CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路 作:ミヤビコウ
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただけたなら幸いです
時間遡行の術式は、途轍もない集中力が必要となる。
そのためルゥは、術式を継続させるために、常にユキの精神世界に留まる必要があった。その場所こそが『心の重なり』。ヤドリギを介してでしかユキは心の重なりに入ることが出来ない。たった一人の例外を除いてだが。
旅の前、ヤドリギでの移動が不安定だと聞いたので、心の重なりに入れないのではないかという懸念があったが、全く問題はなかった。
「ここに来るのも久しぶりだね~」
「……はい。そして貴方が私を迎えに来てくれました」
「もちろんですとも。ルゥと一緒じゃなきゃ楽しくないもん」
言葉一つで心がかき乱される。
自然と顔が熱くなる。赤くなる。
「ところでさ、座らない?立ちっぱなしも何だしさ」
「……はい」
覚悟はした。
でも怖い。
「よいしょっと。思い出話でもする?」
「……ぁ、ぅ」
言葉が詰まる。
覚悟をしたはずなのに。
こうして面と向かっているだけで苦しくなる。
どんな言葉で伝えようか迷ってしまう。
たった一言だというのに。
怖い。
苦しい。
切ない。
覚悟をしたはずなのに。
想いを口から吐き出せない。
だから代わりに涙が頬を伝う。
「ちょっ!ルゥ!どうしたの!?」
「あ、ちが、これ、は、ちがっ」
もうダメだ。
溢れてしまった想いは止まらない。止められない。
むしろ、これ程に貯め込んでいた自分に驚く。
溢れる。
拭う。
溢れる。
拭う。
間に合わない。
間に合わない。
「本当にどうしたの?何か嫌なことでもあった?私に話して?」
嫌なこと?
それは、いつまでも言い出せない自分の心の弱さ。
話したいこと?
それは、心の底から貴方を慕っているということ。
「あ、あ、ぅ、グスッ、うあぁ…、う、うぅ…」
「大丈夫だよ。私はここにいるよ。落ち着いて。泣くまで我慢しちゃうだなんて、察してあげられなくて、ゴメンね?」
違う。
違う。
違う。
貴方が謝る必要なんて、どこにもない。
貴方に謝らせてしまって、ごめんなさい。
貴方にそんな表情をしてほしくない。
だから、
だから……!
「……すき、です」
「わたしは、あなたのことが、すきです」
「あなたを、あいして、います」
「ひとりの、じょせいとして、おしたいしています」
「すき、です!」
「だいすき、です!」
「あいしています!」
「心の底から貴方を愛しています!」
「軽蔑されても構いません!」
「嫌われても構いません!」
「本当に!本当に!大好きなんです!」
大粒の涙がボロボロと流れ落ちる。
子供のように泣きじゃくる。
伝えた。
伝えてしまった。
これで今までの関係性に戻ることができなくなった。
それでも構わない。
涙は止まらない。
止められない。
涙で滲んでユキの姿を直視できない。
後悔はない。
怖い。
胸が締め付けられる。
怖い。
心臓が締め付けられる。
怖い。
怖い。
怖い。
「ルゥ」
その声にどれだけ助けられただろうか。
その声でどれだけ心が救われただろうか。
でも今はその声が怖い。
何度も聞いてきた。自分の名前を呼んでくれただけの短い声。
その声色はとても真剣だ。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い!
「……え?」
後ろから感じる温もり。
この温もりを知っている。
この温もりにどれだけ助けられただろうか。
この温もりにどれだけ救われただろうか。
椅子に座ったままのルゥを、ユキは後ろから優しく抱きしめた。
大切に。
大切に。
怖い想いをしなくていい。
悲しい想いをしなくていい。
伝えるように。
伝わるように。
「ルゥ、私のことが好きなの?」
「はい」
「私のこと、愛しているの?」
「はい」
「そっか……ルゥ、私これから独り言話すね」
「はい」
「私さ、蘇ったときに『目の前の美少女誰?』ってビックリした。そしたら次は時間遡行だ、世界のために英雄を倒せだってラヴィニア様から聞かされて。でもその時は頭に入ってなくて。ちゃんと理解できたのは、蘇ったときに一目惚れした美少女からの説明だったんだよ」
「え……?」
一目惚れ……?
ユキさんが……?
「その人と時代を跨いだ旅をして、私を支えてくれたり、私が辛いときに、それとなく傍にいてくれたり、いつまでも一緒だよって約束したり、申し訳なさと嬉しさでいっぱいの毎日でね」
それって、まさか……
ユキさんも……?
「想いを伝えたい。でも、私は人間で、相手は吸血鬼。絶対に私が先に逝ってしまう。そう考えちゃうと、私がその人の『傷』になりたくなくてね」
ユキさん……
「私に勇気がなくてごめんね」
「ルゥに言わせてしまってごめんね」
「泣いちゃうまで悩ませてごめんね」
「だから、私もルゥにちゃんと伝える」
「好きだよ。ルゥ」
「大好き」
「私もルゥを愛してる」
「心の底から愛してる」
「本当に、本当に、大好き!」
また、涙が溢れる。
でも、とても温かくて、嬉しくて。
ああ、やっぱり、私の愛する人は、こうも簡単に心を繋いでくれる。
だから。
あの時と同じ言葉で答えよう。
迎えに来てくれたときの同じ言葉で。
「はい!」
心の重なりから現実世界に戻ってきた二人。
心の重なりで過ごした時間は、現実では数秒に満たない。
その数秒で、ユキとルゥの世界は大きく変わった。
互いに一歩だけ踏み込んで。
バディからパートナーへ。
友愛から恋愛へ。
「あはは……改めて実感すると恥ずかしいというか何というか……」
「私はこの旅の間中、ずっと『ユキ』の行動と言葉に胸が苦しくなったことか。理解していますか?」
「一応言っておくけどそれ私もだから。抱き枕の刑すっごくドキドキしてたんだから!」
「そうしないと落ち着けないのです。これからも抱き枕にします。いいですね、ユキ?」
「まぁ私も嬉しいからいいけどさ。ん?もしかして私から血を吸うときに、後ろからだったのって、恥ずかしかったから?」
「……赤くなった表情を見せたくありませんでしたので」
「そうだと思った!鏡越しで見えたことあったんだよ~?顔真っ赤にしてさ~笑いこらえるのに必死だった」
「そ、そうだったのですか!?///」
「もちろん。好きな人のことは自然と見ちゃうものだからね~」
「~~~///」
「痛い痛い。ポカポカ叩かないでよ」
「まったく……そうでした。あの方に報告しなければ」
「ん?マグメルの人?」
「ジョゼさんとリーズさんです」
「……私、殺されないかな?」
「やってみなければ分かりません。安心してください。ユキは絶対に守ります」
「襲われることは確実なんだね……」
「ですがその前に、貴方から奪います」
「何を奪うn」
すかさず、ルゥはユキの唇を奪った。
初めてだったから目を閉じてしまったし、歯も当たってしまった。でも、確実に奪った。
顔は真っ赤。でも、とても満足げな笑顔であることも確かだ。
想いを伝えてよかった。
だって今はこんなにも。
「え……っと、ルゥってこんなに大胆だったっけ?」
「それだけ貴方を想っていましたから」
心が弾んでときめいてしまうのだから。