機動戦士ガンダムSEED / Re.00 -西暦の蒼き翼- 作:コエンマ
夜を徹した砲声と叫びが嘘のように、砂漠の朝は白々とした静寂を連れてきた。清涼だった風は次第に熱を帯び、砂の大地を再び灼熱の世界へと変えていく。
フリーダムがバシムの混合部隊を文字通り解体した翌日。フィオ達は、半ば崩壊した基地内で各人が処理に追われていた。
「……いいわね、エミリア。跡形もなく、よ」
瓦礫が散乱するコンクリートの床面を見渡しながらフィオの毅然とした声が響く。キラとフィオの進言により、基地に残されたアンフとティエレンの残骸や、そこに記録された映像データ、戦闘記録はすべて破壊することが決まった。
戦いの余韻に浸るのもそこそこに、彼女らの指示のもと、事後処理は迅速に行われている。
「わかってる。どこから漏れるか分かったもんじゃないし、できる限りの偽装はしておきましょう。映像記録とメインサーバーの物理破壊は完了してるわ」
特に証拠の物理的破壊は最優先で行われ、全員が行動を開始した。基地弾薬庫の一角から引っ張り出した、
そうして基地に残されていた爆薬や放棄されたMS用の重砲、ミサイルランチャーなどをかき集め、記録媒体を抜き取った機体及び基地の全施設を徹底的に破壊していった。エミリアも、ハンガーの中で唯一無事だった一機のアンフを駆り、それを支援する。
時間は惜しかったが、ビームライフルやレールガンといったフリーダム固有の武装を使わなかったのは、その独特な弾痕や高熱の溶解痕という『西暦には存在しない特異な武装』による痕跡を可能な限り抹消し、物的証拠として残さないようにするためだった。
それらを残してしまえば、フリーダムの圧倒的な戦闘能力が曝け出される危険性を高めるだけ。世界が知ろうものなら機体やパイロットであるキラは忽ちは台風の目となり、この砂漠そのものも三大国による主戦場となる可能性すらある。そんな未来はキラ達の望むものではなかった。
さらに念には念をと、エミリアたちは狡猾なまでの工作を施していく。
「……『支払いの延滞について』。差出人は……適当な無名の武装組織を書いて……っと……こんなところでいいかしら」
バシムの私物の中から見つけ出した『複数の小規模武装組織』とのつながり。自らの汚職を隠すために利用していたであろうそれらの組織の情報を、名前などの一部を暗号形式に改ざんして金銭のやり取りをでっち上げた督促状を作成。さらには彼らの内情や兵装の横流し、さらには収賄に関する紙面も併せて用意していく。
検証が難しい事象の中に真実を紛れ込ませるのは、事実の隠蔽手段として非常に有効な手だ。特に土地柄やそこに住む民の性質と併せて使えば、その効果は倍増する。
この場合においては砂の荒野に潜むはみ出し者達がそれだった。普段は厄介極まりないが、現状を誤魔化すという目的の上に在っては、キラやフィオ達にとってこれほどありがたい存在はない。
自分の身は自分で守り、自分の命は自分でつなげ。
それが民たちの共通信条であるこの砂漠では、落ちぶれた兵士の略奪行為や武装組織からの脅迫など日常茶飯事。誰かに襲われたという報告数だけでも毎日のようにあるし、犯罪に手を染める集団に至っては山どころか、それこそ星の数ほど存在する。
流石にMSを保有するレベルとなると限られてはくるものの、どこが戦力を保有しているのかなど、数年以上この土地に住むフィオ達であってもわからないことは多い。戦力の概要などの情報を把握されることは、自らの手の内を晒すのと同じ。どの組織も機密保持には気を遣っているのだ。
また実際に手を下した集団と企てた相手が違うなんてことも多く、さらには互いの利益だけを目的に協力することもあるので裏も取りにくい。そもそもの話、政府との交渉や話し合いに応じるような人間なら、最初からこんな道になど走らない。
そのような組織ひとつひとつを軍がすべて取り調べるなんてことは現実的に不可能である。
『支払いを踏み倒そうとしたバシムに対し、ならず者の集団が報復として基地を襲撃、爆破した』
──そんな、ここでは珍しくもない下劣で矮小な争い。
日々の中に埋もれそうなありふれた禍いと、バシムが常日頃から行っていた悪事がより際立つような筋書きを捏造し、基地の残骸に散りばめたのである。
またこの基地のある場所が辺境で通信や情報網も範囲を限ってのローカル接続だったこと、さらにはバシム自身が手柄の情報を漏らさないようにするためか、オンライン上での共有を著しく制限していたことも幸いした。
他に情報が漏れるとすれば人づてのものになるが、集落の面々は互いが十年以上前から付き合いがある旧市街時代からの知り合いばかりだ。人もオンライン上からも問題はない。これなら証拠を破壊して情報を封鎖してしまえば、いくら大国の諜報班が総力を挙げても容易には特定できないだろう。
戦略的な要素も薄いこの地は、各国の偵察衛星の軌道にもほとんど重なっていないのはフィオ達も知っているし、幸運なことにあの日の砂漠には珍しく厚い雲がかかっており、さらに太陽がまだ完全には差していない未明での戦闘だった。断定はできないが、フリーダムの姿や戦闘での特異な兵器の映像を衛星から捉えられてしまった可能性は低いと思われる。
「よし、これでいい……皮肉なものね。あの男の汚職の記録が、一番の隠れ蓑になるなんて」
エミリアは苦笑しながら作業を続ける。そして救出作業を続けるキラ達を見やった。
「うわあぁああん、フィオお姉ちゃぁああん!!」
「兄ちゃん、ありがとう……!」
宿舎に幽閉されていた子供たちや若い女性たちも、キラたちの手によって救出された。フィオの胸に飛び込む少年少女たちの姿に、キラは僅かに表情を和らげる。
基地の宿舎から救出された子供たちや若い女性たちは、幸いにも全員が無事だった。
人的被害がなかったことには全員が胸をなでおろす。
だが、拠点の放棄は避けられない。バシムたちがフィオ達を捕縛し集落を制圧した際、建物の大半は破壊し尽くされてしまっていたからだ。
残されたのは工廠内にあった工具類、エミリア達がバシムから修理依頼を請け負い、修復が完了してあったティエレン1機と基地の格納庫内に埋もれていた修理途中の1機のアンフを合わせた、合計2機のモビルスーツ。
あとは別棟の倉庫に厳重に秘匿されていた、フリーダムをはじめとするZGMF-Xシリーズの予備パーツのみだった。
「……ここはもう潮時ね」
陽が天高く昇る頃、フィオは集落の広場に全員を集め、これからの指針を告げた。
「ここでの生活はもう守れない。近いうちに軍の調査が入るでしょう。偽装工作をしたとはいえ、私たちがここに留まり続けるのはあまりに危険よ」
フィオはかねてより準備していた移住計画を早めることを決断した。
年配の女性や親子連れなど、集落の大部分の者たちは、近隣の町々や都市へ散り散りになって移り住むこととなった。彼女たちの手には、しばらくの生活に困らないだけの路銀が握らされている。
そんなものをどこから用意したのかといえば──―
「バシムの隠し金よ。汚職で溜め込んだ宝石や貴金属、個人口座の現金がたんまりあった」
「そのかわり軍の
エミリアとフィオが不敵に笑う。女性たちは驚くほど逞しかった。
あれほどの恐怖を味わい、数年来の住処を失ったというのに、フィオから路銀とこれからの指示を受け取ると、「次はもっとマシな町に住んでやるわ」と笑って前を向いている。 この状況でティエレンやアンフを扱えるのも有難い限りだと豪語するほどだった。
とはいえ、事実だけ取っていれば強奪と無断使用そのものである。悪人相手だったとはいえ、そんなことをしていいのだろうかと多少の良心の呵責があったキラがそれを告げるが、エミリアはからからと笑って問題ないと言い切った。
『こんな状況なら私たちが使ってもいいでしょ。依頼主は修理代未払いで逃げたんだから、差し押さえみたいなものよ。気にするだけ損だわ』
堂々とネコババ宣言するエミリアと全く意に介さないフィオに対し、流石のキラも少々言葉に迷ったが、これが彼女たちの流儀なのだと見ていないことにした。砂漠の熱に当てられでもしたのだろう。
フィオが配分を終えると、残された者たちの進む道が示された。
二人をはじめとする工廠員のメンバーは、砂漠を大きく迂回して一丸となってとある移住先へ移動する。
目的地は砂漠を越えた先、アザディスタンとの国境を隔ててつながった小国の外れ。海の近くにある、集落とも呼べないほど小規模なコミュニティだ。かつて石油産業で多少賑わいを見せたものの、太陽光技術の発展と共に一気に廃れ、今はもう年配の人間ばかりが海から細々と生活の糧を得ている小さな漁村に過ぎない。そこから少し離れた場所に、フィオがかつて下地を作っておいた今は継ぎ手のない孤児院があるのだという。
バシムが工廠員たちに執着していたのはわかっていた──最大の狙いはフィオだったのだが──ため、追跡を躱すためにいろいろな対策も施してあるとのことで、エミリア達が言うにはさらに予定している偽装工作もあるという。ティエレンだけでなく、アンフも手に入ったから可能となったのだとか。
先にバシムの急襲を許してしまった時は、フリーダムという不確定要素があったことによる油断と彼のあまりの浅慮さゆえに不覚を取ったがもう二度目はない。この用心深さこそが生き抜くために学んだ知恵なのだろう。彼女たちの強かさと危機管理能力、そして警戒心の高さは、かつて成り行きとはいえ軍属であったキラをして舌を巻くほどのものであった。
そして、それが彼女たちだけでなく他でもない自分も守るためだということをキラは理解していた。自分を仲間と見てくれているからこそだと。そんな彼女たちの覚悟に自分は何も返すことができないことを歯がゆく思う。
「キラくーん! ちょっとこっち持ってー!」
「あ、は、はい!」
メイに声をかけられ、キラは少し迷うが声を返して走った。その間も女性たちや工廠員らは黙々と荷物を纏め、新天地への希望を語り合う子供たちは離れたところで穏やかに笑い合っている。
集落の女性たちや子供たちは全員笑顔だ。彼女たちをキラは眩しいものを見るように視線を細める。
家を失い、故郷を追われるというのに、彼女たちの瞳には絶望の色はない。むしろ、死の淵から救ってくれた「翼」と「少年」への信頼が、彼女たちを強く前へと押し出していた。
だが、その輪から少し離れた場所に立つキラの心象は、彼女たちとは対照的だ。各々目的を以て動く皆とは異なり、手伝いをしつつも、まだ自分の行くべき道が定まっていなかったのだ。
(……僕はどうすればいいんだろう)
自分の足元を見つめて小さくため息をつく。
フリーダムの力があれば、一時的に彼女たちを守ることはできるかもしれない。
だが、その強大すぎる力がゆえに、いつかまた今回のような……いや、もっと取り返しのつかない「災厄」を彼女たちに引き寄せてしまうのではないか。自分が傍にいることの方が危険が伴うのではないだろうか。
昨日の戦闘で見せたフリーダムの性能。あれがもし露見すれば、三大国やソレスタルビーイングが放っておくはずがない。
それら軍事組織を相手取るためにはフリーダムの力は必要不可欠だ。だが自分が彼女たちの味方でいればいるほど、全員を危険に晒す可能性が増していく。守りたいと思うほど、平穏を願えば願うほど、それらはすべからく遠ざかっていくという矛盾。
「……っ」
唇を噛み締めるキラの視界の端に、甲斐甲斐しく移動の準備を進めるリアの姿が映った。
守りたい。けれど、それが彼女たちにかえって災いをもたらすのなら、自分はここにいるべきではない。
異世界の空の下、ようやく訪れた「平穏」を自らの手で手放すべきか否か。その心は激しく荒れ狂う砂塵のように定まらずにいる。
今だ自分の中で葛藤する彼の後ろから、ハスキーな響きを宿した声がかかった。
「キラ! こんなとこにいたのね、探したわよ」
「どうしたの、エミリアさん……それにフィオさんも」
声の主はエミリアだった。隣には大きなザックを担いだフィオの姿もある。顔はオイルやら砂やらで汚れているが、その顔は晴れやかだ。
「作業の進捗状況をね。こちらは8割がた完了しているわ。移動経路はここから南西方面に進む。ちょうどあなたを拾った場所の近くを通って行くわ。念のため、見落としがないか確認を兼ねてね」
明日にはここから立つことになる。残された時間は少なかった。
刻々と迫る選択の時。その事実に表情を沈ませるキラには気づかず、エミリアが意味ありげな表情をしながら近寄ってくる。
「ちょっといい?」
作業の手を止めて彼女を見やるキラ。時間がないのはわかってるんだけど、と零したエミリアが、工廠ハンガーに隠れるように置かれているフリーダムをみやった。
「相談なんだけど、一つ案を用意してあるの。この子に少し『お化粧』してあげない?」
「お化粧……?」
エミリアがとっておきの悪戯を思いついた子供のように口元を歪める。一方のキラはというと、MSに化粧とは一体何なのだろうと、その女性的な表現にピンと来ず戸惑うばかりだ。首を傾げる彼にエミリアが苦笑しながら付け加えるように続けた。
「フリーダムの追加装備よ。といっても、大掛かりなものじゃない。装甲裏の複数個所に小型の専用デバイスを取り付けて、電源と同期させるだけ。これを見て頂戴」
エミリアがキラの方へ立ち上がった電子表示の簡易モニターを差し出してくる。画面に提示されたマニュアルには、キラも見たことのない形式番号と名称が記された装備が映っていた。
どうやら攻撃武装ではないようだ。そこに記載されていた名称を見て眉を寄せる。
「──ミラージュ……ジャマー……?」
興味深げな声色が漏れる。初めて聞く響きを自分の中に落とし込むように零すその表情は真剣そのものだった。キラが興味を持ったことが単純に嬉しかったようで、エミリアが顔をほころばせる。
「ええ。フリーダムと一緒に流れてきた装備の一つにこれがあってね。工廠艦のデータ内に装備の詳細も記載されてたの。ジン戦術航空偵察タイプの装備に『ニュートロンジャマー』の理論を加えて強化発展させた試作装備ってことらしいわ。ZGMF-Xシリーズの強襲用強化武装として開発されていたみたいなんだけど、ロールアウト直前で止まってたみたい」
概要文の各所に目を走らせながらエミリアの話に耳を傾ける。理論は完成しており、他の機体での効果も実証済みのようだが、ZGMF-Xの機体を用いた実戦データはないようだ。
あくまでも正式なそれでなく、
「簡単に言えば、ミラージュコロイド技術とNジャマーの電波攪乱特性を組み合わせた装備ってところね。けど、どちらもオリジナルとは根本的に仕様が異なってるの。ミラージュコロイドの方は本来の仕様に比べて方向性は極めて限定的よ。光学迷彩的な機能はないし、視覚的にも丸見えね」
キラは自分の知るミラージュコロイドを思い出しながら、大きく異なる使い方に思考に耽っていた。その概要どころか理論すらも自分の知識にはない。
しかし、地球連合が作り出した、あのビームを曲げる装備を持った機体もミラージュコロイド技術の応用だと聞いている。連合にあれだけのことができるのだから、ザフトはザフトで違う側面から技術の発展させていたとしても不思議はなかった。
その表情に得意げな色を混じえ、真打となる部分を切り出してゆく。
「最大の利点が失われた反面、こっちのミラージュコロイドの性質は電子的な効果が数段高くなっている。速度域の許容も、本家に比べて大幅に増しているしね。Nジャマーの方もそれに合わせて電子位相を変化させてあるみたいなの。強化内容は
エミリアはつらつらと装備の特性を上げていった。
概要はこうだ。
変異波形のNジャマーでレーダーを徹底的に攪乱……否、それが自然であると誤認させやすくする。そして同時起動した改良型ミラージュコロイドで自機の熱源隠蔽や外部からの電波の吸収を行い、機体の存在を極限にまで抑制。敵のレーダーやセンサーを誤魔化す──。
キラがパイロットでなくとも、フリーダムやジャスティスの運用コンセプトを考えれば、二機は単独での作戦行動も当然求められたであろう。これはその戦術の幅を広げ、多岐に渡るものとすることができるもののようだ。
この装備がちゃんと理論通りの効果を発揮するのなら、非常に強力かつあらゆる場面で役に立つであろうことは間違いなかった。特にこれから自分とフリーダムが直面しなければならない現実を考えれば、直接手を下さずとも情報封鎖を行える装備は必要不可欠に近い。
フリーダムの機体特性と合致しているのも大きかった。
本来ならばその仕様上、起動から維持まで相応の電力を消費しなければならない類の兵器だ。局所的な使用に限っても、かなりのエネルギーを消費する。バッテリー駆動の機体では持って十五分程度しか使用できず、長時間行動が基本となる偵察や隠密ではまず使い物にならない。
しかし、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載し、ほぼ無尽蔵のエネルギー供給を可能とするZGMF-Xシリーズの動力炉ならば、それも容易に可能となるわけだ。
「Nジャマーを『抑制』じゃなくて『攪乱』と『擬態』に使うってことですか?」
説明文を呼んでいたキラが顔を上げる。エミリアはその答えに対して「正解♪」という風にウインクを投げながら続けた。
正しくは力で強引に電波妨害するというより、『そこには何もいない』という状態を極めて自然に作り出す装備らしい。映像などは誤魔化せない為あくまでも電子戦に限られるが、フリーダムの機動力を以て超高性能なアクティブキャンセラーを使用できるのは非常に大きな意味を持つ。
「ただ条件はある。戦闘機動で飛ぶと粒子定着率が下がって効果は消失しちゃうから、いつでも100%欺けるわけじゃない。一度完全に補足されたら、ある程度距離を離さないと効果は発揮できないのと、遮蔽物のない状態での至近距離なんかも無理ね。そもそも見えちゃうし。だけど、ある程度距離がある状態でなら、敵の探知レーダーを回避したり、敵から逃げるときも追尾される可能性を格段に下げて、より短時間での離脱もできるようになるわ。許容速度域も巡行速度よりやや速いくらいまで可能よ」
あなたの世界の技術はどれもこれも非常識すぎるわよね、と呆れたように口にするエミリア。その表情には技術を生み出した人間やその世界に対しての敬意と畏怖が混在していた。隠密行動を苦手とするフリーダムには願ってもない装備であるし、追撃を防ぐ目的でもこれほど有用な効果はないだろう。
「Nジャマーの原型データからその干渉力と効果範囲を見た時も驚いたけど、これはそれ以上だわ。通常型でも電波通信は愚か、量子通信すら完全にシャットアウトしちゃうような兵器なんだから。それを隠密特化型にしたらどうなるか、ってね。こんなの使われたら、既存の電子戦なんか勝負にすらならないわよ」
「これを……僕の為に……?」
呆けたようなキラの言葉に、エミリアは少しだけ照れくさそうに視線を外す。フィオも、キラに優しい眼差しを向けていた。
「……あなた、見ててヒヤヒヤするのよ。そんなにすごいのにどこか抜けてるし。だから、これからのために何か役に立つものをあげたいって、エミリアと相談して総出で色々探したの。時間がないなら諦めたんだけど、なんだかんだ言って、運は結構いいみたいね。あなたも、私たちも」
キラは胸が熱くなるのを感じた。
自分がソレスタルビーイングや三大国の影に怯え、孤独に苛まれていた間も、彼女たちは自分のことを考え、守る術を探してくれていたのだ。
一度瞑目した後、キラは二人の瞳を見つめて頷いた。彼女たちの信頼に微笑みながら、最大限の感謝を返す。
「ありがとうございます、フィオさん。エミリアさんも……今の僕には、何よりも心強い贈り物です。ぜひ、お願いします」
「決まりね。メイ!
エミリアの号令に、ジャンク屋の仲間たちが活気よく応える。
その夜、格納庫では急ピッチで装備の取り付け作業が行われた。エミリアやメイたちの熟練の技によって、フリーダムの美しいシルエットを崩すことなく、特異なジャミング・デバイスが各所に溶け込むように装着されてゆく。
滞りなく行われる作業。それはキラの心の憂いを幾分か払うのと同時に、彼に迫りくる現実を少しずつ自覚させていくのだった。
第十二話を執筆するにあたり、今後の展開を今一度推敲しておりましたので、大分時間がかかってしまいました。まだ朧気ではありますが、展開と方向性が決まってきましたので執筆に移り投稿した次第です。例によって文章の稚拙な部分はお目こぼしをお願いします<(_ _)>
<今回出したオリジナル装備について>
話の中でも述べましたが今一度記載します。設定上長くなりますことはご了承ください(汗)。
【ミラージュジャマー】
工廠艦のデータにあった装備を、フィオの指示のもとエミリア達がフリーダムへ搭載した兵装。通称Mジャマー。
ジン戦術航空偵察タイプの装備に、『ニュートロンジャマー』と『ミラージュコロイド』技術の一部を転用し、強化発展させた試作装備。本来はZGMF-Xシリーズ(ジャスティスを想定)用強襲用強化武装として開発されていたが、ロールアウト直前でアスランがザフトを離れたため実現しなかった(クルーゼの場合は既に隠密装備の必要性が低く採用されなかった)。
Nジャマーの波形を変化させて、核分裂の抑制よりも
イメージとしては
水(空間)に葉(フリーダム)が浮いているとして、水に石を投げ入れてさざ波を立てている(ジャマーの攪乱効果を生じさせている)間に、その対象を水面より持ち上げて波紋から遠ざける(ミラージュコロイド効果で空間上に認識させないようにする)
といった感じ
GN粒子のように敵の電波を無効化しているわけではなく、
こんな感じの装備になります。
これがないとステルス性が皆無に近いフリーダムではたちどころに捕捉されてしまうため、どうしても必要な要素でした。書いてある通りGN粒子ほどの万能性はありませんが、この世界にとってはソレスタルビーイング陣営を含めて未知の電子欺瞞技術になります。彼らの驚く顔が今から楽しみですよ(笑)。
それでは次回予告です。今回はちょっと色っぽいかな?
[ =次回予告= ]
明日を生き抜く覚悟を決めた少女たち。だがキラは今だ逡巡の中にいた。
闇夜に浮かぶ影法師が、旅立ちを前に運命を重ね合う
次回 『 二人の夜 』
世界も英雄も、それを変えるのは人の意志