CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路   作:ミヤビコウ

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注意!
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただけたなら幸いです


『次』のために

「さすがにむちゃしすぎた……」

「ユキちゃん、今日は絶対に安静しなきゃ駄目よ」

「そうします。起き上がるのもだるくてだるくて……」

 モニカとの再会を果たしたその日、結局ユキは見事にぶっ倒れた。

 原因は、侵食現象を誘発する為にリハビリブースターを取り出したこと、リコリスという情念で構成された吸血鬼を長時間憑依させていたこと、ギリギリまで侵食現象を長引かせようと頑張りすぎたこと。

 現在は処置室のベッドに寝てホリーの術式治療を受けている最中だ。でも、名誉の負傷だと思えばなんてことはない。

「ホリー先生、私の治療って長引きそう?」

「そうね。延長決定かしら」

「ぐぇ。ルゥに怒られる」

「そうでもないわ。実は二人のリハビリブースター今までのデータが集まったお陰で、より効果の高いリハビリブースターが開発出来そうなの」

「本当に!?いつぐらいに出来そう?今日中とか?」

「そうね……お昼までには完成すると思うわ」

「いくらなんでも速くない?」

「元々研究は進めていたの。あとは、追加のデータさえあれば、術式をすぐにでも構築できるわ」

「マグメルでやたらデータよこせデータよこせってイリスが言ってたのってそういうことか……ホリー先生、再生力使ってもいい?」

「今日は止めておいた方がいいわ。ユキちゃんとルゥちゃんが考えてくれた方法が、どんな影響を身体に及ぼしているのか分からない。だから今日はユキちゃんの身体に負担のかからない治療をする。リハビリブースターも、身体の回復度合を見ながら取り付ける。いいわね?」

「お願いします。ん。少し楽になった」

 ぐっぱぐっぱとユキは手を閉じたり開いたりして、自分の身体の調子を確かめる。絶対にルゥに『上官殿?』と言われかねない……

「そういえばさ、スタッフさんから聞いたんだけど、遊園地の修理を計画してるんだよね」

「そうなの。あそこが修理されれば、治療以外の目的で屍人の森に人が来てくれる。なにより、孤児院の子供たちの楽しみになって欲しいの」

「遠足みたいな感じ?」

「そうよ。それに、遊園地付近には大きめの村があるから、そこも修復して新たな居住地に出来ないかってジョゼと話し合っているの」

「けど、始まってるんだよね?」

「まずは動線の確保が最優先ね。資材をスムーズに運んだり、後々の移動も考えるとね」

 マグメルでも、チラホラとその様な話は聞く機会はあった。

 手伝おうか?と聞いたこともあるが、今は大丈夫だからとやんわり断れていた。

 リハビリブースターが外れるまで休んでいろ。これ以上働く気か。せいぜい散歩ぐらいにしておけ。雑貨屋に金を落としていけ。理由は様々だ。

 もう少し頼ってほしいな~と、ラヴィニアにこぼしたことがあったが、『貴方とルゥには、我々が一生かかってでも返しきれない大恩があります。皆がそれを少しずつ返したいのです』とも言われた。

 返してもらう必要なんてないですよ~とその時は言ったが、きっと、今まで会ってきた仲間たちが取り組んでいることこそ、返してもらっている恩の一部なのかもしれない……まだ会っていない『友人』はいるが。

 そう思うと身体が痒くなってしまうが、多少は我慢しなければ。

「あの、ユキさん」

「ルゥ、大丈夫だった?」

「貴方がそれを言いますか。ホリーさん、ユキさんの状態はどうなのですか?」

「命に別条はないけれど、絶対安静が条件。午後からリハビリブースターを使用してみて経過観察ね。最低でも二日よ」

「つまり、最低でも二日はいられるね。バイブス全開で身体を治しちゃお~!」

「ちょっとユキちゃん!!」

 

「ユキおねえさん!だいじょうぶ!?」

「しんじゃやだよー!!」

「ホリーせんせい!カミロせんせい!ユキおねえさんをたすけて!!」

 午後、新型リハビリブースターが完成したタイミングで、孤児院の子供たちが療養所に殺到。理由は朝からユキとルゥの姿がなかったことや、ホリーやカミロがなかなか来なかったことだ。

「大丈夫よ。みんな心配しないで」

「平気だよ~リハビリブースターが馴染めば、すぐに治るってホリー先生が言ってたから」

「では始めるわ。ルゥちゃん、念の為にユキちゃんを押さえて」

「はい」

 ベッドにうつ伏せになっているユキの腰のあたりに跨って、両肩に手を置いて押し付ける。

 今までのブースターより強力なブースター。しかもこれが初めての使用。本来ならば時間をかけて検証しなければならないが、まずはユキの体調を戻して子供たちを安心させなければ。

 術式を構築して一枚のコインを生み出すと、そのままユキの疑似心臓に吸収させる。

「っんぅ!!」

「「「ユキおねえさん!!」」」

「耐えてください、ユキさん!!」

「ぐっ!うぅっ!」

 苦しむユキを見た子供たちが、それ以上に不安な表情を浮かべる。

 もうこんな負担がかかるようなことは絶対にしない。子供にあんな顔させてしまうなんて本当に愚か者だ。医師の言うことはちゃんと聞かなくては。

 そして、新型リハビリブースターが完全に吸収されて働き始める。骨、神経、血管、筋肉、臓器、治さなくてはならない箇所が痛みだす。いい加減にしろ。これ以上は死ぬ。子供を泣かせるようなマネをするなと怒られているようだ。

 なるべく呻き声を出さないようにしているが、それでも無意識にシーツを握りしめたり、枕に顔を埋めたり、たまにやって来るズキンッ!とした強烈な痛みで身体が浮いてしまったりと、とにかく子供たちに不安を与えてしまうような反応のオンパレードだ。

 それでも。

「実はさ、私って注射嫌いでね?この前ルゥに笑われちゃったんだ~」

「そーなの?」

「おれ、ちゅうしゃでないたことないぞ!」

「そうなんだ。私よりカッコいいじゃん」

「ユキおねえさん、だいじょうぶ?」

「大丈夫。ホリー先生だっているんだよ?それに、ユキお姉ちゃんは強いんだぞ~注射は嫌いだけどね?」

 と、笑顔交じりで冗談を言いつつ、不安感を取り除いていく。

 そしてようやく全身を っていた痛みが消え、ホリーがユキの首で脈を数えながら、術式でブースターの確認をする。

「うん。ちゃんと問題なく起動してる。もう大丈夫よ。ただし、今日はバイオリンやピアノは弾いちゃダメ。いい?」

「は~い。ホリー先生に従いま~す。ルゥも心配かけちゃってごめんね?ユキお姉さん、完・全・復・活!」

「上官殿?」

「調子乗ってすみませんでしただから押す力弱くしてよユキお姉さん動けないから!!」

 

 カポーン……

「ふへぇぇぇぇぇ~~~気持ちがいいのぅ~~~」

「それは何よりですが、今後は厳しく監視するようにします」

「いや監視って……」

「……ふふっ」

「え?本気?」

「私を本気にさせないような行動を心得てくだされば結構です」

 新型リハビリブースターをさらに身体に馴染ませるため、ユキは薬湯に浸かっている。そんなユキの隣で、座って足だけを薬湯に浸けて軽く動かしてパシャパシャと音を立てるルゥ。

 もしかしたら孤児院の子供たちの影響なのかなと思いつつ、自分でもリハビリブースターの効果を確認する。

 本当によく馴染んでいる。今までのリハビリブースターも良かったが、今の方がより身体の回復が早いことが分かる。完全回復まで無茶をしなければ、リンネ封印前の最盛期にまで戻ることが出来るだろう。

「そういえば、リコリスさんはどうなったのでしょうか?」

「孤児院にいると思う。リコリスが言ってたでしょ。ここと孤児院が情念の中心地って。そう考えると、一時的に存在が希薄になったリコリスは、その存在を元に戻すために孤児院にって」

「なるほど……」

「確認するなら孤児院に行けば分かるよ。よし、じゃあ早速確認しに行こっか」

「上官殿?もう一度子供たちを泣かせるおつもりですか?」

「肩まで浸かって百まで数えます……」

 いーち、にーい、さーん、と、ルゥや療養所にいるホリーや子供たちに聞こえるように声を出して数えるユキ。

 こんな大声を出せる元気があるから安心して。

 ちゃんと言いつけ守っているよ。

 だから泣かないでね。

 ちゃんと晩ご飯は一緒に食べるから。

 きっと、そんな意味を込めて伝えているのだろう。

 伝える。そう、ユキはホリーとカミロにモニカの想いを、本当に命をかけて伝える架け橋となった。

 想いを伝える。いつか自分も、この想いをユキに面と向かって伝えることが出来るのだろうか。

 ズキン、と胸が痛む。これが愛する人に隠し事をする痛みなのだろうか。

 この痛みが消えるときは、一言ユキに『愛しています』と言ってしまえばいい。一刻も早く伝えて楽になりたい。

 

 ズキン。ズキン。ズキン。

 

 まただ。痛い。

 考えるだけで痛い。

 最近はこの痛みが増している。

 自分が一方的に楽になりたいから?

 相手の気持ちも考えないで、ただ一方的に?

 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。

 

―――ゥ?

ズキン。ズキン。ズキン。ズキン。

 

―――ルゥ?

ズキン。ズキン。ズキン。ズキン。ズキン。

 

―――ルゥ?

「ルゥってば?どうしたの?」

「え?どうかなさいましたか?」

「もう百まで数え終わったよ。どうしたの?さっきから声かけ続けてたけど。考えごと?」

「えっと、その、どうしたらユキさんが無茶をしないか考えていました」

 ユキを心配させないように笑顔で答えるルゥだったが、慣れないことはしない方がいいと痛感した。

 今までで一番の激痛を心に刻み込んでしまったのだから。

 

「今度こそ!ユキお姉さん、完・全・復・活!」

「「「わーい!」」」

「いや~心配かけてごめんね~!」

「この後ホリーさんもいらっしゃます。晩ご飯は皆でいただきましょう」

「「「はーい!!」」」

「あ、でも一旦部屋戻るね。バイオリン持ってくるから!」

 やったー!、バイオリンだー!、ホリーせんせいもいっしょ!、という声を聞きながら、ユキとルゥは部屋に戻ると、机の上に何かが置いてあることに気付く。

 何かが書かれた紙と、その紙の上に添えられた青いリコリス。

 顔を見合わせた二人は、急いで紙の内容を確認する。

 

『これの理由は分かるな?ホリーとカミロに伝えるかはお前たちに任せる。 リコリス』

 

「リコリスらしいね」

「どうしましょうか?」

「伝えるよ。ホリー先生とカミロ先生に安心してほしいからね。さて、早速バイオリンバイオリンっと」

 その日の晩、孤児院にやって来たホリーに、リコリスからの手紙を渡す。

 目を見開いたホリーは、涙ぐみながら短くも大きな想いの籠った手紙を、大事に大事に読む。母の言葉は本当だった。いつでも傍にいてくれるのだと。

 これ以上泣いてしまうと、子供たちに心配されてしまうし、モニカも『これぐらいで一々泣くな』と言われてしまいそうでホリーは我慢した。

 子供たちの前では大人のホリーお姉さんでいなければ。

「ありがとう。ユキちゃん。ルゥちゃん」

「大したことはしてないよ。それにさ、こうして手紙が置いてあったってことは、ホリー先生とカミロ先生も、リコリスと同じように、この部屋に手紙を置いておけば文通できるんじゃないかな?」

「確かにそうですね。試してみませんか?ホリーさん」

「ええ。挑戦してみるわ。そうよ、人生はいつだって挑戦だものね。だったら早速」

 ホリーはその部屋に置いてあった紙の一枚つまむと、手紙の返事をサラサラと書いてモニカの手紙が置いてあった机に置いた。内容はとても簡単。成功していれば、また返事が返ってくるはずだ。

「それじゃあ、子供たちのところに行きましょう」

「みんなお腹を空かせて待っていますしね」

「私もお腹空いた~」

 

「あの、ホリーさん」

「どうしたのルゥちゃん?」

「まだユキさんが演奏してくれることは理解できます。ですが、なぜ私も一緒に踊らなければならないのですか!?」

「実は最近、視聴者の人からのコメントで、コラボ動画を見たいというリクエストがあったの。子供たちやスタッフの方たちとの動画はあるのだけれど、この手の動画はないから」

「ですが!私にはダンスの経験はありません!」

「大丈夫よ。私も最初はおぼつかなかったけれど問題はないわ。私がリードするから」

「ルゥ~諦めた方がいいよ~あと数秒で始まるから」

 夕食の後、ホリーによるライブ動画の配信があることを知ったユキとルゥは、急遽コラボが決定し、参加することになった。

 この動画配信は、患者さんとの話題作りとしてホリーが始めたことがキッカケで、今のホリーは人気配信者でもある。だが、ホリーは医師であるため不測の事態に備える場合が多いし、孤児院のことだってあって、こうしたライブ配信は滅多にお目にかかれないレアなコンテンツにまでなっているのだ。

 孤児院の子供たちにも盛況で、先程にも紹介したように子供たちにも参加してもらっていることもある。

「青春リスタート! バイブス全開のホリーお姉さんです! 今日のライブ配信を見に来てくれてありがとう!」

 

『キタ―――!!!』

『お姉さ―――ん!!!』

『せんせ―――い!!!』

『待ってました!』

 

 ちなみに、コメントはリアルタイムで見ることが出来るので、視聴者もホリーと会話出来る。

 

「実はね、今日はホリーお姉さんのお友だちが来てくれましたー!!さぁ、バイブス全開で自己紹介お願いね!」

「あ、えぇと、その、ルゥ・マグメルと申します。よろしくお願い致します……///」

 

『うおおお!』

『かわいいーーー!!!』

『照れてる顔がグッとくる!!』

『真面目ちゃんっぽい』

 

「そして、もう一人のお友だちも紹介しちゃうわね!」

「こーんばーんわー!!ユキっていいまーす!バイブス全開で盛り上がるぜぃ!!」

 

『元気っ子だ!!』

『ホリーお姉さんの人脈パネェ……!』

『それよかコラボだ―――!!!』

 

「そうなの!以前からコラボのリクエストが寄せられていたのだけれど、今日はそのリクエストに応えてみんなを楽しませようと思いまーす!」

「音楽はこの私、ユキが担当するよ~!そ・し・て!なんとホリーお姉さんとルゥちゃんのスペシャルな社交ダンスを披露するのだ~!」

 

『マ!?』

『うおおおおお!!!』

『目が離せない!!』

『美しいと可愛いの融合。ごめん。ちょっと逝ってくる!』

『盛り上がって参りました!!!』

 

「あ、あの、私、本当にダンスは経験がありません……!」

「大丈夫!挑戦あるのみ!踊っているうちに慣れちゃうわよ!それでは、今日も大人のYOLOチャレンジを全力で楽しもう!Music start!」

 

 ユキが奏で始めた曲は、情熱的でテンポも緩急も激しめのもの。本来ならば相応のテクニックを要求されるが、曲の流れを掴んでしまえば何とか踊れてしまう。それにホリーがリードしてくれるので、ルゥのぎこちないステップでもそれっぽく見える。

 ただ、その中心にいるルゥは半分パニック状態だ。とにかくホリーに迷惑をかけまいと必死にステップを踏む。途中、ホリーと組んで踊る時耳元で次はこうするからね、という指示が囁かれる。それがなければどうすればいいのか頭が真っ白になる。

 

♪~!♪~!♪~!♪~!♪~!♪~!

 

 だいぶ慣れてきたルゥを見たユキは、曲のアクセントに床を手拍子のように足で踏み鳴らす。それをしばらく聞いていた子供たちが、その足踏みに合わせて手拍子での飛び入り参加をしてくれた。

 ここまでくると、あとは勝手に盛り上がる。

 演者も、視聴者も、暗い雰囲気など吹き飛ばしてしまうような笑顔の花が咲き誇る。本当だったらもう少し楽しんでいたいところだが、ホリーがこっちに目配せをする。

 動画の切り時を考えれば、確かにここらが潮時だ。ユキも子供たちに同じ視線で合図を出す。みんながコクリと頷いた。最初にここに来た時には警戒されていたのが懐かしい。

 

~~~~♪!!

 

『感・動・です!!!』

『サイコォォォォォォォォ!!!』

『生きててよかったぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『リアタイできてよかったああああああああ!!!』

『ダンスもだけど曲をいい!』

『ルゥちゃんかわいいいいい!!』

『みんな上手だったよ!!!』

『思い残すことは……ある!!またコラボして―――!!!』

『次のコラボを全力待機!!!』

 

 引っ切り無しに流れてくるコメントの嵐。なんとかユキが見ることの出来たコメントはこんな感じだがもっとある。

 こんなにも楽しんでくれている人々が大勢いる。つまり、それだけ多くの『命』が救われ、力強く生きている証拠でもある。

 この配信の熱量が、誰かにとっての生きる活力の原動力になっているのだと思うと、ホリーがこうして配信を続けている理由も分かる気がする。

「みんなありがとー!ユキちゃんもルゥちゃんもありがとう!ホリーお姉さん嬉しくなっちゃった!」

「それは、よかった、です。ついていくことに、必死で……」

「いやー私も思いっきり弾けて面白かったよー!みんなも手拍子ありがとね」

「うん!」

「おもしろかった!」

「たのしかったよ!おねえさん!」

 

『やばい。尊すぎて泣ける……』

『枯れ果てたと思ってた涙腺から再び水が……』

『幸せってこんな目の前にあったんだ……』

 

「あ、そうだ。ホリー先生、次の定期健診の時にまた配信しようよ!今度は別の楽器を演奏するから、歌とダンスで盛り上げない?ルゥも一緒に!」

「素敵ね!ぜひそうしましょう!」

「も、もう決定事項なのですか!?」

「「決定事項です!」」

 

『やったあああああああ!!!』

『次のライブ配信、楽しみにしてます!!』

『友達と一緒に見ます!!!』

『これは見逃せない!!!』

 

「じゃあ、ユキちゃんとルゥちゃんの健診の時に予告動画を配信するので、それまで楽しみにしててね。もちろん、ホリーお姉さんの動画も配信していくから。わかった?」

 

『『『『『はーい!!!!!』』』』』

 

「それでは今日はここまで!お相手はホリーお姉さんと!」

「ユキと!」

「ル、ルゥ・マグメルと……///」

「特別参加してくれた子供たちでお送りしました!次のYOLOチャレンジで会いましょう!またねー!!」

 配信終了のボタンを押したことを確認すると、ユキたちは肩の力を抜いて緊張をほぐした。ユキは性格が性格なので問題はなかったが、ルゥにはそういったことに対する免疫がないため、全身が真っ赤になって恥ずか死ぬ寸前だった。

「あ、あのホリーさんユキさん私変ではありませんでしたか大丈夫でしたかうまくできましたか不安で不安でしかたがないのですがあれでよろしかったのでしょうか!!」

 若干、ルゥの目がグルグルしているようにも見えるが気のせいだろう。絶対にこの後抱き枕の刑ver.強が待っている。甘んじて受けるしか……

「子供たちを寝かせましょう。神経が昂っているはずですから、リラックスできる曲を大至急お願い致しますね『じょ・う・か・ん・ど・の?』」

 明日の朝、全身複雑骨折は覚悟しておかないと。今のうちにホリー先生とカミロ先生に治療の予約をしておいた方がよさそうだ……

 

「ユキおねえさん、いっちやだぁ!」

「ルゥおねえさんもっといてよ!」

「ずっとここでくらそうよ!」

 二日後、次の目的地への出立が整ったユキとルゥは、見事に子供たちからの引き留めコールの嵐に捕まってしまい、バイクのエンジンは点火しているが、アクセルを使うことができない状態なのだ。

 この状況で子供たちを納得させられる言葉が見つからない。今こっちにホリーとカミロがやって来ているが、その二人でも説得できるかどうか……

「お前ら、少し落ち着け」

「え?」

「きみ、だれ?」

「あ!あたしをたすけてくれたおんなのこ!」

「おれもたすけられた!」

「どうしているの?」

 なんと子供たちの後ろにリコリスがいたのだ。

「リコリス!今までどうしてたの?」

「そこらにいたぞ。手紙も見ただろう。ただ顕現するまでに時間がかかったがな。お前たち、言いたいことは分かる。別れたくない気持ちも分かる。だが、これが永遠の別れになるわけではない」

 子供たちの目を見ながら、リコリスは優しく語りかける。

「この二人は今日からしばらくいなくなる。」

「うぅ……」

「『しばらく』だ。永遠ではない。それにこの二人は一、二ヶ月周期で健診に来る。それまでの辛抱だと思え。そして、その間に二人が来たらどうやって歓迎してやろうかと考えるんだ。きっと楽しいぞ」

「ほんとうに……?」

「何を食べてもらおうか、何をして遊ぼうか、何を演奏してもらおうか、何を教えてもらおうか。ほらな。いくらでも考えられるだろ。楽しいと思わないか?」

 リコリスの言葉はしっかりと伝わった。

 別れではない。次に会うための準備期間。少しだけ悲しくはあるが、それは再会の時に目一杯楽しむための隠し味なのだ。

 だから、ちゃんと次に会うために送り出さないといけない。

「ホリーとカミロが来るな。また来いよ。ユキ、ルゥ。そしてお前たちもな。また遊びに来てやる」

「あ、あなたのおなまえは?」

「リコリスだ」

 それだけ言うとリコリスはその場で霧散し消える。その代わりにホリーとカミロがやって来た。

「ごめんなさい。少し打ち合わせが長引いちゃって。みんな?どうかしたの?」

「さっきね、リコリスちゃんがいたの!」

「ユキおねえさんと、ルゥおねえさんが、またくるまで、たのしみにしろっていってた!」

「うん!」

「リコリス?あぁ、なるほど。モニカが来ていたんだね」

「ありがとう、お母さん。それと、これをルゥちゃんに」

「これは、ホリーさんの召喚術式」

「ええ。ユキちゃんだけだと不平等だし、何かあったら何時でも駆けつけるわ」

「でしたら私の召喚術式をぜひ受け取ってください。その、次のコラボ配信の相談もしたいですので」

「交換終わった?よし。それじゃあ……みんな!私とルゥがまたここに来るまでに、聞きたい曲とか決めておきなよ~?」

「また会いましょう。風邪を引かないように。元気でいてください」

「健診以外でも来てね?」

「ああ。僕もホリーも、リコリスも待っているよ」

「分かりました!それじゃあ、行ってきまーす!」

「「「いってらっしゃーい!!」」」

 子供たちの大きなお見送りの声に押し出されて、ユキはようやくバイクのアクセルを吹かせて走り出す。

 振り返れば、ホリーとカミロ、子供たちが手を振ってくれている。きっと姿が見えなくなるまでこうしてくれるだろう。

 

 

「次の方、どうぞ」

 療養所の診察室。ホリーの宝物がもう一つ増えた。

 笑顔で写る三人の家族写真が。

 

 

『見守ってくれてありがとう。お母さん ホリー』

『気にするな。ただ、頑張りすぎるなよ リコリス』

 

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