禪院の神童とその最愛   作:明星桜花

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第八話 卒業式

ー禪院直影sideー

3月。桜の蕾が膨らみ始めた今日、私は中学校の卒業式を迎えた。

一般社会における「義務教育」の終わり。だが、私にとっては「禪院家次期当主」として、より深く呪術の深淵へ、そして権力の中心へと足を踏み入れるための通過点に過ぎない。

式典は、驚くほど淡々と進んだ。

校長が述べる「輝かしい未来」などという言葉は、呪いに塗れた日々を送る私には酷く空疎に響く。だが、隣に座る瑠陽の横顔を見れば、その空疎な時間さえも、彼女と共に過ごす「平穏」の一部として愛おしく思えた。

「……卒業生代表、禪院直影」

名前を呼ばれ、壇上へ上がる。

六眼で捉える景色は、掌握しているとは言え相変わらず情報の奔流だ。祝辞を述べる私の背後、校舎に潜む数々の禪院の影。校門の外で待機している東雲の呪力。そして、最前列で私を見つめる父・直政の、当主としての鋭い視線。

  後輩たちの今後の活躍と母校の発展を祈念し、答辞と致します。卒業生代表、禪院直影」

淀みなく言葉を紡ぎ、降壇する。

拍手の中、私は真っ直ぐに瑠陽の目を見た。

彼女は少しだけ誇らしげに、そしていつものように慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。

 

 

 

One hour later

 

 

式が終わり、教室での最後のホームルームも済ませて、私は校門へと向かう。

そこには、既に荷物をまとめた瑠陽が待っていた。

「お疲れ様、直。立派な答辞だったわよ」

彼女が歩み寄ってくる。

私は彼女の肩に手を置き、静かに告げた。

「あぁ、これで終わりだ。明日からは、名実ともに『術師』としての日常が始まる」

「ええ。高専へ行くにしても、家に残るにしても……私は貴方の隣にいるわ。忘れないでね?」

瑠陽の言葉に、私はフッと口角を上げた。

忘れるはずがない。私の世界は、彼女を中心に回っているのだから。

「若様……、お迎えに上がりました」

校門の外には、黒塗りの車と、一級術師の東雲が立っていた。

東雲は卒業証書の筒を持った私を見て、微かに目を細める。

「おめでとうございます。……ですが、本家にて御当主様がお待ちです。加茂家と五条家から、卒業祝いが届いておりますので。まぁ、加茂は牽制も含めているのでしょうが」

「ふん、相変わらず気の早いことだ」

私は瑠陽の手を取り、車へと促す。

中学を卒業した今、私はもう「子供」という盾を使えない。

呪術界という伏魔殿で、瑠陽を守り抜き、禪院を塗り替える。

そのための力は、この3年で十分に蓄えた。

「行こうか、瑠陽。私たちの『本番』は、ここからだ」

車が走り出す。

バックミラーに映る学び舎が小さくなっていく。

私は影の中から遊雲の感触を確かめ、隣で私の手を握る瑠陽の体温を感じながら、次なる戦場へと視線を向けた。

 

 

 

 

さぁ……始めよう

不敗を掲げる私の戦を、私の最愛を守る(Bellum Sacrum)

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