CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路 作:ミヤビコウ
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただけたなら幸いです
「あっちに行け。それで助かる」
「で、でもキミは」
「早くしろ!さっさと行け!!」
「わ、わかった……」
「ふん……やっと行ったか…時間を稼がせてもらおうか」
『やっほー!五体満足、リハビリブースター全開のユキだよ!ルゥと一緒に全力で旅を楽しんでるから安心してね!最近はルゥと交代しながらバイクの運転してるよ。だからルゥにもバイクを用意してくれないかな?ツーリングしたい!あ、旅団の皆も元気だから安心してね。その内ライルとクレイグが来るかもよ?次は屍人の森。いよいよ定期健診受けてきまーす! 黎明の旅団マグメル支部責任者ユキ 黎明の旅団マグメル支部副官ルゥ・マグメル』
「なんだマグメル支部ってよ」
「いつの間にか出来たの?」
「ユキは旅団の一員だが、マグメルにいるからね。言い訳の理由としてじゃないかな」
「成程な。で、次はホリーのところか」
「ブースターも含めて、ちゃんと検査してもらいなよ、ユキ?」
「えっと?今いる所はこのヤドリギだよね?」
「ええ。ですので道なりに進めば罹患者の村に辿り着きます」
「これだったらお昼前に着きそうだね。あそこは建物多いから、どの部屋で寝ようか迷っちゃうな~」
屍人の森に続く道にあったヤドリギで、地図で道順を確認するユキとルゥ。
今二人が見ている地図はリンネ封印の旅から使っているモノで、道標になるモノ、ルート、探索した箇所、探索で発見したモノ等々が無数に書き込まれている。使い込まれている。
もちろん、この旅での出来事、発見、書き込むことがあれば、寝る前に地図を広げて書き込んでいる。まだまだ積み上げる『歴史』は、たっぷりあるのだ。
「よし、それじゃあ向かいますかね」
「今度は私が運転します。ここまでユキさんの運転でしたから変わります」
「うん。お願いね、ルゥ」
「はい」
~~~屍人の森・罹患者の村~~~
「……」
「……」
二人は村の前でバイクを収納し固まっていた。
罹患者の村は大事変以前に建造された村で、この上にある療養所の患者の長期治療を目的とした村で、子供の患者が楽しめるように遊具まで設置されている。以前の旅で立ち寄った時には、壁や天井の一部が崩れていたり変異種の巣窟になっていた。なっていたのだったが。
「ここって罹患者の村……で、いいんだよね?」
「ええ。何度も地図で確認していますが、間違いありません。罹患者の村…のはずです」
「整備とか修理されているよね?」
「はい。それに村から声も聞こえてきます。一人二人ではなく、大人数の声が」
目の前には、しっかりとした鉄製の門が取り付けられた『村』が存在していたのだ。
おまけに、扉には二人の門番までいる。本当にしっかりとした村、というか下手をすれば簡易要塞のようになっていた。
一応、いつでも武器を取り出せるように臨戦態勢で近づく。ライルとクレイグから聞いたリンネ信仰の信者という危険集団の可能性だってある。
「そこで止まってくれ」
「目的はなんだ?」
「えっと……言いたいことがいっぱいあって何から言っていいのか迷ってまして……」
「あれは……ユキさん、いいですか?」
門番を観察していたルゥが、あることに気が付く。そこでユキに二、三耳打ちすると、二人はベルトの後ろに装備しているダガーナイフを取り出して門番に見せた。
「これでよろしいでしょうか?」
「ん?おぉ、なんだお前らも仲間だったのか。だったら早く言ってくれればいいのによ」
「申し訳ございません。先日の入隊試験で合格した新人なので、慣れていませんでした」
門番の腰に装備されていた、黎明の旅団の証であるダガーナイフがあったのだ。だったらこちらも証を見せればいい。それで充分だ。
「すまん。一応術式で確認させてくれ」
「なんか厳重だね。要塞基地かなにかなの?」
「ある意味ではそうとも言えるな。確認完了。大丈夫だ。間違いなく我々の仲間だ」
「よし、通ってくれ」
旅団の一員でよかったと思いながら、鉄製の門をくぐると、そこには多くの子供たちが遊び回る村があった。
四方八方から聞こえてくる子供たちの楽しそうな声。もちろん大人もいるが、どう見ても子供の方が多い。
ここにいる子供も療養所の患者なのだろうかと歩きながら観察してみるが、ほとんどの子供が元気に走り回ったり、遊具で遊んだりしている。元気の一言。患者ではなさそうだ。
確かにここは門番が言ったように要塞基地ばりに重要だ。未来ある子供たちがこんなにも沢山いるのだから。黎明の旅団が門番をしているのも頷ける。
「あら?あなたは……ユキさんとルゥさんですか?」
「はいそうですけど…あ、療養所の看護師さん!」
「お久しぶりです。定期健診をお願い致します」
「もちろんです。ホリー先生とカミロ先生がお待ちですよ」
~~~屍人の森・療養所~~~
「ありがとうございます。わざわざ乗せていただいて」
「いえいえ。お互い様ですよ。ルゥ、出てきて大丈夫だよ」
『はい』
ユキの疑似心臓から黄金の奔流が出てくると、その場でルゥが姿を現す。看護師さんをバイクに乗せるため、ルゥがユキに憑依していたのだ。
二人は療養所入り口のヤドリギに触れて敷地内に入る。
その視界に入るのは、とても美しい青のリコリスの花畑。多くの生命が溢れている花畑だ。この花を見るたびに思い出す。死してなお家族を愛し続けた人のことを。
「人、増えました?前に来た時より多いような……?」
「ええ。医療スタッフが増えたんです」
「へーそんなんですね」
「では、お二人とも、こちらでお待ちください」
看護師に案内された待合室に、ちょこんと並んでイスに座るユキとルゥ。ちなみにだが、そのイスの間隔はとても狭く、お互いの腕や肩が触れ合ってしまうぐらいだ。
「~♪~~♪~~~♪」
「……」
ユキはいつもの鼻歌を歌い始める。一応療養所なので音は小さめだが、隣に座るルゥにはバッチリ聞こえている。
とても心地の良い歌だ。こうして聞いているとリラックスできるし、このまま目を閉じれば眠れる自信がある。だが、このまま歌い終わりまで睡魔と戦うことにした。愛しい人の歌なのだ。意地にもなる。
ほんの少しだけ互いの肩が触れる。
「っ!///」
「ルゥ、どうかしたの?ビクッてしてたけど」
「ええと、その、眠りそうになってしまって///」
「わかるな~私何回も温泉で寝落ちして溺れかけたって」
「そのたび、ヤドヴィガさんに茶々を入れられていましたね」
「『そんなに疲れているなら、疲労回復グッズを売ってやる』商魂逞しいよね」
危ない危ない。どうにか世間話にすり替えられた。
「そういえばさ、ここってピアノあったよね」
「そう、ですね。確かにあったはずです」
「あとで演奏しようかな。マグメル出てから弾いてないし」
「一日演奏しないと、取り戻すためには三日かかるでしたよね。大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。秒で取り戻すから」
ルゥの前で指を動かしながらおどけてみせるユキ。やめてください。可愛いです。診察前に脈拍数を上昇させないでください。だが、そんな心配は杞憂に終わる。なぜかと言えば簡単だ。
座ったまま、真正面から二人纏めて抱きしめられたからだ。
「んぷっ」
「んんっ」
このぎゅーっと抱きしめられる感触。嬉しいけど物理的に呼吸困難に陥るこの感覚。百年前にも、封印から解放され、リハビリ初日に危うく窒息死を迎えかけたことも覚えている。
「元気そうで安心したわ。久しぶりね、ユキちゃん!ルゥちゃん!」
色欲の血族、ホリー・アストゥリアスだ。
彼女は嬉しいことがあると誰かを抱きしめる癖がある。二人に再会したことが、それほどに嬉しかったのだろう。二人が酸素欠乏症に陥るぐらいに強く抱きしめる。
「止めないかホリー。二人が死んでしまうよ」
「え?あらやだ、私ったらまた……」
たしなめてくれたのは、ホリーの父親、カミロ・アストゥリアス。ホリー同様に優れた医師だ。
「ぷはぁっ!ホリー先生もカミロ先生も元気そうで私も嬉しいよ」
「はい。それでは早速なのですが、定期健診をお願いしても?道中のお土産話も持参していますので。ですよね?『上官殿』?」
「うぐっ……はい……」
「「?」」
にっこりと笑いながら『上官殿』とユキを呼ぶルゥのセリフは最近できた新たなルゥの癖だ。その意味は『分かっておられますよね?ユキさん?』というルゥの怒りの表れ。
酸の谷での出来事、誤魔化することが出来なくなったなぁ……と、うなだれるユキであった。
「ユキちゃん。無茶はダメだってあれ程言ったじゃない!」
「申し訳ございませんでした……」
「謝っても許しません!はい、口を開けて」
「あー」
「喉の奥は異常なしっと。お父さん、二人のリハビリブースターはちゃんと機能しているかしら?」
「うん。問題なく作用しているよ。だけど、ユキ君のブースターに過負荷の傾向が見られるね。もしこのままだと、近いうちに一か月はベッドの上での生活が待っている」
「だそうですよ上官殿。ご自愛ください」
「うぅ、重ね重ね申し訳ございません……」
診察室にてアストゥリアス親子による健診を素直に受ける二人だったが、やはり酸の谷でのライルとの一戦のことをルゥが『詳細』に話したものだからユキの健診はより精密なものとなってしまった。
「うん。身長と体重は以前と変わらず。視覚聴覚にも問題なしね」
「では次に血液を採取して……ユキ君は相変わらず注射が苦手だね」
「だ、だだだだだって……戦闘と注射は別物なんだもん!」
これは封印から解放されてから分ったことなのだが、ユキは大の注射嫌い。戦闘で幾つもの傷を負っているはずだし、その戦闘中でアンチ系やバフ系の薬剤を簡易注射器で幾つも注入しているはずなのに、こういった場での注射がどうにも苦手なのだ。
「大丈夫よ。ちょっとだけチクッとするだけだから。すぐに終わるわ」
「でも採血中ずっと血管に針が刺さったままなんでしょ!?痛いよ怖いよ嫌だよ!」
「わがまま言わないでください。私はもう終わりました」
「いつの間に済ませたの!?」
「ユキさんが駄々をこねている間に、ホリーさんに」
「や~だ~!こわいよ~!」
「仕方がありません。この手段は使用したくありませんでしたが……」
そう言うと、ルゥは虚空からある術式を顕現させてユキに向ける。
伝承術式『イドリスの驕り』その形状は戦斧で、ある特殊な力が存在する。
それは、対象をスロウ状態にするというもの。つまり、怖がって腕をバタつかせているユキの動きをとってもゆっくりにすることが出来る。それこそ、医師が素早く注射できるくらいに。
ハッと気が付いたユキが逃げようとするがもう遅い。すでに術式は発動されている。
「それではよろしくお願いいたします」
「大丈夫よユキちゃん。たった数秒で終わるから」
「やはり吸血鬼ハンターは血管が太くて注射がしやすい。ではユキ君。採血させてもらうよ」
スロウ状態でも、すぐに涙があふれるのだと、その時ルゥは初めて知ることとなった。
「ルゥの意地悪、裏切り者、最高のバディだよ、こんちくしょう……」
「賞賛として受け取ります。本当に注射嫌いですね」
「……自分でも不思議に思ってる。蘇る前に何かあったのかな……」
検査結果が出るまで、ユキとルゥは療養所のピアノが展示されている部屋にいた。
どうしてもユキがピアノを見たくてここにいる。というかピアノを触りたくてウズウズしていると言った方が正しい。
一応ホリーとカミロに触っていいかと聞いている。もちろんOKは出ているが、ちゃんとした音が出るのかは分からないそうだ。ということで、早速確認している。そうしなければ注射の恐怖を拭えないだろうから。
♪~
♪―
♪~~
「ん~半音ズレてるかな~」
「よくわかりますね」
「自分でも驚いてる。このぐらいかな?」
♪―
♪―
♪―
「ん、直った。リクエストはございますか、ルゥお嬢様?」
「え?で、では、マグメルで子供たちに聞かせている曲をお願いできますか?」
「かしこまりました。ルゥお嬢様」
ルゥに向かって一礼し、イスに深く座って、手をぐっぱぐっぱと閉じて開いて準備運動をすると、深呼吸をして鍵盤を優しく叩くと、それよりも優しいピアノの音色が療養所に響き渡る。
久しぶりに聞いたユキのピアノ。初めて聞いたのはユキが蘇って二日後のことだ。急に聞こえてきたピアノの音色に驚いたルゥはその部屋へと向かった。
マグメルでピアノがある部屋は一つしかないので辿り着くのは簡単だった。そこでルゥが目にしたモノは、とても真剣な表情でピアノを弾くユキの姿だった。
全く知らない曲だったが、その優しい音色は誰しもが聞き惚れるような曲だった。指は鍵盤の上で躍り、走り回り、ユキ自身も全身を使って魂から絞り出すかのように演奏をしていた。
思えばあの時に心を鷲掴みされたのだ。驚きがあったが、それ以上に胸が高鳴ったのだ。きっと今、自分の表情を鏡で見たらイリスにからかわれてしまうだろう。何せその表情は、恋する人の顔そのものなのだから。
「すごい!ユキちゃんってこんなにピアノが上手なのね」
「ホリーさん。検査が終わったのですか?」
「ええ。さっき終わったわ。それで迎えに来たのだけれど、今、声をかけるのは、ね?」
「そうですね。終わるまで待ちましょう」
ここでこの演奏を止めるような愚か者はいないだろう。それほどまでに素晴らしいピアノリサイタルなのだから。
その数分後、最後まで弾き終えたユキは、静かにイスから立ち上がると、鍵盤の蓋を閉じて深々とお辞儀をした。
これが演奏終わりの合図。本人に聞いたところ『そこまでやらないと気が済まない』だからだそうだ。これもユキが『生前』に覚えていたことなのだろうか。
聞いていた療養所のスタッフや、患者さんからの温かい拍手が、この演奏に対する評価となって聞こえてくる。大満足のようだ。
「うわぁビックリしたぁ!あ、ホリー先生も聞いててくれたんだね。ちょっと恥ずかしいよ~」
「そんなことないわ。もっと誇って頂戴。子供たちに聞かせてあげたいわ」
「子供?そうだ、ルゥの検査結果は?健康に問題ないよね?どうなの?」
「ちゃんと説明するから落ち着いて。二人とも、診察室へ」
「まず、検査の結果だけど、二人に異常は見られなかったわ」
「術式での検査も正常値。リンネの影響による変異の兆候もなし。全くと言って程の健康体だね。色欲の血族の名に誓ってもいい」
「よかった~ルゥに何かあったらどうしようかと思ったよ」
「私も同じです。ユキさんに問題がなくて良かったです」
互いに互いの無事を喜び合う二人。この二人は本当に仲がいい。その姿を見るだけでホリーも嬉しくなる。いや、ここまで来てくれたことだけでも嬉しい。
水没都市や酸の谷を抜けて、ここまで来てくれただけでも健康だという証だ。……酸の谷での出来事は旅団に抗議をしっかりと入れておくとして。
そして、ホリーはカミロに目配せをして頷き合う。医師として伝えなくてはならないこともあるのだ。
「確かに二人は健康なの。だけど、ユキちゃんの検査結果で一箇所だけ気になることがあるの」
「え?そうなの?」
「ホリーさん!それはユキさんの命にかかわるようなことなのですか!?入院が必要でしたら今すぐにでもお願いします!!」
「ルゥちゃん落ち着いて。さっきも言ったけれど命に別条はないからね」
「ルゥ、まずはホリー先生の話を聞こうよ。まずはそこから。ね?」
「ですが!!」
「ルゥ君。さっきホリーが言ったようにユキ君の命に別条はないのは確かだ。それはちゃんと証明されているし、何度も検査もした」
カミロがどうにかしてルゥを落ち着かせる。血液検査だって術式検査だって彼がしたのだから間違いはない。
「これはユキ君が吸血鬼ハンターだからこその数値だ。この項目を確認して見てくれ」
カミロが指差す所には『BC値』という項目が書かれている。
「ごめんカミロ先生。私分かんない……」
「すまない。これは『ブラッドコード値』と言ってね。吸血鬼が持つブラッドコードの濃度を指す値なんだ」
「この値が多いと、強力なブラッドコードを持っているということが分かるの。ちなみに人間だとブラッドコードの適応率で、数値が高ければよりブラッドコードとの親和性が高くなるの」
ブラッドコードとは、吸血鬼に宿る血の因子、つまりDNAに近い存在で、吸血鬼一人一人で因子は違う。
だが、ブラッドコードは時が経つと徐々に強くなり、より強力な術式も扱えるようになる。
そして吸血鬼ハンターは、そのブラッドコードを疑似心臓であるジュエルに取り付けて、身体になじませることで変異種に立ち向かえる程の身体能力や、人間の身で吸血鬼でしか使えない術式を使えることができるのだ。
因みに、このブラッドコードは付け替えが可能で、状況に応じて吸血鬼ハンターはブラッドコードを変える。それこそユキのように。
「成程。私ハンターだけど知らなかったよ。でも何が問題なの?」
「人間の平均値は40~60。高ければ80だね。そしてユキ君の値はというと203。異常なぐらい高い」
「えっと、どういうこと?」
「ユキちゃんの侵食現象が特殊なのは、このBC値が高いからかもしれないの」
「ユキさんの侵食現象は、吸血鬼の血に刻まれている記憶を見られますよね」
「てことは、このBC値が高いから、私の侵食現象は特殊ってこと?」
「数値だけを見るとそう考えられる。ユキ君はブラッドコードとの親和性が高い。だからこそなのだろうというのが、ホリーと僕の見解だ。詳しくはゼノンさんに頼めば調べてくれるだろうが……」
「でも、生きていく上では問題ないんですよね。だったら『そういうこと』ってだけですよ」
「ですがユキさんに何かあれば……!」
「ルゥに問題がないなら大丈夫だよ。ルゥに何かあったら、私にも反動が来るし。それがないんだったら問題ないでしょ。ルゥの命は、私の命でもあるんだしさ」
「ですが……」
「そうだ。検査も終わったことだし、久々に薬湯に入っていかない?効能も百年前より向上しているから、ここまでの旅の疲れだって癒えるはずよ」
「いいの!やったー!」
「じゃあ、検査結果は僕がまとめておくから、ホリーも入ってきたらどうだい?」
「え?でもそれじゃあ……」
「構わないさ。ゆっくりしておいで」
「カミロ先生がこう言ってるんだよ?行こうよ!決定事項だよ~♪」
「分ったわ。是非そうしましょう。もちろんルゥちゃんも一緒よ?」
「私もですか?」
カポーン……
「あ~よきですな~マグメルの温泉もいいけど、ここは格別だよ~」
「ユキさん、寝てはダメですよ」
「そうよ。お風呂で寝ちゃうのは気絶に近いのだから、気をつけなきゃいけないのよ」
「気を付けます」
療養所の一角、というか、療養所の名物でもある薬湯は入っただけでも傷や疲労の回復だけでなく、病にも効果がある特別な薬湯で、定期的にホリーが術式を施しているのだ。
色欲の血族には癒しの力の術式が使えるのだが、使えば反動としてリンネによる変異にも似た副作用があったのだが、カミロの尽力によりホリーがその病を克服。そのおかげで、これまで以上に術式を使えるようになったので、連日患者が訪れるようになったそうだ。
「多くの病を治療できるようになったことはいいのだけれど、ここまで来なければならないデメリットがある。だから、ヤドリギの近くに療養所を建設して、治療が必要な人の元へこちらから出向く計画をしているの」
「確かに、ヤドリギの周囲は安全です。簡易的な療養所があれば安心ですね」
「今、療養所にいるスタッフが多いのは医学を学ぶための研修医がいるからなの」
「医学の修行中ってことなんだ。一人前になったら簡易療養所の常駐医師になるんだね」
「まだ屍人の森での試験段階なのだけど、いずれこの辺境域全体に広げたいの」
「ジョゼさんやクレイグさんも、きっと協力してくれるでしょう」
「だね~。あ、そうだ。ホリー先生、あの罹患者の村どうしたの?」
そう。あの罹患者の村はどういった用途で使われているのが今だに謎だった。屍人の森の一帯はホリーたちの管轄区域だ。知らないはずがない。
「あの村は、孤児院として修復して経営しているの」
「孤児院、ですか?」
ホリーの話では、リンネの脅威がなくなった今、様々な場所で調査が行われるようになると、細々と、でも力強く生きている子供たちが多くいることが判明したのだ。
両親を亡くし、それでも生きてゆくため、変異種の脅威から逃れ、身を隠しながら、何とか食べられるモノを死に物狂いで探して食いつなぎ、明日の命が訪れるかも分からない生活を送っているという報告がされたのだ。
そこでホリーが考えたのが孤児院だった。
安全に、かつ健康的に生活が出来るようにと真っ先に声を上げたのだ。その考えにはもちろん他の人間や吸血鬼も即座に賛成。修復も早くに達成された。
そう聞くと、なぜあそこまで警備が厳重だったのかも頷ける。数が激減したとはいえ、変異種はまだいるし、リンネ信仰者だっているのだ。全ては子供たちを守るためなのだ。
そればかりか、孤児院で育った子供たちが、ホリーに憧れて医療の道を選択し、そのまま療養所で医学を学んで、実際に医師や看護師として活躍している。
「そうなんだ。ジョゼとかライルは絶対に協力してくれるもんね」
「ええ。実際に水没都市と酸の谷で孤児院建設に適している場所の調査もしているの」
「確かにそうですね。安全かつ防衛が容易な土地でなければいけません」
そういえば以前ヴァレンティンから、『君たちがリンネを封印している間、この辺境域全体を豊かにしようと努力している』と言っていたのを思い出すユキ。
これもその一端なのだろう。百年という時間は、とても有用な時間だったのだと。
「あ、そうだ。ホリー先生、この辺でどこか屋根のある場所とか知ってる?私たちそこで寝るから」
「大丈夫よ。ちゃんと部屋を準備するから」
「ではお言葉に甘えさせていただきましょう。ユキさんの身体にこれ以上の負担はかけられません」
「ありがとう。ホリー先生」
「いいのよ。そうそう、ユキちゃんに頼みたいことがあるのだけれどいいかしら?」
「もちろんいいよ!何すればいい?」
ストック減ってきました……
ですが、今晩にもう一話投稿いたします