機動戦士ガンダムSEED / Re.00 -西暦の蒼き翼-   作:コエンマ

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それでは第二話目になります

今回はちょっと長めです



第02話  砂を噛む指先

 朝の砂漠は、夜よりも残酷だった。

 

 地平の端から這い出した陽光が、冷え切った空気を容赦なく熱へと反転させていく。水分を徹底的に剥ぎ取られた風が吹き抜け、すべてを乾かして奪い尽くす様は、この地に生きる者達にその過酷さを否応なく突きつける。

 

 集落を包むのは砂塵の匂いに混じった古い機械油と、酸化した金属が発する独特の硬い空気だ。慣れない者にはきつく、慣れたものほど己が運命を悲嘆する。それらが肌にまとわりつき、一日の始まりを告げていた。

 

 錆の浮いた簡易ベッドの上でキラは目を覚ます。だが、すぐに体を動かす気にはならず、ため息をついて染みの浮いた天井の一点を見つめたまま固まっていた。肺に吸い込む空気は熱く、喉の奥をちりちりと焼く。

 

 昨日もその身に感じた大地の感覚。皮肉なことに、それはかつてアークエンジェルで北アフリカに漂着した時と同じもの。できれば変わっていて欲しかったなどという儚い願いは当然のように届かなかった。

 

(……夢じゃ、ないんだよね……)

 

 昨日、網膜を灼いたあの光景。夕闇を切り裂き、神の指先のように天を指していた絶望的なまでの巨大建造物。眠りによって一時的に霧散したかと思われたその記憶は、目覚めと共にその輪郭を取り戻し、彼を縛る重りとなって胸の奥に沈んでいた。

 

 ここは、自分の知る世界ではない。平和を願い、戦火の果てに掴み取ろうとした明日とは、別の歴史を刻む場所。

 分かっている。だが理解したところで、どうしようもなかった。砂嵐の中で道しるべを見失った遭難者のように、次の一歩をどちらへ踏み出すべきかさえ分からない自分には。

 

 重い体をゆっくりと起こす。全身を走る鈍い痛みは、コーディネイターの回復力をもってしても完全には消えていない。だが、昨日よりは幾分か身体の自由が利くことに少しばかり安堵した。

 

 不意に、自分の寝所を囲む布が揺れる。その一枚隔てた入口の向こうから、複数の気配が伝わってきた。

 向けられているのは、鋭い拒絶を孕んだ無数の視線。カーテン代わりの薄汚れた布を介してさえわかる、明確な敵意だ。ある意味経験がある視線ではあるが、理由は違っても痛みは同じことにキラは目を伏せる。

 

 尤もそれはある種当然の話であった。

 

 今の自分は、この世界において完全なる異分子でしかない。正体不明の鋼鉄の巨像と共に現れ、己の素性も証明できない。おまけにここには幼い子供を除けば女性しかおらず、男性を拒絶する雰囲気も強く感じられる地だ。

 

 そして、その集落にしてもとても恵まれているとは言い難いものであった。

 たった半日程度ではあるが、この集落で生活する様子を見ていれば嫌でもわかる。彼女たちに誰かを受け入れる余裕などない。その日の糧を得ることにすら精一杯の力を費やしている人間が大半だ。

 

 そんな過酷な状況を生きているのだ。そこへ入り込んだ自分がただの障害にしかならないことなど考えなくても理解できた。ましてやその取り分を何の義理もない赤の他人に分け与えてやる理由などどこにもないのだと。

 

 先を想像するだけで気分が重たくなる。だがどんなに受け入れがたいと思っても、それが今のキラが直面する紛うことなき現実だった。

 

「……起きてる?」

 

 顔を上げる。自分が貫いていた沈黙を破ったのは昨日の女性。名は確かフィオと言っただろうか。

 

 控えめな声と共に顔を覗かせ、こちらを伺うように見やるその瞳。そこには警戒とも懐疑とも、あるいは一種の憐憫とも取れる感情が浮かんでいるのが見てとれた。

 

「おはよう」

「……おはよう、ございます……」

 

 キラは一拍置いて応じた。フィオは彼の顔色の悪さを探るように一瞬だけ視線を這わせ、それから感情を削ぎ落とした静かな声で告げた。

 

「無理に動かなくてもいいわ。でも、今日は少し話をさせてちょうだい」

 

 その言葉の響きに含まれた重みを、キラは即座に察した。それは単なる世間話ではない。この異分子を排斥するか、あるいは利用するかという、この集落における「審判」の合図だった。

 

 促されるまま味のしない朝食を取り、寝巻から渡された古着に着替えて部屋を出た。

 

 先導するフィオの後ろをキラは少し離れて歩いていく。すれ違う人々に胡乱げな視線を向けてくるが、昨日ほどの拒絶の雰囲気はない。

 

 だがそれは感情的な改善があったわけではなく、みな自分たちのことを優先しているからだ。不信感はあるものの構っている余裕がないのだろう。

 

 活気自体はある。とはいえ、それらは彼女たちが自分自身をなんとか支えようとする必死さの裏返しだ。そこに目指すべき先はなく、何とか今を凌ぐためだけに汗を流している。

 

 ここでの生活が厳しさに満ちていることをキラは肌で感じ取っていた。

 

 と、歩みを進めていた足を止める。

 

 道の脇にあったのは、昨日目にした中で最も大きな建物だった。集落の中で唯一まともな構造を誇って建っている。左右に開いた金属質の扉の間からキラは中を覗き込んだ。

 

「あ……」

 

 扉の向こうに広がる、自らもよく知る光景にキラは息を零した。

 

 そこは多くの少女たちが互いに声を掛け合いながら働く砂漠の工廠施設であった。

 

 かつて政府軍の出先機関として使われていたものを流用しているらしい。砂に削られた分厚いシャッターと、威圧感のある二基の大型ハンガーが並んでいる。外壁はあちこちが剥げ落ちて無惨な姿を晒していたが、一歩足を踏み入れれば、内部は驚くほど整然とした規律に保たれていた。

 

 整備用具やクレーンなど設備も一通り揃えられている。規格はそれぞれ違うようだが、丁寧に調整、あるいは改良されたものが並ぶなど、その維持にも一定の技術力が見て取れた。民間が保有する設備、さらには隔離されたような砂漠の中にであることを考慮すれば、その設備の充実度はかなりのものであった。

 

 その中、キラにとっては切っても切れない要素を目にする。

 

「……モビルスーツ…………」

 

 二基あるハンガーの手前側を一機のMSが占有していた。

 

 鈍重な見た目をした人型タイプ。細かいところは知らない技術が使われているほか、設計思想もわからない。だが、基本構造は自分の知るものとよく似ていた。

 

 自分の知る世界での機体に当てはめるならば、ザフト軍のザゥートあたりが近いだろうか。

 

 それは現地の主戦力、人革連の誇る汎用型MS『ティエレン』と呼ばれる機体。今の西暦世界においては旧型の部類に入るMSであり、目の前にあるのはその中でもさらに旧式、粗末な装備とパーツしか積んでいない機体だった。

 

 だが、鉄の棺と呼ばれるだけあって頑丈さと各部系統や操縦方法のシンプルさは折り紙付きで、さらに調整や整備の容易さなどが買われ、ロールアウトから10年以上が経った今でも各地で現役機体として動いている人革連の主力MSだった。

 

 修理を任されたのであろうその機体の各所に少女たちが張り付き、各々の工具でもって修復作業に励んでいる。

 かつてアークエンジェルやエターナルでよく見ていた光景をキラはただじっと眺めていた。

 

「悪いけど、ここから先には勝手に入らないで頂戴」

 

 足を止めていたキラに気づきフィオが戻ってくる。彼女は視線を鋭くして短く釘を刺した。

 

「あんたのことを知らない人も多い。危険物も扱ってるのはモビルスーツのパイロットであるあんたならわかるでしょ。手元でも狂わされたらシャレにならない。こっちの指示には従ってもらうわ」

 

 静かな口調。だが、その瞳には明確な境界線が引かれていた。

 

 昨日からの彼女の話を聞く限り、この施設は集落の生命線に近いものだ。部外者を近づけたくないのは当たり前である。キラに選択肢はなかった。

 

「……分かりました」

 

 キラは迷うことなく即座に頷く。反論も、理由を問う好奇心もそこにはない。フィオは一瞬面食らったような表情をしたが、すぐ持ち前の美貌の下に隠して身をひるがえした。

 

「……話し合いはこっちでやるわ。早く来て」

 

 そのあまりに素直な、無機質とも言える態度に、フィオはキラを背にしたままわずかに眉を動かしながら歩いた。彼女が予想していた「エリートパイロット特有の傲慢さ」は、この少年からは感じられなかったのも不思議ではあった。

 

 しかし特別扱いはできない。集落にとってはいまだデメリットの方が大きい以上、手心を加えるわけにはいかなかった。

 

 彼女に続くように歩き出そうとしたキラは、もう一度工廠施設の内部に目をやった。目線がその最奥へと注がれる。

 

 重厚なハンガーの片側。布のようなカーテンで隠されるようにしてはあるが、その中にあの灰色の巨像が鎮座していた。色彩を失い冷徹な金属の肌を晒したその姿は周囲のティエレン用資材とは違い、明らかに浮いている。

 

 キラは意識して、そちらを見ないように視線を落とした。今の自分には、あの機体に触れる資格も、その意味を語る権利もないのだ。

 

 キラは戦いを共にしてきた相棒から目をそらすと、フィオを追って足早に歩きだした。まるで自分の運命から逃げるように

 

 

 

 

 会議の場に行くともうすでに人が集まっていた。年配の割烹着を着た女性や、ノートにペンを走らせる女性、あるいは小型デバイスを使って作業をしている人もいる。

 

 だが向けられる視線の色はどれも、目覚めた時から変わらない。

 

 フィオが集落の主要メンバーを呼ぶと話し合いが始まった。その様相は一見すると、会議というより井戸端の片隅で始まった近所の女性による世間話のようでもある。だがそこに流れる空気は、始まる前から険悪なもので包まれていた。

 

「信用できないわ。あんな得体の知れないMSと一緒にいたのよ?」

 

 恰幅のいい年配の女性が放った言葉を皮切りに、女性たちはキラへの非難を口にする。そこに遠慮などあるはずもなく、むしろ日々の鬱憤をはらすように、重ねるごとにヒートアップしていくばかりだった。

 

「そもそも男じゃない。いつ豹変して襲いかかってくるか分かったもんじゃないわ」

「軍の関係者には違いないわね。じゃなきゃMSになんて乗ってるわけがない」

「あんな火種を抱え込むなんて御免だわ。さっさと追い出した方がいいんじゃなくて?」

 

 食事処を担当する女性や、生活を切り盛りする主婦たちから、次々と拒絶の言葉が投げかけられる。賛成派など一人もいない。それどころか、あの灰色の機体を「何の役にも立たない、軍を呼び寄せるだけの呪いの品」として、早急に解体して売り払うか、砂に埋め戻すべきだという極論さえ飛び交っていた。

 

(不要なら砂に埋めるのは仕方ない……でもあれを接収されるのだけは避けないと……)

 

 もはや会議という名の村八分に近いものに晒されながら、キラは自分の機体の扱いについて考えていた。

 

 この世界における技術体系はまだ掴めていない。推測する限り、AEUやユニオンという組織もそれぞれ違った独自のMSを保有しているのは予想できる。だが、ハンガーにあった『ティエレン』なる機体を見る限り、人革連という組織がたとえ先の2勢力の下位互換だと仮定したとしても、互いに勢力争いをしているという話を総合すれば技術的にそこまで開きがあるとは思えない。

 

 とするなら、フリーダムの存在が異質以外の何物でもないのは明白だった。

 

 確かに今の自分の機体に戦う力はない。ただ巨大なるエネルギーを扱えるだけの動かぬ彫像に過ぎず、とても戦力として数えられるものでないことは断言できる。

 

 だが、本当に知られてはならないのは『フリーダム』の戦闘力ではない。その動力が原子炉であることやPS装甲を始めとする特異技術、さらには核エンジンから生まれた莫大なエネルギーを処理し武力へと変える高性能OSの存在だ。この事実が西暦世界に流出しようものならば、それは間違いなく新たな火種となるだろう。

 

 小競り合いでしかなかったものが、巨大な戦禍へとつながることだってありえる。かつて見てきた世界の闇を考えれば、その可能性は決して低いものではないことがキラにはわかっていた。

 

 それだけは避けなければ。フリーダムの真価に気づく前になんとか対処するほかない。利用されるなどもってのほかである。

 

 最悪の場合、彼女たちを巻き込まない形で自爆装置を起動させるか、物理的に中枢を破壊しなければならないだろう。助けてくれた彼女たちに災厄が及ばないようにするためにも。

 

 考えるほどに憂鬱になりそうだった。

 

 

「あああっ、くそっ! 散々だよまったく!」

 

 

 会議が煮詰まっていた最中、そこへ一人の若い女性が肩を怒らせながら近寄って来た。

 

「エミリア? 一体何事?」

 

 やってきたのは工廠の技術責任者を務める、エミリアという名の人物のようだった。周りの声から察するに、どうやらフィオと同年代の女性らしい。彼女と同じくらいとなればまだ若いはずだが、どこか姉御肌のような雰囲気を醸し出している。

 

 女性らしいシルエットを持つ彼女だが、土埃で汚れた作業用シャツと黄土色のツナギが非常によく似合っている。その姿にキラはかつてのアークエンジェルの整備主任を思い出していた。気やすそうな感じなども共通していたからだろうか。

 

 話し方を見れば、本来は快活そうな雰囲気を持った人物に見える。だが今の彼女は盛大に肩を落としていた。

 

 その顔は苦いものを噛み潰したように歪んでいる。

 

「……まいったわ、フィオ。完全に騙された」

 

 エミリアが放り出したのは、他のジャンク屋から高値で仕入れたと思しき旧式のレーダー装置だった。物理的な破損はすべて修復し、導通も確認しているのだという。しかし、設定用デバイスに繋がれた画面には無慈悲なシステムエラーが並んでいた。

 

 初期状態ではありえない不具合だ。先方が偽物か不良品と処理されたものを掴まされたのだろう。

 

「論理階層がめちゃくちゃなのよ。システム工学に強い子たちを総動員して当たらせたけど、制御ロジックの根底が書き換わってて、誰も手が出せない。このままじゃ、高価なパーツ取り用のガラクタ。大損どころの話じゃないわ」

 

 周囲に重いため息が広がる。

 

 レーダー装置はこの砂漠ではかなり高価な代物だった。無法者やレジスタンスなどが数多存在するこの地では、情報が何よりも重要になる。彼らにとっては目の前の金塊や宝石などよりも、よほど需要が高いのだ。

 

 だからこそ旧式であっても値千金の価値があると、集落の1か月分近い生活費をつぎ込んで購入したのだ。それなりに信用できる相手でもあった。

 

 だが結果はこの様だ。使えないのならその損害は計り知れない。

 

 その小さな鉄の箱に溶けてしまった分をどう補填するか。フィオを始めとするまとめ役や出納長は頭を抱えていた。

 

 キラは彼女たちが開いた設定用デバイスの画面を遠巻きに眺めた。

 

 高速で流れるエラーログ。センサー補正値の競合、古いパッチの残存、そして未定義のレジスタ。

 

 自分の脳内では、複雑に絡み合ったコードが瞬時に解きほぐされ、修復すべき箇所が光の筋となって浮かび上がっていた。ストライクのOSやナチュラル用のOSを組んだ時に比べたら随分と単純な電子ロジックだ。

 

 戦禍に巻き込まれる前も、なし崩し的にその力を振るわざるを得なくなった後も、彼自身が日常のようにしてきた作業が、キラの足を無意識に前へと進ませていた。

 

「……あの」

 

 少し悩んだ末、ため息をつく彼女たちの背後から声をかける。フィオとエミリアが反射的に振り返った。だが、それには構わず、キラはデバイスを指し示しながら続ける。

 

「それ……センサーの同期タイミングがOSのクロック数とズレてます。断絶がある部分は修正をかけて、あとは制御システムと相互間の連携を組めば元に戻せると思います」

 

 その場にいた全員の視線が、キラに集中した。エミリアが眉をひそめ、怪訝そうに彼を見つめる。

 

「……貴方、分かるの?」

「少しなら……やってみてもいいですか?」

 

 キラがフィオに視線を移しながら確認を取る。

 

 周囲の反応は懐疑的だ。本当かしら、適当なことを言ってなどの批判的な声もちらほら聞こえる。だが、上がりかけた反対をフィオが片手を挙げて制した。

 

 キラをまっすぐに見つめてその雰囲気を探る。

 

 決して自信があるようには見えない。だが出鱈目を言う必要もなければ、こんな針の筵のような状況で口にする理由もないはずだ。キラが落ち着いているのもそうであるし、何よりも彼の瞳には揺るぎない「理解」の光が見えた。根拠のない言葉ではないとフィオは判断する。

 

(物は試しというしね……ちょっと計ってみましょうか)

 

 一息の後、フィオはGOサインを出した。

 

「やらせてみて。どのみち、壊れてるんでしょ?」

 

 責任者の言葉にエミリアはキラへと向き直る。少し迷った末、半信半疑のまま設定用デバイスを差し出してきた。

 

 キラはデバイスを受け取ると、一度フィオに視線を向け、彼女が頷いたのを確認してからシステム画面と向き直った。呼び出したコンソールに手を置いて、画面を見ながらコードを撃ち込み始める。

 

 画面に所狭しと流れるログやエラー情報。それらを一つ一つ確認しながら、その機構に整合性が取れているか確認していく。

 

 内部は独自の仕様だが基本構成は似ていたので、自分の知識を流用すれば問題なさそうだと判断する。一通りの確認を終えると、キラは修正箇所を頭の中でまとめ上げてタイピングを始めた。

 

 呼び出されたテキストに必要なプロンプトを打ち込み、また新しいウインドウを開きそれを処理する。設計図を組んでしまえば、あとは単純な作業の繰り返しであった。

 

 彼にしてみれば、もう幾度となく行ってきた作業だった。それこそ、工業カレッジでの学生時代から日常的に接したシステム処理に過ぎない。戦闘中にデータを書き換えるなどと言うアクロバティックな制御変更に比べれば、問題にすらならないレベルの内容だった。

 

 だがそれはあくまでも彼のコーディネイターとしての能力を考慮した場合の話。

 

 そんなことなど知る由もない周囲の女性たちは、キラの持つ技術の高さに目を見張っていた。

 

 高速で流れるテキスト。書き換えられるバイナリデータ。エラー箇所の修正は対応する文字列を打ち込んで即座に行い、使い物にならない部分や前の持ち主らが組み入れたであろう無駄な部分は次々に削ぎ落としていく。

 

 言葉で言うだけなら簡単だが、その処理速度は尋常なものではなかった。システムウインドウが次々と開いては閉じられる間にも、キラの手はよどみなく動いて情報を処理していく。

 

 学生時代に電子式の構築に悩まされたフィオは目を見開き、兵装の設定やログ解析などを幾度となく行ってきたエミリアでさえ、目の前に広がる常識外れの光景に口をあんぐりとあけていた。

 

 彼女たちがそんな衝撃を受けているとは露知らず、システムデータの構築と修復を続けていくキラ。そして、作業開始からまもなく一分に届こうかといったところでその手が止まった。最後の仕上げとばかりにEnterキーを押し込む。

 

 ピーっという硬質な電子音。数秒後、画面の中央に『SYSTEM READY』の文字が静かに点灯した。ふぅと息を吐き、キラはコンソールから手を離す。

 

「……できました。僕の知るものとは少し仕様が違いましたけど、制御ロジック自体はシンプルだったので」

 

 そう言うと、キラはデバイスの同期を切り、システム設定が終了したレーダーをエミリアに返した。

 

 我に返った彼女は慌ててそれを受け取ると、その内容をつぶさに調べていく。そして正常に動作を始めたレーダーの数値を認め、二度、三度と見直した後で信じられないものを見る目で絶句した。

 

「……嘘でしょ? 何日かけても誰一人解けなかったエラーを、たった数十秒で……?」

 

 工廠の中に、凍り付いたような沈黙が流れる。

 

 あっけにとられる女性たちの顔に、先ほどまでの「無能な男への蔑み」や「不審者への警戒」とは異なる、正体不明の「畏怖」が混じり始めた。その力のすごさは、言葉を介さずとも彼女たちの肌に伝わっていた。

 

 フィオはその光景を黙って見つめる。

 

 彼女も内心驚嘆していた。予想以上、いや予想をはるかに超えるほどの力を見せたキラに。

 

(……価値は示された、か。まだ懸念点はあるけれど……)

 

 彼が持つ「技術」が、この集落の存続するのに力となり得るということは確かなものとなった。

 

 だが居場所ができたわけではない。不信感も変わらずまだそこにある。

 

 だが、これで時間を作ることができる。今はまだ信頼に足るものは少なくても、ともに時を過ごすことで何かしらの改善があればあるいは。

 

 自分が助けてしまった手前、彼をまた無責任に放り出すことはしたくなかったから。

 

 それに、この荒んだ砂漠の中で人を見続けてきた自分の心が示していた。

 

 この子はきっと悪い子じゃない。ただ、何か特別な、どうしようもない事情があってここへ来たのだと。そして、あまりに鋭い刃を自分でも扱いきれずに持て余しているだけなのだと

 

 何度も裏切られてきた自分が会ったばかりの、それも素性もわからない少年を助けたいと考えるなど思わなかったが、自分の直感を、そして少年自身を、フィオは信じてみたくなったのだ。

 

 立場上それを言葉にすることはできない。だが、彼を今すぐ追い出さなければならないというのは避けられたことにフィオは内心、ホッとしていた。

 

「……しばらく、ここにいていいわ」

「え……」

 

 フィオの宣言にキラが驚いたように顔を上げる。周りの女性たちそれは同じだったようだが、フィオへの信頼が相当なものだからだろう、微妙な顔をしつつもその敵意は和らいでいた。

 

 作業を手伝う、あるいは主導や補助も担ってもらう。可能ならば力仕事なども。また工廠への立ち入りは自分とエミリアの管理下でだけ認めるなどの条件を述べる。その条件にキラも頷きを返した。

 

 反対する声は、もう上がらなかった。エミリアも「これだけの腕があるなら、むしろ歓迎よ」と、満面の笑みを浮かべている。

 

 キラは周囲を一度見渡すと少し視線を下げた。

 

「……ありがとうございます……」

 

「お礼を言われる理由はないわ。私たちもあなたの力を借りるというだけ。お互い協力していきましょう。さ、とりあえず部屋に戻って支度してきなさいな」

 

 必要な作業があれば回すから、とフィオはそれだけ言うと踵を返して去っていく。エミリアはその後ろ姿を見やった後、キラに向き直ってよろしくと告げた。

 

 空気が弛緩し、砂漠の喧騒が戻ってくる。会議は終わりだとばかりに女性たちは各々の部署へと戻っていった。

 

 キラもそんな集落の様子を見ながらあてがわれた部屋へと今一度向かう。

 

 一人歩くその表情に安堵感はない。

 

 役に立ったという高揚もなければ、救われたという喜びもない。ただこの異邦の地で、生存するための細い糸を一本繋ぎ止めることはできた。これで少しは考える時間が作れるだろう。

 

(まだ何も解決していない。僕がどうしてここにいるのか……その理由すら分からないままなんだ)

 

 自分自身への問いだけが砂漠の熱風に吹かれて胸の中に残る。

 

 ふと見れば、目覚めた時にいたあの少女が資材の陰からじっとキラを見つめていた。そこに映っているのはかつての純粋な怯えではない。

 

 ──―この人は、一体何者なのだろうか。

 

 その正体を見極めようとする、静かな好奇心の瞳だった。

 

 砂漠の上を、乾いた風が吹き抜けていく。格納庫の中で静かに佇む、色彩を失った灰色のモビルスーツ。折られた剣は何も語らず、どこまでも透明な力を宿している。

 

 それはただ、始まった新しい日々の中で主の決断を待っているかのようだった。

 






先に注意事項で述べた通り、この小説は生成AIで作ったお話であります。

ですが、一度読み返したらあまりにも味気ないことに気づいて直していました。序章や第一話もそんな感じなので、今後直していくかもです

今回の第二話を作るにあたり、プロットを組んで生成AIで出してもらうまではよかったんですが、いざ投稿しようかという段階になって

「あれ、ここ違うぞ」

「このセリフ変だな、直そう」

「なんかまとまりがないな、描写から変えるか」

「ヤバイ、ここの話の流れが切れてる。どう繋ごうか、うーん。ちょっと前から書き直すしかないな」

気になりだしたら止まらず、直した先がまたおかしい、ここも、ここも…

…なんてことをしていたら、いつの間にか手を入れていない場所がほとんどないような感じに

あれ? これほぼ自分で書いてないか? 生成AI要素どこ行った?

ま、まぁいいか。所々残ってるし

というわけで、難産になりましたが第二話です。どうにか形になっていればいいのですがね

それでは次回予告。有名な〝あの人〟のヴォイスを思い浮かべながらどうぞ!



   [ =次回予告= ]

  
 砂漠の民に受け入れられたその身

 だが一人の少女の進言が、キラを再び己が運命と向き合わせる



 次回 『 鋼鉄の拍動 』



 戦士は目覚めの時を待つ

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