CODE VEIN Ⅱ 世界を『楽しむ』旅路 作:ミヤビコウ
この物語は多大なネタバレを含みます。
念頭に置いて楽しんでいただけたなら幸いです
「みんな、調子はどうかしら?」
「あ!ホリーせんせいだ!」
「うん!みーんなげんき!」
「みんなでおえかきしたよ!」
「ぼくも!」
「わたしも!」
ここは罹患者の村、もとい、孤児院で、あっという間にホリーは子供たちに囲まれる。ここに来た子供は、まずホリーやカミロが診察をする。身体も傷もそうだが、心の傷も探っていく。
心はそう簡単に治るモノではない。だからこそ、ホリーは必ず孤児院に顔を出して、心理カウンセリングも兼ねて子供たちと過ごしているのだ。
反応を見るに、ホリーは子供たちにとってのお母さんのような存在なのだろう。全員が全員、笑顔で駆け寄ってくる。
が、すぐに子供たちは警戒するような表情を取る。少し前まで命の危険と隣り合わせな環境で生きてきたからなのだろう。『初めて見る人』がいるとそうなってしまうのだ。
「紹介するわね。この二人は私のお友達で」
「私の名前はユキ。よろしくね?」
「ルゥ・マグメルと申します。どうぞ、ルゥとお呼びください」
事前にホリーから説明は受けていた。初対面の人には必ず警戒し、中にはパニック状態になる子もいる。
きっと特異な視線を向けられることになる。それでも二人には、いつもの二人でいて欲しい。と。
説明は受けていたが、やはり視線が痛い。なので、突き刺さる視線の矢じりを『これ』で取り払う。
というか、お願いされたのだ。『子供たちのために、楽しい雰囲気の曲を聞かせてあげてくれないかしら』と。
そんなわけで、持っていたケースからゆっくりとバイオリンを取り出す。ゆっくり取り出すのも、子供たちが警戒しないようにだ。
もう何度弾いたか分からないこのバイオリンは、今ではユキ専用のバイオリンだ。そして子供たちの目の前でチューニングを行う。これがどういう目的の道具なのかを知ってもらうためだ。
~♪
―♪
―♪
軽~くズレている。道中も手入れはしているのだが、バイク移動でのがたつきが原因なんだろうか?なのでチューニングし直す。ほんの少し弦を緩める。
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準備万端。本日のコンサート会場は孤児院の広場。リクエストは楽しくなる楽曲。本日のお客様は子供が多いので、笑顔を常に意識しなければ。
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曲調は優しいながらもアップテンポ。まるで、この広場で音符が飛び回って踊っているような感じだ。その演奏に合わせるようにユキは円を描くように動く。奏者も音符も踊っている。こういう時は、奏者が楽しまなければ、観客を巻き込んで楽しむことは出来ない。
ユキは演奏しながらチラリとルゥとホリーに視線を送る。最初に誰かが動いてくれると、後に続きやすいから。
二人は小さく首を縦に振ると、リズムに合わせて手拍子を始める。バイオリンの邪魔をせずに、この演奏に参加する。
しばらくは二人だけだったが、一人、また一人と演奏に参加してくれる。
「いいね!みんなその調子だよ!」
ユキの明るい声が、子供たちの心を溶かして、楽しいという感情を引き出す。さらにテンポが増していく。それに合わせて手拍子も増していく。多少のズレは関係ない。ズレたって構わない。それが楽しいのだから。その証拠に、とても可愛い笑顔の合唱まで聞こえてきたのだから。
「よ~し!名残惜しいけどそろそろ終わり!せーのでパンッ!だよ!」
本当はもう少し長引かせることも出来るが、キリよく終わらせた方がより盛り上がる。
「いくよっ!せーの!」
この広場でのピリオドは、それはそれは元気な拍手で終わったのだった。
「さ、さっきのおうた、そのがっきで、できる?」
「まかせなさい!えっと、~♬~~♪~♪~」
「すご~い!!」
「じゅつしきみた~い!」
「ユキおねえちゃんかっこいい!!」
「ふっふっふ、ユキお姉ちゃんは一度聞いた曲ならば、すぐにこのバイオリンで弾けてしまう特殊能力を持っているのだ~!」
「「「わぁ~~~!」」」
この孤児院で一番大きな施設の中で、子供たちにバイオリンの演奏をせがまれるユキ。もうすっかり人気者だ。誰もユキに警戒心を抱く子供はいないだろう。
「やっぱり、ユキちゃんだったらこうなると思ったわ」
「ユキさんは人たらしですからね」
その様子をイスに座りながら眺めるルゥとホリー。子供全員の興味がユキに向いている。そこに入るには少々勇気がいる。
「さっき、ユキちゃんに曲を頼んだ女の子、スノーという名前なの。でも、名前を教えてくれたのは、ここに来てから二週間後だった」
「そう、だったのですか」
「声を潜めて、気配を潜めて、心を沈めなければ、生きていくことのできない環境にいたと思うと気が滅入る。私には癒しの力があるけれど、その手が届かない所があるんだって思い知らされる」
「ホリーさん……」
「百年前もそうだった。リンネ封印の時に、もっと何か出来ることがあったんじゃないかって。そう思ったからこそ、手を伸ばすことを諦めることはしたくないって誓ったの。これからもね」
黒一色の歴史では、ホリーは『皆殺しの英雄』という名で呼ばれていた。だが、一緒の目線で辿った歴史では、自らを省みずに誰かを助ける、まさに医師の鏡だ。その心は変わるどころか強くなっている。やるべき事をしっかりと見据えて行動している。
「ユキおねえちゃん。こんどは、このきょくやって」
「じゃあスノーちゃん、歌ってくれないかな」
「うん!~♪~~♫~~~♪」
「ふんふん……ん?この曲って……」
「ユキおねえちゃん、このきょくむずかしいの?グスッ、ご、ごめんなさい、うぅ……」
「大丈夫だよスノーちゃん!ユキお姉ちゃんにまかせなさい!」
スノーのリクエストを耳コピして、バイオリンを弾き始めるユキ。スノーは、バイオリンで奏でられる曲に大満足したように笑顔を取り戻す。
「スノーちゃんってさ、この曲好きなの?」
「うん!ホリーせんせいもすきなの!」
「そっかそうなんだ。よし、サービスでもう少し長めに弾くね」
「ほんと!?やったぁ!!」
「スノーだけズルいぞ!」
「そうだよ。ユキおねえちゃん、ぼくにもサービスしてよ!」
「あたしも!」
「おれも!!」
「わかったよ。皆にも大サービスするから!」
その日の夜、ユキとルゥは孤児院の空き部屋に案内された。修復はしたものの、部屋が余りまくっているのが今の孤児院の現状だそうで、いや、空き部屋があるということは、孤児が少ない証拠なので嬉しいのだが、黎明の旅団から派遣されている門番および警備員、孤児院のスタッフの部屋として活用されている。
ちなみに、ユキとルゥがしばらくここで生活することになった事をホリーが子供たちに伝えると、ものすごく喜んでくれた。ホリー先生の友達で、楽器が上手いユキと、読み聞かせが上手なルゥの二人がいるのだから。
「ホリー先生には感謝だね。野営が部屋になっちゃたんだしさ」
「それに、子供たちにも受け入れてもらいましたしね。よかったです」
「バイオリン様様だよ。明日はピアノ。しばらく音楽漬けだ~」
「よかったではありませんか。私もユキさんのピアノやバイオリン、好きですよ」
「嬉しいこと言ってくれるね~さて、それじゃあ私たちも休もうか」
「はい」
ユキとルゥはいつものように一緒のベッドに入ると、ランプの明かりを消して入眠することに。いつもならユキは数秒で眠ってしまうのだが、今晩はそうではなかった。
「ルゥ、起きてる?」
「ユキ、さん?珍しいですね。もう眠ったかと思いました。どうかなさいましたか?」
「スノーちゃんのリクエストの曲、覚えてる?」
「はい。あれは、封印殻を破る際に使ったオルゴールでしたね」
「スノーちゃんから聞いた話じゃ、ホリー先生がよく聞いてて覚えたんだって。……ちょっと複雑かな」
「ユキさん……」
ユキの声色から、多少の後悔の念が感じられる。それは『今』のホリーの活躍を見せたい人がいるからだ。
『ホリーのこと…よろしく頼む』
その人から言われたあの言葉は今でも忘れることはない。
とても愛情深く、誰よりも家族を愛した人もことを。
「時間遡行が使えたらなぁ……」
「ユキさん」
「分かってる。厳重に封印したしね……」
現在、ルゥの時間遡行の術式はラヴィニアとゼノンによって厳重に封印されている。リンネの封印が成った今、そのような術式を行使する必要はないが、これ以上の過去改変は危険と判断されたからの封印だ。これはルゥも納得している。
「うん。切り替えよう。出来ないことは出来ないしね……ルゥ」
「どうかなさいまし…え?」
ルゥが気が付いた時には、ユキがルゥに抱き着いていた。ルゥはビックリしながらも、ユキを優しく抱き返す。本能的に誰かの体温を感じて安心したいのだろう。こうなるとユキは寝つきが悪くなる。だからきっと、今晩はルゥが先に寝付くことになるだろう……
翌朝。
孤児院のスタッフと一緒になって、子供たちの朝食を作る手伝いをするユキとルゥがいた。二人の調理スキルはかなりのもので、スタッフの指示を的確にこなしながら盛り付け用の皿を準備しつつ、本日のメイン、キノコソテー用のソースを作ってスタッフさんに味の確認をお願いする。
「すごいわね。完璧よ。ここまで手際がいいと、ウチに欲しくなっちゃうわ」
「ありがとうございます」
「旅団のメンバーに朝食渡してきたよー。あ、使い終わった調理器具片付けますね~」
こちらが指示する前に、汲み取ってやってくれるのだから舌を巻く。時計を見ると、いつもより早く朝食の支度が終わろうとしていた。本当に感謝だ。
もう少ししたら、みんなで朝ごはんだ。
本日は、簡単な計算の勉強がある。
子供たちの中には読み書き計算が出来ない子もいる。知識は持っていて邪魔になることはないし、ホリーのような医療従事者になるのならば専門知識がなければならない。
ここの子供たちはホリーに憧れている子が大多数なため、こういった勉強の時間は苦にならないそうなのだ。
いつもならスタッフが教えているのだが、本日はユキとルゥが担当することになっている。というか、子供たちのリクエストなのだ。
「あの、どうして私も伊達メガネをかけらければいけないのですか?」
「いや~この方が知的に見えて先生っぽいかな~って」
「はぁ、わかりました」
多少呆れるルゥだったが、ユキはいつもどこかしらで遊び心を入れて楽しませようとする。本当に人たらしだ。そして計算の勉強が始まる。講師はメグメルにいる子供たちにも勉強を教えているルゥで、ユキはその補佐だ。
「今日は、実際にあった出来事で、計算の勉強をしていきます。いいですか?」
「「「はーい!」」」
「実は、私は甘いお菓子が大好きです。みんなはどうですか?」
「だいすき!」
「おれも!」
「ぼくも!」
「そうですよね。そこで、みんなで食べようと用意しておいたチーズケーキが四つありました。ですが、そこのユキお姉さんが、我慢できずに一つつまみ食いしてしまったことがあったんです」
「ちょっ!?ルゥさん!?それ恥ずかしいからやめて!」
「「「あはははは!!!」」」
「良かったですねユキお姉さん。みんなが笑ってくれました」
「くぅぅ……」
「では、残ったチーズケーキは、あといくつでしょうか?」
「えっと……」「よっつからひとつたべて……」「んっと……あ、わかった!」
「わかったら、私に耳打ちで答えを教えてください」
子供たちと同じ目線までルゥはしゃがむと、子供たちは我先にとルゥに耳打ちで答えていく。敢えてこのような方法にしたのは、一人一人が悩んで考えて答えられるようにだ。たとえ答えが分からなくとも、考える力を養うことだって重要だ。
「みなさん正解です。よくできました」
「「「やったー!」」」
「では、おさらいをしましょう」
スッと手を翳すと、術式を利用して黄金色のチーズケーキを四つ作り出す。
「すごーい!」「ピカピカー!」
「ここに四つのチーズケーキがあります。ところが、ユキお姉さんが一つ、つまみ食いしてしまいました」
「ルゥ~もうやめて~」
ルゥは指を鳴らして、その内の一つを黄金色の奔流に変えてユキのお腹の辺りに流し込む。チーズケーキをつまみ食いした事実を確かなものとするために。
「それでは、今、チーズケーキはいくつありますか?」
「「「みっつー!!」」」
「その通りです。残ったチーズケーキは三つです。なので、答えは三です。それと、みなさんもユキお姉さんのように、つまみ食いをしてはいけません。喧嘩になってしまうかもしれませんからね。ルゥお姉さんとの約束です。いいですね?」
「「「はーい!!!」」」
「は~い……」
「「「あはははは!!!」」」
本日の教訓。つまみ食いをすると、子供たちから笑われ者になってしまう。
なので、しっかりと汚名をそそぐとしよう。
その後、ユキとルゥは子供たちと一緒に療養所にやって来た。誰かの調子が悪いという理由ではなく、ピアノリサイタルを開催するためだ。
演目は、バイオリンで弾いた曲のピアノバージョン。なるべく曲が繋がるように構成し、頭の中で長い長い楽譜を作り出す。そしてここは療養所。患者さんに迷惑のかかるような演奏ではいけない。ペースはそのまま。音色は軽めで。
そして幕が開く。
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まるで雲を足場に青空を歩いているような感覚だ。でも、途中で太陽や月が手を振ってくれたり、虹が架け橋となったり、そよ風が吹いてきたり、要所での可愛らしい曲調が、聴いている人々の心に安らぎを与えてくれるようだ。
もちろん、その音色はホリーにも聞こえており、今までの疲れが吹き飛んで、やる気が溢れて仕方がなかった。
だが、ある曲でハッとする。そういえばスノーが好きだと言ってくれて、昨日だってユキにバイオリンで弾いてとせがんでいたことを思い出す。
「ピアノだとこうなるのね」
診察室の机の上に置かれているホリーの宝物に目をやる。何も知らない人から見ればただの小箱。だが、その小箱から溢れてしまう量の思い出が詰められている。
今は亡きホリーの母、モニカ・アストゥリアスと過ごした思い出が。
療養所で朝一番にこの小箱。いや、オルゴールを開いて心を落ち着かせてから、患者さんに向き合うようにしている。
ただ、ほんの少しだけ後悔があるとすれば、そのオルゴールの隣にあるホリーが小さいときに撮影した家族写真だ。一時、ホリーとカミロがすれ違っていた時期があり、カミロが写っていた部分だけ千切ってしまった。
もちろん今は、見ての通り仲のいい親子に戻っているが、三人がちゃんと一枚の写真に収まっているモノがこの一枚だけなのだ。後になって探してみるも見つからず、仕方なくというか、戒めの意味を込めてこの写真を飾っている。
大事なのは、相手の気持ちを真正面から受けとめることだと。
「次の方、どうぞ」
夕飯の時間までユキとルゥが子供たちと一緒に遊ぶ。
もちろん、子供たちが怪我をしないように注意しながらだ。
人間と吸血鬼と子どもが一緒になって遊んでいるが、どうしても吸血鬼の子供のほうが身体能力が高いので、鬼ごっこでは人間の子供には若干不利だ。だが、そのようなことで喧嘩は起きず、子供たちの間でちゃんとルールを自主的に作っていた。
「術式使ってハンデ作ってるんだ」
「うん!そうすると、いっしょにかけっこできるから!」
「なるほど。納得。よっしゃ!次は私が鬼だぞ~!みんな逃げろ~!」
「「「わ~!!」」」
「こうして、英雄たちは力を合わせて困難に立ち向かい、世界を救い平和にしました。おしまい」
「ルゥおねえちゃん、こえがきれいだね」
「うん!ホリーせんせいみたいだった」
「ありがとうございます。次はどの絵本にしましょうか」
「これ!これよんで!」
「ちがうよ!このえほん!」
「では、まずはこっちを先に読んで、読み終わったらそっちを読みますね」
「「「は~い!」」」
見事に役割分担がされている。ユキは身体担当、ルゥは絵本担当。ただし、子どもの底なしの体力を侮っていたユキは、鬼ごっこが終わったタイミングで、休憩させて~と子供たちに頼んでブランコに座って休んでいた。まぁそれでもしっかりスノーが膝に乗っているのだが。
「みんな元気だね~ユキお姉さんは疲れてしまった……」
「だいじょうぶ?」
「もちろん大丈夫だよ!平気平気!」
「えへへ、よかった。あのこもへいきなのかな?」
「どういうこと?」
「えっとね、ここにいけってにがしてくれたひと」
「逃がした人?旅団の人?」
「ううん。ちっちゃいホリーせんせいみたいなひと」
「ちっちゃいホリー先生……?」
「おれも、そのちっちゃいせんせいにたすけてもらった」
「ぼくもだよ。らんぼうだけど」
「へー。そっかぁ……体力全回復!!鬼ごっこ再開するぞー!!みんな逃げろー!!」
「「「わー!!」」」
「てなことがあったんだよね」
「……」
夜、孤児院の部屋でユキの後ろから腕を回して、首筋に嚙みついてルゥは血を吸っていた。ルゥも吸血鬼である以上、人間の血液が必要不可欠。なので定期的にこうしてユキの血を吸っている。
封印から解放された後に、ジョゼがユキの血を吸って『熟成が進み味わい深くなったぞ許婚どの』と言われたことがあった。目がギラついて怖かったが……
そんな血を、愛する人から飲んでいると思うと自然と顔が赤くなる。身体が熱くなってしまう。いつまでもユキとこのままでいたい。でも、啜り続ければユキの体温を感じられなくなる。それはもっと嫌だ。名残惜しいが、ここで終わり。
「……ハァ。ありがとうございます。ユキさん///」
「大丈夫だよ~前から気になってたんだけど、やっぱり私の血って美味しいの?」
「……その、なんと言いますか、一度味を覚えてしまうとユキさん以外考えられないと言いましょうか……///」
「やっぱり美味しいんだ。ルゥは贅沢だね~」
「本当ですね///」
身体はまだ熱を帯びるが、どうにか顔色だけは元に戻す。吸血鬼でよかった。血流の操作くらいお手の物なのだから。さて、話題をユキに合わせよう。
「ホリーさんによく似た子供というと、『あの方』しか思い浮かびません」
「ルゥもそう思うよね。でも、あの人はもう……」
「それに今の時代では存在すら……」
二人にはある人物が思い浮かぶ。歴史改変をしなかった現代で出会った深く家族を愛するあの人のことを。だがあの邂逅は本当に奇跡のような偶然だ。
「ルゥはどう思ってるの?」
「とても子供たちがウソをつくとは思えません。それに複数の証言もあります。偶然とは考えにくいかと」
『誰が偶然なんだ?』
この部屋から聞こえる謎の声。二人は驚きはしたが、聞き覚えのある声だ。
そして、黄金色の霧が部屋に発生すると、その霧が奔流に変わり人の形を取る。
「ふぅ。やはりここでは姿を保てる」
「ウソ……」
「どうして、貴方がここに……?」
ユキとルゥの目の前に姿を表したのは、かつてホリーが皆殺しの英雄と呼ばれた現代で出会った少女。
色欲の血族 リコリス
またの名を、モニカ・アストゥリアス。
ホリーの実の母親で、もう亡くなっているはずの人物だった。