令和ゆるふわ女子大学生の、邪神的コンテンツ消費録 作:V01-125,734,943,672
◇
大体ね。
遥か昔においてレイにも指摘された、私の悪癖。
『貴女は個体を見ようとしない。歴史や種族を引き合いに出すことで、
あれは、個体に興味を持てば全てが
なんなら、それだけじゃない。
全然他にも色々あるとも。悪癖。大量にね。
私が人物の見た目について
裏を返せば、名前や能力、汎用名詞でしかそれらに触れていないのも。私の抱える悪癖のひとつ。
結局は──っと。そうだね。こうやって、結論を端的に出したがるところも、同様に。
まさしく傲慢!なんてね。
まあ、そんな気分なので、折角なんだからとても冗長に話を進めていこう。
生憎の曇り空のなか、ね。
数万回ほど世界のやり直しをする前の私は、考えた。
能力を使って、上手い感じに人類文明を発展させてあげれば退屈しないんじゃないか、とね。
万象を消滅させられる半能神とはいえ、暇な時間は暇な時間として存在してしまう。
他人の人生をSNSなどを通じてコンテンツとして消費していた私としては、流石に暇過ぎるのはNGになってしまう。
勿論、『暇と感じる感性』を消滅させてもいいんだけれど……そこまですると、最早私が私じゃないような気がしてね。
都合の悪いものかつ、自分自身に関与するものをガンガン消してると何処かでアイデンティティが完全に崩壊しそうだから。
まあ、そんなわけで暇は半能の私にとって大敵であった。
というわけで、人類文明をコンテンツとして──ああいや。人類文明を是非とも発展させて、私を楽しませるようなものを創出してもらう、という作戦になったわけ。
そういうわけで、数万回ほど『おおよそ四十六億年の体感時間』を消滅させ、改めて令和の時代にやってきた。
そこで『戸籍偽造がバレる可能性』を消滅させたり、『入学試験に落第する可能性』を消滅させたり、そんな些細な消滅をすることで、前世では完遂出来なかったキャンパスライフを送っていたのだけれど。
「──やあ、君達。此も予定調和だけど、やってきたね」
目の前にいるのは魔法少女らしいマジカルステッキを持った二人の少々。
二人の年齢なんて考える必要もない。そんなこと考えずとも二人とも十六歳であると、知っている。
そんな二人が、私に向けてマジカルでミミカルな魔法ステッキを私に向けている。
二人の名は、韻歌レイと紫園ルネ。
何度も顔をつきあわせたことがあるんだ。視界に入る前からわかっていた。
「ルネ。コイツ、私たちを知ってる──気を付けて」
「コイツ、だなんて。人類という種族は個人だけでは生き残れない。巨大な捕食者達から身を守ることが出来ない──本能的にそれを察知しているからこそ、群れる。そして、その際に役割分担を行う為に
『運命邪神』カハヤム。
それは『私』が言っていた通りの存在である。
虚言を弄し、表層を浚い、あらゆるものを消費する存在。
そこに込められた情念や熱量を無きものと換算して、在るだけの
その理由は簡単だ。『私』も言っていた通り──能力がないからだ。
創造性がなく、想像力もなく、単純に無能者であるから。そのように表層だけ浚い、理解した気になって同調しないと
コスパ、タイパってのは私にとっては死活問題となるほどに大事な問題。そうしなければ、周囲から置いていかれるのだから。生存の為。
そう、まさしく
「私の名は『運命邪神』カハヤム。この世界の繁栄と厄災、その双方を消滅させ人類を脅かす
『これから起こることが余人にバレる可能性』を消滅させる。
令和ゆるふわ女子大学生だからね。大衆の前で目立ちたいわけじゃない。ふわっと、ゆるっと。ね?
「──君達を超克する存在だ」
全ての転換点は、此処にある。
此処を乗り越えなければ、私は変わらない。
執拗なまでに個人を認識することを拒んだ私が、個人を認識せざるを得なくなった瞬間。
総体ではなく、
端的に言おう。コンテンツ的に。
それこそが、私の抱える『トラウマ』だと言っている。
ここで二人を。個人を。
韻歌レイと紫園ルネ──名を持ち、重みを持ち、厚さを持つ
「『カイキアス・ウィンド』!」
邪悪の風。
北東から吹き下ろす不可視の刃が、私を襲う。
それを、左へと動くことで回避する。
「『
続いて襲い来るのは、禍々しい黒弾。
『視るだけで呪われそうな呪詛』、と、
私はこれのことを
私の場合、全ての物事を直視することが出来ないのだから。
だから、尚更。当然だろう。
「『魔法少女統括機構』──消滅せよ」
二人の服装が変貌する。『マジカル』で『ミミカル』なものではなくなり、学校の制服へ。それでも向けられた魔法は消えない。『最早、運命みたいなものだから』ね。
「っ、巨大な改編痕……!何を消されたか、わかる!?」
「わからない。でも、まだ私たちが優位だから──」
向けられた弾丸を、左腕を盾にすることで受け止める。正面から。
私は無敵ではあるが──『魔法による影響』を消滅させてはいない。それ故、その影響で左手は腐り落ちる。
これは果たして腐食か、或いは発酵か──なんてね。
つまるところ。人類にとって有益かどうか、ってこと。
「『私における胴体と左手の結合』、消滅せよ」
「っ、腐食進行防止の為ね……!」
レイが魔法杖を構え、接近戦にもたれこませようと走り出す。改編の隙を与えない、という作戦かな。ならば。
「──『二人が魔法に関与するという運命』の消滅」
運命、と呼べる程確固たるものになっているのならば。
森羅万象──不確定で曖昧模糊な概念ですら消滅させられる私の能力にかかれば、況んや運命ならば。明言する必要すらない。
それでも、変わらない。
レイの持つ物が魔法杖からナイフへと変じ、ルネが背後から近くに落ちていた氷柱を投擲するようになったとしても──その、意思だけは。目的は、決して曲がらない。
「ならば、『此処に、即座に隕石が降って来ない可能性』を消滅させよう」
能力に応じ、空に新たな光が生まれる。
高エネルギー体と化した宇宙からの
さあ、どのようにして。如何にして──
意思を強く。覚悟を示す。
私は踏み出そうと、足を──
「『
──どう、いう。
「レイ、行けるよ。カハヤムは
違う。違う、違う。
私は知っている。それを知っているからこそ、理解出来ない。
それは栄華を極めた世界だからこそ成立する代物だろう。どうして、紫園ルネがそのようなものを。現代における、彼女がそんなものを。
隕石の五月雨。
雪崩の如き轟音は、遥か頭上にて響きわたるのみ。
空を見上げる人は存在し、混乱する人も存在する。
だが、失われない。何も失われることがない。
「ああもう、ルネはそうやって全部言っちゃうから──」
そうか。ならば。ならば!
能力を行使して、身を固めようとして。
「──『
庇う為の左腕は、既に無く。
心に。心臓が抉れる衝撃が、直接に届く。
「『私がこの損傷により死亡する可能性』の、消滅」
息があがる。心拍が跳ねる。
理解出来ない。理解出来ないものが、目の前に在る。
予想していなかった。全くもって、予想出来ていなかった。
「なるほど、ね。そのような文明だから持っていたわけではなく。それが在っても不自然にならない文明だったから使っていた、が真相……なのね」
魔法を消滅させても──魔法ではないから当然残る、と。
ルネの
理解出来ない、理解出来ない。わからない。
いいね、いいね。最高のコンテンツだとも。
不明瞭とは。不確実とは。不明とは。最も輝かしいコンテンツであり、消費対象物である。
「やはり。いいね、人類。まだ底がない。終わりが見えない。限界が見えない。満たされることが──飽きることが、無い」
笑いが零れる。笑みが漏れる。
私の体からは、赤い血が大量に流れ落ちていく。
声を出そうとして、喉から血が昇ってきて──吐き出す。
「流石だねぇ。流石、私が見込んだだけはある」
魔法を消滅させられる邪神に対する対抗策として、魔法以外を隠し持っておく。抜群の切り札だとも。
何なら、一つわかったこともある。この世界は
まあ、そんなの私には関係ないんだけどね!
「『私における痛覚の消滅行為』──消滅、させよ」
激痛が襲い来る。知らない感覚が、突如として雪崩のように。
現代に生活している間では、とてもじゃないけれど味わえないような強烈な感覚。
心臓を抉られ、左腕は喪失し、全身の骨は余波により破損している。こんな感覚、他で味わえることはないだろう。
立派なコンテンツ、だ。コンテンツ。選択の結果なのだから。
知らないもの。未知なるもの。人間らしい──ああそうだ、
「
機構だとか。機序だとか。理由だとか。
そういったものは、問い質さない。
それは私が暴いていいコンテンツ、ではないのだから。
私如きが
「カハヤム!あなたは、何をしようとしていたの?」
「ルネ、まだカハヤムは──」
「レイ!ちょっとだけ黙ってて。真剣な話だから!」
実際のところは、その期間を消滅させられるほどの余裕が私には無かっただけなんだけどね。いつもなら出来ることすら、ってこと。
「カハヤム──
「決まっているとも。人類が
ルネは、それでも更に一歩踏み出して。
「でもあなたは、社会に視線を向けていない。なのに、
コンテンツとならない、
結果だけを手繰り寄せる。葛藤は要らない。思案は要らない。
疑問提起と、その結論さえあれば私には十分なのだから。
どうせ、予想は超えられるんだから。
私が幾ら譫言を嘯いたところで、二人は必ず本質を穿つ。ならば、その過程は消滅させてしまおう。
「『この世は舞台であり、人間は役者である』からねぇ。『
世界は。人類文明は。
演劇であるというのならば。脈々と続く役者による即興劇だというのならば。その結果、ここまでの存在になっているとするならば。
嗚呼、どうして私が嫌おうか。そんな、
「私は宣言しよう。主張しよう。それが、君達への応報である。何処まで空虚に生きようと──それが、我が配役。我が役割。我が台本なのだと。それもまた、一つの
ああ、能力を持つ人には分からぬだろうさ。
姑息に、卑怯に、自我を殺して生きるその、せせこましさは。
この限りのない卑屈さは。ああ、君達にわかってもらおうとは思わない。消化されて、たまるものか。
「改めて名乗ろう。
全ては、逆説だからね。
私はそうでもないけれど、『運命邪神』カハヤムはそういう
大体、考えてみてほしいよね。大前提が間違っているんだもの。この名前自体、
命名される。それによって定義された──
「決して、君達とは相容れない。相互理解なぞ不可能だ。無限の
嘲笑、しながら。
心の底から笑いながら。
「なら、全力で打倒してあげる!これは
「ルネ、どういうこと?何を言って──」
「カハヤムは、満足したいの。
──満点解答。見事、再試で合格するとはね。
流石、元文芸部の後輩。人の気持ちの読解は完璧。
「
贖罪、返済、償い、贖い、禊。
別に名前なんて、どうでもいい。
『真理は語らない事でのみ、語ることが出来る』──言語だけで正体を解明しようとすることほどの、無茶はないのだから。
あれだね、あれ。
──姿勢をただす。
二人を。そして、現実を正面から視界に入れる。
地の感触を足で味わい、吹き荒ぶ風を肌で受容する。
無機質に鳴る信号機の音を耳で感じて、漂う都会の香りを鼻で理解する。
そして。終わりは、真っ直ぐに。
レイが持っていたナイフ。それが、真っ直ぐに腹部へと突き刺さる。
抵抗する素振りを見せなかった私に、驚くレイとルネ。
もちろん。その二人は、
あの二人は、そんなことを考えないとも。
『
というか、当たり前だよね。
心臓を穿たれていて、全身の骨は折れているのだから。普通に考えて、死んでいない理由が『可能性消滅』以外には何処にも存在しない。
私が今死んでいないのは、『私が
そこに、新たな殺傷が。刺激が。攻撃が加われば、どうなるか──など。
体の末端から動かなくなっていく。
さっき、初めて味わったばかりの四肢の感覚が次々と消失していく。
元に戻っていく。同じ
だというのに──明確に。これは、
さて、それじゃあ。
最期のコンテンツ消費のお時間だね。
改めて復習しよう。
まず私の能力というのは──好きな時に好きなだけ、どんなものでも消滅させられる、という超絶スーパー優れもの。
ランク付けするならSSRとかUR超えて、サ終の直接的原因になるくらいの反則級能力。
そして私というのは、コンテンツを貪り食べ漁り生きていくタイプの存在。
他者の感情や熱量といったもののうち、舌触りの良いものだけを味わって、全てを理解した気になりながら消費していくような存在。
此処まで来ても変わらないこの性質──コンテンツを消費しようという、この性質は無論、
私が『私』をコンテンツとして消化し、『私』が私をコンテンツとして消化したことからもわかる通りに、ね。
なので、結局。
ならば。
コンテンツとして、に決まっている。最期の終わりは。
ここまで一連の全ては、過程である。
ここまでの三百兆年を優に超越する、莫大な時間全ては過程である。流れる時が膨大なだけの、唯の
苦悩は。葛藤は。思案は、必要ない。
そのような過程は、私には不必要だとも。
全てが終わった
だから。
主観においてコンテンツらしいものだけ残し、
大体、長すぎる。長すぎる。これじゃあコンテンツとして失格だからね。
──まあ、シンプルにね。
ここまでの経緯紹介でもしようか。
とっても
そんなことを言っていたはずなのに、全然簡潔になりきれてない。とても減ってはいるけれど、まだ多い。多すぎる。こんなの、私には難しすぎるから。
つまり。
「──『私にこの能力が与えられる可能性』の、消滅だね」
森羅万象。現象を含めて全て削除出来るのだから。
現象──能力の貸与という可能性も、
その帰結はシンプル。ここまでの周回も含めて丸ごと──過程の消滅だとも。それくらいシンプルじゃないとね。
さあ、人類よ。
『運命邪神』はこれで生まれない。
あなた達が討伐した邪神は、これ以降生まれることはない。
何なら。
『改編痕が見つかったことで魔法は開発され始めた』というルネの発言が真実ならば、魔法すらも見つかることはない。
純然たる物理法則のみに従う、ホモ・サピエンスの文明だ。
魔法は消滅する。邪神は消滅する。仮定は消滅する。
これで人類は、
人類よ。全ての人類、各個人よ。
そう、まさしく。
『産めよ、増やせよ、地に満ちよ』ってね。
消費せよ。創造せよ。更新せよ。どれ一つとして欠けてはならぬ。
それら全てが揃った上で、無限の
「さあ、人類よ。私という『コンテンツ』を消費して──何処までも、発展せよ」
霞む視界。薄れ行く意識。
不可逆的に進んでいくそれらの中、見慣れた彼女が問いかけをする。
「……どうして、
それは今にも泣き出しそうな表情で。
人類文明をここまで荒らし廻った邪神に向ける表情では、決してない。
もう、まったく嫌になるね。結局、最後まで貫けなかった。
レイとルネを騙しきるという目標は達成出来なかった。
これだから賢者共は。能力者達は。察しが良すぎる。
まあでも、それくらいがゆるふわ女子大学生の限界ってものなのかなぁ。
究極的に利己的で、決して理解出来ない魂を持った『人類』に出来る、最大限のパフォーマンス。まあ、こんなものだよね。
それにしても、
はぁ。こんなにも惜しまれちゃって。勿体無い、ね。
「だって──私は。もう、
安心したまえ、二人とも。
邪神の生まれぬ世界には、何も知らない私がいるはずだから。
ほら、君達も言っていたでしょう?
周回が変わっても、