CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路   作:ミヤビコウ

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クリアしたら創作意欲が湧き上がってきたので投稿します。
楽しんでいただけたなら幸いです。


新たな旅路

 とても、とても永い眠りの中を揺蕩っていた。

 抱きしめるかのように、抱きとめるかのように。

 か細くも、強固に紡がれた縁を辿るかのように。

 ただひたすらに、『貴方』という温もりを繋ぎとめるかのように。

 だからこそ、こうして眠り続けられる。

 だって、いつまでも『貴方』が近くにいるのだから―――

 

『本当に?』

 

―――え?

 

『本当にそうなのかな?』

 

―――どういう意味、なのですか?

 

『いずれ別れは訪れるものだよ?』

 

―――どういう意味、なのですか?

 

『ちょっとしたきっかけで別れが訪れる場面を一緒に見てきたはずだよ?』

 

―――どういう意味、なのですか?

 

『目を逸らさないで。理解している現実から』

 

―――どういう、意味、なのですか……?

 

 

 

 

『私はきっと先に死ぬ。人間である私は、永遠にあなたの、ルゥの隣にはいられないということを』

 

 

 

 

「……っ!!」

 自らの心臓の鼓動で飛び起きたルゥは、冷や汗で顔に張り付く髪も気にせずに周囲を見渡すと、隣でスヤスヤと眠っている女性の吸血鬼ハンター『ユキ』を見つけ安堵した。

 百年という時間、共にリンネを封じてきたためなのか、こうして同じ寝床でなければ眠れなくなっていた。いや、きっとそれよりも前からこうすることが自然とも取れる時を共に過ごしてきた。

 リンネの再封印のため、共に百年という過去へ時を越え、封印殻となる前の英雄と交流し、封印殻解放の縁を見つけ出し、現代でその英雄を殺すという過酷な旅。

 ルゥもユキも、記録でしか英雄が辿った旅路を見たことがない。

 だが、共に肩を並べ、同じ目線で英雄と共にした旅路の景色は、黒一色で書かれた文章とは異なり、悩み苦しみながらも、鮮烈で、とても色鮮やかなものだった。

 その旅路に触れた二人だからなのだろう。黒一色で綴られた歴史を、二人は悉く色鮮やかに塗り替えていった。本来であるならば歴史への介入は危険極まりない行為だ。その選択で先の未来、現代で世界が崩壊しかねない行為。リンネ再封印どころの話ではなくなってしまう。

 それでも二人はその行為をやめることはしなかった。世界を救う使命と過去を塗り替えるエゴを両天秤にかけたとき、いつでもその答えは釣り合っていたのだから。

 そうして塗り替えて、紡がれていった縁により、今現在二人はこうしてマグメルにあるユキの部屋で共に眠っているのだ。

 ルゥの身長とほぼほぼ一緒。おまけに全体的に線も細くてスレンダー。童顔もあってか実年齢より低く見られてしまうこともしばしば。

 右わけの無造作ミディアムヘアーでボリュームは少ない。いつだったか、『ロングヘアーだと戦闘で引っかかると命取りだし手入れがめんどい』と温泉に浸かりながら言っていた。

 元々、髪の色は黒で両目は濃いスカイブルーだったのだが、ルゥの心臓の半分を貰って蘇った影響なのか、全体がとても薄いグレーに変色し、そのグレーに合わせるかのような薄い黄色のメッシュが所々に入っており、右眼がルゥの瞳の色そのままに変わってしまった。

 ユキ自身最初は驚きはしたものの、新たな自分に生まれ変わったんだと思い直してこの変化を楽しんでいた。

 そんな彼女の、名前の通り雪のように白い肌にルゥはそっと触れる。ユキ曰く、『一度寝ちゃうと殺気を向けられない限り起きることはない』そうで、ヤドリギの近くで野営した時も、ルゥに起こされるまで熟睡するほどだ。

 ルゥが触れている箇所はユキの二の腕辺り。線は細いが無駄なく鍛えられた腕なのだと触るだけでわかる。

 そして心地よい体温も伝わってくる。この温もりがあったからこそ百年もの時間は苦ではなかった。辛いことなど一切なかった。

 その温もりの影響なのか、待ち焦がれた眠気がようやくルゥのところへとやって来てくれた。

「申し訳ございません……ユキ……」

 一応は謝ったたから大丈夫だろう。それにこんな事でユキは怒ったことはない。睡魔の求めるままに、ルゥはユキを抱き枕にしてもう一度夢の世界に没入するのだった。

 

「なあ。今朝の叫び声何だったんだよ?ヴァレンティンもビビってたぞ」

「え、そうなの?」

「ああ」

「いつの間にかルゥの抱き枕にされてね。それはいいんだけど、眼前にルゥの寝顔があったらビックリしちゃうよ」

「成程な。リンネに立ち向かったお前もルゥの寝顔にはビビるってか。いい事聞いたぜ」

「うっさい。それより準備運動終わったでしょ。始めようよノア」

「ああ。手加減はいるか?」

「本気じゃないと戦闘訓練にならないよ」

「だな」

 ユキとノアの姿がフッと消えると、一秒後にガキンッ!という金属音がマグメルの訓練場に響き渡る。

 歴戦の戦士であるノアの双剣を、ユキは片手剣で受け流しさばいていく。

 数分間、剣戟の音が訓練場に響き渡る。双剣は手数が多い分隙ができ難いがないわけではない。ユキはその隙を双剣の剣戟を受けながら躱しながら待っているのだが、その隙がまるで生じない。

「どうしたユキ!お前はそんなものじゃないだろ!」

 普通ならば聞き流すような挑発に、どうゆうわけだかユキは簡単に乗ってしまう。

 ユキの姿が霞のように消え失せ、気が付けばノアの真正面に姿を表すと右下から斬撃を繰り出す。術式アサルトダイブ。ユキの十八番であり必殺技だ。

 だが。

 その斬撃はノアを捉えることはなかった。

「ぐぅっ!」

「お前の癖なんざお見通しだ。何度も見てきたからな」

 逆にノアが放った背後からのアサルトダイブが、ユキにクリーンヒットした。これは単純。ユキのアサルトダイブをステップで躱し、躱し切った瞬間に双剣でのアサルトダイブを、ガラ空きのユキの背中に叩き込んだのだ。

 痛みを堪えつつノアに向かおうとしたときには、自らの喉元に双剣の切っ先がピタリと張り付いていたことを理解したユキは、愛剣である呪刀マサムネを虚空に溶かして素直に負けを認めた。

「また俺の勝ちだな」

「はぁ……まだまだ感覚と動作のズレが直らないよ」

「確かにな。それにあんな挑発に反応する辺り、全盛期のお前に戻るまでの道のりは長そうだ」

「その方が歩きがいがあっていいよ」

 刃引きされているとはいえ痛いものは痛いので、再生力を使って痛みを消す。そしてノアが差し出してくれた手を握り立ち上がり、自らも手を広げ、術式が刻まれたコインを現出させる。

「なんだそりゃ。ブースターか?」

「私専用リハビリ促進ブースターwithホリー・アストィリアス。大枠はイリスが作ってくれて、細かい部分はホリー先生が調整してくれたんだ。上手くいけばリハビリ短縮になるんじゃないかってノリノリで作ってくれたんだ~♪」

「逆に言えば、そのブースターなしじゃさっきみたいに戦えないってわけか。本当に道は長そうだな。ほれ、さっさと汗流してこい」

「うん。行ってくる」

 そのままスタコラとマグメル内にある温泉に向かって行ったユキを見届けたノアは、訓練場入り口付近でハラハラしつつ息を殺している人物に声をかける。

「言った通りだ。あいつなら温泉だ、ルゥ」

「いつから気が付いておられたのですか?」

「最初からだよ。行くならお前も行ってこい」

「……はい」

 ノアに促され、ルゥもユキの後を追って温泉に向かう。

 きっと適当な理由を作り出して一緒に温泉に浸かるはずだ。

「あ、いた」

「ん?イリスか。どうした?」

「さっきまでユキと訓練してたでしょ。ユキは?ブースターのデータ調べたいからさ」

「温泉だ。上がってきたら調べさせてもらえよ」

「うん。そうする。……ねぇ、ノア。最近のルゥってどう思う?」

「そうだな。まるでユキの母親みたいだな。だが、悪く言えばストーカーに近い」

「やっぱりノアもそう思ってるんだ」

「ここにいる全員が思ってることだろ」

 現代から遡ること百年前、ユキとルゥはリンネをその身に封じ込め世界を救った。ただ、その光景を目の当たりにしたゼノンは、リンネを吸血鬼と人間に分散して封じ込めるという可能性を思いつき、そこから百年の時間を費やして、すべての吸血鬼と人間を説得し、ユキとルゥにだけ押し付けていた封印の負担を軽減することで、二人は今ここにいる。

 だが、それから数日後、ルゥの様子がどこかおかしくなっていた。初めに気が付いたのはヤドヴィガで、雑貨屋にユキがやってくると数秒と経たずにルゥもやって来るということが毎回のようにあった。

 初めは大して気にならなかったヤドヴィガだったが、改めて二人の行動を観察すると、常に二人で行動しているように感じてくる。興が乗ってさらに観察を続けていく内に分かってきたことといえば、距離が離れていようとも、常にルゥの視界のどこかしらにユキが存在するように動いているという、下手をすれば犯罪ギリギリのような行動を取っていたことだ。

 ヤドヴィガがその結論に達するようになった頃には、マグメルで生活する吸血鬼や人間も多少なりの違和感を感じ取っていた頃合いで、ノアとヴァレンティンがイリスも交えて話を始めていたことを横目に見ながら愉悦に浸っていた。

「おそらくだが、ルゥはユキの死を恐れているのかもしれないね」

「目の前からいなくなるってことが怖いってことか」

 そのヴァレンティンは自分なりの考えを、訓練内容とユキの経過報告を伝えにやって来たノアとイリスに伝えた。

「だがユキがそう簡単に死ぬようなヤツには思えないぞ。それが今更怖いと感じるのか?」

「ノア。一つ重要なことを忘れているよ」

「あ、そっか。ユキは吸血鬼じゃない。人間だ」

「そう。イリスの言う通り、ユキは人間だ。我々吸血鬼とは絶対的な寿命という隔たりが存在する」

「成程な」

「あたしたちにとっては百年ってちょっと前って感覚だもんね」

「リンネを封印していた間、時間そのものまでも停止していた。だからこそユキはあの姿のままでいられた。まるで我々吸血鬼のようにね」

「でも、吸血鬼と人間っていう種族の違いってヤツに気が付いて、ああなっちまったってことか……ん?ヴァレンティン、ちょっといいか?」

「なんだいノア」

「ユキはどうして生きているんだ?」

「え?ノアどういうこと?」

「あいつは元々ルゥの心臓の半分を与えられて蘇った。だが今のあいつは心臓なんてものはない状態だ」

「あ!確かに!ユキはルゥに心臓を返しているんだった!」

 そう。あの瞬間、心臓を返して元に戻すことで封印が成功したのだ。

 正確にいえば、人間の因子が混ざった吸血鬼の心臓だったからなのだが、確かにユキは元の持ち主であるルゥに心臓を返した。

 医学的に考えれば、人間は心臓がなければ生きることは不可能だ。確実に死ぬ。だが、その心臓がないにも関わらずユキは生きている。

「ヴァレンティン。今のユキは人間なのか?それとも吸血鬼なのか?」

「定期健診という名目で、ホリーやゼノンに調べさせた結果は『人間』だそうだ。術式まで使用した精密検査での結果だ。僕もその検査結果に目を通したし、僕自身でも検査したが『人間』であることに間違いはない」

「『人間』だけど心臓もなく生きているって……どういうことよそれ……」

「ゼノンが今も嬉々として研究をしている最中でね。今はその結果を待つしかない」

「じゃあ、ユキは今も最初に出会ったときと変わらないユキってことだな。人間だろうと吸血鬼だろうと関係ない。またこうして親友と話すことができる世界を守った『ユキ』ってだけの話だ」

「確かにそれでいいかもしれないけど、それでルゥの悩みは解決しないわよ。『人間』である以上、どうしたってユキは先に逝くのよ?」

「ならば英雄の力を借りよう」

 ヴァレンティンは二人に見えるように、机の上に四通の手紙を出してきた。どの封筒も開封済みで中身は既に読まれた後のようだ。

「昨日届いてね。宛名は僕だが、内容はどれも僕からユキに伝えてほしいという『いつもの』内容だったよ」

「確かにこんな時だからこその英雄か」

「ユキってば大人気だもんねー」

 

「~♪~~♪~~~♪」

 ユキはご機嫌に鼻歌を歌いながら温泉を堪能していた。

 眼前に広がる景色は、今も百年前も欠片も変わることのない景色だ。

 この景色を守るために闘ってきたのだと、リラックスしすぎて寝落ちしかけるも、入ってきた二人のお陰で溺れずにすんだ。

「ユキ姉ちゃん!一緒に入っていいか!?」

「ユキお姉ちゃん、ダメ?」

「いいよ~。でもちゃんと身体とか洗ってからだよ~」

「「は~い!!」」

 ここマグメルで保護されたヤンチャな男の子と少し大人しい女の子の二人だ。元々ルゥになついていた二人だったが、ルゥと行動を共にする機会が増えていく内に交流の機会が自然と増えてゆき、「お姉ちゃん」と呼ばれるまでになった。

「オレユキ姉ちゃんの右!」

「わたしは左!」

「飛び込んじゃだめだよ~ゆっくりね~」

「「は~い!」」

 はふ~、という声が両隣から聞こえてきて腕に体重がかかるのが分かる。子供に寄りかかられたくらいでどうにかなる吸血鬼ハンターではない。

「そういえばさ、二人の夢が私みたいな吸血鬼ハンターになることだ~ってヤドヴィガさんから聞いたけど本当なの?」

「うん!」

「オレもユキ姉ちゃんみたいなハンターになるんだ!」

「そっか。それじゃあ二人は未来の後輩だね~頼もしい後輩だ~」

 現役ハンターから後輩と言われた二人は、とても嬉しそうに笑いはしゃいでいる。

 実は現在、この『吸血鬼ハンター』という呼び名を変更したらどうかという声が多く寄せられているとヴァレンティンから聞いている。

 リンネという脅威を、吸血鬼と人間が協力することによって解決をした今、吸血鬼が~だの人間が~だのという考えも消え去っていった。

 それでも小競り合いや護衛などの任務が存在している。どうしても危険だという場合にはハンターが動いてくれるのだが、どうにも『吸血鬼ハンター』という名は、この時代ではそぐわないのだ。

 きっとこの子たちは『吸血鬼ハンター』ではなく、その新たな名前の後輩になっていくのだなと考えていると、誰かもう一人入ってくる。

 振り返らずとも気配だけでわかる。

「ご一緒してもよろしいですか?」

「私たちの仲なんだよ?一々聞く必要ないでしょ、ルゥ」

 すでに身体も洗い終わったルゥは、子供たちの邪魔にならないように、ユキの近くで温泉に浸かった。

「あれ?ユキ姉ちゃんノドに傷があるぜ?」

「わー本当だ。しかも金色だー」

 子供の言葉にルゥの身体が縮こまる。丁度ユキの首、喉仏にあたる部分に金継ぎの縫い傷が刻み込まれているのだ。

「これ?もう二度と同じ傷が出来ないように気を付けるために、ラヴィニア様にお願いして目立つように金色にしてもらったの。戒めみたいなものかな?」

 おぉ~という子供たち。

 でもルゥは知っている。その金継ぎの傷を常に襟のある服装で隠していることを。実はこの傷がユキの致命傷で、この傷を見るたびに死んだ時の恐怖が蘇るのだそうだ。

 今でこそ、こうして子供たちに冗談交じりに話すまでに精神は回復したが、それでも大きな襟の服装を好んで着ているのは、そういうことなのだろう。

 子供たちとはしゃぎながら温泉に浸かっていたためか、いつもよりも早く身体が温まる。これ以上はのぼせてしまうため、ユキは子供たちと温泉から上がって子供たちの身体を拭くのを手伝い、ドライヤーで髪を乾かしてやる。

 自分の髪の手入れは雑なのに、他人の髪の手入れはちゃんとするのはユキの『自分のことは後回し』という性格の現れなのだろう。

 そんなこんなで服に着換え浴場から出た時だった。

 目の前にラヴィニアがいたのは。

 

「手紙ですか?私に?」

「ええ。読んでみれば分かります」

「でも宛名ヴァレンティンですけど……?」

「とにかく読んでみて下さい」

 ラヴィニアに促され手紙を読んでいくユキ。

 

『拝啓、ヴァレンティン。こちらの復興は順調に進んでいる。進んでいるのだが、何分人手不足で困っている。出来れば人員を派遣してくれるとありがたい。それに我が許婚どのの体調が気になっている。無理にとは言わないが、それとなく会いたがっていると伝えてほしい。それではまた。 ジョゼ・アンジュ―』

 

『ヴァレンティン殿に報告しておきたいことがあるので、こうして筆を執ることにした。この手紙がヴァレンティン殿に届いてから数日後、黎明の旅団の入団試験を執り行うこととなった。そこで、旅団の一員であるユキにも入団試験に立ち会ってもらいたい。彼女ならば信用できる。どうか一考して欲しい。 黎明の旅団団長 クレイグ・マクリーシュ』

 

『お久しぶりです。そろそろユキちゃんの定期健診の時期です。本来ならば私が向かえばいいのですが、診療所での治療が忙しいため、申し訳ないのですが、ユキちゃんに診療所にまで来てほしいと伝えてください。どうかよろしくお願いいたします。 ホリー・アストゥリアス』

 

『久しいな我が友人よ。いや、ここは友人たち言うべきかな。実はこのゼノン・グリフゴート、新たなる研究のインスピレーションが突如として湧きだしたのだ!そこで、我が友人の一人、ユキにその研究に助力してほしいのだ。ユキの発言から別視点の思考が加わり新たなる可能性が見えてくるからだ!監獄島にて待つことにする。我が友人たちよ。 ゼノン・グリフゴート』

 

「つまり私に来てほしい。と?」

「ええ。貴方の体調のこともあります。無理にとはいいませんが、いかがでしょうか?」

「わかりました。久しぶりにみんなに会ってきます。早速、ヤドリギで……」

「そのことで報告があるんだ、ユキ」

「報告?なんなのヴァレンティン?」

「実は各地のヤドリギの繋がりが不安定でね。ノアと確認したのだが、目的のヤドリギへと移動することが出来なくなっている」

「え、本当に?」

 ヤドリギとは、吸血鬼や吸血鬼ハンターにとって重要な場所で、一度でも触れたヤドリギへ瞬時に移動することの出来る。おまけに安全な場所にしか存在しないため、野営場所の目印にもなる。

 だがこのヤドリギにも謎が多く、何故そんなことができるのかが未だに解明されておらず、「とても便利なモノ」という認識でしかない。(ちなみにゼノンも研究している)

「原因って分かって……いたらゼノンが真っ先に知らせてくれそうだね。ミュージカル風に」

「ゼノンの見解によれば、リンネ封印による影響ではないか。という見解を示しているが詳しくは分からない」

「ですので、現在はヤドリギでの移動は危険を伴います」

「なるほど……この事は皆さんに共有……してますよね。ゼノンが研究してるし」

「そういうわけだ。移動するときには徒歩かバイクってことになるな」

「でもその不便さが今は面白そう。それじゃ早速荷造りしよっと」

「それともう一つ、貴方にお願いがあります」

「なんですか?」

「ルゥも同行させてくださいませんか?」

「ラヴィニア、さま?」

 ユキの後ろで話を聞いていたルゥは、自分の名前が呼ばれたことに惚けながら驚いた。

なぜ、じぶんの、なまえが?

「言われなくてもそのつもりですよ」

「ユキ……?」

「だって最近、ルゥってば何か元気なさそうだったから。気晴らしに何がいいかな~って考えてたんだけど、ちょっとした旅行みたいで楽しそうでしょ?どうかなルゥ?ルゥが嫌なr」

「行きます!荷造りしてきます!」

「というわけなので!一緒に荷造りしてきまーす!」

 ドタバタと部屋に戻る二人を見送ると、思わずノアが笑い出す。

「何だかんだ、一番よく見ていやがったな」

「そりゃそうでしょ。ルゥをよく見てるのはバディのユキなんだからさ。あたしはバイクの整備でもするかな」

「随分と面白いことになったようだな」

「ヤドヴィガ?」

「旅にはなにかと入り用だからな。店に金が落ちるいい機会だ。せいぜい稼がせてもらうとしよう」

 それだけ言ってヤドヴィガは身体を霧散させると、マグメルの雑貨店へと移動して二人が来ることを待つことにした。

「この旅の行く末に、各々の答えが見つかることを願いましょう……」

「そうですね、母上」

 

「健康状態よし、荷物よし、バイクよし、その他諸々よし、天候も晴れ!全て完璧!絶好の旅立ち日和ってやつだね、ルゥ!」

「そうですね、ユキさん」

 翌日、マグメル島と水没都市を繋ぐ海上大橋の前で最終確認をするユキとルゥの姿があった。

 ヤドリギでの移動が危険な今、手紙の差出人の元へ向かうには、時間がかかるが徒歩やバイクでの移動。それに野営もしなければならない。

 だが今はそれが楽しみで仕方がない。

 これからの旅は英雄を討伐する旅ではない。二人で歴史を塗り替えた先にある、誰も知らない旅が始まるのだから。

「よし。それじゃまずはジョゼのところだね。ほらルゥ、私の後ろに乗った乗った」

「はい」

 すでにバイクに跨ったユキに促され、ルゥはバイクの後ろに跨って、ユキの腰に腕を回してしっかりと捕まる。

「なんだか感慨だな~この橋は歴史改変の結果水没都市に繋がった橋。このバイクだって時を越えて私たちの元へ贈ってくれた。旅の始まりには最高だね!」

「そうですね。向かいましょう。ジョゼさんの拠点に」

「うん!アクセル全開でぶっ飛ばすよ~!」

 バイクのエンジンをフルスロットルで吹かすと、ドンっ!という音と共にバイクが勢い良く発進する。

 本当に最初のころ、ルゥは急加速に驚いていたが、今は慣れてしまい、バイクが走り景色が風のように流れていく光景を楽しむ余裕まで生まれている。

「風が気持ちいいですねユキさん!」

「そうだね!よ~し!思い切り楽しんでいこ~!」

「はい!」

 こうしてユキとルゥの旅が始まった。

 一方は世界を楽しむ旅を。

 一方は悩みの答えを探す旅を。

 

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