CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路   作:ミヤビコウ

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注意!
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただけたなら幸いです


忍耐の相棒

「ヴァレンティン。ユキから手紙だ。さっきヤドリギで届いてだぞ」

「今は手紙程度のやり取りができる程度に、ヤドリギの繋がりが存在しているようだね」

「そこが注目点なのが相変わらずだな……」

 マグメルでは、ユキから届いた手紙を皆で開封し読んでいた。

「それで?ユキとルゥはなんだって?リハビリブースターは?」

「お前の注目点も変わってるな……」

 

『やっほー!私もルゥも五体満足で元気だよー!二日酔いにはなっちゃったけど……ジョゼとリーズも拠点のみんなも元気!心配なんてなかったよ。実は成り行きで電波塔の調査の手伝いをしたんだけど、なんとビックリ!アクアリウムでクジラが見られたんだ。海の生態系が戻って来てる。いつかクジラが当たり前に見られるようになるかもね。この手紙が読まれている時には、酸の谷に向かってる。黎明の旅団の一員として、相棒に会いに行ってくるねー!それじゃ、また手紙送るから!  ユキ ルゥ・マグメル  追伸 リハビリブースターはちゃんと機能してるよ!』

 

「だそうだ」

「よかったじゃねぇかイリス。無事だとよ」

「こうして手紙までくれるんだったら嬉しいよ」

「しかしクジラか……マグメルにまでやって来る可能性もあるね。早速調査をしてみようか、ノア」

「お前ら……」

 相変わらずの友人たちに多少の頭痛を覚えるが、こうして手紙で無事を知らせてくれるまともな友人が、元気に旅を続けていることに安心するノアであった。

 

「もう少しでドリフトできるようになるよ。ルゥは私より運転センスあるよ」

「ありがとうございます。ですが、滑空走行は怖いです……」

「あー、それは分かる。最初は勝手がよく分からないしね」

 酸の谷、黎明の旅団の第一拠点への道中に転がっているボロボロのバスをという昔の移動装置を今夜の宿にして、その中で本日の晩御飯であるBLTサンドイッチをユキとルゥは食べていた。本来であるならば、近くの廃屋にでも宿泊しようかと、ルゥのバイク教習をしながら考えていたのだが、気がつけば雨が降ってきて、このバスに到着する頃には大雨になってしまったのだ。

「なんだか秘密基地っぽくていいね。ランプの明かりでもっとそれっぽくなってる」

「そうですね。雨漏りしていなくて運がいいですし」

「だよねー。あ、そうだ。私たちだけにしか分からないマークをどこかに付けておこうよ。『私だけの秘密基地』だぞって。次の機会、またここで泊まれるように!」

「『その時』も二人きり、ですか?」

「秘密基地だからね。当然だよ」

 二人だけの秘密という言葉は、今のルゥにとって何よりも嬉しい言葉だ。だから思わず……

「ルゥ?顔が赤いけど、どうかした?」

「え!?き、気のせいですよ!きっと悪天候でのバイク移動に慣れていませんから、その疲れが出たのかもしれません」

「だったらもっとまずくない?熱とか出てないよね?」

 ユキは自分のおでこをルゥのおでこに当てて熱を計る。が。

「~~~~///!?!?!?」

 その行為は、ルゥの熱を余計に上げてしまう行為だった。

 何せ惚れた相手の顔が、ほぼゼロ距離で自分の視界いっぱいになるのだから。

「あれ?やっぱりルゥってば熱があるんじゃない?おでこ熱いよ?」

「だ、大丈夫ですから!自分の体調は自分がよく理解しています。本当に問題ありませんから……」

「本当に?う~ん、ルゥがそう言うなら信じるよ」

「ありがとうございます。そろそろ休みましょう。夜も更けましたし」

「そうだね。そうしよっか」

 バスと言っても中の椅子の大部分は誰かが持ち出したり、変異種によって破壊されてしまったおかげか、寝袋を二つ並べても問題ない広さになっているため、本当に秘密基地にぴったりだ。

 術式を利用して水を生成し、それを利用して食器を洗ったり、顔を洗ったり、歯を磨いたりと寝る前の準備をして、睡魔の攻撃を素直に受け入れて二人は眠った。ルゥを除いて。

 ユキに顔が見られないように眠るルゥは、困ったような嬉しそうな表情をしていた。前にもあのようにおでこで熱を計られたことはあった。その時は何も感じなかったが、今ではこの通りだ。

 こっそりユキに視線を送る。ああ。やっぱりだ。たったこれだけなのに、胸が高鳴ってしまう。世界で一番大切な人だと自覚してしまう。どうしようもなく、好きで好きでたまらない。

 ジョゼの言う通りだ。この想いを伝えなければ、どうにかなってしまいそうになる。

 この想いは英雄討伐という使命よりも簡単なのに難しい。

 かつて興味本位で恋愛小説を読んだことがあるが、その感情描写が当時はよく分からなかった。

『気が付けば毎日その人のことを目で追ってしまう』

『胸が張り裂けそうになる』

『隣りにいるだけで幸せになる』

『他の人と楽しそうにしているところを見てしまうと苦しくなる』

 今では全部分かってしまう。リアルタイムで経験している。

『いつまでも一緒にいたい』

『告白したい』

『受け入れてもらいたい』

『でも怖い』

 今も聞こえる雨音のお陰で、破裂しかける心が多少落ち着く。苦しい。でも心地いい。明日も、明後日も、告白できる勇気を持てるまで、この気持ちを引き摺って、ユキの行動にドギマギしながら旅が続く。だからこっそり、雨音に覆い隠してもらうことにする。

 

「大好きです。ユキ。愛しています」

 

 どうか聞こえませんように……

 どうか伝わりますように……

 

 

「濡れた路面は滑りやすいから意識してね、怖かったらゆっくりでいいから」

「分かりました。引き続きご指導お願いします」

 翌日。夜中の大雨が噓のようにカラッと晴れたが、路面はちゃんと乾いておらず、バイク初心者のルゥにとっては運転が難しくなってしまったが、オフロードでもトップスピードで走れるユキが後ろで教えてくれているので安心して運転できる。

 もう少し運転に余裕が出てきたら、ユキは教官から同乗者へクラスチェンジすることが出来る。ただ、唯一の謎は、時々ユキが操縦を教えるため、ルゥに身体を寄せると一瞬ビクンッ!と僅かにルゥが反応することだ。驚いてしまうのだろうか?今度からは先に言ってからにしようと誓うユキだった。

 そんな誓いをして約三十分後、二人は目的地である黎明の旅団第一支部の近くに到着した。

 ここからは歩いて向かう。よくよく見てみると、何だか殺気立った人が段々と増えてきている。そんなところに世界でも希少なバイクで乗りつけてしまうと注目の的になってしまうためだ。

 入団試験者に紛れ込んで旅団のメンバーを驚かせたいという、ユキのイタズラ心にルゥが乗っかったのだ。

 ついでに周囲の人の会話から、入団試験の内容を聞き取ると試験内容は百年前と変わらない。『欲しければ力ずくで奪う』旅団の腕利きを打ち倒せば入団できるという至極シンプルなもの。何とも懐かしくて嬉しい。

「ユキさん?どうかなさいましたか?」

「どうして?」

「いえ、どこか楽しそうだったので」

「楽しいというか、懐かしいかな。行こ」

 二人は到着した第一拠点には、多くの人がひしめき合い、簡易テントの受付の列に並んでいた。ユキとルゥもその列に一緒に並んで待つ。

 右や左を見ると、人種や性別も関係なく様々な人がいる。黎明の旅団では種族は関係ない。ここでは実力が全てなのだ。だから、ユキには頼もしい『相棒』が出来たのだ。

「よし、次のヤツ来てくれ」

 ついにユキとルゥが旅団のメンバーに呼ばれたので、その通りに従った。

「ここに名前を書いてくれ。もし出身地があるのならばそれも書いてくれ」

「どうしてですか?」

「遺体を故郷に帰すためだ」

「随分入団希望者が増えたんだね」

「ああ。危険は伴うが稼ぎがいい。それに新たな『故郷』になる場所だ。増えて当然だ」

「成程ね。納得。ああそれと、『これ』は身分証の代わりになるかな?」

 ユキはニヤリとイタズラっぽく『それ』を懐から取り出して机の上に置くと、それを見た団員が突然立ち上がり『それ』をまじまじと見つめる。

「あ、あの、調べてよろしいでしょうか?」

「もちろん。どうぞどうぞ」

「で、では、失礼して……」

 団員は『それ』に手を翳し術式を発動すると、数秒後には姿勢を正してユキに敬語を使い始める。

「知らなかったとは言え申し訳ございません!」

「しーっ。秘密にして。ここで騒ぎにしたくないから」

「はっ!了解しました。そちらの方も関係者の方でしょうか……?」

「身元は私が保証するよ。どうするルゥ?入団試験、やってみる?」

 話を振られたルゥは数秒悩むと、ユキのような真っ直ぐな瞳を受付の団員に向けてこう言い放つ。

「入団試験、是非受けさせて下さい」

 

 その後すぐに二人は、試験会場である第二拠点へと移動する。

 第二拠点は第一拠点よりも広く、入団希望の人達はすでに準備された武器を選んで団員に挑む。そして団員に一太刀でも入れることが出来れば晴れて黎明の旅団に入団することが出来る。

 用意された武器は全て木製。種類は片手剣、双剣、両手剣、銃剣、斧槍、大槌、ルーンブレードの七種類。

 すでに多数の脱落者が出ているようで、救護班が脱落者の手当をしている。よく見ると、救護班も百年前に比べて随分と治療の無駄がなくなったように見える。そういえば、団長はかつてホリー先生の治療を受けていたことがあった。もしかしたらその伝手で治療方法などのレクチャーでも受けたのだろうか?

 そんなことを考えていると、いよいよルゥの出番となる。

 選んだ武器は彼女がいつも使う形状に近い片手剣。対する試験官の武器は両手剣。

「それでは、始め!」

 審判の掛け声と共に、ルゥは剣先をスッっと下げる。

 戦闘経験豊富な人にしてみれば、その行動だけで警戒心が跳ね上がる。

 その行動はわざとなのか、それとも、そういう癖があるのか、たまたまこの場の空気に吞まれて緊張したからなのか。その判断がつかない。だが、力量が相当であることは確かだ。

 そう思った矢先、下げられていた剣先が眼前にピタリと存在していた。

 何かの術式かと疑ったが違う。単純に疾いだけ。風をその場に置いて、音を斬り裂くような刺突を放っただけ。

 そりゃそうだ。ルゥは『あの』ユキのバディなのだから。

 リンネ封印の旅の中でも、暇さえあれば戦闘勘が鈍らないように鍛錬を積み、封印から解放され、日々のリハビリでも剣を振るっていたのだから強くないわけがない。

 果たして現在、この辺境域でユキとルゥに敵う相手は、両手の指程度しかいないのではないだろうか。

 というわけなので。

「そ、そこまで!入団試験、合格だ!」

「ありがとうございます」

 残心を忘れることなく、ルゥは試験官に一礼をして見事合格を果たすこととなったのだ。

「おめでとうルゥ。これで黎明の旅団の一員だよ」

「これでユキさんとお揃いですね」

「確かにそうだね。っと、次私の番か。行ってくる」

 愛剣に近い形状の木剣を持ったユキが試験官と相対するその時だった。

「全員傾注!!」

 旅団の一人が大声を張り上げ、試験会場にいた全員の視線を向けさせる。そこにいたのは、ユキとルゥにとっては懐かしい顔の二人。

 黎明の旅団団長、クレイグ・マクリーシュと、旅団最強の剣士、ライル・マクリーシュの姿があった。

「あの方が団長のクレイグさんか……風格が違うな」

「見ろ。ライルさんもいるぞ。俺もあんな戦士になりたいぜ」

 ざわざわとする試験会場。何せ旅団のトップがいるのだから、この反応は当然だろう。旅団のメンバーが落ち着くように言い聞かせるが、クレイグが無造作に右手を上げた方が効果があった。

「楽にしてくれていいぞ。これから試験に挑む者にちょっとしたアドバイスだ。自分が手にした武器に『なに』を込めて振るのか。それが理解出来ればこんな試験は楽勝だ。試験に落ちてしまった者たちにも同様の言葉を送る。そしてその意味が理解出来たら、もう一度挑戦しに来い。いいな!」

 その一言はここにいる全員の心を掴み、雄叫びを上げさせるのには充分な言葉だった。やはりこれだけの組織を率いるトップの言葉は違うなと、ユキは改めて感じる。のだが、一瞬だけしっかりと目が合ったのは、果たして偶然なのだろうか。いや、偶然であってほしい。絶対に面倒なことに付き合わされるから。

「どうだライル。ちょっと試験官として参加してくれないか?」

「かまわないが、誰とだ?」

「あいつだ。見込みがありそうだ」

 クレイグの指の先にいたのは、予想通りユキだった。やっぱり偶然じゃなかった。絶対探していた。確かに手紙に書いてあったが、そこまで露骨に探さなくてもいいだろうに……

 今度はライルと目が合う。もう逃げられない。やるしかない。

「ああ。そうだな。確かに見込みがある」

「そういうわけだ。そこのお前、名前を教えてくれ」

「……ユキと申します。ですが、なぜ私がライルさんと?」

「俺の勘は当たるんだ。旅団の連中も知っていることだ」

 そうですね。その通りですよ団長。あとで覚えてろよ。

「ユキだったか、試験内容は理解しているな?」

「もちろんです」

 ユキとライルは互いに虚空から使い慣れた武器を実体化させ、その柄を握ると同時に臨戦態勢に入る。もうすでに戦いは始まっている。そしてユキは思い出す。ライルの強さ、クレイグの強さ、黎明の旅団という団結の強さを。

 ユキとライルは目を逸らさず、円を描くように歩きながらじりじりと間合いを詰めていく。たったそれだけなのに、この場にいる全員が注目してしまう。ただしルゥだけはハラハラしてしまう。

 そして、ついに互いの間合いが噛み合う。もう圏内だ。

「「――――――ッッッ!!!」」

 互いの一撃目は首への左薙ぎ。互いに首を捻って斬撃を避けると、ユキの唐竹をライルは斬り上げで防いだ。

 そしてその勢いを利用して距離を取ると、ユキはその勢いを逆向きに反転してライルに斬りかかる。だが、当然その動きはライルには読まれている。斬りかかられた刃を、自らの剣の腹で受け流す。

 この一連の動きをしっかりと見れているのは、ルゥとクレイグ、旅団の古参メンバーだけだろう。

 それほどの剣戟。

 それほどの動き。

 これが一流の戦士の戦い。

 戦士である人が目指す果て。

 ここにいる全員が、目に焼き付けておくべき光景。

 今度はライルから仕掛ける。袈裟斬り、平薙ぎ、逆袈裟、突き。その全てが神速で繰り出される。

 だがユキはその全てに反応する。身をひねり、柄頭で弾き、刃で受け流し、同じ軌道で突きを放って弾くと、踏み込みの勢いをプラスした斬撃を繰り出す。

 誰もかれもが押し黙る。見入ってしまう。時間の感覚も狂ってしまう。

 だが、ルゥにだけは分かる。今のユキはリハビリブースターのお陰でライルとあそこまで渡り合えているのだが、もう身体は限界なんか越えている。これ以上は身体が壊れてしまう。最悪の場合は……

「もう、ダメです、ユキさん……」

 自然と身体が震える。呼吸が荒くなる。冷や汗が止まらなくなる。これ以上は、もう……『死んでしまう』

「あ…あぁ……あ……」

 その考えが浮かぶともうダメだ。気が付けば右手に武器を顕現させていた。あの二人の下に駆け出して、この戦いを終わらせなければ―――

「そこまで!!」

 クレイグの大声によってユキとライルはピタリと動きを止め、虚空に武器を溶かした。

「どうだライル。こいつは見込みアリか?」

「そうだな。こいつが完全に治ればさらにいいだろう」

「やっぱり分かっちゃってたか。これ以上やったら私死んじゃうよ」

「本当にな。一言いいか?」

「もちろん」

 ライルが拳を突きだすと、ユキも拳を突き出して当てる。

「久しぶりだな相棒。よく来てくれた」

「うん。相棒が元気でよかったよ」

「みんな紹介しよう。彼女の名はユキ。黎明の旅団のメンバーであり、ライルの相棒だ。ユキ、団員の証は持っているな?」

「勿論です。団長」

 ユキは背中側のベルトに取り付けてあった黎明の旅団の証であるダガーナイフを取り出して、ここにいる全員に見せる。

 このダガーナイフは黎明の旅団のエンブレムが刻まれており、ここにいる全員の憧れであり、旅団のメンバーにしか持つことを許されないダガーナイフなのだ。

「改めまして、団員のユキです。マグメルへの出張任務から本日帰還したのですが、団長から試験を受けるフリをして、見込みのある人を知らせるように仰せつかっていたのです」

「さっきの組手は、相棒が訛っていないか確認するためだ。そして、我々はこのような状況に陥る可能性があると教えるためでもある。なぜ我々が命をかけなければならないのか。その意味も考えてほしい。俺からは以上だ」

 ライルのそれらしい言葉によって、ますます試験に対する熱量が増したことが伺える。利用しやがったな団長~と思っていると、その団長がやって来た。

「お久しぶりです団長。お変わりないようで何よりです」

「ああ。お前もな。さて、早速報告を聞こう。これから執務室に来てくれ。そこの見込みある新人と一緒にな」

「了解です。団長」

「ユキ」

「どうしたのライル?」

「今なら大丈夫だ。やせ我慢はここまででいい」

「やっぱり相棒にはお見通しだったか~」

 ユキは右手を胸に当てて再生力を全て使う。再生力は、黄金の果実をヤドリギで精製し体内に吸収し、任意のタイミングで術式のように発動させて使用する。再生力は文字通り、使用すれば身体を再生する力があり、最悪死ぬような傷を負っても再生力を発動することが出来れば元通りになる。

 ヤドリギに触れると再生力の使用回数は元に戻るが、それまで回復することはない。そのため、この再生力は人間に備わっているある種の特殊能力である。

 ユキの再生力の使用回数は十回を優に超えているが、その再生力を全て使い切らなければ命の危機が訪れようとするぐらいの負担が伸し掛かっていたのだった。

 ここまでしたのは黎明の旅団と旅団のメンバーに泥を塗らないようにすることだ。旅団のメンバーの強さ。それを率いるクレイグという絶対的な象徴。そしてライルとユキが相棒で、ユキを知らない人に覚えてもらうこと。

「よし、回復完了っと。ライル、この後は開拓者の城?」

「ああ。でもその前に怒られておけ」

 ライルのその言葉が引き金となって、ユキは背後から誰かに力強く抱きしめられたら。

 ユキの身を心配しながらも、怒りの感情が分かるような力加減で抱きしめられる。気配で分かる。

「ルゥ?」

「……なぜ、あのような無茶をしたのですか?」

「大丈夫だよ~自分の身体は自分が分かって」

「私は心配でした!!」

「うおぅっ!?」

「貴方がっ…死んでしまうのではないかとっ……」

 よほど心配だったのだろう。涙声になっているし、少し震えている。これは怒られて当然だ。恐怖を与えてしまった。悲しませてしまった。いつまでも一緒だと約束したにも関わらず、その約束を破るような戦い方をしてしまったのだ。

 ユキの首に回されたルゥの腕を優しく掴む。

「ごめんなさい、ルゥ。怖い思いさせちゃって」

「……本当ですよ」

「えっと……何をしたら許してくれるかにゃ?」

「……一週間貴方を抱き枕にします」

「え?てっきり血を吸われるのかと思ってたけど」

「……瀕死の貴方から血を吸うなんて出来ません」

「もういいか?そろそろ行くぞ?」

 ライルはクイッっと指でユキとルゥを急かすと、開拓者の城に向けて歩き出す。それに続くようにユキとルゥも歩くが、ルゥがくっついたままなので、多少歩きづらい。これは暫くこのままだろう。まぁ、ここから開拓者の城までの距離はそう遠くないので、抱きつかれたままでも、何ら問題はない。

「感謝するぞユキ。あの場でクレイグに敬語で喋ってくれて」

「ライルとは相棒だけど私はヒラ団員だしね。試験中に団長にタメ口で話せないよ」

「それも含めてだ。本当に感謝している……いつまでそのままのつもりだ?」

「ルゥの気が済むまでかな~滞在中の部屋ってどこ?」

「客人用の部屋になる。二人部屋だ」

「そうなんだってルゥ。きっとベッドも快適だから、私の回復も早いだろうな~」

「……」

「素直に諦めておけ、相棒。ルゥ、俺も悪かった。相棒とは久しぶりで、ついやり過ぎた」

「……」

「ライルごめん。抱きしめる力が増した」

「クレイグにも頭を下げさせるか」

「そうしよう。ある意味元凶はクレイグなわけだしね」

「……ッ」

「ルゥごめん!流石にそれ以上は痛いからご勘弁を~」

 

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