リリたま 作:まめつぶ
「あの、すみません」
少女が勇気を振り絞るように、ベンチに横たわる男に声をかけた。
「んあ?」
銀時が目を開けずに返事をする。
「なんだよ……せっかく人が気持ちよく寝てるってのに……」
「あっ! ごめんなさい!」
少女は慌てて頭を下げる。
「その……あなたが持ってるそれについて伺いたくて」
銀時はようやく薄目を開ける。
目の前にはツインテールが揺れる小学生の女の子が立っていた。
「それって何よ」
「あなたのポケットから出てる青い石です」
ポケットからはジュエルシードが落ちそうになっていた。
「これか? 何、おたくもこれ欲しいの?」
「はい。とても危険なものなんです」
「危険なモンって言われてもなぁ。俺にとっちゃ日々を生きるために必要なモンだ。ただでくれてやるわけにはいかねェな」
寝そべった姿勢から座る姿勢になる。
少女には目をくれず、あくびをしながら後頭部を搔く。
「どうすればいいですか?」
「そりゃおまえ、カネだろ、カネ。世の中はカネで回ってんだ。それにカネがあれば大抵の願いは叶う。現実的かつ理想的な魔法、それこそがカネであり、魔法少女もビックリの万能魔法だ」
「そんな魔法は嫌なの」
「つってもガキじゃ金目のモンは持ってねェか。わりぃけど今回は諦めてくれ」
「あの!」
「うお!」
銀時の目の前にフェレットが現れる。
その小動物から声が発せられていた。
「お金は用意します! 今は諸事情によりお渡しできませんが……事が終わりましたら僕が必ずお渡しますので!」
必死さが伝わってくる。
事情は知らないが、どうやら譲れないものがあるらしい。
「あんたは?」
「ユーノ・スクライアといいます。彼女とは協力関係にあります」
「友達なの」
「友達ねェ……」
銀時は指先でジュエルシードを弄ぶ。
「よし、それじゃあ取引しようや」
「ありがとうございます! お金は必ず用意します!」
「いや、カネじゃねェ。欲しいのは情報だ」
「情報、ですか」
「俺はどうやら次元漂流者ってやつらしい。あんたはそういった事情に詳しそうだ。元の場所に帰るために知恵を貸しちゃくれねェか。それが青い石を渡す条件だ」
「わかりました」
ユーノからすればお安い御用である。
断る理由もないため二つ返事で快諾した。
次元世界について、ロストロギアについて、銀時は諸々の情報を得ることとなった。
「とどのつまり、管理局ってとこにお世話になるしかねェってことか」
「はい。個人で解決するには厳しいかと」
ハァと深いため息をつく。
「すみません。お力になれず」
「いや、色々と知れて良かった。とりあえずだが目的もハッキリした。あんがとよ」
銀時がポケットに手を入れる。
そして取り出した石を指ではじいた。
「ほれ」
なのはが石を両手でキャッチする。
「受け取れよ。欲しかったんだろ?」
「あ、ありがとうございます!」
「おう」
銀時がベンチから立ち上がる。
「じゃあな。ツインテールの嬢ちゃん」
飄々と立ち去る。
その背中を見送り、すぐさまレイジングハートで回収を行おうとした。
「……なのは?」
しかしレイジングハートに収納しようとしない。
そんななのはを疑問に思い、ユーノが話しかけた。
「……これ、飛行石なの」
その呟きには静かな怒りが込められていた。
「ん?」
銀時の足から違和感が伝わる。
なぜだか動かそうとしても動かない。
「何だこれ?」
銀時の足はバインドで固定されていた。
「ジュエルシードを渡してください」
後ろを向く。
そこには銀時の服を掴んだなのはがいた。
「ブツなら渡しただろうが」
「これじゃありません!」
「何? アヤつけようっての? 約束なら守ってるだろうが」
「これ約束のものと違います。ジュエルシードを渡してください」
「これか?」
指で挟んだジュエルシードを見せる。
「それです!」
「こいつは渡せねェな」
「さっき約束したの!」
「約束? 嬢ちゃん、約束した内容をちゃんと思い出してごらんなさいよ。俺たちの間で交わされた約束は情報と交換に青い石を渡すことだ」
会話を思い出す。銀時の言っていることは正しい。
なのはの顔に納得と不服の感情が交代で現れる。
「ジュエルシードを渡すとは一言も言ってねェ」
「詭弁なの!」
「詭弁を知り、己の無知を知る。そうしてみんな大人になっていくんだよ」
銀時がジュエルシードをわざと高いところに持ち上げる。
それを取ろうとなのはが必死になる。
そうしてからかい続けるうちになのはの目はウルウルし出していた。
(おっと、いけねぇ。からかい過ぎたか)
十分楽しんだのでそろそろ渡そうと考える。
その時だった。
「何をしている?」
肩をつかまれる。
結構な力強さだった。
「えっと、どちら様?」
「そこにいる子の兄だ」
二人を見比べる。
似ているような似ていないような、判断が微妙に難しかった。
「あ~、そりゃどうも。夕暮れ時ですからね。お迎えですかね、お兄さん」
「何をしていると聞いている」
その眼光を浴びて汗が出る。
「嫌だな~。ちょっと遊んでただけですって。何もしてませんって。ホント。さ~て、そろそろ俺も帰ろうかな~」
この場から立ち去ろうとする。
しかし、今度は別方向から呼び止められることとなった。
「お兄さん。ちょっといいですか」
そこには警察がいた。
「え、あの、なんですか?」
「いやね、通報があったものでして。男性が子どもを泣かせていると」
「あ~そうなんですね。世の中物騒ですからね。じゃ僕はこれで」
去ろうとする銀時。
その前に警官が立ちふさがる。
「いや、ごめんなさいね。実際この子が泣いているものですから。関係ないかもしれませんけど、ちょっとだけお時間よろしいですか」
「いやいや、俺関係ありませんから」
「あ、そうですか。であれば問題ないのですが~、いやすみませんね、一応お話だけ聞かせてもらえますか」
「いやいや、だから何もしてないですって」
「いやいや、そんなにお時間取らせませんから。何もしてないなら問題ありませんから」
「いやいや」
「いやいや」
気づけば数人の警官が銀時を取り囲んでいた。
無職に住所不定、さらに木刀所持。捕まれば面倒事は避けられない。
であればやることは決まっていた。
「エスケープ!」
警官をかいくぐり包囲網から脱出する。
流石というべきか捕まえる隙がなかった。
グングンと距離が離れていく。
そんな中ただ一人追いかけてくるものがいた。
恭也が銀時を追い越し、行く先を阻む。
「どこに行くつもりだ」
「どいてくれませんかね。お兄さん」
「恭也だ。二度とその呼び方はしないでくれ」
「そいつは失敬。以後気を付けます。お義兄さん」
一瞬だった。
銀時と恭也の間合いが詰まる。
恭也が銀時を拘束しようとする。
しかし、伸ばした手は銀時によって掴み取られていた。
「ちょちょちょ、タンマタンマ!」
対応されるとは思っていなかった。
恭也が驚愕の表情をする。
「ホント何もしてないって、何も悪いことしてないって、ちょっとカネもらおうとしただけだって」
「それを悪事と言うんだ!」
もう片方の手が銀時を襲う。
先ほどと同様に掴み取り、そのまま恭也を背負い投げした。
恭也が銀時の背中を蹴り、力の流れに逆らわずに跳ぶ。
叩きつけられるのを回避し、電柱の近くへと着地した。
すかさず銀時が逃げる。
そのあとを追いかけようとするが、体が思うように動かなかった。
「何っ!?」
恭也と電柱が糸で巻かれていた。
その糸は恭也が持ち歩いている戦闘用の糸だった。
(あの一瞬で)
掴み合いの最中、銀時は恭也の糸を利用していた。
目を張るほどの戦闘センス。二度目の驚きである。
「一体あいつは」
その正体を知る術はなく、すでに銀時の背中は見えなくなっていた。