CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路 作:ミヤビコウ
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただけたなら幸いです
『やっほー!ユキだよー!定期健診の結果はもう届いてるよね。二人とも問題なし!!リハビリブースターもアップグレードしてくれたから、身体の回復も秒読みかもね!……無理するなってルゥから怒られるけど。ちょっとだけ寄り道したら監獄島で親愛なる友人に会ってきまーす!!それじゃあね!! ユキ ルゥ・マグメル』
「だとよ」
「というか、寄り道ってどこに?」
「寄り道が旅の醍醐味じゃないかな。しかし、ヤドリギでの移動が使えない今、監獄島へは船で行くしかないね」
「定期船なんてあったか?」
「あと数日で運搬用の船が出る。それまでに水没都市の港に到着できれば大丈夫さ」
「運搬って物質とか?」
「もう一つあるだろ。『監獄島』だぞ」
「あ、そっか。囚人か。え、囚人?」
「ユキだったら笑いながら乗るだろうな」
「~♪~~♪~~~♪」
「ユキさん機嫌がいいですね」
「まぁ~ね~♪昨日野営に使った廃墟で『コレ』見つけたからね~♪」
二人は今、バイクではなく徒歩で移動している。
なぜかと言われれば、そういう気分だからだ。
気候は晴天、全身で感じる風は心地よく、そのまま眠りにつきたいような気温で、時々、小鳥の囀りが聞こえてくる。
昔であれば、いつ襲われてもいいように気を張りながらの旅だったのが懐かしい。それでも多少の警戒はしているが。
実際、野営中に視線を感じることもしばしば。襲われたことはないが、襲ってこないのなら一々撃退する必要もないし、興味本位の野生動物の可能性だってある。
「ん~これぐらいなら大丈夫かな?」
「大丈夫、とは?」
「爪の長さ。爪の強度は問題ないからね。戦闘でも爪が割れたことないし。というかあの子を早く弾きたい!」
「ユキさん本当に楽しみにしていましたよね」
「ふっふっふ。メンテナンスは完璧。状態が良かったのは運がよかったな~」
ユキは背負っていたケースにしまわれていた『ギター』を取り出すと、自分の爪の強度とギターの音を確認するように軽く鳴らす。
~~~♪♪♪
「お~!いいねいいね~!バイオリンもピアノのいいけど、ギターもいいね~!」
「あの、本当に爪は大丈夫なのですか?」
「トップコート塗って爪の強度を上げたり、ピックっていう小っちゃい三角の形した道具使ったりもね~♪」
「なるほど……」
「ちょっと休憩しよ!そしてたっぷり可愛がりたい!」
「ユキさん、目が怖いです……」
歩いていた道に転がっていた丁度いい大きさの岩にユキは腰掛けて足を組むと、相変わらず楽しげにギターの演奏を始める。
~~~♪♪♪~♬♫♬~♪♪♪~♪♬♫~~~
軽快。それがルゥの思ったユキのギターの演奏だ。
この曲はバイオリンでもピアノでも聞いたことがある。だが、楽器が違うだけでここまで変わるものなのかと驚く。
考えてみると、どうしてユキはここまで多彩な楽器を手足のように扱えるのだろうか。バイオリンもピアノもギターもジャンルがまるで違う。
武器に置き換えて考えれば、ルゥが使え慣れない大槌を使うのと一緒だ。それなのにこうも器用に弾きこなせるものなのだろうか?
いつも気になるのは生前のユキのことだ。吸血鬼ハンターなことは確かだが、それ以前のユキは?どうして吸血鬼ハンターになった?
疑問は湧き上がるが、軽快なギターの音色で吹き飛ばされる。
そう。今は悩む時間ではない。
今は、楽しむ時間だ。
「楽しかった~!爪も大丈夫。でも一応ピックは欲しいかな~」
「相変わらず素敵な演奏ですね」
「だったらルゥも何か楽器覚えてみる?一緒に演奏したら楽しいよ!」
「私が、ですか?できるでしょう?」
「私だって素人だったよ。生前はだけどね。私が教えられる全てを教えるよ」
「……でしたら、バイオリンをお教え願いますか?」
「もちろん!!道中少しずつ教えるよ~!」
ということで、ユキのバイオリンレッスンがスタートした。
教え方の基本は、まずユキがやって見せて、ルゥがその後に続くようにやっていくというもの。
やって見せて、やらせたら褒めるべき箇所を褒めて、修正箇所にほんの少しアドバイスをするだけだ。楽しくなければ続かない。続けられない。
立ち方、バイオリンの構え方、弓の持ち方。そして音の出し方。
「お~いいね~!そんな感じそんな感じ!もう少し身体の力を抜くともっといいよ~!」
「こ、こうですか?」
「そ~!そ~!それでシフォンケーキを潰さないで切り分けるイメージで弓を引く!」
「シフォンケーキを……切り分ける……」
~♪
「でーきたー!!やったね!綺麗な音だよ!この調子ならバンバン上達すること間違いなし!このユキ先生が保証しよう!」
「ありがとうございます!」
ルゥが嬉しそうに笑う。
戦闘でのセンスがバイオリンの演奏でも生かされているのだろう。この分ならもしかしたら次回のホリーとのコラボ配信までに一通り演奏できるまでに上達するだろう。
ただし、毎日のようにレッスンする必要があるが、あの笑顔ならば苦にもならないだろう。というか、もう早速反復練習をしている。
~♪
~♪
「お~!!またできたじゃんか~!!ルゥにはバイオリンの才能があるって!!」
「そう、だと嬉しいです。絶対にユキさんに追いついてみせますね」
「ふっふっふ。ならば高みで待っているぞ我が弟子よ!!」
~♪
~♪
~♪
~♪~♪
コトコトコトコト。
「ルゥ、そっちのスープどんな感じ?」
「問題なしです。ユキさんは……言うまでもないですね」
「もっちろ~ん。ほい完成。タルタルフィッシュバーガー!近くの川で魚が釣れてよかったよ」
本日の宿は、かつて賑わっていたであろう村にあった廃屋の二階。その一階には台所が綺麗に残っていたので、本日の晩御飯は少しだけ手の込んだ料理にした。
というか、そろそろ消費期限が迫っている食材を食べてしまおうという魂胆も混じっているが。
食材は貴重だ。寄った場所で買い足していたが、たま~に手の込んだ料理が食べたくなる時がやって来るときがあるため、食材の消費計画を無視することもある。その度に現地調達や、ヤドヴィガの眷属から食材を買ったりして何とかしている……まぁそれなりにお金を払わなければいけないのだが。
ということで、本日はタルタルフィッシュバーガーと野菜ゴロゴロスープだ。しかもこのバーガーのバンズは、窯が無事だったので一から焼いたものだ。
んあっ。がぶり。もぐもぐもぐ。
「我ながら美味しいな~スープも優しい味だし最高~」
「お粗末さまです。はむっ」
「昔もこうやって料理したり食べたりしてたのかな」
「かもしれません。台所に使われてた形跡もありましたので、最近誰かが訪れた可能性もあります」
「それがまともな連中であることを願うね。あむっ」
悲しいかな、今も昔も犯罪行為はなくならない。
ヴァレンティンの話では、変異種の大幅減少に比例して野盗に山賊、盗賊に海賊などの犯罪者が増えているのだそうだ。理由としては、変異種に襲われるリスクが大幅に減少したから仕事という『犯罪行為』がしやすくなったのではないかという見解だ。
これ以上監獄島が賑わうようなことになって欲しくはないのだがね。とユキに愚痴をこぼしていた。
「そういえば、ユキさんは目的地があると言っていましたね。どちらに?」
「『黒』の終わりと始まりの場所かな」
「ユキさんは時々、言い回しが詩的になられますね」
「そっかな?あ、寝る前にバリケード作っとこう」
「そうですね。何があるか分かりませんし。適当な家具を使いましょう」※吸血鬼ハンター、吸血鬼は、一般の人間より筋力が凄まじいので、箪笥などの重たい家具の移動はお手の物。
翌日、ユキの目的地に向かってバイクを駆る。
昨晩はありがたいことに何事もなく、ユキの殺気センサーにも何の反応もなく快眠することができた。(無意識にユキを抱き枕にしていたルゥは、起きた時に思い切り赤面していたが)
ちなみに運転はユキだ。自分の我儘で寄る場所だからだと。そして、礼儀だからだと。
「着いた。ここ」
「ここは……統制局の居城」
「うん。行こっか」
石畳を進み階段を登ると、何本もの石柱が立つ広場が見えてくる。その場所にはためくのは統制局と吸血鬼ハンター協会の旗。
まさにここで、一つの決着が着いた場所だ。
百年前、誰よりも『人間』の未来のために戦った偉大な戦士。
辺境域統制局副長官にして吸血鬼ハンター協会の理事。アレッサンドロ・ゴッボー
ジョゼと共に戦い、戦士としての最期を見届けた場所。ゴッポーを『黒』に塗り潰した場所。
改変前の歴史において、ゴッボーもまた、ジョゼ、ライル、ホリー、ゼノンと並ぶ『英雄』に数えられる一人だ。
その功績も多岐に渡り、彼がいなければ改変前の現代において、統制局や吸血鬼ハンター協会の地位もなにもあったものではないだろう。
だがその旅路は、ジョゼ、ライル、ホリーの『鮮烈』な歴史を『黒』に塗り替えるきっかけを作った人物でもあった。
ジョゼの暴走事件を引き起こし、
ライルから黎明の旅団という家族を奪い、
ホリーに守るべき命を奪わせた。
ユキとルゥの時間遡行の力によって、それらの事件を覆したが、その影響はゴッボーの歴史も覆してしまい、改変後の現代では『黒』に塗り潰されてしまった。『あまりにも酷すぎる』と。だが、彼の世界を守護せねばならないという絶対的な意思は、形は変われど受け継がれていることは確かだ。
「よく考えることがある。ゴッボーも私たちも、スタートラインは同じだったんじゃないかって」
「スタートラインですか?」
「うん。でも、それぞれの人生って辿る道が違うでしょ。それで考え方にズレが出来る。仮に目的が同じでも、手段が変わるんだって。ほんのちょっと立ち止まって、お互いの考え方を話してすり合わせることができれば、もっといい手段で目的に辿り着くことができるんじゃないかって」
ゴッボーが懸念していたのは、人間が吸血鬼の家畜として飼われる世界。
餌として扱われ、骨と皮になるまで血を吸い尽くされ、用済みとなった屍の山。山。山。その地獄を幾度となく間近で見てきた。
だからこそ、世界を人間の手に取り戻すという考えの元、非情な行動に打って出たのだろう。吸血鬼という存在が、忌むべき存在なのだと世界に刻み込むために。
ゴッボーの側近、オスカーは『ゴッボーのお陰で人間として生きることができた』と言った。口ぶりから考えると、オスカーはかつて血奴だった可能性がある。それをゴッボーが解放してくれたのだろう。まるでライルとクレイグのようだ。道は同じ。でも考えは違う。ライルは家族のために、オスカー・フォン・ビューロウはゴッボーの理想のために剣を取り戦った。
そのオスカーだが、あの後のことは歴史の書物を調べると『最後までゴッボーの理想を追いかけ奮闘した』と書かれている。ジョゼにも聞いたが、何かにつけて因縁をつけては吸血鬼を討伐しようと躍起になっていたそうだ。時代が変わろうとも、それだけは曲げることが出来なかったようだ。次第に周囲の仲間も、一人、また一人と離れていき、結局は、辺境域統制局長官に就任したジョゼと副長官のリーズがその最期を看取ったそうだ。
最期までゴッボーのような瞳をしていた。と聞かされた。
ユキとルゥは、丁度ゴッボーが最期を迎えた位置で黙礼をして、道中で摘んだ花を置く。
ついでに、先方は嫌がるかもしれないが、これぐらいはさせてもらってもいいだろうと、バイオリンを取り出して鎮魂歌を奏でる。
~~~~~♪~~~~~♫~~~~~♬~~~~~♪~~~~~
その音色はとても優しく、それでいて魂を揺さぶり、黄泉の世界での安らぎを祈る。
死者に敵も味方も関係ない。ただあるのは鎮魂の祈りだけ。
~~~~~♪~~~~~♫~~~~~♬~~~~~♪~~~~~
バイオリンの音色は風に乗り、天まで運ばれる。どこまでも。どこまでも。
バイオリンでの演奏を終えると、今度はギターに持ち替えて鎮魂歌を奏でる。
~~♪♪♪~~♫♫♫~~♬♬♬~~♪♫♪♬~~
本当に鎮魂歌なのかと言わんばかりの楽し気な音色が響き渡る。まるで剣戟を音で再現しているような激しさだ。
この旅の途中、ルゥはユキに教えてもらったことを思い出す。
大事変の前、ある地域では、死者の魂が数日間だけ死後の世界から帰ってくると言い伝えられており、その時に帰って来た魂のため、家を飾り付けて盛大なパーティーを開くのだそうだ。
料理もさることながら、音楽だって奏でられる。多少の鎮魂の意味合いもあるのだが、一番は帰って来た魂と歌ったり踊ったりして一緒に楽しむためなのだと。
聞いた時には、死者を理由にして騒ぎたいだけなのではと返したが、故人を忘れず、共に過ごした日々に想いを馳せ、心の整理をしながら死者と楽しみ、私たちはもう大丈夫。悲しみを乗り越えたんだと教えているんだよ。という答えが返ってきた。
そして演奏は佳境に入り、激しくも楽しいという雰囲気のまま鎮魂歌は終わった。
「アレッサンドロ・ゴッボー。貴方の想いは形を変えたけど、脈々と受け継がれている。貴方の歩みを私は知っている。覚えている。もし、恨みつらみがあるのなら、その抱えている想いを手放して、空いたその手で今の私たちの世界を抱えて見てみてよ。すぐにとは言わないからさ。それじゃまたね」
「ユキさん。寄り道は終わりましたか?」
「うん。やっと一区切りついたって感じかな」
「一区切りですか?」
「う~ん、ケジメっていうのかな?ずっとモヤモヤしててさ」
「ですが、百年前のあの日に決着したのでは?」
「確かにそうだけど、『今』を見てほしいっていう思いがあってね。だから、一区切りかな」
「……」
区切りをつける大切さは知っているつもりだ。
でも、今の自分はどうだろうかとルゥは自問自答する。
区切りをつけるどころか、うじうじと引きずったままだ。
想いを伝えることの大切さを、ジョゼから、ライルから、ホリーから教えてもらった。
それが死者であろうとも伝えなければならないと、たった今ユキから教わった。
ジョゼからはこうも言われた。奪えるものなら奪ってみろと。
もう、ユキの行動や仕草に一喜一憂したくない。されたくない。
一時期は先の別れの辛さに気がついて絶望もした。でも違う。大切なのは、未来を怖がることではなく、『今』を最大限に生きること。
だから、『一歩』を踏み出さなければならない。
たとえ今の関係性が壊れてしまうことになったとしても、ちゃんと区切りをつけなければ、これ以上、前へは進めないのだから。
「ユキ、さん」
緊張する。
喉が渇く。
「私も寄り道したい場所が、あります」
視線を向けられない。
でも、頑張って真っ直ぐに見つめる。
「もちろんだよ。どこに寄り道する?」
「そ、の」
声が出せない。
でも、喉を無理矢理に動かして声を出す。
「心の重なり、に、です」