リリたま 作:まめつぶ
「母さん!」
落下していく。
虚数空間に落ちてしまえばどうなるかはわからない。
フェイトは落ちていく母をただ見ていることしかできなかった。
「うおぉぉぉ!!!」
誰もが動くことができない。そんな中ただ一人だけが走っていた。
フェイトの横を通り過ぎ、そのままプレシアに向かって飛び出す。
「テメェがくたばんのは勝手だがな!」
瞬歩の加速により、落下するよりも早くプレシアの元に到達する。
「せめて娘の股に毛が生えてからにしやがれぇぇぇ!!!」
腕を掴み取り、フェイトたちのいるところへと投げ飛ばした。
娘のもとに母親が届けられる。
だが、その代わりに犠牲が出ていた。
「アンタ!」
アルフがチェーンバインドを伸ばす。
届きそうになるが、虚数空間に近いためか魔力結合が解かれてしまう。
「くそっ!」
「銀時!」
フェイトが手を伸ばす。
届くはずもなく、そのまま銀時は消えてしまった。
「ってことがあって、私は生き返ったの」
「いや、どういうことかさっぱりなんですけど」
銀時の指定席。
そこにアリシアが座っていた。
「銀時さんが願ったでしょ? 娘に毛が生えるまで死ぬなって。それはつまり、私に毛が生えるまでママは死ねないってこと。そのためには私が生き返る必要があったんだよ」
「屁理屈が酷くないですか」
新八がズレた眼鏡を直す。
「えっと、ジュエルシードでしたっけ? その石に願いが届いたってことですか?」
「そう。銀時さんの種が反応したの」
「つまりは銀ちゃんの種から誕生したってことアルか」
銀時に宿ったジュエルシード。
その二つが願いを聞き届けていた。
今のアリシアは銀時の種から生まれたと言っても過言ではなかった。
「あの、ちょっと……股の毛とか種とか、もう少しオブラートに包めませんか?」
「なんだよ新八、今更これぐらいの下ネタに反応してるアルか? あ、もしかしてカッコつけようとしてる? おまえ好みの萌え系女子が現れたからってカッコつけようとしてるアルか?」
「そ、そんなことあるわけないだろうがっ!」
明らかな焦りを見せる。
新八は図星を突かれてしまっていた。
「ところで肝心の銀さんは今どこに?」
この話題はまずいと感じ話を変える。
返事がこない。
問いかけた先を確認すると、少女は顔を伏せていた。
神楽と新八、二人に嫌な予感がよぎる。
そして、アリシアは言いにくそうに、けれど意を決して口を開いた。
「取り戻しに行ったよ」
何を、と二人が目線で問う。
「自分の……本当の種を」
「え、それってまさか」
新八の顔に汗が浮かぶ。
男として重大な事態が起きていることを察していた。
「私は生き返ることができた。けど、同時に失うものもあった」
失ったもの。
それは男の魂。
「かけがえのない二つの生命の源。それは今、私の中に入ってる」
存在自体は消えていなかった。
ただ、二つの魂はアリシアの中で生きていた。
「銀時さんは取り出そうとはしなかった。取り出せば私は消えてしまう。だから違う方法を選んだの」
自身の胸に手を当てる。
「きっと取り戻せるはずだって、失われた都、アルハザードならって」
その場所なら取り戻すことは可能である。
銀時は時を戻し、金玉を復活させようと目論んでいた。
「だからその間は私が万事屋のリーダーを務めるね。銀時さんにも任されたし」
アリシアが椅子の上に立ち、元気よく胸を張る。
「万事屋銀ちゃんは臨時休業! 今日からは万事屋アリシアちゃんで行きます!」
張り切っていこうとアリシアが片手を突き上げる。
二人がつられて手を挙げるが、そのテンション微妙なものであり、まだ現実を飲み込めていない様子だった。
広大なフロア。
空港に似た施設であり、そこは次元跳躍の役務を提供する場所だった。
銀髪の男がフラリと現われる。
その男は備え付けの椅子に座り、自分の番が来るのを待っていた。
そこに一人の女性が近づいてくる。
女性も腰を下ろし、銀時の席から一つ分空けて座った。
「旅行かい?」
周りには誰もいない。
消去法で銀時に話しかけていることになる。
「そんな上等なモンじゃねぇが、まあ自分探しの旅ってやつだな」
「随分とセンチメンタルだね。そんなこと言うタマだったかい?」
「別に、斜に構えたサブカル女みてぇな感じじゃねぇよ。文字通り、自分探しさ。俺の分身って言ってもいい」
「大事なものなのかい?」
「ああ、まだ役目を果たしてないんでね」
自身の股を見つめる。
なくなって気づく大切さ。
またいつか再会してみせる。そんな愛おしさが胸いっぱいに溢れていた。
「どうやって取り戻すのさ」
「アルハザードってとこに行きゃあなんとかなるらしい。そこに行くためにはあるものが必要みたいでな。俺はそいつを集めてる」
「こいつのことかい?」
ジュエルシードを取り出す。
それを一つ、銀時に差し出した。
「おまえ」
「全部とはいかなかったけど、数は十分揃ってる」
アルフの手の平にはたくさんのジュエルシードがあった。
「行き方は教わった。後は向かうだけだよ」
どのように行こうとしていたのか。
フェイトとアルフはそのことをプレシアから聞き出していた。
「行こう。銀時」
フェイトが銀時の前に立つ。
「いいのか? バレたら大変なんじゃ」
現時点において、フェイトたちの立場はよろしくない。
不用意な行動を起こせば、今度は情状酌量の余地なく厳罰を食らう可能性があった。
「バレなきゃいい。それに、バレてもまた捕まるだけ。死ぬわけじゃない」
スパッと言い切る。
軽く考えてるわけではないが、その程度で自分がどうにかなるとは思っていなかった。
「はっ。こりゃまた逞しくなったもんだな」
その姿を見て嬉しくもあり、苦笑せざるを得ない気持ちもあった。
銀時はどうにも強い女性との縁が多いらしい。
「今銀時を助けなかったら、今後私は真っすぐ歩くことはできない。きっと母さんもアルフのことも守ることができなくなっちゃう」
男子、三日合わざればなんとやら。
だがフェイトはそのことわざなんかより、一回りも二回りも、それ以上に成長していた。
「大切なことは自分で決める。それが銀時に教わったこと……これが私の侍としての魂」
背を向けた状態から半回転し、可愛らしく舌を出す。
その表情はイタズラっ娘のような顔をしていた。
「なんてね」
見たかったものがあった。
ずっと暗闇の中にいた少女。
ただ母のために戦い、何があっても頑張り続けていた。
そんな少女に求めた銀時の願い。
その一番の願いが叶っていた。
「やっぱ女は笑顔が一番似合ってらぁ」