「何処に行く気だい?」
「ッ!!?」
突如現れたラインハルトにレグルスは驚愕した。
ガキィン!
ラインハルトの刃が、レグルスの首を刎ねることはなかった。
レグルスの首皮一枚直前で止まるラインハルトの剣。
まるでそこに見えない絶対的な壁があるかのように。
「ッ!?」
今度はラインハルトが驚愕した。
龍剣レイドが通じない。
抜けるタイミングが非常に限られた気難しい剣。
しかし一度抜けば物理法則を無視してあらゆるものを切り捨てる。
剣聖のスキルとラインハルトの戦闘力が合わさった時、たとえ神竜であろうとも打ち倒せる。
だが、この相手には通じない。
「ラインハルト!ソイツは時間を止める力を持ってる!今は訳あって世界の時間を停められねけど、自分の時間を停めて無敵の防御力を発揮出来るんだ!」
「何?ソレはマズいね。流石に止まった時間を動かす加護はない」
スバルは大声で叫んでラインハルトにレグルスの権能を伝える。
何故ラインハルトが生き返ったなんてのは些細な問題。
今アイツを倒せるのはラインハルトだけ。
なら全賭けするしかない。
スバルはラインハルトを信じている。
最強の騎士ならきっと勝てると。
自身なさげに答えても弱気は感じさせない彼なら。
きっとこの無理難題も成し遂げてくれる。
「あれ?おかしいな。停まった世界の中で死んだら絶対に死ぬはずなのに。一体どんな魔法を使ったんだ?」
「加護の力さ。確かに不死鳥の加護は失効したけど、続・不死鳥の加護のおかげでなんとか生き返れたよ。時間は掛かったけどね」
「そうきたか…」
停止した世界で死んだ者は永久に死んだ瞬間のまま。
この原理はラインハルトといえども例外ではなかった。
不死鳥の加護もこの法則の前では効力を失い、カペラや呪い人形などの疑似的な不死者も死という瞬間のまま停止する。
だが、流石に不死鳥の加護から続・不死鳥の加護と、連続で生き返りに関する加護が発動すれば停まった死も生に戻るようだ。
普通ならあり得ない。
不死鳥の加護を持つだけでも稀有だというのに、続・不死鳥の加護がすぐさま生えてくるなんてインチキだ。
だが、そのインチキも彼なら許される。
ソレがラインハルトという男だ。
「アリかよ…そんなの!」
レグルスが手を振るう。
瞬間、その軌道上から無数の針がラインハルトに襲い掛かった。
難なくそれらを撃ち落とすラインハルト。
コンマ一秒もない隙ともいえない隙。
ソコを突く形でレグルスはランハルトに肉薄する。
「ッ!? なるほど、権能無しでもなかなかの使い手のようだね」
「君に言われるとイヤミにしか聞こえないね!無手の加護持ちが!」
繰り広げられる肉弾戦。
レグルスは彼女との戦いで見せた悪魔のような左腕を。
ラインハルトは龍剣レイドを振るって互いの敵を打ち滅ぼさんとする。
「その腕!カペラと同じものだな!その上で生命力を直接操るその技術!廃れたと聞いていたのだが!」
「ああそうさ!カペラに血を分けてもらって手にした!竜の血は生命力が溢れているからね!気功と相性がいいんだよ!」
レグルスの左腕。
スバル同様にカペラの血を自身の身体に取り込んだ事で手にした。
更にレグルスの場合は自分から進んで血を受け取り、適応する事で左腕限定でカペラと同じよう様々な生物の左腕に変形する事が可能になった。
流石にカペラのように複数の生物に分裂したり、質量を無視して様々な生物に変形する事は不可能だが、十分強力な権能である。
そして、この力はレグルスが元から持つ技術、気功術と相性がいい。
気功術。
魔法を介さずに生命力を直接操る技法。
光魔法が発展したことで廃れてきた古い技術。
だがレグルスはコレを極める事であらゆる戦況に対応。
権能と左腕が合わさることで、圧倒的な戦力を発揮する。
だが、レグルスがカペラの血を取り込み、気功術を学んだのは何も戦力の為ではない。
時間停止の弱点の踏み倒し。
レグルスの権能は発動している間、心臓が止まってしまうという欠点が存在する。
ソレを踏み倒す為にカペラの心臓と気功による圧倒的な生命力を欲した。
獅子の心臓。
止まっても別の心臓を形成する事でその弱点を踏み倒した。
龍の血。
適応できないものを殺す毒は、気功術による生命力でクリアした。
今の彼に弱点などない。
原作と違って小さな王など必要ない。
花嫁という明確な弱点が存在しない以上、弱点は存在しない。
「そういうことさ!僕は弱点を克服し、次のステージに上り詰めた!これからも僕は先に行く!全て置き去りにしてね!」
「そのために誰かを犠牲にすると?そんなことが許されると思っているのか?」
「許すも何も、それこそ僕の権利だ!誰にも邪魔などさせない!」
何百何千と打ち合う。
その度に爆撃を受けたかのような轟音と衝撃波が引き起こされ、街に被害が及ぶ。
触れてすらいないのに、動くだけで町を破壊していく様は、巨大怪獣同士で暴れているかのようだった。
「解毒の加護に矢避けの加護に先制の加護に流血の加護!全く、君はどれだけの加護を持っているんだ!まるで加護のバーゲンセールだ!有難みも何もあったもんじゃない!一つだけでも値千金だというのに一体君はどれだけ求める気だ?」
「君を倒せるまでどこまでも」
「この強欲め!」
「君には負けるさ」
レグルスの凶手は苛烈さを増していく。
毒爪の腕に鋼の羽をまき散らす腕、蛇のような腕にドリルのような腕など、一瞬一瞬で形状を変えてあらゆる手段でライハルトを屠らんとする。
それら全てをラインハルトは加護と剣戟、そしてライハルト自身の身体能力と身体捌きを以て制する。
しかしソレだけ。ラインハルトからは攻撃どころかレグルスに触れる事すら敵わなかった。
時間停止の絶対防御。
如何に最強といえど、如何にこの世界に愛されているといえど。
世界そのものの法則に干渉するその権能を侵害する事はラインハルトであろうと不可能であった。
対するレグルスの攻撃。
触れた物体の時間を止めることで絶対不変の武器と化す。
腕を振れば全てを薙ぎ倒し切断する真空波へと。
石を投げれば全てを破壊する最強の弾丸へと。
ソレらはラインハルトとて防御不能の一撃と化す。
原作ではソレによってラインハルトと同格に戦ったが、この世界では更に凶悪。
龍の血によって左腕を変化。あらゆる生物のソレに変えることでより多彩な攻撃が可能となった。
気功術によって生命力を強化。原作では並の身体能力だが、武術の達人級の攻撃が可能となった。
格闘能力が原作より格段に高い。より強くラインハルトを追い詰めるような攻撃が可能となった。
原作ではレグルスだから勝てた。
だがこの世界ではそうはいかない。
「フハハハハハ!あのラインハルトでも僕の権利は侵害出来ないようだ!対する僕はいくらでも攻撃出来る上に攻撃技として転用出来る!ソレすら防げないこの状況、どう打破するつもりだ!?」
「ジリ貧、ということか………!」
最強の権能と最強の肉体、そして最強の技術。
全てが合わさって倍増どころか相乗効果を発揮し、世界最強を食い潰さんとする。
「成程、認めよう。君は強い。その為の努力や苦労も惜しまなかったのだろう」
「だかソレでも僕は負けられない。僕には負けられない理由がある。僕を信じてくれる仲間が、僕が守るべき人がいる限り」
「僕はソレに応えたい。その為ならどんなものだって犠牲にする。なにせ僕は最強の騎士だからね」
ラインハルトの覚悟に応えるかのように、加護が総動員される。
ソレは文字通り一撃必殺の技。
一度繰り出せば彼に勝利をもたらす。
だが失敗すれば状況は一転。
彼の敗北を確かなものにする。
ミスは許されない一度きりの斬撃。
だが、彼にミスなどあり得ない。
なにせ彼は最強なのだから。
「代償の加護よ、世界を切断せよ」
その一撃は、文字通り世界そのものを切り裂いた。
「―――ッカハ!!?」
ラインハルトの斬撃は、レグルスを見事に捉えた。
一文字に傷を刻まれるレグルスの肉体。
軌道に沿って赤い鮮血が噴きあがる。
時空切断。
文字通り世界そのものを断つ剣技。
斬撃の軌道上に存在するモノは距離も強度も問わず問答無用に切断する。
正しく無敵の斬撃。
斬撃の極致にして究極の完成形。
だが、如何にラインハルトとてこの技はタダでは使えない。
世界そのものを切るなど人の身では不可能。
如何に最強といえど、世界どころか権能すら彼は突破出来ない。
では、何を以てラインハルトは人の身を超えて世界を断ったのか。
その答えの一つは龍剣レイド、もう一つは代償の加護である。
代償の加護。
文字通り代償を捧げる事で不可能な事柄を可能にする加護。
ラインハルトは自身の持つ加護全てを犠牲にする事で時空の加護を一時的に授かったのだ。
最強の騎士ラインハルト。
剣聖が代々引き継ぐ龍剣レイド。
全ての加護を犠牲にする事で得た時空の加護。
それらが一つになり、相乗効果を発揮して最凶の大罪司教を斬ったのだ。
だが、代償は高く付いた。
「―――ッカハ!!?」
血を吐くラインハルト。
左あばら部分が赤く染まっている。
レグルスのミドルキック。
ラインハルトが斬撃を繰り出したタイミングでクリーンヒット。
肋骨を折りながらラインハルトを数十m先まで蹴り飛ばし、瓦礫と化した建物によって生き埋めにした。
加護のないラインハルトは人類最高程度の肉体でしかない。
人の身である以上ダメージは与えられる。
「………逃げられたか」
瓦礫の中から傷を庇いながら立ち上がるラインハルト。
そこには既にレグルスの姿はなかった。
「ああクソ、最悪だ。魔女から勝ち取った景品はしょっぱいし、最強は倒したと思ったら死んで無いし、最後は絶対防御突破されたし。今日はとんだ厄日だよ」
とある山小屋。
レグルスは横一文字に切り裂かれた神父服を放り投げ、自身の治療を行っていた。
時間操作は現代使用不可。
彼女との戦闘で反動を受けた上に。ラインハルトの一撃で使えなくなっている
しかしそれだけ。
傷こそ刻まれたが致命傷ではない。
毒や呪いも込められていない。
どうやら代償の加護とやらで他の加護を犠牲にした一撃だったのだろう。
もしコレに死神の加護や毒の加護が発動されていれば死んでいたが、ただの切り傷ならどうということはない。
気功によって生命力を高めて治癒促進させるだけで事足りる。
「旦那様、礼の物と御召し物を持って参りました」
「ありがとうシルフィ」
従者らしき女性から渡された服を羽織り、瓶のようなものを受け取る。
瓶は液体に満たされ、心臓のようなものが浮いている。
カペラの心臓。
時を停めて保存する事で、死の状態を維持している。
レグルスは瓶ごと握り潰し、飲み込んで己の体内へと取り込んだ。
「ッうぐ!!? お、おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!?」
瞬間に走る激痛。
全身の神経を貪り食われているかのような異物感。
皮膚の裏側で筋肉がうねり狂っているかのような、異常な感覚。
以前にカペラの血を取り込んだ際とは比べ物にならない程の痛みと苦しみがレグルスを襲う。
しかし彼はソレに耐え、勝ち取ってみせた。
耐え抜いて勝利した先に掴んだのだ。
「ククク…あっはっはっはっはっはっはっはっは!!! やったぞ、遂に僕は手に入れた!」
レグルスの両手が刃のような形に変形する。
否、両手だけではない。
足や顔、内臓までも人間ではないものへと変化。
だが次の瞬間には、何事も無かったかのように元に戻った。
「流石にカペラみたいには出来ないだろうが、左手限定なんてつまらない制限からは解放された!これで僕は無敵の肉体を手にしたんだ!」
「次は魔女の遺体だ!早速試したい!どんな権能が手に入るのか楽しみだ!」
レグルスは先ほど回収した魔女の死体が入った棺桶に手を伸ばす。
最初から彼の目的は魔女の死体、次にカペラの心臓、彼女との接触はオマケだった。
魔女教が暴れている騒ぎに便乗して死体を回収。
序でにカペラを殺して心臓を抉り取った。
普段、カペラはレグルスから逃げ回っている。
というか他の大罪司教全員から避けられている。
当然だ、レグルスは全ての魔女因子を狙っており、魔女だろうが司教だろうが関係なく取り込もうとする。
結果、レグルスだけハブられており、今回の襲撃も本来ならレグルスはいない筈だった。
福音書にもレグルスの存在はなかった。
だからカペラは派手に暴れていたのだが、ソレがいけなかった。
レグルスは例外だ。
福音の書の予言通りに動かない上、限定的な未来視を可能としている。
ラインハルトの時空切断を食らっても生きていたのも、ソレが理由の一つ。
自身が敗北する未来が視えたレグルスは咄嗟に逃げた事で斬撃を浅くするこに成功した。
カペラを捉えたのも同様。カペラが調子に乗っている様を未来視して奇襲をかけたのだ。
目的は達成した。
魔女の遺骸にカペラの心臓、そして駄賃代わりに手にした彼女の髪。
これらを取り込めば新たなステージに…。
「恐れながら旦那様、流石に全てを取り込むのはリスクが高すぎます。先ずは手にした体に慣れるべきかと」
「………それもそうか」
一旦冷静になるレグルス。
確かにシルフィの言う通り。
新しい力を手にして有頂天になってしまった、
魔女因子というのは本来危険なもの。
先程は色欲の魔女因子に適応出来たが、ソレ自体かなりの博打である。
もし適応に失敗すればレグルスの方がカペラに乗っ取られ、復活した上に自身の権能を奪われる可能性だってある。
カペラの心臓一つでソレなのだから、一気に取り込んだらどうなるか分かったものでは無い。
魔女因子を取り込むのは慎重に行うべきだ。
先ずは今手にしたものを完全に掌握することから始めよう。
「ソレにラインハルト対策も必要です。旦那様の無敵の盾を切り裂いた加護、次はより強力になっているかもしれません」
「流石に無理…と、言い切れないのが怖いところだ。いいだろう、魔女の遺体を取り込むのは延期する」
「ああ、それとラインハルト対策は大丈夫だと思う。既に種は撒いてるからね」
その言葉の意味を知るのは、プリステラ襲撃から数日後だった。
レグルスが仮拠点の一つにしているこの小屋に、フェリスが訪れたのだ。
「やあ待ってたよフェリス君。ラインハルトや他の皆の調子はどうだ?」
「………皆回復してるわ。アンタ、ラインハルト以外は手加減したでしょ?」
俯いて答えるフェリス。
彼の言う通り、レグルスはラインハルト以外は殺さずに気絶させるだけに留めた。
「ラインハルトもアンタとの戦闘の傷が癒えてない。お得意の加護を犠牲にしたから暫く回復するのに時間が掛かるって。まあ、あの男のことだからまた加護も回復すると思うけど」
「ソレは朗報だ。またあのチートと対峙するんじゃないかって恐怖で震えていたところだったんだ」
「………嘘くさい」
フェリスはレグルスを怨敵でも見るかのように睨みつける。
「それで本当なの?アンタならクルシュ様を治せるって」
「勿論。カペラを殺してその力を得た僕なら可能だ。何なら前払いで町の人たちを治してやろうか」
「けど、そのためには君に頼みたいことがあるんだ。聞いてくれるかい?」
白い獅子は微笑む。
次のステージに昇る手を打つために。
これで終わりです。続きは考えてません。
アニメ勢で設定とか知らないので…。