」
『お前の相手は俺だ! シン!』
トウヤ少佐の叫びとともに、灰色のガンダムがマツナガ大尉とオルガ少尉を引き付けるように前に飛び出した。マルセラ曹長も同時に動き、ビームライフルの連射でこちらの視線を遮るように立ちはだかる。
「無駄な足搔きはやめろ! トウヤ!」
『言ったはずだ、シン! もうお前と話すことは無い!!』
起き上がったタンクもどきの残骸から、カシャン、とロックが解除される音とともに、その胴体部が切り離され、中から小型のブロックが射出された。
空中で翼が展開され、小型戦闘機に変形し、そのまま暗闇の夜空へ向かって鋭く急上昇を開始する。
(中から戦闘機が……あの機体、ザメルと同じ、複座式だったのか……!)
夜空をエンジン音が鋭く突く。脱出を阻止したくとも、先ほどのビームでガトリングの砲身が歪み、弾丸が噛み込んで撃つことができない。
ならば──。
「逃げるつもり……!? マツナガ大尉! 私がガンダムを食い止めますから、その間に奴を──!」
「────……いや、オルガ少尉。あの戦闘機はこのまま行かせよう」
「ええっ!? ライゼン中尉!?」
「……ライゼン、何か考えがあるのか?」
「はい……────マイ中尉、聞こえますか!」
通信回線を瞬時に切り替え、上空を旋回するルッグンへ急ぎ連絡を入れる。
『こちらルッグン! 今、ザメルに観測値を──』
「──いえ、それは不要です! それよりもあの戦闘機の後を追ってください! その先に木馬がいるはずです!」
『なっ……! しかし、ライゼン中尉! 僕たちがこの場を離れればザメルから援護射撃が出来なくなる! いくら何でも君たちだけでは……!』
「問題ありません。ここは僕たちに任せて、ソンネン少佐たちと一緒に木馬の捜索をお願いします!」
僕の言葉にマイ中尉が言葉を詰まらせるが、すかさずマツナガ大尉がそれに追従した。
「私からも頼む、マイ中尉。足の遅いタンクもどきならばいざ知らず、ガンダムに長距離砲撃を命中させるのは難しいだろう。ザメルの火力は木馬にこそ必要だ。この場は我々に任せてほしい」
マツナガ大尉も僕の意見に賛同してくれたようだ。ザメルは対艦・対要塞には有効だが、単機で俊敏に動くMS相手には火力が過剰かつ狙いを絞るのが難しすぎる。
トウヤ少佐を生かして捕らえたいという思いもあるのだろうが、戦況を冷静に見抜いた上での判断でもあるはずだった。
『マツナガ大尉……了解しました。どうかお気を付けて!』
『連邦のMSなんかに負けんじゃねえぞ、ライゼン!』
マイ中尉たちの返答とともに、上空を旋回していたルッグンが小型戦闘機の向かう先へと方向を変えた。ワシヤ中尉の操縦技術ならば、撒かれる心配は無いだろう。
ルッグンが夜空の彼方へと消えていくのを横目に、マツナガ大尉とトウヤ少佐は再び向き合った。
「トウヤ……武器を下ろしてはくれないのだな?」
『くどいぞ、シン。俺にも退けない理由がある。俺を従わせたいなら、力ずくで来い』
「ならば────そうさせてもらう!!」
マツナガ大尉の陸戦高機動型ザクが、大型ヒートホークを構えて踏み込んだ。低く鋭い踏み込みに迷いは無い。
トウヤ少佐は即座に後方へ跳躍すると、バズーカの照準をマツナガ大尉へ合わせようとする。
「──させるかっ!!」
だが、その弾道を遮るようにして、右側から黒い影が躍り出た。オルガ少尉のグフだ。
左腕を失いながらも、右腕から高速で射出されたヒートロッドが、まるで生き物のようにしなって空中を走り、バズーカの砲身へと強く巻き付いた。
『──チッ……!』
トウヤ少佐は躊躇することなく、ヒートロッドが巻き付いたバズーカを手放した。そして背中からビームサーベルを引き抜く。
迫ってくるマツナガ大尉の大型ヒートホークをシールドで受け止めると同時に、右手のビームサーベルを繰り出した。
刃と刃が交錯し、強烈な火花が夜の暗闇を一瞬だけ鮮やかに照らし出した。
『トウヤ少佐……!』
マルセラ曹長の黒いガンダムが、マツナガ大尉とオルガ少尉に押し込まれるトウヤ少佐を援護すべく、素早くビームライフルの照準を白いザクへと合わせた。
指先がトリガーにかかる直前、僕はヒートロッドを射出した。ワイヤーの先端が、銃身へと吸着し、勢いのままビームライフルを弾き飛ばす。
『──なっ……!』
兵装を失い、唖然とするマルセラさんに渾身の蹴りを叩き込んだ。
重厚な金属音が響き渡り、黒いガンダムは大きくバランスを崩したが、何とか踏みとどまってみせた。
『くっ……! ヴァルター・ライゼン!!』
「あなたは僕が相手をします」
僕は腰のホルダーから2本のヒートサーベルを同時に引き抜いた。暗闇の中で2本の刃が刀身を赤熱化させ、妖しい発光を放つ。
先日の戦いではサーベルを失ってしまったことで、撤退を余儀なくされた。同じ失敗を繰り返さないためにも、今回の出撃ではヒートサーベルを2本用意した。
実戦で二刀流を試すのは初めてだが、ガンダムが相手ならば手数は多い方がいい。
『1機だけで、ガンダムを止められると思うな!』
ビームサーベルを抜き放ち、黒いガンダムが突貫して来る。だが、その直線的な踏み込みを、僕は最小限の回避行動で難なく受け流す。
「機体の性能が劣っていることは認めますが……1対1ならあなた程度に遅れは取りませんよ」
すれ違いざま、ヒートサーベルを一閃する。赤熱した刃は装甲を焼き切る独特の金属音とともに、ガンダムの脇腹へ朱色の傷跡を残した。
『くっ……!』
(今の一撃で掠り傷程度か……さすがに装甲は厚いな。これは時間がかかりそうだ)
マルセラさんの技量はそこまで低いわけではない。初めて戦った時よりも腕は格段に上がっているし、連邦がMSを開発したばかりだという点を考慮すれば、才能は十分にある方だろう。
──だが、この程度の実力者ならばジオンにはいくらでもいる。
ガンダムの性能も大体把握できた。将来的には脅威になるかもしれないが、現時点ではマルセラさんは僕の敵じゃない。
視界の端では、トウヤ少佐のガンダムもマツナガ大尉とオルガ少尉の猛攻を前に、防戦一方となっていた。いくらガンダムが高性能と言っても、経験による技量の差は補えない。
マイ中尉たちもそろそろ木馬の居場所を突き止める頃合いのはず────ザメルが木馬を仕留めれば、トウヤ少佐も抵抗を諦めるだろう。それでこの戦いは終わりだ。
(…………ただ1つ、気がかりがあるとすれば────)
*****
シアトルの夜空を駆けるルッグンとコア・ファイターが残す淡い噴射炎。
ジョブ・ジョンは何とか追跡を撒こうとしていたが、ワシヤ中尉の巧みな操縦とマイ中尉の光学追跡によって、その尾翼を捕らえられ続けていた。
『こちらザメル。マイ中尉、首尾はどうか?』
「キャディラック大尉、ライゼン中尉の読み通りです! あの戦闘機は間違いなく、木馬の潜伏場所へ向かっています!」
逃げるコア・ファイターを追跡しながら、マイ中尉は確信を強めていた。伏兵部隊を撃破した今、残る懸念は密かに潜伏しているはずの木馬のみ。あの巨体を隠せる場所など、この市街地においては自ずと限られてくる。
マイ中尉の視線の先────
かつて北米屈指の収容人数を誇ったその巨大な建造物は、戦争の余波で外壁が崩落し、廃墟の残骸と化していた。
「よっしゃ! 木馬はあの中だな! ガルマ大佐にも報告を──」
「──っ! 待ってくれ! 地上に熱源反応有り! これは──!」
──その声が終わる前に、夜の空気が引き裂かれた。
地上から放たれた鮮烈な光が一条、夜空へ向けて垂直に突き上がる。
「────っ!! うおおぉぉぉっっ!!」
ワシヤ中尉が叫びながらルッグンの操縦桿を引き絞る。しかし、放たれたビームはまるで夜空の星を撃ち抜くかのように、ルッグンの右主翼の付け根を貫いた。
翼の半分が閃光とともに蒸発し、機体が激しく横揺れした。バランスを失ったルッグンは制御不能の錐揉み状態へと陥り、そのまま黒煙を引きながら、シアトル市街の方角へと急速に落下し始める。
『──マ……尉! 何が……た!? ……を!?』
通信回線の向こうで、キャディラック大尉の悲鳴に近い叫びが激しいノイズにかき消されていく。計器が激しく揺れ動き、操縦席に赤いランプが溢れる。コクピットを包む振動が凄まじい。
「大尉、申し訳ありません! 被弾しました! ワシヤ、高度を────!」
「無理無理無理っ!! 墜ちるぅぅぅ────っ!」
『………尉! 返………ろ! マ…────!!』
*****
「マイ中尉! 返事をしろ! マイ────!!」
上空を飛翔していたルッグンの突然の撃墜。ザメルで後を追っていたキャディラック大尉は、通信機から返ってくる耳障りなノイズの群れを前に、その絶望的な事実をすぐには受け入れられずにいた。
後部座席にいるソンネン少佐の顔からも余裕が消え去り、その眼光が鋭く引き締まる。
「あいつら……まさかやられちまったのか!?」
「そ、そんなはず────!」
『こ、こちらルッグン……! キャディラック大尉、ソンネン少佐……聞こえますか?』
ノイズの奥から聞こえてきた微弱な、だが確かに生きているマイ中尉の声に、キャディラック大尉は大きく息を吐き出した。
「マイ中尉! 無事か!?」
『はい……なんとか不時着できました。ですが、ルッグンはもう飛べそうにはありません』
「そうか……無事ならいい。それで、一体何が起きた?」
『……ガンダムです』
マイ中尉の震える声が通信機から漏れ出す。
『木馬がいると思わしき
「……了解した。マイ中尉、ゲラート少佐に連絡して回収を頼んでおく。しばらくの間、そこで待機しているように。いいわね?」
『はっ、了解です』
『……あの~、大尉? 俺のことも少しくらいは心ぱ──』
──通信回線を切り替え、ゲラート少佐に救援要請を送りながらも、キャディラック大尉は思考を巡らせ続けた。
(情報にあった白いガンダム……ライゼン中尉曰く、パイロットはニュータイプとの話だったけど……)
キャディラック大尉も総帥府の一員として、ニュータイプの存在は知らされていた。
もっとも、ギレン総帥はニュータイプを大して気にかけてはいないらしく、その力がどれほどのものなのかは、キャディラック大尉もほとんど把握していなかった。
そうやって考え込む彼女を、ソンネン少佐はどこか懐かしむような口調で揶揄った。
「随分とあの技術屋に熱を上げてるみてえだな? いつも俺の後ろを尻尾振ってついて回ってた、あの頃のお前が懐かしいぜ」
ありもしない記憶を捏造する元教官に、一瞬本気でキレそうになるキャディラック大尉だったが、持ち前の理性で間一髪それを押さえ込んだ。
「くだらない妄言を吐いている余裕はありませんよ、少佐。ライゼン中尉の言葉を信じるなら、その白いMSは我々の常識が通じる相手では無いかもしれません」
「ハッ! おもしれえじゃねえか。ザメルの評価試験にはうってつけの相手だ」
ソンネン少佐は不敵に笑ってみせたが、その無謀さを察したキャディラック大尉はその突発的な功名心を冷たく諌めた。
「少佐、ザメルはあくまで長距離支援用の機体です。単機で奴に挑むような真似は──」
「白兵戦も出来ねえわけじゃねえんだろ?」
「出来なくはないですが、もう間もなく他の部隊も到着します。我々だけで無理に仕掛ける必要はありません。大体、あなたはいつも──」
説教が始まる気配を察したソンネン少佐は短く舌打ちすると、荒い息を吐きながら参ったように両手を上げた。
「わかった、わかった! 俺だって死に急ぐつもりはねえよ。仕掛けるのはあいつらが到着してから──」
『──あら、そう。それじゃあ、手柄はアタシたちがぜ~んぶ頂いちゃおうかしら?』
「──な、に……!?」
通信機から突如飛び込んできた、少し軽薄でどこか艶を孕んだ
ザメルのコックピットでソンネン少佐とキャディラック大尉が息を呑むのと同時に、脇をかすめるようにして、複数機のホバー音が夜の静寂を切り裂いて駆け抜けて行った。
「ニアーライト少佐……!?」
「あのオカマ野郎……! 今までどこに隠れてやがった!?」
視線の先、崩壊した街路を滑るように進むのは、ジオン公国軍の特殊部隊『マッチモニード』の重MS──ドムだった。
『隠れてただなんて人聞きが悪いわねぇ……。アタシたちは独自に木馬を捜索していたというだけよ。まあ、木馬の位置を特定できたことには感謝しておいてあげるわ。アンタたちは後でゆっくりと追いかけてきなさい。……その頃には、全部終わっているでしょうけどね』
「待ちなさい、ニアーライト少佐! 木馬に仕掛けるなら、私たちが援護を──」
『ハッ! 冗談でしょう? アンタたちの手なんか必要ないわ。こっちには最新鋭機のドムが
マッチモニードが撒き散らす煙と高圧のホバー噴射音が、静まり返っていたシアトルの廃墟を荒々しく削り取っていく。
その圧倒的な質量とスピードは、まるで黒い津波となってシアトル全体を飲み込もうとしているかのようだった。
『後ろから撃つしか脳の無いポンコツはそこで指を咥えて見ていなさい! アタシたちの栄光の瞬間をね!』
通信機から響くニアーライト少佐の高笑いとともに、夜の闇を切り裂くようにしてドムが一斉にスラスターを全開にした。
ソンネン少佐は遠ざかるドムの残光を苛立ち気に睨みつけながら、ザメルのシートに深く身を沈めた。
「チッ……! そこまで言うならお手並み拝見させてもらおうじゃねえか」
「……よろしいのですか?」
「俺らはもう敵のMSを4機仕留めたんだ。評価試験の成果としちゃあ、十分だろ」
ザメルの評価試験としてのノルマは間違いなく達成されている。後は職業軍人として目の前の任務を遂行するのみ。
マッチモニードが単独でそれを完遂できると豪語するなら、これ以上出しゃばるつもりはソンネン少佐には無かった。
──そう、ソンネン少佐も、この時点ではマッチモニードの勝利を疑ってはいなかった。
──いくらガンダムが高性能とはいえ、10機のドムが1機のMSに敗れるはずはない……と。
その見通しを甘いと評価する者は1人もいない。
だが、その常識は3分も経たずに打ち砕かれることになる。
1人の少年によって巻き起こされる、圧倒的な破壊の嵐。
夜を染め上げる炎の中で、ジオンの兵士たちが目撃するのは、勝利の栄光などではなく、理不尽なまでの絶望そのもの。
──北米の片隅で、常識を遥かに超越した
次回、アムロVSマッチモニード。
コロ落ちだとオーストラリア到着時点でのマッチモニードの戦力はドム5機なのですが、キャリフォルニアベースが陥落する前はもっと多かったのではないかと思っています。本作では時期的に最盛期のマッチモニードということを考慮して、ドムを10機に増やしました。
10対1なのでかなり一方的な展開になると思いますが、面白く書けるように頑張ります。ニアーライト少佐の栄光の瞬間(笑)をお楽しみに。