CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路   作:ミヤビコウ

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多大なネタバレを含みます
そのことを考慮しつつ、楽しんでいただければ幸いです


暴食の許嫁

「今日はここで野営だね」

「そうですね。変異種もいませんし、安全も確保出来ましたしね」

「よし!ここを本日のキャンプ地とする!」

 橋をバイクで渡り、地図で道を調べながら進むこと二日。ユキとルゥは水没都市の廃墟群にある古びたビルの屋上まで移動すると、着々と野営の準備を始める。

 リンネの分割封印が成った今、変異種は、急速にその数を減らし、殆ど遭遇し襲われることはなくなった。だが絶滅したわけではない。殆ど見られることがなくなっただけで存在はしている。

 発見の報告がされれば、近くにいる吸血鬼や吸血鬼ハンターに討伐依頼が要請されるようになっている。

 だが、そうして発見された変異種は恐ろしいまでに強い傾向にあり、討伐も容易ではないのが現状だ。最低でも腕利きが5~6人で立ち向かわなければ討伐出来ないとノアとヴァレンティンから聞いた。

 ついでにゼノンからも報告がされており、量が減った分、質が上昇したのではないかと極東の演劇だという『歌舞伎』風に教えてもらったこともある。

 ルゥがカセットコンロと鍋をリュックから取り出す間に、ユキはテント設営を始める。この作業はとても慣れたモノ。見事な連携作業だ。

 本日の晩御飯は、ヤドヴィガの雑貨店で買った米と、途中で収穫したトマトを使ったトマトリゾットだ。米に火が通る間、火加減を調整しつつフッとユキは夜空を見上げる。

 屋上にいるため上空を遮るものがないため、星の瞬きが本当に綺麗に見える。

 リンネ再封印の旅の途中でも、何度となく夜空は見てきたが、その頃はこうして夜空に瞬く星を楽しむ余裕なんてなかった。

 だから、同じ星でも、より美しく見える。あの百年の眠りは無駄ではないと実感できる。

「どうしたのですかユキさん?」

「今夜も星が綺麗だなーってさ。ルゥも私みたいに寝っ転がって見てみなよ」

「はい……では、隣に失礼します」

 コテンとユキのように寝っ転がり夜空を見上げるルゥ。

 遠くから聞こえる波の音がなければ、シンという音がうるさく聞こえるだろう。それほどに澄み渡る夜空。

「あの星の光ってさ、何万年も昔に光ったモノを見てるって知ったとき、凄くビックリした」

「そうなのですか?」

「だからかな。星の光と私たちの旅を重ねて見ちゃうときがあるんだ。百年前に輝いた英雄の光を、現代でも歴史という光として見ているってさ」

「ユキさんらしい考え方ですね」

「そう言われるとちょっと恥ずかしいかな。ん?トマトリゾットもういいかな?」

「そうですね。いただきましょう」

 翌日、ジョゼの拠点に向かう途中に存在する『難民の村』に立ち寄って、消耗品の補充をしていく。

 難民の村と呼ばれているが、その呼び名はもはや形骸化している。ここは百年前に起きたジョゼの暴走事件から生き残った吸血鬼たちの最後の安息の地となった場所だ。

 だが、ユキとルゥの手によって歴史改変をした結果、難民の村ではなく水没都市に向かう前の準備拠点のような場所へと変わった。さらに言えば、二人がリンネを封印している間にさらに発展を遂げ、雑貨店だけではなく、宿や簡単な食事のできる店が建設されるぐらいだ。

「以前よりも発展していますね」

「だね。ジョゼとリーズの手腕はすごいや」

「ここに住まわれている住人の皆さんも、活気に満ち溢れています」

「生きてるーって感じがして嬉しくなっちゃうよ。っと、着いた」

 ユキとルゥは、難民の村の高台にある墓に花を添えると静かに祈りを捧げる。

 この墓はジョゼとリーズの母親の墓で、道中の安全と、水没都市全体の安全を祈る。そしてついでにもう一つ、許嫁とその妹からお叱りを受けませんように、と。下手をしたら貧血になるまで血を吸われる可能性がある……

「ん?誰かと思えばお前だったか」

「ほえ?あ、お久しぶりです。ささ、どうぞどうぞ」

「すまない。ありがとう」

 後ろからやってきた壮年の男性吸血鬼に場所を譲る。彼は百年前、ユキに杭を打ち込んで殺そうとした吸血鬼なのだが、今ではこうして挨拶をする仲である。

 色々と事情は省くが、彼はこうしてジョゼの母に祈りを捧げることを毎日している。

「今の水没都市を、この方に是非お見せしたかった」

「きっとご覧になってますって。夢の中でジョゼとリーズの頭を撫でているかもしれませんよ?」

「だといいな」

 優しく笑う彼は、今やここの纏め役をジョゼから任されている。事情は知らないが、きっと彼がこの墓に祈りを捧げやすくしたのだろうとユキは思っている。ジョゼなりの感謝の気持ちなのだろう。

「そういえば、キミたちがここに訪れた時にとジョゼ様とリーズ様から伝言を預かっている」

「そうだったんですか。その伝言の内容というのは……」

「『一秒でも早く来なければ出血出来ない程に吸い尽くすから覚悟しておけ、許婚どの』だそうだ」

「ルゥ急ぐよ!私まだ干物になりたくない!」

「バイクで急げば夕方には辿り着けるはずです!」

「伝言ありがとうございました~!」

「道中の安全を祈っているよ」

 ひえ~と言いながら急いでバイクを顕現させて、定位置にルゥを乗せると、ユキはアクセル全開で拠点である時計塔に向かう。

 その光景を見送った男性吸血鬼は、懐から携帯通信機を取り出すと、ある人物に繋いで話しかける。

「私です。夕方に許婚どのが到着することでしょう。…はい…ええ、伝言も伝えておりますよ」

 

「以前よりも道のがたつきがなくなりましたね」

「確かにそうだね。道の整備も進んでるみたい。だからこんなに早く到着出来たよ」

 バイクをヤドリギの前で停め、念の為にヤドリギに触れておく。バイクを術式で背中の疑似心臓に収納すると、後に残った荷物を持って時計塔に入る。

 この場所に最初に訪れた時に目にしたのは、英雄ジョゼが眠る巨大な封印殻だった。その当時は世界を守るという使命感に駆られていたが、いざ封印殻を解放する直前に、その心が揺らいだことを思い出す。

 

 世界のために心を通わせた仲間を打ち倒す?

 そうしなければ世界は終わる。わかっている。

 でも。でも。でも、でも―――!

 

「待ちかねたぞ許婚どの。どれ程我らが寂しい思いをしてきたことやら」

「そうですよユキ義姉さん。滞在中は覚悟しておいてくださいね」

 

 時計塔の奥から、聞きなれた二人の声がやってくる。

 あの時の『でも』は間違いではなかった。

 この光景は間違いではなかった。

「ごめんって。これでも急いで来たんだから。大目に見てよ、ジョゼ、リーズ」

 水没都市の長、暴食の血族、ジョゼ・アンジュー。その双子の妹、リーズ・アンジュー。

並んでこちらに歩いてくる二人の姿があった。

「一応自覚があるようで何よりだ。お前もルゥも、身体の調子は大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃなかったらここまで来れないよ。リハビリブースターも使ってるし、まだ勝てないけど、ノアと本組手出来るまでに回復してる」

「私も同じです。術式はまだ完璧とは言えませんが、それなりに。走り回れる程度になりました」

「……そうか」

 ジョゼとリーズは、ユキとルゥのことを二人でぎゅっと抱きしめた。

 それだけで分かる。どれほど心配してくれていたのだと。どれほど会いたがってくれていたことを。どれほど深い愛情をもってくれていたのかも。

 だからなのだろう。ユキとルゥの瞳から一筋の涙が流れ出して止まらなくなってしまったのは。

「ごめんねジョゼ。ごめんねリーズ……!」

「本当に、グスッ、ご心配をおかけしました……!」

「何を謝る必要がある。こうして五体満足で会いに来てくれただけでも嬉しいぞ」

「そうですよ。今晩は二人の歓迎会です。大いに楽しみましょう」

 

「皆、聞いてくれ!今宵は私の許婚であるユキと、リンネ封印の立役者の一人でもあるルゥが、遠路はるばるマグメルからやって来てくれた!」

「そこで、二人の歓迎会を兼ねた宴を開催いたします!今晩は無礼講。飲み物も食事も大盤振る舞い。大いに楽しみましょう!」

「盃は持ったな!では!乾杯だ!」

 ジョゼとリーズが音頭を取り、時計塔の大広間で大宴会が始まった。皆が笑顔で、思い思いに食べて飲んだ。

 当然、その中心にいるのはアンジュー姉妹から紹介されたユキとルゥだ。二人の盃か空になれば誰かが飲み物を注いでくれて、皿が空になれば料理が盛られる。

「いや~どうもどうも。あ、これ美味しい。ルゥ~楽しんでる~?」

「はい。とても楽しいです」

「それは何より。腕利きに作らせた甲斐があったな」

「姉さん、自分で食材の調達していましたよ」

「ちょっと待て。リーズだって料理の手伝いしていただろう」

「流石は双子。考えまで一緒だね。よし、だったら~ジョゼの許婚!リーズの義姉であるユキが!一気飲みで皆さまを盛り上げさせていただきます!!」

「「「「「おぉぉぉ!!!」」」」」

「ユキさん!それは危険ですよ!!」

「許婚どのだけにいい格好をさせるわけにはいかないな!私もやるか!」

「ちょっと姉さん!!」

「「「「「おぉぉぉ!!」」」」」

 場の空気に当てられたユキとジョゼは、誰が見ても無茶苦茶な飲み方をする。おまけに酒の度数はかなりのモノ。飲み方といえば、互いの腕を交差させてのラッパ飲み。

「「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、ぷはぁっ!!もう一本!!」」

 どうやらこの無茶苦茶な宴会は、まだまだ続きそうだ。

 だって、久しぶりに会うことが出来て、ユキもルゥもジョゼもリーズも、この場にいる全員が楽しくて楽しくてしょうがないのだから。

 

「ユキさん水です。どうか飲んでください。明日は確実に二日酔いですよ」

「ん~もうのめましぇ~んよ~」

「二日酔い確定だな」

「でもユキ義姉さん二日酔いになるんですか?吸血鬼ハンターは普通の人間より身体能力も代謝も強いはずなのでは?」

「以前マグメルのバーで、ノアさんとヤドヴィガさんと飲んだことがあったのですが、翌日には見事に二日酔いでした」

「許婚どのは酒に弱いのか?」

「あの時は二人がこっそり強いお酒ばかりユキさんに飲ませていましたから。嗜む程度ならば問題はないのですが、こういった場でタガが外れると……」

「えへへ~あたしの義妹はかあいいにゃ~~~」

「おい。リーズは確かに可愛いが、私が姉だからな。間違えるなよ、許婚どの」

 まだ宴会場で飲んでいる者もいるが、肝心のユキが見事に酔いつぶれてしまったため、そのまま歓迎会という名の宴会はお開きとなった。

 ちなみにここはジョゼとリーズの部屋。百年前はジョゼ一人の部屋だったが、歴史改変の結果、今では姉妹二人の部屋へと変わったのだ。

 この部屋は完全にプライベートな空間なので、よほどの事がない限りは誰も来ることはない。だから落ち着いてユキを休ませることができるのだ。

「~♪~~♪~~~♪」

「この鼻歌を聞くのは何時ぶりだろうか。懐かしいな」

「ユキ義姉さんの機嫌がいいと、無意識に歌ってましたね」

「マグメルの温泉に浸かっていると必ず歌っています。それにピアノも」

「ピアノだと?それは初耳だな」

 いつだったか、マグメルの談話室に備え付けられているグランドピアノを見たユキが、吸い寄せられるようにピアノの椅子に座ると、そのままピアノの鍵盤を指で叩き楽譜もないまま皆が聞き惚れるような演奏をしてみせたのだ。

「そんな特技があったとは驚きだ」

「ぜひ演奏してもらわないとですね。マグメルの方達だけはズルいです」

「だが、なぜそのようなことが?」

「蘇る以前の特技だったのかもしれません。ユキさんはマグメルで目覚めた時、それ以前の記憶は全て失いました。ですが身体が覚えていたのかもしれません」

「成程。かつては変異種を呼び寄せてしまうという理由で楽器を奏でる機会はそうそうなかったが今は違う。許婚どのには存分に腕を振るってもらわなければな」

「だったら次の探索任務が楽しくなりそうね、姉さん」

「探索任務?」

「それは明日説明する。許婚どのがしっかりとした状態でなければ説明できないのだ」

 

「うぅぅ、頭ガンガンする……」

「見事に二日酔いだな」

「ユキさん水です」

「ありがと……んっ、んっ、あ~楽になった~ついでに再生力使おうかな?」

「ユキ義姉さん?」

「ごめんなさい」

「さて、本題に入るとしよう」

 翌日、見事に二日酔いで苦しむユキを拠点の広場まで引っ張り出した一行は、今現在、水没都市でおこなっている復興作業について聞くこととなった。

 リンネ封印のおかげで変異種が激減した結果、人口が人間も吸血鬼も徐々に増えていった。

 そこで、大規模な居住地候補として、水没都市が選ばれた。ボロボロではあるが大小さまざまなビル群が大量にあるのだから当然だ。

 なので現在、居住に適した建造物の選定がなされており、補修が必要な箇所、安全のため解体が必要な建造物の選定や、新たに建造する建物の設計図の作成及び建材の調達などが進められている。

 また、そういった調査で発見された書物やデータをマグメルや監獄島へ送り、リンネ災害前の時代の資料作成も同時に行っている。

 今はリンネによって破壊されずに残ったモノを利用して生活しているのが現状だ。今度は現代を生きる我々が過去から学び発展させていくという壮大な計画だ。

「この計画は、それぞれの考えを擦り合わせながら、ほぼ同時進行で進めている。百年という時間があったにも関わらず、遅々として進まないことがもどかしいがな」

「でも進んでる。私とルゥだって、時間が掛かったけどここに来れたのと同じだよ」

「……そうだな。確かに進んでいることに変わりはないな」

 ユキの飾り気のない真っ直ぐな言葉に、今までどれだけ救われただろうか。

 百年前からユキを知る吸血鬼も、ユキという吸血鬼ハンターを現代まで語り継いできた人間も、彼女の言葉で前を向くことが出来たのだ。

「実はその計画で、ある問題が報告されています」

「問題ですか?リーズさん、それはどのようなものなのですか?」

 これは水没都市の端にある沈んだ電波塔の奥、アクアリウムの調査に向かった調査隊からの報告だ。

 あの場所は海中にも関わらず水漏れ箇所が全くない施設で、施設全体を隈なく調査することが出来れば、巨大建造物を建てる際の参考になるのではないかと注目されており、多数の商店の痕跡も発見されたことから、最重要調査箇所に指定され、すぐさま調査隊を編成、調査が始まった。

 安全なルートの確保、施設内の変異種の討伐、書物やデータの運び出し、崩落箇所の簡易修理等々が順調に進み、いよいよ最下層であるアクアリウムに到達しようというその時だった。

 調査隊の全員が聞いた謎の音を。

 調査隊はその音に驚愕。もし仮に音の正体が未知の変異種の可能性を考え、すぐさま上層へ撤退。この事をジョゼに報告したというわけだ。

「状況的に最上の判断ですね」

「私もそう思う。優先順位は調査じゃなくて命だもん。生きていれば、しっかり準備してまた来られるからね」

「ああ。許婚どのの言う通りだ。それに収穫もあった」

 ジョゼは机の上にあるモノを置く。

 それはユキとルゥにとっては見慣れた黄金に輝くカードだった。

「これってゼノンパス?」

「これは『調査パス』という術式で、このパスを持った人の視覚と聴覚情報が記録され、後でその情報を映像として見ることの出来る代物なんです」

「さらに緊急時、このパスを砕けば予め指定しておいたポイントまで転移することが出来る。調査隊には必ず携帯させている。まさに命綱だ」

 ジョゼは机の上の調査パスに手をかざして術式を起動する。するとパスから光が溢れ、まるで絵画のように固定されると、そこから調査隊の声が聞こえてきた。

「すごい!まるでその場所にいるみたいだね」

「将来的に通信機能を組み込む予定なんだそうだ」

「流石ゼノンさんですね」

「二人とも静かに。ここからです」

 

『ここまでは順調でしたね隊長』

『ああ。だがまだ気を抜くな。ジョゼ様によると、ここにはかつてリンネの残滓がいたそうだ。討伐されてはいるが、変異種がいてもおかしくはない』

 

「そんなこともあったね~」

「ああ。今では懐かしいな」

 

『銃剣部隊、中の様子はどうだ?』

『視認範囲に変異種はいません』

『そうか。術式での確認はどうだ?』

『反応はありません。ですが、そういうことが出来る変異種の可能性も捨てきれません。ここは全体的に暗いですからね……』

『総員警戒を怠るな。……まずは光源の確保を優先する。そして調査パスをいつでも砕けるようにしておけ』

『『『了解』』』

『ケーブルはここが限界か……隊長、照明装置の準備、整いました』

『了解だ。総員、もう一度警戒を厳にしろ。それでh』

 

ォォォォォ―――

 

『隊長!今何か聞こえませんでしたか!?』

『ああ、私にも聞こえた!まずは落ち着け!パニックになるな!』

 

ォォォォォ―――

 

『また聞こえたぞ!』

『さっきよりも音が近づいている模様です!』

 

クォォォォォ―――

 

『これ以上は危険と判断する!総員、調査パスを砕け!』

 

 ここで調査パスに拳が迫ってくる様子を最後に映像が途切れた。

 

「以上が事の顛末だ」

「他の調査隊の映像も確認されたのですか?」

「ああ。全員分しっかりと。視線の方向はバラバラだったが、全てに同じ音が記録されていた」

「念の為、映像を同時に流して確認してみましたが、全て同じタイミングで例の音が聞こえてきました」

「なるほどなるほど。というかこのパスって、砕けても元に戻るんだね」

「砕けると発動するように術式が組まれている。パス自体が砕けるわけじゃない」

「ほうほう。隊長さんも調査隊のみんなも無事でよかったね。むしろ、よくここまで我慢できたね。その勇気がすごいよ」

 この場にいる調査隊の面々に向けてユキは声を掛ける。実はジョゼからも同じ言葉をかけられていた。「よく無事に帰ってきた。恐怖の中、無茶をしないという判断を下したお前の勇気を讃える」と。やはりこの二人はお似合いだ。

「部下を全員五体満足で帰還させる。それが隊長としての役目ですので」

「私は素晴らしい調査隊に恵まれたな。さて、ここまで説明すれば、許婚どのにも私がこれから何をしようとしているのか理解できるか?」

「この拠点の最大戦力を調査隊に加えて最下層まで行って、音の正体を確かめる。もし新種の変異種ならばそのまま討伐して、アクアリウムをしっかりと調査するってところかな」

「正解だ」

「そしてその最大戦力は、暴食の血族、ジョゼ・アンジューとリーズ・アンジューの二人。だけど二人はここの責任者。だから周囲が止めてしまう。でもさ、その二人を守ることが出来る戦力がここに二人もいるじゃんか」

「正解だ。どうだろうか皆。我が許婚ユキと、そのバディであるルゥの実力は知っているだろう。これならば問題はあるまい!!」

 随分と強引な手段で来たなとユキとルゥは思う。

 そういえば、百年前にジョゼの許婚になったときも同じだった。

 こうやって強引に許婚になったことで助かったのだから。

 ジョゼの、いや、ジョゼとリーズの思惑通りにことが進む。

「明日は忙しくなりそうだねルゥ」

「そうですね。あそこまで言われたら、やるしかありませんね」

 

 その日の深夜、身体の稼働領域を確認するように呪刀マサムネを振る。この刀は何故かしっくりくる。もちろんマサムネ以外の武器も扱える。というか武器選ばずで、どのような武器でも手足のように扱える。

 だが一番はマサムネだ。ここぞというときには必ずこれで臨む。

 一通り刀を振って、いつものように虚空に溶かす。

「ユキさん、タオルをどうぞ」

「いつからいたのルゥ?」

「最初からいました。随分集中なされていましたので」

「ありゃそうだったか~なんかごめんね」

 ユキはルゥからタオルを受け取って流れた汗を拭きとると、今度はダウンを兼ねて整理体操を始める。この整理体操も訓練後にいつもやってしまう。もはやルーティーンに組み込まれている。これも生前に行っていたことなのだろうか。

 整理体操が終われば今度はストレッチ。その場に座って前屈の体勢をすると、ルゥがユキの背中を軽く押してくれる。

「もう少し強めでいいですか?」

「うん。おねが~い」

 そしてそのままペターンと身体が折れ曲がる。もうしっかりとつま先を手で掴めるほどにペターンとしている。

 ユキの身体はビックリするぐらい柔らかい。Y字どころかI字バランスなんてお手の物。ラヴィニアから『タコの生まれ変わり』だと言われたぐらいに柔らかく、マグメルの子供たちは毎日柔軟体操をしてユキに近づこうとしているぐらいだ。

 それを分かっているにも関わらず、ルゥはユキのストレッチを手伝っているのには訳がある。

 こうしてユキに触れると、ユキの体温を感じられるから。ユキが生きていて目の前にいると感じ取れるから。

 ユキが自分の隣で一緒に歩いているという安心感を得たいから。

 とても身勝手で、絶対に伝えられない。ただただ自分のため。

「ルゥ、ルゥってば~」

「え?あ!」

 ユキの声でようやく気が付く。ユキのことを自分の身体で押しつぶしていたことを。

「ご、ごめんなさいユキさん!考え事でボーっとしてしまって……」

「気にしてないよ。でも珍しいね。どんなこと考えてたの?」

「明日のことです。ジョゼさんとリーズさんがいますから大丈夫だと思いますが、我々も頑張りましょう」

「そうだね。久しぶりに本格戦闘になるかもだし。頑張ろうね、ルゥ」

 

 翌日。

 準備を終えた一行は、地図でルートを確認する。

「一先ず海岸線まで行って、後は道筋を辿っていくのが一番かな」

「だな。一直線よりもその方が走りやすいだろう」

「でも移動手段がなぁ……どうしよう。誰かを私に憑依させて、私の前に一人、もう一人はいつも通りに後ろに座ってもらう感じかな?でもやったことないしな~」

「それについては問題ありませんよユキ義姉さん」

「どういうことですか?」

「こういうことだ」

 ジョゼがニヤリとドヤ顔を決めると、ユキの持つバイクを召喚してみせたのだ。車体の色はメタリック調で、アンジュー姉妹の髪の色をしている。

「え!?どうゆうこと!?なんでジョゼがバイク持ってるの!?」

「ヤドリギでの移動が不安定になった今、迅速な移動手段として試験的に導入されたのだ。あの日封印の塔にいた連中に渡されているぞ」

「マグメルの人わざと黙ってたんだ……このリアクションを見るために。あれ?もしかしてルゥも知って……ないね。その表情は」

「ビックリしました……」

 そういうことでバイクは二台。後は誰が運転手で誰がその後ろに乗るかだが、しれはすんなりと決まった。

 運転手 ユキ  後ろ リーズ

 運転手 ジョゼ 後ろ ルゥ

「私も練習はしているのですが、姉さんの方が運転センス抜群なんです。それに、またユキ義姉さんが運転するバイクに乗りたかったですし」

「許婚どのの後ろもいいが、こうして並んで走ることが楽しみだったんだ。ルゥ、しっかり掴まっておけ。私の運転は荒っぽいぞ」

「わ、わかりました」

「安全運転かつぶっ飛ばして行きますか!!」

 二台のバイクは同時にアクセルを吹かして、同時に同じ速度で発進する。

 目指すは沈んだ電波塔の最奥、アクアリウム。スリルある楽しい旅になりそうだ。

 

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