第九話 呪術高専東京校
ー禪院直影sideー
卒業式の翌日。本家に届いた「卒業祝い」の山を検分し終えた私は、父・直政の前に立っていた。
「父さん、私は東京の高専へ行く。瑠陽も連れてね」
私の言葉に、父は驚いた風もなく、ただ静かに茶を啜った。
京都は禪院家の膝元だ。ここにいれば安全も権力も意のままだが、同時に『禪院』の檻に閉じ込められることにもなる。
「……五条悟がいる場所か。悪くない選択だ
……直影…遅れを取るなよ?」
「あぁ。外からこの家を、そして呪術界を俯瞰させてもらうよ。何、不敗を誓った私が、遅れを取るはずがないだろう?」
父は微かに口角を上げ、
「フッ…好きにするがいい」
とだけ答えた。
One month later
空襲の傷跡を巡り、平和への祈りと呪いの醜悪さを刻みつけた中学時代を経て、私は東京の呪術高専へと足を踏み入れた。
四月の陽光が杉並木を照らす中、校舎へと続く石段を上がる。
隣には、高専の制服を凛と着こなした瑠陽。
その視線の先、教室の入り口で三人の先客が談笑していた。
「お、来た来た。例の禪院の『六眼』持ちと、そのお嫁さん候補だろ?」
軽い口調で声をかけてきたのは、サングラスを額に上げた白髪の少年。
五条悟。
私と同じ「六眼」を持つ男。その情報の奔流を正面から受け止め、私は一歩も引かずに視線を返した。
「……五条家の次期当主か。挨拶代わりの呪力操作は止めていただきたいね。不愉快だ」
「ははっ! 言うねぇ。気が合いそうだ」
五条が愉快そうに笑う横で、長い黒髪を束ねた少年が静かに立ち上がった。
夏油傑。
その瞳には、落ち着きと同時に、呪霊を「喰らう」者特有の仄暗い深淵が見える。
「よろしく、禪院君。私は夏油傑だ。君の術式、十種影法術だっけ? 影から式神を出す理屈、興味があるな」
「……あぁ。機会があれば見せよう」
そして、最後の一人。椅子の背もたれに体重を預け、気怠げに煙草の香りを漂わせている少女。
家入硝子。
彼女の持つ「反転術式」の気配を六眼が捉える。瑠陽と同じ、癒やしの力を持つ稀少な存在。
「私は家入。……あんたらの婚約ごっこに付き合う気はないけど、死にそうになったら呼びな。治してやるから」
「ええ、よろしくね、家入さん。私は飛鳥井瑠陽。直のことは……まぁ、少し独占欲が強いだけだから、気にしないで」
瑠陽が柔和に笑い、私の腕を軽く叩く。
「さて、その様子だと知っているのだろうが
私は禪院直影、禪院家の次期当主であり
君たちの学友だ
何かあれば頼ってくれでき得る限り助力しよう
あぁ五条悟、君は自力でどうとでもできるだろうから受け付けないよ」
五条、夏油、家入。そして私と瑠陽。
最高の呪術師が揃った瞬間だった
A few hours later
放課後、夕日に染まるグラウンドを見下ろしながら、私は影の中から「遊雲」を取り出し、手入れを始める。
五条悟の「無下限」と、夏油傑の「呪霊操術」。
彼らは間違いなく強い。だが、私の「不敗」が揺らぐことはない。
「直、どうしたの? 難しい顔をして」
瑠陽が隣に座り、私の肩に頭を預ける。
「いや……この場所なら、私の愛する平穏を存分に謳歌できそうだと思ってね。瑠陽、君に最高の安寧を与えるための準備は、ここで完成させるよ」
「ふふ、あまり無茶はしないでね。五条君たちと喧嘩ばっかりしちゃダメよ?」
「……善処しよう」
呪術高専東京校での日々は、私たちの『戦』の新たな幕開けに過ぎない。
私は影に遊雲を沈め、隣で微笑む最愛の