ー禪院直影sideー
「直影、今の『貫牛』、突進の軸が0.3秒甘いね」
「君の『蒼』の収束率こそ、私の六眼には雑に見えるがね。もう一度やるか?」
放課後のグラウンド。私と五条の組手は、常に周囲の術師たちが避難するほどの大惨事となった。
影から溢れ出す式神の群れと、空間を削り取る無下限の衝突。だが、それこそが心地よかった。
六眼でしか共有できない「景色」、呪力という情報の奔流を読み解く苦労を分かち合えるのは、世界で彼一人だけだったからだ。
夏油とは、術式の性質上、戦略面での議論が多かった。
「呪霊を『喰らう』君の精神衛生は、あまり褒められたものではないな」
「……全くだ。だが、君のように影の中にストックできるのは羨ましいよ」
そう苦笑する彼と、時折新宿の路地裏で呪霊の気配を追いながら、どちらが早く「獲物」を仕留めるか競うこともあった。
その横で、瑠陽が硝子と美味い菓子屋の話で盛り上がっているのを見ると、私の心には言いようのない安寧が訪れる。
彼女が笑っている。それだけで、私の拳に込めた呪力を霧散させる理由は十分だった。
高専から回ってくる任務は、私と瑠陽にとって「作業」に等しかった。
「瑠陽、帳を。あとは下がっていなさい」
「ええ、お願いね。無理は禁物よ、直」
瑠陽が結界を下ろすと同時に、私は影から『脱兎』を数千体顕現させる。
視界を白く埋め尽くし、敵の感覚を飽和させた隙に、遊雲を手に最短距離で肉薄する。
六眼が捉えるのは、呪霊の核——最も脆弱な一点。
そこに、宿儺に匹敵すると称される私の呪力を遊雲越しに叩き込む。
特級に分類される呪いであっても、私と、私を信じて背を預ける瑠陽の連携の前では、塵を掃くのと変わりない。
私が敵を粉砕し、残った呪力の残滓を瑠陽がその「支配呪法」で収める。
完璧な循環。私たちは、一級術師の枠を軽々と飛び越えていった。
1年という月日が経ち、私は虎葬を調伏した
反転術式による自己修復と、瑠陽による支援。
もはや、私たちの前に立ち塞がる壁など存在しないかのように思えた。
冬の終わりの夕暮れ。誰もいない教室で、私は瑠陽を抱き寄せ、その温もりを感じていた。
「直、来年からはもっと忙しくなるわね。五条君たちも、どんどん凄くなっていくし」
「あぁ。だが、誰がどれほど強くなろうと関係ない。私は不敗だ。君が私の隣で笑っていられる平穏を、私は永遠に守り抜くと決めている」
瑠陽の髪に顔を埋め、その香りを吸い込む。
五条や夏油という「友」ができたことは、想定外の収穫だった。
だが、私の根源は変わらない。
私の呪力は、私の術式は、すべては瑠陽、君のためにある。
さぁ始めよう
我らの
怨念飛び交う呪いの世界を最強の五人が駆け抜けよう