CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路   作:ミヤビコウ

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多大はネタバレを含みます。
念頭に置いて、楽しんでいただけたなら幸いです


約束の協奏曲

「こんな巨大な生物がいたなんて……!」

「変異種じゃないというのもすごいですよ!これは大発見です!」

「海って、こんなでっかい生き物がいたのか。こりゃすごい……」

「とにかく正体は判明した。あとはこの隣人がどのクジラなのかを知ることが急務だ。手元の資料にクジラの図鑑があれば、それを参考に分類しておいてほしい」

「了解です。音の正体の解明作業、ご苦労様でしたジョゼ様!」

「「「ありがとうございました!」」」

「気にするな。我々はやるべき事をやったまでにすぎない」

 ジョゼらが持っていた調査パスの映像と音声を調査隊全員と共有し、今後の展望を話し合う調査隊を、暗がりで体育座りで顔を埋めるルゥを慰めながらユキは眺めていた。

 なぜルゥがこんな事をしているかと言えば、アクアリウムにて大泣きした事を冷静になって恥ずかしくなってしまったためだ。ジョゼの情け(?)でルゥが泣いている映像は消しているが、顔から火が出てしまうぐらいに、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのだ。

「あ、やっと見つけました。晩御飯持ってきましたよ」

「ごめんねリーズ。ほらルゥ、一日寝かせたカレーって味が染みて美味しいんだよ。一緒に食べようよ」

「……私が泣いた記憶を消したら食べます」

「もう消えてるから。あそこまで大泣きしたルゥは初めてだったからビックリしたけどね」

「~~~///」

「わぁ~!ごめんごめん冗談だってすねないで~!」

 顔を赤くしたルゥにポカポカと叩かれるユキ。しっかりしているようで小粋な(?)冗談を挟むユキの人柄は、どこか憎めないし可愛げがあって彼女を嫌っている人がいるのかどうかと怪しいぐらいだ。

 とにもかくにも、ルゥが立ち上がってくれたので、リーズが持って来てくれたカレーの香りで誘導しながら、調査隊本部の食堂で遅めの夕食となった。

「ん?このカレーってアンジュー家特製カレー?」

「そうです。調査隊の人たちにも好評で、姉さんが張り切って作ってましたから」

「あはは。ジョゼって料理好きだしね。ルゥ、ちゃんと食べて」

「……いますのでおかまいなく」

「こりゃ暫くだめだね~」

「何がダメなんだ?」

「姉さん。もういいの?」

「これ以上は、ここにいる面々も休めなくなってしまうからな……うん!やはりこのカレーは何時食べても美味い!」

 ジョゼも交えてカレーに舌鼓を打ちながら話す。

 最初は調査の内容だったが、次第にユキとルゥのこれからの旅路へと切り替わる。

「もう少ししたら、黎明の旅団の入団試験でね、ぜひ来てくれって団長から誘われててさ~」

「次の目的地は酸の谷か。ここからだとかなり遠いな」

「その方が色々見られるし楽しめるよ。昔はそんな余裕もなかったしね~あむっ」

「毎年、かなりの人が黎明の旅団の入団試験に挑戦しているとか。私と姉さんも、何度か見学に行ったよね」

「その時はライルと立ち合いになってな。結局勝てず仕舞いで引き分けに終わった。次の機会があれば必ず勝つ」

「確か、黎明の旅団は現在、調査隊の護衛任務も担っているとヴァレンティンさんから聞いています」

「旅団の団員も今ではかなりの数になっているし、各地の変異種討伐任務も我々が依頼を出せば請け負ってくれる」

「もちろん任務扱いですので支払うモノは支払います」

「組織が大きくなれば、それも当然のことですね」

「お仕事ですからね。ルゥ、口開けて」

「?んぐっ!?」

「カレーを一口プレゼントだよ~おいしい?」

「~~~///!!!」

「おいおい……」

「あはは……」

 もう一度顔を赤くしながら涙目で、ユキをポカポカと叩くルゥのことを、呆れ半分で苦笑するジョゼとリーズ。懐かしい。この二人にとってはつい最近のことだろうが、ジョゼとリーズにとっては百年ぶりに見る懐かしい光景だ。……ルゥのポカポカ攻撃は初めてだが。

 そんな時だった。ユキの動きがピタリと止まる。

「ユキ?どうした?」

「ぐぅっ!う、あ、あぁ……」

 ユキの表情がすぐさま苦悶に満ちた表情に変わり、右手で胸のあたりを掴むと同時に、脂汗がダラダラと流れ始める。

「ユキ、さん?ユキさん!しっかりして下さい!ユキさん!」

 慌ててルゥはユキに駆け寄ると、次はユキの背中にある疑似心臓から黒い煙のようなものが噴き出す。

「侵食現象だと!」

「ユキ義姉さんしっかり!」

 吸血鬼ハンターは吸血鬼の血をイコルに変換して術式を行使する。だが、その血をどこにストックしておくのかと言えばハンター本人の体内で、その血から力を行使する役目を背中の疑似心臓が行っている。

 だが、そこにはある問題があり、吸血鬼の血がハンターを蝕み最悪の場合死に至らしめるリスクがある。それが侵食現象だ。

 だが、ユキの侵食現象は特殊で、取り込んだ吸血鬼の血に刻まれている記憶を追体験出来る。だが、その記憶がいつのモノであるかはランダムで、さらにユキ近くにいる人全てが共有出来てしまう。

 今、ユキの傍にいるのはルゥ、ジョゼ、リーズの三人。

「あ、ああああああああああ!!」

 四人が、記憶の海に飲み込まれた。

 

 ユキが目を開けると、そこはとても明るく活気に満ち溢れ、楽しい雰囲気で飾られた記憶の回廊だった。

「ユキさん!無事ですか!?体調に問題はありませんか!?」

「うん。平気だよルゥ。久しぶりの侵食現象だったからビックリしちゃった」

「ビックリしたのはこっちだ。本当に大丈夫なんだろうな?い・い・な・ず・け・ど・の?」

「大丈夫だって~」

「確か、奥にある扉まで行けばいいんでしたっけ?」

「うん。とにかく行こう。でも私、誰からも吸血してないのに……」

 四人は並んで記憶の回廊を歩いて行く。

 聞こえてくるのは楽しそうな音楽に笑い声。

 見える景色には、子供を連れた夫婦や、ウィンドウショッピングをする老夫婦、携帯できる料理だろうか。楽しそうに食べ歩きを楽しんでいる男性の姿。老若男女問わず、誰もが楽しんでいた。

 そして、この場所には見覚えがある。

「ここって、電波塔の内部?」

「間違いないですね。あの店を見てください。休憩をするため立ち寄った場所です」

「ここまでの場所だったのか……復興はだいぶ先になりそうだ」

「やりがいがあっていいじゃない、姉さん」

 そしてこの記憶の持ち主が、最も印象に残る箇所に、その人物の影と声が聞こえてくる。

 

『これは……!まさかこんな所に売っていただなんて!すみません、これを買いたいのですが……』

 

 聞こえてきたのは若い男性の声。この記憶の持ち主だろう。彼は吸血鬼だ。どうやら彼の目当てのモノがここに売っていたのだろう。

 

 四人は進む。

 

『うーん。これは難しいな。ここはテンポを意識しながら。そしてここは……うん、練習あるのみだ!』

 

 さっき手に入れたモノを読み込みながら、ブツブツと喋る男性。どうやらそれは何かの教本のようだ。だが、男性の声はやる気に満ち溢れている。

 

 四人は進む。

 

『やはり難しい……ん?やぁ、キミかぁ!もう少しでマスターしてみせるから、その時にはキミの素敵な歌声を聞かせておくれよ~』

 

 バイオリンのような楽器を持つ男性の前に、あの海中の隣人、クジラの雄大な姿が現れた。

 

「そっか。これが原因だったんだ」

 ユキはジャケットの内ポケットから折り畳んだ楽譜を取り出す。

 あの時は暗くてよく見えなかったが、よく見ると楽譜のふちに僅かに血が付いている。おそらくではあるが、何かの拍子に楽譜で指を切ってしまい、そこに付着した血を無意識に吸血していたのだろう。

「そういう事は見つけた時に報告してくれ……」

「ごめんジョゼ」

「だが、かつてあのアクアリウムには、こうして隣人が来ることが当たり前だったのだな」

「そして私たちは、そのかつての当たり前を取り戻そうと奮闘している。そうでしょ、姉さん」

「ユキさん?どうかなさいましたか?」

「この楽譜の曲が分かった。というか、さっきからこの人が奏でてくれてた」

 重厚でテンポが早く、それでいて心が落ち着いていく楽曲。

 練習中なため、所々突っかかってはいるが、曲の全体像は理解出来たし、耳コピも出来た。

 目の前に大きな扉が現れる。ここが記憶の回廊の出口だ。

「それじゃ、戻りますかね」

 四人が扉に手を翳すと、扉が開き光に吞まれていく。そして―――

 

「バイオリンならば外でもよかったのではないか?」

「このアクアリウムの構造が、丁度音をいい感じに反響してくれるんだ。ここの方がより綺麗に音が響く」

 侵食現象から目覚めたユキは、いきなり「これからアクアリウムに行こう!」と叫び、バイオリンを掴むと全速力でアクアリウムに走った。

 全員がポカンとしたが数秒後に再起動。ユキを追いかけ、さらにジョゼたちを調査隊の面々が追いかけて、アクアリウムに大勢の人が集まった。

 バイオリンを軽く奏でて調子を確認し、弦と弓の感触を確かめ、さらに目を閉じて音の感触も確かめる。どうせなら昨日よりも素晴らしい演奏にしたいから。

 全ての準備が整い、ユキは昨日より真剣な表情でバイオリンを構える。そして、

 

――――――♫―♪―――♬――♫――――――

 

 記憶の回廊で聞いたあの曲を、海中の隣人のために練習を繰り返していた楽曲を奏で始めた。

 ユキの説明通り、昨日よりバイオリンの音色が全身で感じ取れる。いや、全身に響くと言った方が正しい。そしてその響きはガラスを通り抜け、隣人にまで届く。

 

クォォォォォ―――

 

「これって……」

「皆大丈夫だ。これは例のクジラの声……いや、歌声だ」

 

――――――♫―♪―――♬――♫――――――

クォォォォォ―――――――――

――――――♫―♪―――♬――♫――――――

クォォォォォ―――――――――

 

『やはり難しい……ん?やぁ、キミかぁ!もう少しでマスターしてみせるから、その時にはキミの素敵な歌声を聞かせておくれよ~』

 

――――――♫―♪―――♬――♫――――――

クォォォォォ―――――――――

 

 アクアリウムの芝生が、ゆらゆらと揺れる波の模様の灯りに照らされ、時々その灯りに華を添えるように巨大な海中の隣人の巨大な影がゆったりと動く。

 バイオリンの音色と、隣人の歌声が溶けあい素晴らしいハーモニーとなって、聞く者の心を魅了する。

 あの記憶の回廊は何時の時代の記憶なのか分からない。

 このクジラだって、偶然ここに来ただけかもしれない。

 だが、少なくとも、ユキ、ルゥ、ジョゼ、リーズの四人は信じている。そう願っている。

 あのクジラは、この曲を待っていたのだろうと。記憶の回廊で見たクジラでなければ、そのクジラの子孫が伝えてきたのだろうと。一緒に歌って楽しもうと。その思いが今、時を越えて成就したのだと。

 そして静かに、ユキはバイオリンの演奏を終えると、その締めくくりとしてクジラの美しい歌声が響き渡った。

 

 ぱち、

 ぱち、ぱち、

 ぱち、ぱち、ぱち、

 わぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

「ありがとう許婚様!!」

「それとお前もな!海中の隣人!!感動したぜ!!」

「こんな素敵な演奏聞いたことないね!!」

「俺も何か楽器やってみようかな?難しいかもだけど、練習あるのみだ!」

 アクアリウムに歓声が沸き起こる。それも心からの歓声だ。今までは変異種という恐怖が存在していたため、このような娯楽を楽しむことが難しい世界から解放されたのだと、ここにいる全員が魂に刻まれた瞬間でもあった。

 ふぅ。と、息をつきて緊張を解きほぐしたユキは、ちらりとクジラに視線を向ける。言葉は通じない。でも、何となくだがその視線から気持ちが分かった。

 

『ありがとう。楽しかったよ』

 

 そのままクジラは、アクアリウムをゆっくりと一周して、大海原へとその姿を消した。それを見送ったユキは、ジャケットの内ポケットにしまっておいた例の楽譜を取り出すと、今まで演奏していた場所に静かに置いた。

 風が吹かないここならば、どこかに飛んでいく心配はない。何より、この楽譜はこの場所に置いておくのが礼儀なのだろう。ここで何時でも練習できるように。演奏できるように。隣人と楽しめるように。

「見事だった。その一言に尽きる」

「お褒めの言葉、光栄の極みでございます」

「ユキ義姉さん。わざとらしいですよ」

「あ、やっぱり?このバイオリンも置いておこうかなって思うんだけど……」

「道具は使ってこそだ。この場を墓にしてしまっては隣人に失礼ではないか?」

「確かにそうだね。ルゥはどう思う?……え?」

 ぎゅっと拳を握り、俯いてその場に立ち尽くしていたルゥだったが、ユキの声に反応して顔を上げると静かに泣いていた。

「ちょっ!ルゥ!どうしたの!?」

 その声に反応して、今度はユキに抱きついて声を出さないように、ユキの胸に顔を埋めて静かに泣く。

 この反応にはユキも困惑。ジョゼとリーズに助けを求めて視線を向けるが、『自分でどうにかして下さい』というイタズラじみた表情を浮かべていた。こんなところで双子の絆を出さないで欲しい。あとで仕返ししてやる。と思いながら、バイオリンも持っていない左腕でルゥを抱き寄せる。今思いつく方法はこれぐらいしかない。

 

「……自分でも分かりません。なぜ、あのような行為をしてしまったのか」

 時間は真夜中。そりゃそうだ。侵食現象が起きたのが夕食で、そのままバイオリンの演奏をしたのだから。

 そのためユキは全身のエネルギーが消費されてしまったように眠ってしまい、絶対に明日の朝まで起きないモードになってしまった。

 風邪を引かないようにとルゥがユキに毛布をかけたところで、アンジュ―姉妹に捕まって、そのまま深夜の女子会になった。

「私が思うに、最近のルゥは自分の感情に素直になったのではないか?」

「つまり、ユキ義姉さんに泣いて抱きつくぐらいに感動した。と」

「え……と……それは……」

「素直であることは存外難しいものだ。生きていけばしがらみが増え、巻き取られ、心が毒沼に沈み、最悪心が壊れ、役目を果たすだけの人形に成り果てる」

「……人形」

 かつてのルゥも、人形のような存在だった。

 始祖イドリスの力を色濃く引き継いだルゥは、リンネ封印の器の役目を持った存在だった。だが、『かつて』のリンネ封印の際にその記憶がすっかり消え封印も失敗。結果、英雄たちがその身を犠牲にしてリンネを抑え込んだのだ。

 その後はラヴィニアの言うままに動いていた。時間遡行も。英雄討伐も。

 だが、人形だった自分を『人』に戻してくれたのはユキだった。

 自らの心臓の半分を分け与え蘇生させた、英雄討伐の使命を担う、いや背負わされた人間。そんな枷があるにも関わらず、ユキはユキのままだった。

「私も一時期、家族を失いヤケになって人形になっていたことがあった。まぁ膨大な時間のお陰であらかた元には戻ったが、ユキが最後の特効薬だった」

 許婚もユキを助ける口実だった。強力な吸血鬼ハンターを味方に引き入れ戦力とするため。だが、蓋を開ければ『家族』として愛する存在になっていた。

「ユキはどこまでも素直だ。それこそ、私が悩むことが馬鹿らしくなるくらいにな。だが、あいつの素直は常に誰かと共有している。だから『ソレ』にいつも引っ張られるし、振り回される」

「振り回される身としては大変ですけど、それがユキ義姉さんのいい所ですよね」

「ああ。ルゥもそんなあいつに惚れたんだろ?」

「……///」

「え?姉さん、今のってどういうこと?」

「言葉通りだ。ルゥはユキに心底惚れてるそうだ」

「ルゥさん!ユキ義姉さんは渡しませんよ!!」

「あっはっはっはっは!暴食の血族当主の許婚を奪うか……やれるものならやって見せろ!!受けて立ってやる!!」

「あ…あの…えぇぇと……///」

 そこから、銃剣の乱射のごとくルゥに言い寄るリーズを肴に、大笑いして茶々を入れるジョゼの楽しそうな雰囲気の空気が、夜明け寸前まで続いていった。もちろんその間、ユキは幸せそうな顔をして眠っていた。

 

「聞きたいことがあるんだけどさ、何で見事に三人とも眠たそうにしてんの?」

「色々あってな。アンジュ―姉妹とルゥは、さらに仲が良くなったということだ」

「……渋々ですけれどね」

「そう言うなリーズ。私とユキが許婚であることに変わりはないし、リーズがユキの義妹であることにも変わりはない。だろ?」

「え、違った?解消されたら私泣くよ?」

「お前は本当にどこまでもお前のままだな」

 翌日、ぱっちり目が覚めたユキが、ルゥ、ジョゼ、リーズが思い切り眠たそうにしていることに首を傾げるも、身支度を整えて昨日カレーを食べた場所で、朝食であるベーコントーストを齧りながら、これ以上突っ込んで聞くことは無粋だな~と思いつつ、ベーコンの味を嚙み締める。

「ユキ、そろそろ行くのか?」

「そうだね。黎明の旅団入団試験の日取りを計算すると、今日には出発しないと間に合わないしね」

「……そうか。久しぶりにお前との探索は楽しかったぞ」

「……うん」

「私もです。やっぱりユキ義姉さんは『私たち』のユキ義姉さんですからね」

「……うん?うん。でもジョゼ、その言い方だと今生の別れみたいだからやめてよ。というか、今度は二人がマグメルに来てよ。その時は夜通しガールズトークで盛り上がろう~

!決定事項だ!異論は認めん!」

「「は~い」」

 そのガールズトークは昨晩してしまったのだが、内緒にしておかないと。ユキが拗ねる。

 そんな話をしながら、ユキとルゥはテキパキと荷造りをして、バイクを顕現させ、いよいよ出発の時となった。

「許婚どの。渡したいモノがある」

「ん?なに?」

 ジョゼの言葉にリーズが何かを持ってきて『ソレ』を渡した。

「調査隊の全員と話し合い、ソレは許婚どのが持つことが一番だろうという結論に達してな受け取ってくれ」

 それは、クジラのためにユキが演奏したバイオリンだった。

「えっ!いいの!?というか、このバイオリンケースってどこにあったの?」

「我々が保管庫を引っ搔き回して探し出しました!」

「しかもこのケース、そのバイオリンにピッタリだったんです!」

「きっと運命ですよ!いや~幸先がいいですね!」

 どうやら調査隊の面々が頑張ってくれたようだ。彼らもまた、ユキに引っ張られてここまで来ることができた人々なのだ。

「そしてルゥ、お前にだけ何もなしでは格好が付かない。だから、『我々』からお前にこれを送ろう」

 ジョゼとリーズが、ルゥに向って小さな何かを投げ渡す。二つとも見事にキャッチしたルゥは、手を開くと、そこには二つのコインがあった。

「これは、お二人の召喚術式。どうして私に……」

「渡さない理由はない。ルゥ、お前も大切な仲間なんだからな。信頼の証だ」

「絶対に遊びに行きますね。今から楽しみです」

「……でしたら私も」

 交換するかのようにルゥもジョゼとリーズに、自らの召喚術式を渡し、互いに術式をその場で取り込む。

 ニコッと笑ったユキは、バイクのエンジンに火を入れる。

 そのバイクの後ろにルゥが座ると、いよいよ出発の準備が完全に整った。

「それじゃ、行ってきまーす!!」

「またお会いしましょう!!」

 一気に加速するバイク。流れていく景色。

「ああ!いつでも帰ってこい!我が許婚よ!!」

「ありがとうございましたー!!」

 見送ってくれたのは、大切な『家族』の声。

「お達者でー!!」

「また宴会しましょうねー!!」

「バイオリン、大切にしてくださーい!!」

「クジラにも伝えときまーす!!」

 声の限り、姿が見えなくなるまで、力の限り見送ってくれたのだった。

「次はいつ来てくれるのか、今から楽しみだな、リーズ」

「そうだね姉さん、次の機会を楽しめるね」

 双子の姉妹は、とても無邪気な笑顔を浮かべて『次』を楽しむことにしたのだった。

 

 

「あの、ユキさん」

「んー?どうしたのルゥ?」

「私にバイクの運転、教えて下さいませんか?」

「いいよ。運転マスター出来たら、並んでバイクで走ろうねー!!」

「はい!!」

 

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