リリたま 作:まめつぶ
「おかえり……ってオイオイどうしたの?」
帰ってきたフェイトの手からは血が流れていた。
「アンタには関係ないだろ」
「いやいや、関係ないからって無視できるほど銀さん神経図太くないからね」
「居候しといてどの口が言うんだい」
フェイトを座らせる。
痛がる様子はない。ただ明らかに強がっていた。
銀時が向かい側に腰を下ろし、救急箱を床に置いた。
「ほら、手ぇ出せ。包帯巻いてやっから」
フェイトの前には手が差し出されていた。
無骨で大きな手。
決して綺麗とは言えず、よく見れば傷跡がチラホラと見受けられた。
「ほれ」
粗雑な対応。
ただ、その無遠慮な姿に気楽さを感じられた。
気を使う必要がない。
心地良さがあるわけではないが、居心地の悪さがあるわけでもなかった。
手を出す。
処置はスムーズだった。
「随分慣れてるじゃないか」
「ケガすることが多かったんでな」
「ふーん。ま、アンタ運動できなさそうだしね」
「何が言いてぇんだコラ」
「そのまんまの意味さ。どうせ転んでばっかだったんだろ。転んで転び続けて、人生も転げ落ちていく。そうして出来上がった成れの果てが死んだ目をしたアンタってことさ」
「上等じゃねぇか。このワン公にはどうやら躾が必要みてぇだな」
「やってみろよ。クズ野郎」
二人の間で火花が散る。
そこにフェイトが冷水を掛けた。
「アルフ、口が悪くなってる」
「……ごめんよ。こいつと話してると買い言葉に売り言葉になっちまう」
「ぷぷー、怒られてやんの。犬は犬らしく従順でいればいいんだよ。ほれお手」
赤い狼が銀時の手に噛みつく。
「ぎゃあああああ!!!」
少しだけ、ほんの少しだけだが、心に安らぎを感じていた。
自覚はない。
頭は常に母とジュエルシードのことでいっぱいである。
それでも、二人の会話を聞いている間だけは忘れることができていた。
「いてて、ったく思いっきり噛みやがって。じゃあ、俺メシ作って来るからよ。少し待ってろ」
「アンタが?」
「んだよ」
「食えるものなんだろうね」
「ったりめぇだろ。これでもな、毎日食いしん坊の朝飯用意してたんだよ」
カネがあるときはな、と言い残してキッチンへと向かう。
気になる一言ではあったが、それよりフェイトのほうが大事である。
「フェイト、大丈夫かい」
「うん。大丈夫。私、強いから」
強がりである。
それはアルフもわかっている。
なのだが、言葉からは余裕が感じられた。
といっても吹けば消えてしまうほどではある。だが、小さくてほんのわずかでも確かにそこには嘘偽りない余裕があった。
(なんで)
アルフが疑問を持つと同時に答えが浮かび上がる。
キッチンに立つ男。
認めたくはないし、感謝を言うつもりもない。
ただ、フェイトの支えになっていることは確かだった。
「ムカつく」
「どうしたの?」
「ううん。何でもないよ」
膝の上に頭を乗せる。
そんな風に甘えてくる使い魔をフェイトは優しく撫でてあげた。